カナダ(Canada)

(2022年9月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

 カナダの競争法は、1889年に制定された「取引を制限する結合を禁止する法律」(Act for the Prevention and Suppression of Combinations Formed in Restraint of Trade)を起源としており、現在の中心的な法律は、「1986年競争法」(Competition Act)である。
 なお、これを補完する法として「競争審判所法」(Competition Tribunal Act)がある。  
「取引を制限する結合を禁止する法律」は、1892年に刑法に組み込まれ、取引制限についても一般刑事事件と同様に取り扱われることとなった。さらに、1910年に企業結合審査法(Combines Investigation Act)が制定され、取引制限について審査を行う特別の機関(調査庁)が設置され、また、公共の利益に反するトラスト及び合併が犯罪として追加された。1923年の新たな企業結合審査法の制定及び1952年の同法の改正により、調査庁の他に制限的取引慣行委員会が設置され、審査機能と審判機能が分離された。
 その後、1986年に、前記のとおり競争法が制定され、このとき、制限的取引慣行委員会が廃止され、競争審判所が設置された。
 競争法は、2009年3月、[1]カルテル規制の強化(当然違法の概念を導入、禁錮刑の上限の引上げ〔※カルテルのみ、施行は2010年3月12日〕)、[2]支配的地位の濫用に対する行政制裁金の拡大(航空会社限定の規定から全ての事業者を対象)、[3]合併審査へのセカンドリクエスト手続(SIR :supplementary information request)の導入、[4]再販売価格維持行為について、当然違法(per se illegal)から合理の原則(rule of reason)に基づき違法性を判断、[5]再販売価格維持行為の非刑罰化などの改正がなされた。さらに2022年6月23日、カナダの消費者、事業者及び労働者を反競争的行為から保護するため、カナダ競争局の機能強化等を内容とする重要な競争法の改正案が成立した。主な改正点は以下のとおりである。
・    法律に違反した者に対する罰金及び罰則の上限を引き上げる。
・    雇用者間の賃金協定及び引き抜き禁止(no-porch)協定の締結を禁止する(2023年6月23日施行)。
・    不完全な価格表示(drip pricing)が欺瞞的販売行為であることを明確にする。
・    支配的地位の濫用によって影響を受けた者が競争審判所に私訴を提起できるようにする。
・    競争への影響を評価する際に用いる要素を記載したリストを拡張し、ネットワーク効果による参入障壁などのデジタル分野において発生する可能性のある要素を追加することなどにより、今日のデジタル経済において、カナダ競争局によるより効果的な執行を可能にする。

第2 執行機関

1 産業省競争局(Bureau of Competition)(別紙(組織図))

(1) 産業省競争局は、合併・独占的行為部門、カルテル・欺瞞的販売慣行部門、競争促進部門、デジタル執行・情報収集部門及び法人向けサービス部門の5つの部門から構成され、競争法、消費者包装・表示法その他の法律を管轄している。 
 
(2) 競争局長官(Commissioner)は、総督により任命され、その任期は5年である。競争局長官は、違反事件の審査を行い、[1]刑事事件については司法長官に送付し、[2]審判対象事件及び合併案件については競争審判所に送付し、[3] 欺瞞的販売行為のうち、虚偽表示の一部、商品テスト及び証明書に関する不当表示、おとり販売、広告価格を超える価格での販売、販売促進コンテスト等及びその他の欺瞞的販売行為(deceptive marketing practice、これらの欺瞞的販売行為を以下「特定欺瞞的販売行為」という。)事件については競争審判所、州上級裁判所又は連邦裁判所に提訴する。なお、競争局長官は、関係人から違反行為を排除する旨の確約を受理し、事件を終結することができる。
 
(3) 競争局長官は、[1]他の規制機関、行政委員会若しくは競争審判所の要請、[2]職権又は[3]産業大臣の指示に基づき、他の規制機関、行政委員会及び競争審判所に対し、競争に関する意見を表明することができる(競争法※第125条)。※ 以下、単に法と記載。
 
