(2024年6月現在)
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1 根拠法
(1)名称
競争に関する法律(以下「競争法」といい、特に記載がない限り、条文番号等は競争法の条文番号等を指す。)。
(2)制定の経緯等 競争法は、2021年9月9日に第6期国会上院議会で可決され、2021年9月20日に第4期国会第7回下院議会で審議され、2021年10月5日にカンボジア国王が署名し制定された。 競争法は、競争制限行為を規制し、公正で誠実な事業者取引関係を奨励し、経済効率を高め、新規参入を促進し、消費者が高品質で低価格、多様で多彩な製品及びサービスを享受できるよう、カンボジア競争委員会(Competition Commission of Cambodia、以下「CCC」という。)を設置し、その権限を規定するものである(第1条)。
(3)競争法の構成
第1章 総則
第2章 執行機関(CCC)
第3章 競争制限行為
第1部 競争制限協定
第2部 市場支配的地位の濫用
第3部 企業結合
第4部 水平的・垂直的協定、市場支配的地位の濫用及び企業結合に関する適用除外
第5部 減免制度
第4章 苦情及び審査手続
第5章 暫定的停止措置及び執行機関(CCC)の決定
第6章 罰則
第7章 最終規定
(4)適用範囲
競争法は、カンボジア王国の市場における競争を著しく妨げる、制限する若しくは歪めることに関連した事業活動(当該事業活動が国内と国外のいずれで行われたかを問わない)を行うか、又は当該事業活動を支援する行為を行う個人又は法人に適用される(第2条)。
2 執行機関(CCC)
(1)名称・設置根拠(第4条)
CCCは、関係省庁及び関係機関の関与の下、商業大臣の管轄下に設置された組織であり、その業務実施機関として競争担当総局(商業省の消費者保護、競争及び不正防止総局(Consumer Protection Competition and Fraud Repression Directorate-general)、以下、「CCF」という。)を設置し、本法の規定に従って競争問題に関する職務を遂行する。
(2)CCCの構成等(第5条)
CCCは、商業大臣である委員長が主導し、必要に応じて関連する省又は機関から選出される副委員長及び委員で構成される。 CCCは任期5年の委員で以下のとおり構成されるものとする。
・元裁判官 1名
・法律に関する知識・経験を有する者 2名
・経済的な知識・経験を有する者 2名
委員の選出手続は、商業大臣の定める省令によって定められる。 委員より下位のCCC の具体的な構成は、政府の決定により定められる。
(3)CCCの所掌事務(第6条)
CCCは、以下の機能及び義務を果たすものとする。(第6条)
①競争に関する政策及び計画を策定する。
②競争に関連するあらゆる法令の草案に関する助言を政府に与える。
③競争に影響を与える国内及び国際的法令の改正を政府に要請する。
④決定、命令、暫定的停止又は制限措置、罰金を課す。
⑤罰金の計算に関する手続を策定する。
⑥CCC委員の利益相反(公務の遂行に影響を及ぼす可能性のある金銭的利害など)に関する規則を制定する。
⑦企業結合の要件及び手続を策定する。
⑧競争に関連する協定又は活動を個別に許可するための要件及び手続を策定する。
⑨競争に関連する協定又は活動を一括して許可するための要件及び手続を策定する。
⑩罰金に関連する減免制度に関する要件及び手続を策定する。
⑪競争に関連する政府機関、外国政府及び国際機関又は規制当局と協力する。
⑫苦情を受け付ける。
⑬競争に関連するCCCの権限に属するその他の規定及び規則を制定する。
3 規制の概要
(1)競争を制限する協定
ア 水平的協定
競争に影響を与える以下の水平的協定の直接的又は間接的締結及び実施は禁止される(第7条)。
①商品又はサービスの価格の固定、管理又は維持に関する協定
②商品又はサービスの販売を妨げ、又は制限する協定。制限の内容は以下のとおり。
(i)販売するための商品又はサービスの数量
(ii)販売するための商品又はサービスの種類
(iii)新しい商品又はサービスの開発
③競争事業者間の地理的割当てに関する協定
④競争事業者間の顧客割当てに関する協定 ⑤民間調達における入札を落札するため、特定の入札者を優遇する入札
イ 垂直的協定
(ア) 商品又はサービスを最低価格で再販することを直接的又は間接的に購入者に要求する、又はその個人若しくは法人が設定した条件を受け入れることを購入者に要求する垂直的協定は禁止される(第8条第1項)。
