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ブルネイ・ダルサラーム(Brunei Darussalam)

ブルネイ・ダルサラーム(Brunei Darussalam)

(2021年6月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

(1) 名称

 2015年競争令(The Brunei Competition Order 2015。以下「競争令」といい,特段の記載がない限り,条文番号は競争令の条文番号を指す。)

(2) 制定及び施行

 競争令は2015年に制定された。競争令は段階的に施行されることとなっているところ,2017年にブルネイ競争委員会等に係る規定,2020年に反競争的合意に係る規定が施行された。
 また,反競争的合意,リニエンシー,申告手続及び経過期間の延長に係る各ガイドラインが2020年に制定された。

(3) 競争法の構成

 第1章 前文(第1条~第2条)
 第2章 委員会の構成,機能及び権限(第3条~第9条)
 第3章 競争
  第1節 総則(第10条)
  第2節 反競争的合意(第11条~第20条)
  第3節 支配的地位の濫用(第21条~第22条)
  第4節 企業結合(第23条~第30条)
  第5節 確約(第31条~第32条)
  第6節 調査と執行(第33条~第52条)
 第4章 罰則(第53条~第58条)
 第5章 競争不服審判所(第59条~第61条)
 第6章 総則(第62条~第74条)
 第一附則 委員会の運営
 第二附則 委員会の権限
 第三附則 反競争的合意及び支配的地位の濫用行為の適用除外
 第四附則 企業結合の適用除外

2 執行機関

(1)  名称

 ブルネイ競争委員会(The Competition Commission of Brunei Darussalam:CCBD(以下「CCBD」という。))

 (2)  設立

 2017年8月

 (3)  構成

 CCBDは,ブルネイ国王により任命された,委員長及び6名以上12名以下の委員で構成される(第3条)。委員長及び各委員の任期は3年以上5年以下で,再任が可能となっている(第一附則第1条)。
 2017年8月に財務経済省の経済計画・統計部に競争・消費者課が設置された。同課は,CCBDの事務局として機能し,競争令のアドボカシー活動や執行活動を行っている。
 競争上の問題全般を担当する大臣(以下「大臣」という。)が,CCBDの調査官を任命することができるほか,CCBDの機能と権限に関連して一般的な性質(general character)の指示を書面にて行うことができ,CCBDはこれに従う必要がある(第7条,第8条)。

3 規制の概要

(1) 反競争的合意

 ブルネイにおける競争を阻害,制限又は歪曲する目的又は効果を有する事業者間の協定,事業者団体の決定又は協調行為は禁止される。特に次に掲げる行為は,ブルネイにおける競争を阻害,制限又は歪曲する目的又は効果を有する(第11条)。
ア 直接又は間接的に,売買価格又はその他取引条件を決定すること
イ 生産量,市場,技術発展又は投資を,制限又はコントロールすること
ウ 市場や供給元を分割すること
エ 同質の財の取引において,取引先によって異なる条件を適用させることにより,当該取引先を競争上不利な立場に置くこと
オ 契約内容とは直接関係のない追加的な義務の受入れを条件として,契約を締結すること
カ 入札談合を行うこと

 ただし,一般的経済利益のサービス(公共サービス)の提供業者による場合,法律の要件に基づく場合,他の法律で規制される商品やサービスについて他の規制官庁が管轄権を有する場合,垂直的協定等,第三附則に掲げる場合には,第11条の適用が除外される(第12条,第三附則)。
 事業者は,CCBDを通じて,大臣に対して,個々の合意に関して第11条の適用免除を申請することができ,大臣は,CCBDの勧告に基づいて当該適用免除を認めることができる(第13条)。また,特定の分野の上記合意に関して,生産若しくは流通を改善させるもの又は経済若しくは技術の発展を促進させるものについては,CCBDは,一括適用免除を認めるよう大臣に提言することができる(第15条,第20条)。

(2) 支配的地位の濫用

    支配的地位とは,1以上の事業者が競争者(潜在的な競争者を含む。)から有効な競争上の牽制がなされずに価格,生産量,取引条件等を調整することができる大きな市場力を有していることを意味する(第2条)。支配的地位の濫用は禁止され,特に次に掲げる行為は,支配的地位の濫用に該当する(第21条)。
ア 競争者に対する略奪的行為
イ 生産量,市場又は技術発展を制限し,消費者に不利益をもたらすこと
ウ 契約内容とは直接関係のない追加的な義務の受入れを条件として,契約を締結すること

 ただし,公共サービスの提供業者による場合,法律の要件に基づく場合,他の法律で規制される商品やサービスについて他の規制官庁が管轄権を有する場合等,第三附則に掲げる場合には,第21条の適用が除外される(第22条,第三附則)。