(4) 競争局長官は、産業大臣に年次報告を提出しなければならず、同大臣はこれを国会に報告しなければならない(法第127条)。

2 競争審判所(Competition Tribunal)

(1) 競争審判所は、競争局長官からの審判申請に基づき、審判対象事件、合併案件及び特定欺瞞的販売行為事件について審判を行い、措置を命じることができる。根拠法として競争審判所法がある。 
 
(2) 競争審判所は、6人以下の連邦裁判所の判事(司法メンバー)と8人以下の一般の有識者(一般メンバー)から構成され、審判長は司法メンバーから任命される。任期は7年で再任可能である(競争審判所法第3条、第5条)。
 
(3) 法律問題については、司法メンバーだけで決定し、事実問題又は法律と事実問題が混合しているものについては、全員で決定する。また、意見が分かれた場合には、多数決で決定する(競争審判所法第12条)。
 
(4) 競争審判所の決定に対しては、連邦控訴裁判所へ異議申立てを行うことができる。なお、事実関係に関する異議申立ては、連邦控訴裁判所の許可がない限り行うことはできない(競争審判所法第13条)。

3 司法長官(Attorney General of Canada)

 司法長官は、競争局長官からの事件送付を受けて、訴追することができる(法第23条第1項、第2項)。  
  ※ Attorney General of Canadaは、米国司法長官と同様に、司法行政の長及び検事総長の権能を有する。

4 連邦裁判所事実審理部(Federal Court Trial Division)

 連邦裁判所は、司法長官の提訴に基づき刑事事件に関し、所定の刑罰に加えて違反行為の禁止、必要な排除措置を命じることができる(法第34条第1項及び第2項、法第73条第1項)。また、競争局長官の提訴に基づき特定欺瞞的販売行為事件に関し、所定の措置を命じることができる。さらに、同裁判所は、司法長官の申請に基づいて、暫定的差止命令(interim injunction)を行うことができる (法第33条)。

5 連邦控訴裁判所(Federal Court of Appeal)   

 連邦控訴裁判所は、刑事事件に関する連邦裁判所事実審理部の判決に対する上訴事件(法第34条第3項 b号、法第73条第3項)及び競争審判所の決定に対する異議申立て事件を審理する(競争審判所法第13条)。 

6 カナダ最高裁判所(Supreme Court of Canada) 

 カナダ最高裁判所は、連邦控訴裁判所又は州控訴裁判所の判決に対する上訴を審理する。同裁判所の審理においては、法律問題については争うことはできるが、事実関係については、同裁判所の許可がない限り争うことはできない(法第34条第3.1項)。

第3 規制の概要

1 刑事罰の対象となる行為類型

 共謀(カルテル)、入札談合、差別対価、重大な虚偽広告、不当なテレマーケティング等の違法な取引慣行は、刑事罰の対象となる。これらについては、競争審判所の管轄対象とはならない。    
 
(1) 共謀(カルテル、conspiracy;法第45条)
 価格カルテル、販売数量カルテル及び市場分割については当然違法とされ、14年以下の禁錮若しくは2500万ドル以下の罰金又はこれらの併科に処せられる(法第45条第1項、2項)。この「2500万ドル以下の」については、2023年6月23日に削除され、罰金の上限がなくなった。
 ただし、共謀等が、統計情報の交換、商品規格の定義等に係るものであって、価格、数量、品質、市場、顧客又は流通方法に関し不当に競争又は新規参入を制限しない場合には、違法とされない(法第45条第3項、第4項)。また、共謀等が、カナダからの輸出商品だけに係るものであって、第三者の輸出活動を制限することとなる等一定の場合に該当しなければ、違法とはならない(法第45条第5項)。
 また、2023年6月23日以降、雇用者間の賃金協定及び引き抜き禁止(no-porch)  協定の締結が禁止された。
 
