フィンランド(Finland)

(2007年3月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。
※ 以下の概要については,2007年に作成したものであり,その後更新は行っておりませんので,その旨御留意ください。

1 根拠法

(1) フィンランド競争法の基本となる法律は,1992年9月に施行された競争制限に関する法律(Act on Competition Restriction 480/92,以下「競争法」という。)である。制定以降数度改正が行われている。
(2) 法適用範囲
 競争法は,労働市場に関する協定又は取決め,農業生産者又は農業の第一次産品の生産者団体による協定,決定又は共同事業に対しては適用されない。当該協定等が第一次産品以外のものを含むときは,競争法の適用対象となる。また,フィンランド国外の競争を制限する行為は,フィンランド国内の取引先を対象とするものでない限り,競争法は適用されない(第2条)。なお,中小企業に関する適用除外規定又は特別規定はない。

2 執行機関

(1) フィンランド競争庁(Finnish Competition Authority)

 競争庁は,貿易産業省に属するが,競争法の執行に関して反トラスト問題を取り扱う全般的かつ独立した当局である。競争庁は,競争法第4条及び第6条並びにEC競争法81条及び82条の禁止規定違反及び当該違反に対する制裁金賦課について審査を行い,違反行為があるとの結論に至った場合は当該事件について市場裁判所に提訴を行わなければならない。なお,競争違反行為に対する調査において競争庁は地方政府機関に対して調査支援を求めることができる。また競争庁は,競争法第4条に規定された適用免除の承認をすることができる。
 競争庁は1988年フィンランド競争庁設置法(Act on the Finnish Competition Authority 711/1988)に基づき設置されている。競争庁の長は競争庁長官(Director General)であり,修士号を有しかつ競争庁における職務,経営学又は指導的職務のいずれかの経験のあるものうちから,内閣が任命する(設置法に基づく命令により規定,Decree on the Finnish Competition Authority 66 /1993)。任期は特に定められていない。職員数は70名(2006年)である(組織図参照)。

(2) 市場裁判所(Market Court)

 市場裁判所は,市場裁判所法(Market Court Act)に基づき2002年に設立された,競争法,公共調達法等の事案を管轄する特別裁判所である。同裁判所は,裁判長,裁判官4名及び複数の法律専門家で構成される。また公判には,法律資格を有する者及び競争法,公共調達,経済,経営,金融,消費者保護又は商業に精通した修士相当の学位を有する内閣から任命された非常勤の専門家が参加する。評決は,実質審理を行わずして棄却する場合等を除き,3名の裁判官で構成される法廷において行われる。競争法に関する審理では,裁判官のほか,法律資格を有する者及び1名以上3名以下の専門家が参加して行われる。

(3) 最高行政裁判所(Supreme Administrative Court)

 最高行政裁判所は,市場裁判所の決定に対する不服が申し立てられた場合の上訴機関である。

(4) 貿易産業省(Ministry of Trade and Industry)

 貿易産業省は,競争に関する法制,公的機関の調達及び国家補助を所管する。

3 規制の概要

(1) 反競争的協定

ア 禁止規定

 競争法第4条では,「競争に対して重大な妨害,制限又は歪曲する目的を有し,又はかかる結果を有する事業者間の全ての協定,事業者団体による決定及び事業者の共同行為は禁止する。」と規定し,反競争的協定を禁止している。

イ 適用免除

 競争局は,事業者間の協定等が,次の各項の全てに該当する場合,第4条の規定を適用しない (第5条)。
[1] 商品の生産若しくは流通の改善又は技術若しくは経済的進歩に貢献するもの
[2] 消費者に対して結果として生ずる利益を公平な配分で行うこと
[3] 目的達成のために必要不可欠でない制限を事業者に課すものではなく
[4] 当該商品の実質的な部分に関して参加事業者に対して今日を排除する可能性を与えるもの

(2) 市場支配的地位の濫用

 競争法第6条では,「支配的地位にある1以上の事業者又は事業者団体の濫用行為は禁止する」と規定し,市場支配的地位の濫用を禁止している(第5条)。市場支配的地位とは,「一以上の事業者又は事業者団体が,全国又は一定の地域内において,特定の商品市場において,当該商品の販売価格及び流通の条件を有効に支配する排他的権利又はその他の支配的地位を保持する,又はこれに相当する方法で商品又は流通に関する競争条件にある程度影響を及ぼすこと」をいう(第3条)。濫用の例は規定上,次のものが挙げられている。なお,市場支配的地位の濫用については適用免除の規定はない。
[1] 不公正な価格又は取引条件
[2] 需要者に不利となる生産・販売・技術開発の制限
[3] 取引の相手方を競争上不利にする差別的取扱い
[4] 抱き合せ契約

(3) 企業結合

 ア 規制対象

 競争法において規制の対象は,次のいずれかに該当する,当事者の売上合計が3億5000万ユーロ超かつ少なくとも2社のフィンランドにおける売上合計が2000万ユーロ超となる企業結合をいう (第11条,第11a条)。
[1] 企業法(734/1978)第3条に該当する支配権の取得又はこれに相当する実質的支配権の取得
[2] 事業者の事業活動の全体又は一部の取得
[3] 合併
[4] 全ての機能が自律した経済主体として営まれる永続的な共同事業の設立

イ 届出

 上記アに相当する企業結合を行う事業者は,支配権の取得,事業の取得,証券市場法(495/19 89)に基づく公開買い付けの実施,合併企業における合併の決定又は設立会議における共同事業開始の決定後一週間以内に競争局に届出を行わなければならない(第11c条)。