(3)  企業結合

 ブルネイにおける市場の競争を実質的に減少させた又はさせることとなる企業結合は禁止される(第23条)。
 競争令においては,企業結合に係る届出が義務付けられておらず,自らの企業結合に対して競争上の懸念がある当事者は,企業結合の実施前後を問わず,CCBDに届け出ることができる(第25条)。
 CCBDは,届出を受けた企業結合について,第23条に違反するか否か判断する。CCBDが当該企業結合を第23条に違反すると決定した場合,CCBDは届出を行った事業者に書面で通知する。当該事業者は,通知があった日から14日以内に大臣に対して公共の利益を理由として適用除外を申請することができる。大臣が当該企業結合を適用除外とした場合は,CCBDは当該企業結合を認めることができる。(第26条~第29条)
 なお,他の法律で課された要件に基づいて,大臣及びCCBD以外の規制当局によって承認された場合,当該企業結合によってもたらされる経済効率性が関連市場における競争の実質的制限によるマイナスの影響を上回る場合等,第四附則に掲げる場合には,第23条の適用が除外される(第24条,第四附則)。

4 法執行手続

(1)  調査~決定

ア 端緒・予備調査
 競争令違反に係る調査の端緒としては,リニエンシー申請,申告,職権探知等がある(申告手続に係るガイドライン6.4)。いかなる者も所定の様式を記入してCCBDに反競争的行為について申告することができる(同ガイドライン2.1)。
 
イ 正式調査
 競争令違反について合理的な疑いがある場合,CCBDは,調査官を指定して調査を行うことができる(第35条)。
 CCBDは,正式調査の実施に当たり,関係人に対して被疑行為を記載した「事件開始書(Case Initiation Letter)」を通知する(申告手続に係るガイドライン6.2)。
 調査官の証拠収集の権限としては,特定の文書の提出や特定の情報の提供の要請(第36条),令状なしの立入検査(第37条),裁判所が発布した令状に基づく捜索(第38条)等が認められている。
 
ウ 事前手続
 CCBDは,調査官の報告を検討し,競争令違反に係る決定を発出する場合,決定により影響を受けるおそれがある者に対して,決定案を通知し,意見陳述を行う機会を与えなければならない。CCBDは,意見陳述の内容を考慮して,決定を行うことができる(第41条)。

(2)  措置

ア 実体規定違反
 CCBDは,違反者に対し,違反行為の終了,再発防止のための措置,当該違反行為に故意又は過失が認められる場合は制裁金(3年を超えない期間を限度として,違反行為期間中にブルネイ国内での売上額の10%を超えない割合)の支払いを命じることができる(第42条)。CCBDは,決定の日から14日以内に関係者に通知する(第43条)。
 
イ 手続規定違反
 CCBDに虚偽の情報を提出した場合,調査官による調査を妨害した場合等は刑事罰の対象となり,1万ブルネイ・ドル以下の罰金若しくは12月以下の懲役又はその併科がされる(第53条~第58条,第64条)。

(3) リニエンシー制度

 第11条(反競争的合意)違反を自認し,CCBDに対して情報の提供又はその他の形式による協力を行った事業者に対しては,制裁金が最大で100%減免される。実際の減免率については,申請が第1位かどうか,申請の時期,その他の状況を考慮して決定される(第44条)。
 リニエンシーに係るガイドラインによると,リニエンシー制度は第11条に規定されるカルテルのみを対象とする(同ガイドライン6.1)。申請者が次に掲げる条件を全て満たした場合,制裁金が最大で100%減額される(同ガイドライン5.1)。
ア 最初にCCBDに申請した事業者であること
イ 反競争的行為の特定又は調査に役立つこととなる全ての情報,文書,証拠をCCBDに提供すること

 また,次に掲げる条件を全て満たした場合,制裁金が100%未満の割合で減額される(同ガイドライン5.2)。
ア 調査中にカルテルへの関与を認めること                
イ 調査中に情報又は証拠を提供すること

 リニエンシー申請者は,CCBDのホームページからオンライン上で申請するほか,申請書をダウンロードし,Eメール,郵送又は事務局へ直接持参して申請することもできる(同ガイドライン8.1~8.2)。

(4) 確約制度

 CCBDは,事業者から申出のあった確約(undertaking)が適当と考える場合,当該確約を受け入れることができる。確約を受け入れる場合,CCBDは,競争令違反を認定せず,当該事業者に措置を課すことなく調査を終了する。確約の内容は公表される(第45条)。

(5) 不服申立て

 CCBDが違反と決定した反競争的合意,支配的地位の濫用行為又は企業結合の当事者は,所定の期間内に競争不服審判所(Competition Appeal Tribunal)に不服を申し立てることができる(第59条)。競争不服審判所は,CCBDの原決定を維持する又は制裁金の額の変更を含め原決定若しくはその一部を破棄することができる(第61条)。

5 損害賠償

 第11条(反競争的合意),第21条(支配的地位の濫用)又は第23条(企業結合)違反によって直接損害を受けた者は,民事の手続に従って損害の回復を求める訴訟を行う権利を有する(第67条)。

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