(2) 入札談合(bid-rigging;法第47条)   
 入札談合については、カルテルとは別に規定が設けられている。入札談合は違法とされ、 14年以下の禁錮若しくは裁判所の裁量による罰金又はこれらの併科に処せられる。 また、一旦行った入札を要請に応じて撤回する行為も入札談合の対象となる。
 
(3) 虚偽表示(false or misleading representation;法第52条)  
 故意又は未必の故意による虚偽又は誤認させる表示を行うことは、違法とされ(法第52条第1項)、正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは14年以下の禁錮、又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は20万ドル以下の罰金若しくは1年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(同条法第5項)。
 
(4) 欺瞞的なテレマーケティング(telemarketing;法第52.01条)    
 電話の通話による商品の販売等は、公正かつ適正な方法で所定の事項の情報開示がされない限り違法とされ(同条第2項)、また、欺瞞的なテレマーケティングは違法とされる(同条第3項)。正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは14年以下の禁錮、又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は20万ドル以下の罰金若しくは1年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(同条第6項)。
 
(5) 二重価格(double ticketing;法第54条)  
 ある商品が供給されている時点において、当該商品の包装、商品に付着したもの、又は店頭等に明確に付された2以上の価格のうちの最低価格よりも高い価格で販売することは、違法とされ、1万ドル以下の罰金若しくは1年以下の禁錮又はこれらの併科に処せられる。
 
(6) マルチ商法(multi-level marketing plan;法第55条)
 公正で合理的かつ時宜に適った情報開示を含むものでない限り、マルチ商法(参加者が、他の参加者への商品の販売に対する代償を受け取り、当該他の参加者がそれと同一又は別の商品の別の参加者への販売に対する代償を、次々と受け取る方法による商品の販売方法)を行う者又はその参加者は、参加予定者に対して、その報酬に係る表示を行うことは違法とされる(同条第2項)。正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは5年以下の禁錮又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は20万ドル以下の罰金若しくは1年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(同条第3項)。
 
(7) ピラミッド販売商法(scheme of pyramid selling;法第55.01条)    
 ピラミッド販売商法(マルチ商法であって、入会すれば、その者が勧誘した新規入会者の支払う入会金を受領でき、その新規入会者も、同様に勧誘した新規入会者の支払う入会金を受領できるというシステム)を設立、運営、広告又は促進することは、違法とされる。正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは5年以下の禁錮、又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は20万ドル以下の罰金若しくは1年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(同条第3項)。

2 競争審判所の審判の対象となる行為類型

 取引拒絶、価格維持、排他的取引、抱き合わせ販売、市場制限(販売に係るテリトリー制)、支配的地位の濫用等の行為類型の違反事件については、競争局による審査の後、競争審判所に送付され、競争審判所の審判を経て、違反行為者には禁止等の措置が命じられる。

3 行政的排除措置の対象となる欺瞞的販売行為

 特定欺瞞的販売行為に対しては、刑事手続に加え、行政的排除措置(administrative remedy)制度が導入されている。これは、これらの違反行為の迅速かつ適切な排除を目的としたもので、第7.1章にこれらの行為に係る禁止規定を設けている。
 
(1) 行政的排除措置の対象となる主な行為(特定欺瞞的販売行為)   
ア 誤認を招く表示(misrepresentation;法第74.01条第1項)  
イ 不完全な価格表示(drip pricing;同第1.1項)  
ウ 不当な通常価格の表示(ordinary price;同第2項、第3項)  
エ 不当な商品テスト・証言の表示(representation as to reasonable test and publication of testimonials法第74.02条)
オ おとり販売(bait and switch selling;法第74.04条)
カ おとり価格での販売(sale above advertised price;法第74.05条)
キ 販売促進コンテスト(promotional contest;法第74.06条)
 