ウ 競争局における審査

 届出後1か月以内に競争局を追加調査開始の決定を行わなければならない。当該決定がなされなかった場合,当該企業結合は承認されたものとみなす。追加調査を行うと決定した場合,決定後3か月以内に合併の禁止等の措置を採るよう市場裁判所に提訴しなければならない。当該期間に措置が採られなかった場合,当該企業結合は承認されたものとみなす。追加調査の期間は,市場裁判所によって最長2か月延長することができる(第11e条)。
 競争局は,当該企業結合に条件を付すことによって競争阻害を防止することが可能である場合,競争局は企業結合当事者と交渉を行わなければならない。交渉がまとまった場合,競争局は当該条件を命令として課す。交渉によって競争阻害が防止できない場合,競争局は市場裁判所に対して提訴を行う。市場裁判所は,競争局の提訴を受け,当該企業結合によって国内又は重要な部分において競争を阻害する支配的地位が形成される又は強化される場合と判断した場合には,当該企業結合の禁止又は解散の命令若しくは条件を付して承認することができる(第11d条)。競争局が提訴した後3か月以内に市場裁判所が命令を下さない場合,当該企業結合は承認されたものとみなす。

4 法執行手続

(1) 事件審査

 競争庁は,申告,リーニエンシー,職権等によって競争法第4条,第6条又はEC競争法に違反すると考えられる行為を発見した場合,競争制限又はその影響を排除するため必要な手続を開始しなければならない(第12条)。
競争庁は,関係事業者及び事業者団体に対して審査に必要な情報及び書類の提出を求めることができる(第10条)。また,競争庁が決定を行った上で,関係事業者及び事業者団体の建物,保管倉庫,敷地及び輸送手段に対して立ち入り,帳簿,金融口座,コンピュータファイル,その他資料を検査し,その写しをとることができ,その場において口頭で説明を求め,その説明を記録することができる。さらに,検査に必要な期間及び範囲において事業用の建物,帳簿及び記録を封印することができる(第20条)。
 なお,欧州委員会が第20条で定められた場所(関係事業者及び事業者団体の建物,保管倉庫,敷地及び輸送手段)以外の場所(関係事業者の役員の自宅等)を立入検査する場合,欧州委員会は事前に市場裁判所の許可を得なければならない(第20a条)。

(2) 違反行為に対する措置

 競争庁は,競争制限行為を直ちに差し止める必要があるときは,仮差止命令を発することができる(第14条)。審査の結果,違反行為を認定した場合,競争庁は関係事業者及び事業者団体に対し競争法により禁止されている行為を中止するよう排除措置を命ずることができるほか,違反行為の不作為命令の決定及び納入先に対する無差別条項の遵守義務を課すことができる(第13条)。
 また,競争庁は,競争法第4条及び第6条並びにEC競争法81条及び82条の禁止規定違反に対して制裁金の賦課を求めて市場裁判所に提訴する。市場裁判所は競争庁の提訴に基づき,当該違反事業者の前年売上の10%を越えない範囲内で制裁金を賦課する決定を行う(第7条)。

(3) 不服申し立て

 競争庁の決定,命令に不服があるときは,市場裁判所に申立てをすることができる。さらに,市場裁判所の決定については,最高行政裁判所へ上訴できる(第21条)。

5 損害賠償

 故意又は過失により競争法又はそれに基づく規則等に違反した者は,それによって他の者が受けた損害を賠償する責任を負う。損害賠償請求は違反を行った者から通知を受けた日又は損害の発生を知り得た日から5年以内に行わなければならない。損害賠償請求訴訟において裁判所は,競争庁に対して意見を求めることができる(第18a条)

6 リーニエンシー・プログラム

(1) 根拠

  • 競争法第9条
  • 競争法第8条及び第9条の適用に関するガイドライン

(2) 対象行為

 競争法第9条は,競争庁が行う全額免除の規定であり,対象行為はカルテル等の競争法第4条及びEC競争法第81条違反行為である。なお,競争法第8条は,市場裁判所が行う事業者及び事業者団体に対する制裁金の減免の規定であり,対象行為は競争法違反行為すべてである。

(3) 概要

ア 競争庁は,事業者が次の[1]から[4]に掲げる行為をすべて行った場合,当該違反行為に対する制裁金賦課の提訴を市場裁判所に行ってはならない。なお,免除対象は最初に単独の事業者のみであり,事業者団体には適用されない(第9条)。
[1] 競争当局が違反行為に介入する以前に当該違反行為に関して競争庁が入手していない情報を競争庁に提出し,
[2] 競争庁に所持する情報及び書類をすべて提出し,
[3] 全審査期間中競争庁に協力し,かつ
[4] 上記[1]において情報を提出した段階で,既に違反行為に関与することを止めている又は直ちに止める
イ 申請者は,匿名で競争庁に対し当該違反行為に対する申請が最初の申請者となり得るか否か照会を行うことができる。競争庁は,照会した時点で最初の申請者となり得るか否か,競争庁が設定する当該違反行為に対する優先順位が確保される期日を申請者に通知する。申請者は期日までに競争庁に対し,事業者名及び自己の違反行為を明らかにし,かつ第9条に基づく情報の提供を行わない場合,その優先順位を失う。情報の提出は,競争庁カルテルユニットに直接又は専用番号にファックスで送付することが推奨されている。
ウ 申請者が,期日までに情報を提供し,引き続き競争庁に対して継続的に情報及び証拠を提供するとともに,上記ア[3]及び[4]を行った場合,競争庁は申請者に対して第9条の条件を満たした旨を記載した書面を申請者に対して交付する。
エ 第9条が適用されない事業者及び事業者団体の行為については,市場裁判所が第8条に基づいて行う制裁金の減免制度が適用される。

フィンランド競争庁組織図
 

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