(イ) 市場における競争を著しく制限する又は歪める可能性のある以下の垂直的協定を締結し、実施することは禁止される(同条第2項)。
①購入者が購入した商品又はサービスを定められた地理的範囲内でのみ再販することを要求すること
②購入者が購入した商品又はサービスを特定の顧客又は特定の種類の顧客にのみ再販することを要求すること
③購入者が特定の商品又はサービスの全て又はほとんど全てをその販売者から独占的に購入することを条件とすること
④販売者が他の購入者に商品又はサービスを販売することを妨げること
⑤購入者が購入したい商品又はサービスに加え、当該商品又はサービスに関連しない商品又はサービスを購入するよう要求すること
(2)市場支配的地位の濫用
ア 市場支配的地位を有する個人又は法人の以下の行為は、市場における競争を著しく妨げる、制限する、若しくは歪める目的、又は効力を有する場合、禁止される(第9条)。
①供給者又は顧客に競合他社と取引しないよう要求又は誘導すること(第9条第1項)
②競合他社への商品又はサービスの供給を拒否すること(第9条第2項)
③契約の目的とは無関係な他の商品又はサービスを購入者が別途購入することを条件として、商品又はサービスを販売すること(第9条第3項)
④商品又はサービスについて、製造原価を下回る価格で販売すること(第9条第4項)
⑤競合他社にとって必要不可欠な施設を利用することを拒否すること(第9条第5項)
イ 市場支配的地位を有する個人又は法人は、CCCが以下の2つの要件を満たすと判断した場合、競争法第9条の適用を除外される(第10条)。
①事業の利益のために適法に当該行為を行う正当な理由があること
②当該行為が市場における競争を著しく妨げる、制限する、又は歪めるものではないこと
(3)企業結合
市場における競争を著しく妨げる、制限する又は歪める可能性がある企業結合は、禁止される(第11条)。 また、企業結合は、前段に定める競争への影響について、審査、検査及び評価の対象となり、CCCによって当該審査、検査及び評価が実施される。企業結合の要件及び手続は、政令により定められる。
(4)水平的・垂直的協定、市場支配的地位の濫用及び企業結合に関する適用除外
ア 競争法第7条、第8条、第9条及び第11条で禁止されている協定又は行為は、それらの協定又は行為が以下の4つの要件を満たす場合、適用を除外することができる(第12条)。
①技術的、社会的又は経済的に重大な直接的利益をもたらすこと
②それらの利益が、禁止されている当該協定又は行為なしには存在し得ないこと
③それらの利益が、競争を著しく妨げる、制限する又は歪めることによる影響を著しく上回ること
④商品又はサービスの重要な部分において競争を排除していないこと
イ 協定又は行為が競争法第7条、第8条、第9条及び第11条に違反する可能性があると考える個人又は法人は、当該協定又は行為の実施に先立ち、CCCに許可を申請することができる。CCCは、当該協定又は行為が同法第7条、第8条、第9条及び第11条に違反しない場合には、実施を許可することができる(第13条第1項)。
ウ 競争法第12条に定められている適用除外を申請する意思を有する個人又は法人は、同法第12条に定められている全ての要件が満たされていることを証明する証拠とともにCCCに届出しなければならない。CCCは、当該協定又は行為が同法第12条の全ての要件を満たす場合に適用除外を認める。CCC は、適用除外を認める際に、適用除外の有効期限を定めなければならない(第13条第2項)。
要件及び手続は、CCCにより定められる(第13条第3項)。
適用除外の申請者は、申請に当たり、商業大臣及び経済財政大臣の共同省令により定められた手数料を支払わなければならない(第13条第4項)。
エ CCC は、特定の商品又はサービスに関連する協定又は行為の種類が競争法第12条に定められている要件を満たす場合、当該協定又は行為の種類に対して一括して承認を与えることができる。CCCは、承認を与える際、当該許可の有効期限を定めることができる(第14条第1項)。
協定又は行為の種類に対する一括した届出に関する要件及び手続は、CCCにより定められる(第14条第2項)。
4 法執行手続
(1)審査権限・端緒
ア 商業大臣の省令に基づきCCFから選任された審査官は、①競争法の下での違反行為に関する審査、調査及び証拠収集、並びに関係人に対して市場における競争状態を評価するための情報、文書又は資料などの提供を求めるとともに、②競争法違反に関係する調査を行い、③競争を阻害、制限又は歪める協定や行為に対し、CCCが発出した暫定的停止措置を適用する(第17条第1項)。