(2) 行政的排除措置   
ア 長官は、これらの事件を競争審判所のほか、州上級裁判所又は連邦裁判所(以下、イでは「競争審判所等」という。)に対して申し立てることができる(法第74.09条、法第74.1条第1項)。この趣旨は、カナダ国内のいかなる地域においても迅速な処理ができるようにすることにある。
イ 競争審判所等は、長官からの申立てを受けて違反者に対し次の措置を採るよう命じることができる。
(ア) 違反行為の禁止
(イ) 競争審判所が指定する方法及び時期に、当該違反行為に関係を持った又は影響を受けた一群の者の注意を引くような告知、違反事業者の名称及び次の事項を含む競争審判所等が認定した事実を公表又は周知すること。
a 当該違反行為の説明
b 当該違反行為が関係する期間及び地理的範囲
(ウ) 出版物又はその他の使用されたメディアを含む、表示又は広告が行われた方法についての説明
ウ 1回目の違反については、個人の違反者に対しては上限75万ドル及び違反行為によって得た利益の3倍に相当する額、法人の違反者に対しては上限 1000万ドル及び違反行為によって得た利益の3倍に相当する額、2回目以降の違反については、個人の違反者に対しては上限100万ドル、法人の違反者に対しては上限1500万ドルの行政的制裁金の支払
エ 違反行為によって損害を被った最終消費者への、対象製品に対して支払われた総額を上限とする返金

4 合併等企業結合

 合併は、競争審判所の審判の対象となる行為類型の一つである。競争局による審査の後、競争審判所に送付され、競争審判所の審判を経て、違法な合併に対しては、禁止等の措置が命じられる。
 
(1)合併の禁止    
 競争審判所は、競争局長官の申請に基づき審理を行った結果、合併又は合併計画が、競争を排除若しくは減殺し、又はそのおそれがあると認めた場合には、合併の解消、禁止、差止め、資産の分割等の措置を採ることができる(法第92条)。
 競争審判所は、競争局長官の申請に基づき暫定的差止命令を行うことができる。また長官は、合併当事者が、事後回復が困難な措置を採ろうとするときには、審査が終了していない場合でも暫定的差止命令を申請できる(法第100条 )。
 競争を実質的に減殺する効果を有するか否かの決定に当たり、競争審判所は、市場への参入障壁、外国からの競争の程度、合併後の市場における競争の程度、代替商品の利用可能性等の要因を検討する(法第93条)。  
 ただし、特定のプロジェクトや研究開発の性質からみて、必要性が認められる等一定の条件を満たすジョイントベンチャーには適用されない(法第95条)。また、競争審判所が、競争を減殺する効果を相殺して余りある効率性の向上を実現すると認めた合併には適用されない(法第96条)。
 
(2)合併の事前届出
 合併の事前届出義務は、関連会社(affiliate)を含めた当事会社の規模(当事者規模)と取得その他の取引規模(取引規模)の二つの条件を満たす場合に課せられる。当事者規模は、関連会社(affiliate)を含めた両当事会社のカナダにおける資産又は売上高(国内売上高にカナダからの輸出分とカナダへの輸入分を加えた額。)の合計が4億カナダドル超である(法第109条)。取引規模は、五つの合併形態の違いに応じて次のように定められている(法第110条)。
ア 資産の取得の場合
 カナダにおける7000万カナダドル超の資産の取得又は7000万カナダドルの売上高(国内売上高にカナダからの輸出分を加えた額。以下同じ。)を生じる資産の取得(法第110条第2項、第7項)。
イ 株式の取得の場合
 カナダにおける資産又は売上高が7000万カナダドル超の上場会社の議決権付き株式の20パーセント超(ただし、取得計画前に既に20パーセント超を取得していた場合は、50パーセント超)の取得。
 なお、非上場会社の場合は議決権付き株式の35パーセント超(ただし、取得計画前に既に35パーセント超を取得していた場合は、50パーセント超)の取得(法第110条第3項、第7項)。
ウ 合併(amalgamation)の場合
  合併当事会社のうち2社以上のカナダにおける資産又は売上高が7000万カナダドル超であって、合併当事会社の1社以上が第113条に規定された取引(競争局長官又は大蔵大臣が承認した取引等)を営む場合又は当該取引を行う企業を支配する場合の合併(法第110条第4項、第7項)。
エ 会社形態によらない者(person)による結合の場合
 カナダにおける資産又は売上高が7000万カナダドル超の2以上の者による会社形態によらない結合(法第110条第5項)。なお、通常の取引による資産等の取得で支配力を持たないものや一定のジョイントベンチャー等については届出義務が免除される(法第111条~法第113条)。
 