CCCは、必要な場合、上記の職務を遂行するために,管轄の機関又は規制当局に協力を求めることができ、当該機関又は規制当局は求めに応じて協力しなければならない(第17条第2項)。
イ 司法警察職員としての資格を有する審査官(以下、「有資格審査官」という。)は、刑事訴訟法の規定が定めるところにより、競争法に定められた違反行為を審査する(第18条第1項)。 有資格審査官の資格付与に関する手続は、司法大臣と商業大臣の共同省令により定められる(第18条第2項)。
ウ 有資格審査官は、刑事訴訟法の定めるところにより、捜索、物件の押収、関係人の呼出し及びその他の手続を行う権利を有する(第19条第1項)。
有資格審査官は、競争法に定められた違反行為の発生を共同で抑止するため、地方当局、武器を保有する機関又はその他関連する管轄当局に支援を求める権利を有する(第19条第2項)。
有資格審査官は、6時前及び18時以降に捜索を行ってはならない。ただし、他国の競争当局との協力要請があった場合を除く。その場合、有資格審査官は検察官に報告し助言を求めなければならない(第19条第3項)。
エ 有資格審査官は、証人の証言が審査に有益と判断した場合には、証人に質問を行うことができる(第20条第1項)。 証人が理由なく出頭を拒否し、違反行為の審査に影響を及ぼす場合、有資格審査官は、管轄の検察官に当該証人に対する尋問のための出頭命令を出すよう要請することができる(第20条第2項)。
オ 審査過程において、審査官が暫定的停止措置を命じる必要があると認める場合、対象となる個人又は法人に対し、以下の目的で暫定的停止措置を命じるようCCCに要請しなければならない(第24条)。
①競争法第7条、第8条、第9条及び第11条の違反に関連する協定の効力を停止する、又はそれに係る活動を停止する
②同法第7条、第8条、第9条及び第11条に違反する行為を停止する
③作為又は不作為
カ CCCは、審査官から要請された交渉による和解について決定する権限を有し、その決定は一般に公開されなければならない。交渉による和解は、透明性があり、説明責任を果たし、合法的に行わなければならない(第25条第1項)。
交渉による和解の要件及び手続は、商業大臣の省令によって定められる(第25条第2項)。
(2)情報提供・機密保持に関する規定
ア 合法的な情報提供者は、以下の措置を受けなければならない(第21条第1項)。
①競争法第22条に定められている個人情報の保護
②必要な場合、個人の安全の保護
③CCCへの機密情報の提供又は開示に起因する民事、刑事又は職業上の処分からの免責
上記措置は、当該報告が競争法に対する違反の判明につながらない場合であっても、合法的な情報提供者に適用される(第21条第2項)。
情報提供者が違法に機密情報を漏洩した、又は虚偽の情報を提供した場合、CCCが別途決定しない限り、情報提供者が保護を受ける権利はない(第21条第3項)。
イ 個人又は法人の事業活動、情報提供者の身元又は審査対象者の身元に関する機密情報、審査で収集された情報及びその他CCCにより定められた情報(以下「機密性のある情報」という)は、漏洩してはならない(第22条第1項)。
個人又は法人の業務に関連する機密性のある情報とは、以下のような、その情報が開示された場合に重大な損害を与える可能性のある情報を指す(第22条第2項)。
①個人又は法人に関する技術情報又は財務情報
②原価評価
③生産工程の秘密
④供給源
⑤生産及び販売量
⑥市場占有率
⑦顧客リスト及び代理店リスト
⑧マーケティング計画
⑨原価、販売価格、販売戦略に関連する情報
情報提供者の身元に関連する機密情報には、以下のものが含まれる(第22条第3項)。
①情報提供者の氏名、住所、出生地及びソーシャルネットワークのアカウント
②情報提供者の配偶者、父、母、子又は兄弟の名前、住所、出生地及びソーシャルネットワークのアカウント
③情報提供者の画像又は音声
④情報提供者の配偶者、父、母、子又は兄弟の画像
機密性のある情報を漏洩するあらゆる行為は、競争法第23条の規定を除き、禁止される(第22条第4項)。
ウ 審査官は、審査中、以下の場合に限り、機密性のある情報を開示することができる(第23条)。
①審査官が競争法規定に沿って職務を遂行するために必要である場合
②他の法律で許可されている場合
③CCC委員長の許可を得て、国の政府機関又は外国の政府機関がその役割及び責務を遂行する支援を行う場合
④自衛のために証拠を開示する権利を行使する必要がある場合
(3)CCCの措置
CCCは、以下の権限を有する(第26条)。
①暫定的停止措置及び決定を命じる
②行政制裁を課す
③罰金を科す