(3) 待機期間
 届出後の待機期間は30日である(第123条)。また、競争局長官は、待機期間中に追加の資料要求(supplementary information request「SIR」;以下「セカンドリクエスト」という。)を行うことができる。セカンドリクエストを行った場合の待機期間は、当該セカンドリクエストによる資料の受領日から30日である(第114条第2項)。
 競争局長官は、競争を排除若しくは減殺し、又はそのおそれがある合併等に対して、その事実を決定するため審査を行う必要があると思料する場合、宣誓又は無宣誓証言に基づく書面の情報提供要求を裁判官に求めることができるほか、口頭尋問、記録の提出又は書面による回答を求める命令を裁判官から得ることができる(法第10条第1項、第11条第1項)。
 なお、事前届出義務違反及び待機期間前の合併手続の完了は、それぞれ5万ドル以下の罰金に処せられる。 
 
(4) 事前判定証明
 競争局長官は、当事会社から相談があった合併計画について、法第92条に基づく競争審判所への申請を行うに十分な根拠がないと判断したときは、その旨の事前判定証明書(Advance Ruling Certificate)を発行することができる(法第102条第1項)。
 なお、当事会社は、届出に係る手数料として5万ドルを競争局に対して支払わなければならない。また、事前判定証明書の発行は有料である。

5 適用除外

 専門化協定の適用除外(法第85条~法第90条)
 「専門化協定」(specialization agreement)とは、参加者が、協定が締結された時点では供給している商品又はサービスの供給を中止することに合意した協定及びその他対象となっている商品又はサービスを排他的に購入することに合意した協定を意味する。
 事業者が専門化協定を締結し、相互に自己が生産していた商品又はサービスの一部の生産を取りやめて、特定の商品若しくはサービスの生産を専門的に行うこと、又は他の当事者から生産を取りやめた商品若しくはサービスを排他的に購入又は受けることを取り決めた場合、競争審判所は、当該協定が競争を減殺する効果を相殺して余りある効率性向上を実現すると認めたものには、これを登録するよう命令することができる。登録された専門化協定については、カルテル及び排他条件付取引に関する規制は適用されない。
 また、競争審判所は、当事者による申請があったときには登録された専門化協定を修正することができる。また、修正された協定の内容が登録を認めるための条件を満たさない場合又は協定が実施されていない場合には、当該協定の抹消を命じることができる。  

第4 法執行手続

1 審査

(1)申告要件
 カナダに居住する6名の者(18才以上)が、競争法に違反する行為があると思料するときは、競争局長官に対し審査(inquiry)を要求(申告)することができる(法第9条第1項)。  
 
(2)端緒
 競争局長官は、[1]法第9条の申告、[2]職権、又は[3]産業大臣の要請に基づき、審査を開始する(法第10条第1項)。  
 
(3)具体的な手続
ア 競争局長官は、違反が存在すると信じるに足る合理的な理由がある場合は、裁判所に対し、以下の32条、33条、34条に基づく禁止命令等の発出を求めることができる。また、競争局長官は、裁判官が交付した令状に基づき、供述、記録作成又は書面による回答を求めることができ(法第11条)、また、裁判官が交付した捜索令状に基づき、立入検査やコンピュータシステムの検査を行うことができる(法第15条、法第16条)ほか、法務次官(Solicitor General)の同意に基づき、裁判所に対し欺瞞的なテレマーケティング、価格協定、市場分割協定及び入札談合の審査のための通信傍受(wiretap)の許可を、通話当事者の一方の同意を得て(刑法第184.2条)又は通話当事者の同意なしに申請できる(刑法第184.3条)。
 イ  法律に基づく競争局の正式審査(inquiry)や調査(examination)を妨害又は妨害しようとする者は、正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは10年以下の禁錮、又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は10万ドル以下の罰金若しくは2年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(第64条)
ウ   裁判所が交付した令状に基づく供述、記録作成又は書面による回答並びに立入検査及びコンピュータの検査に従わない者は、正式起訴による有罪判決の場合は裁判所の裁量による罰金若しくは2年以下の禁錮、又はこれらの併科、略式有罪判決の場合は10万ドル以下の罰金若しくは2年以下の禁錮、又はこれらの併科に処せられる(第65条第1項)。

2 刑事手続

(1) 刑事罰の対象となる行為類型については、競争局長官は審査を行っている間いつでも、司法長官に対し事件を付託することができ(法第23条第1項)、司法長官が訴追するか否かを決定する(法第23条第2項)。 また、個人が競争法第6章(競争関係)違反の有罪判決を受けた場合には、連邦裁判所又は刑法で定められた上級裁判所は、判決の際に、当該判決によって科された罰則に加え、当該違反の継続又は反復等を行う行為の禁止命令を出すことができる(法第34条第1項)。
 
(2)  カルテルのような事例においては、任意による情報提供はもちろんのこと、法第11条に基づく命令によっても、違反者自身から有益な情報が得られることは期待できない。そのような場合には、有益な情報を提供してきた者は、競争法違反で罰せられることはないという免責プログラムが利用される。
  関係人からの情報提供があった場合、競争局長官は、司法長官に対し情報提供者を免責するよう勧告し、司法長官はこれに対し免責を与える。
 免責を与える権限を有するのは司法長官のみであるため、免責条項を利用した証拠収集が行われる場合には、審査の初期の段階から司法省が関与してくることになる。

3 民事手続

(1) 特許権等に基づく排他的権利及び権利の行使により、競争が不当に減殺される場合には、連邦裁判所は、司法長官の申立てを受けて、司法長官の提示した証拠に基づき、そのような行為の無効宣言等を命ずることができる(知的財産権の使用による取引制限の禁止命令:法第32条第2項)。
 
(2)  競争法第6章(競争関係違反)又は第66条(第7.1章及び第8章命令違反)違反を構成する又は違反に向けられている行為を行ったか、行おうとしているか、行う可能性が高い等と判断した場合には、連邦裁判所は、被審人に対する捜査の開始又は終了までの間、違反と考えられる行為等を禁止する暫定的差止命令を出すことができる(法第33条第1項)。

4 競争審判所の手続

(1) 審判の対象となる行為類型については、競争局長官の申請に基づき、競争審判所が審判を行い、同意命令、禁止命令、改善命令等が発出される(法第105条~第106条)。また、競争局長官の申請に基づき、競争審判所は、暫定的差止命令(interim order;法第100条、法第104条)を行うことができる。競争審判所の決定に対する異議申立ては、連邦控訴裁判所で審理されるが、事実関係に関する異議申立ては、連邦控訴裁判所の許可がない限り行うことができない(競争審判所法第13条第1項)
      
(2) 競争審判所は、特定欺瞞的行為についても、同様に3(3)の行政的排除措置命令(judicial order;法第74.01条)及び仮差止命令(temporary order;法第74.011条)を発出することができる。また、その競争審判所の決定に対する異議申立ての取扱いについても、審判の対象となる行為類型と同様である(法第74.18条、法第74.19条)。

5 民事的な競争事案に関する外国競争当局との相互援助規定

 支配的地位の濫用などの非刑事的競争事案において、海外に所在する証拠の入手及び移送に関し、競争局は、外国政府に対して正式な支援を要請することが可能である(法第30条~法第30.13条)。

6 告発した従業員の身分を保護する規定(法第66.1条第2項,法第66.2条第1項)

 1999年改正により、競争法の刑事違反を告発した従業員の身分を保護する規定が導入されている。
 この規定は、第一に、告発者が競争局にその者の身分の秘匿を告知し、その遵守を要請することができることを認め、この場合に、競争局は、裁判所の命令によらない限り、当該開示をしてはならないことを義務付けるものである。第二に、従業員が、[1]使用者が競争法の刑事規定違反を犯した、若しくはその意図を持っていることを競争局に通報する、[2]競争法違反行為を拒否する、又は[3]当該違反を行わないようにするために必要なことを行う場合に、使用者がこれを解雇したり、不利益な処分を行ったりすることを禁止し、当該規定に違反した使用者を刑事訴追の対象とするというものである。第三に、この従業員の定義には、請負人も含まれる。

7 私訴

 損害賠償請求は、実損額の範囲で可能である(法第36条)、また、私人による差止請求は、取引拒絶、排他的取引、抱き合わせ販売、市場制限及び市場支配的地位の濫用に係る事案(法第75条から法第77条)に関して直接競争審判所に申立てを行うことを認めている(法第103.1条)。

第5 免責プログラム

1 概要

(1) 「Immunity Programs under the Competition Act」(「競争法における免責プログラム」)(2010年6月)を根拠とする。当該プログラムの対象となる違反行為は、カナダ競争法第6章所定の違反行為(価格カルテル、市場分割、出荷制限、入札談合、刑事罰の対象となる不当表示・欺瞞的販売行為等)である。
 
(2) 刑事事件の訴追は、競争局長官から事件の送付を受けた司法長官が行うため、このプログラムにおいて、免責(訴追免除)を受けようとする企業や個人は、競争局長官に対し、免責の申請を行い、これを受けて、競争局長官が司法長官に対し、免責の付与について勧告する構造となっている。

2 免責のプロセス

(1) マーカー(Marker)の確保
 申請者は、最初の免責申請者としてのマーカーを確保するため、自らの犯罪行為を特定する情報を限定的かつ仮定的に提供する。
 
(2) 申請
 申請者は、マーカーを付与することを競争局が決定した場合、マーカーの付与から30日以内に競争局に違法行為の詳細な情報を提供する。競争局は、得られた情報に基づいて、申請者が免責勧告の要件(後記参照)を満たしているかどうかを検討する。
 
(3) 免責協定(Immunity Agreement)
 競争局は、司法長官に対し、申請者が免責を受ける適格性について勧告する。司法長官は、独立した裁量に基づいて、免責を与えるかどうかを決定する。司法長官は、競争局の勧告を受け入れた場合、申請者の義務を含めた免責協定を作成する。
 
(4) 捜査への全面協力(Full Disclosure and Co-operation)
 申請者は、司法長官との免責協定を締結した後、その後の捜査に必要な証拠の全面開示(秘匿特権により保護される証拠を除く。)及び協力(証人として出頭し証言すること等。)が必要となる。申請者が提出した証拠は、免責協定に従うものである限り、当該申請者にとって不利な証拠として使われることはない。


3 免責勧告の要件

 競争局長官による免責の勧告は、次のいずれかの場合に行われる。
・ 競争局が違反行為の存在を知らず、申請者が最初の情報提供者である場合
・ 競争局が違反行為の存在を知っているが、司法長官に事件を移送するのに十分な証拠を有していない場合
 
 さらに、申請者が次の要件を満たす必要がある。
・ 違反行為を取りやめること。
・ 違反行為に参加するよう他の事業者を強要していないこと。
・ 違反行為に関係した唯一の事業者ではないこと。
・ 競争局の審査及びその後の訴追に対し、守秘義務、内部調査、情報開示、証言等について、資料作成、翻訳及び旅費を含む全てを自己負担により完全に協力すること。
 
(1) 最初の申請者がこの必要要件を満たさない場合で、次の申請者がこの必要要件を満たす場合には、免責を受けることができる。
(2) 企業に免責を受ける資格がある場合、代表者や従業員等も、違反行為への関与を認めて審査に協力すれば、企業と同様に免責を受けることができる。


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