フランス(France)

(2022年6月現在)

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1 根拠法

 フランスの競争法は、商法典第4部「価格の自由及び競争」(Livre IV : De la liberté de prix et de la concurrence, Code de Commerce)(L.410-1条からL.490-14条まで。以下、特段の記載が無い限り、条番号は商法典のものを意味する。)である。

2 執行機関

(1) 競争委員会

 競争委員会(L’Autorité de la concurrence)は、独立した行政機関であり、自由な競争を確保し、欧州及び国際レベルでの市場の競争的機能に貢献する(L.461-1条I項)。また、競争委員会は、反競争的行為の審査(L.462-5条)、企業結合規制(L.430-5条~430-7条)、競争政策に関する意見及び勧告の公表(L.462-4条)等を行う。

ア 委員の構成等(L.461-1条、L.461-2条、L.461-5条、L.462-4-1条及びL.462-4-2条)

 競争委員会会議は、委員長、4名の副委員長及び12名の委員(任期はいずれも5年間)により構成される(L.461-1条II項)。委員長は、議会の競争分野の専門委員会への諮問を経て、競争に関する経済的かつ法律的専門知識を有する者が選任される(L.461-1条II項及びL.461-5条)。副委員長及び委員は、2年6か月ごとに半数ずつ改選される(L.461-1条II項)。委員長以下委員会メンバーは、1回に限り再任可能である(L.461-1条III項)。また、委員長及び副委員長は常勤であり、それ以 外の委員は非常勤である(L.461-2条)。
 規制対象の職種に関する事項について審議する場合、2名の規制職種担当委員(M(任期3年)が審議に参加する(L.462-4-1条及びL.462-4-2条)。  

イ 組織(L.461-1条からL.463-8条まで及びL.464-1条からL.464-9条まで)

(ア) 審査局

 競争委員会は、首席報告官を長とする審査局において、職権により、又は経済担当大臣等からの付託(4(1)参照)を受けて、反競争的行為(商法第4編第2章)及び企業結合規制(商法第4編第3章)の審査を行うとともに、諮問機関としての調査を行う(L.461-4条及びL.450-1条I項)。
 審査局においては、首席報告官の下に、次席報告官のほか、審査課、第1から第5までの報告官、企業結合審査課、チーフエコノミストチーム、デジタルエコノミー課、規制職種課等が置かれている。
 首席報告官は、競争委員会への諮問を経て、経済担当大臣により任命される(L.461-4条)。

(イ) 管理局

 管理局においては、局長の下に、手続課、人事課、財務課、情報システム課、文書課及びロジスティクス・テクノロジー・セキュリティ課が置かれている。 

(ウ) 聴聞官

 聴聞官は、競争委員会への諮問を経て、経済担当大臣により任命される(L.461-4条)。聴聞官は、裁判官の資格又は同等の独立性及び専門性を有し、必要に応じて、首席報告官による申立書の提出後、事件関係人及び付託者(4(1)参照)の意見を聴取した上で、これらの意見を評価し、必要に応じて事件関係人の権利行使に関する改善措置を提案する報告書を競争委員会委員長に送付する。

競争委員会組織図(PDF:55KB)

 
ウ 権限(L.462-1条からL.462-10条まで)

 競争委員会の権限は、①個別の事案について審査を行い、排除措置命令、制裁金賦課命令等を行う法執行機関的側面と、②議会、政府等から諮問を受けて意見を述べる諮問機関的側面とに大別される。
 ①の法執行機関的側面については、「4 執行手続」(1)~(3)において詳述する。
 ②の諮問機関的側面における競争委員会の機能は、次のとおりである。
・ 競争委員会は、議員提出法案及び競争に関するあらゆる事項について、議会の委員会から諮問を受けることができる(L.462-1条1パラグラフ)。
・ 競争委員会は、政府、地方公共団体、事業者団体等の要請に基づき、競争に関するあらゆる事項について意見を述べることができる(L.462-1条2パラグラフ)。
・ 政府は、(ⅰ)事業活動若しくは市場参入に関する量的な制限、(ⅱ)特定分野における排他的権利の創設、又は(ⅲ)価格若しくは販売条件について統一された慣行を強制することを、直接的な効果としてもたらす制度を新設する際には、競争 委員会に諮問しなければならない(L.462-2条)。
・ 競争委員会は、L.420-1条からL.420-2-2条まで、L.420-5条並びにEU機能条約第101条及び第102条に定義された反競争的行為について、裁判所から諮問を受けることができる(L.462-3条第1項)。
・ 競争委員会は、競争に関するあらゆる事項について、自発的に意見を述べることができる。また、経済担当大臣又は関係省庁の担当大臣に対して、市場の競争環境を改善するために必要な措置を実施するよう勧告することができる。(L.462-4条)

(2) 経済担当大臣

 経済担当大臣は、反競争的行為に関して、地域レベルの反競争的行為(※EU競争法に抵触せず、かつ国内売上高が一定額以下のもの)について排除措置命令等を行うことができる(L.464-9条)。また、競争制限行為等に関して、商事裁判所に訴訟を提起することができる(L.442-4条)ほか、企業結合規制に関して、競争委員会の第1次審査の決定後、詳細審査を要求することができる(L.430-7-1条I項)。

(3) その他の関係機関

ア パリ控訴院

 反競争的行為に対する競争委員会の排除措置命令、制裁金支払命令等の決定については、パリ控訴院に不服申立てをすることができる(L464-7条I項前段)。

イ 破毀院

 関係人、競争委員会委員長及び経済担当大臣は、反競争的行為に対するパリ控訴院の判決に不服がある場合には、破毀院(最高司法裁判所に相当)に上告することができる(L464-8条IV項及びV項)。

ウ 国務院

 企業結合に関する競争委員会及び経済担当大臣の決定に不服のある者は、国務院(最高行政裁判所に相当)に訴えを提起することができる(商法典規則第R.430-9条)。

エ 商事裁判所

 競争制限的行為について、経済担当大臣、競争委員会委員長及び正当な利益を有する私人は、民事裁判所又は商事裁判所に訴えを提起することができる(L.442-4条I項)。

オ 商事実務検討委員会

 商事実務検討委員会は、競争制限的行為について、広告業者、製造業者、納入業者及び再販売業者等の事業に係る諸事項に係る諮問的意見を述べ、又は勧告を行う(L.440-1条IV項及びV項)。

3 規制の概要

(1) 反競争的行為(L.420-1条からL.420-7条まで)

 商法典第4部第2編は、反競争的行為の規制について定めている。第2編で禁止される反競争的行為(反競争的協定、支配的地位の濫用、経済的従属状態の濫用及び生産者等による不当廉売)については、競争委員会による排除措置命令及び制裁金支払命令の対象となる(L.464-2条)。また、反競争的協定、支配的地位の濫用又は経済的従属状態の濫用の計画、組織又は実行において、個人で重要な役割を不正に担った自然人は、4年以下の禁錮及び7万5000ユーロ以下の罰金の対象となる(L.420-6条第1項)。競争委員会は、同条の規定を適用すべきと思料する場合、共和国検事に事案を移送する(L.462-6条II項)。  

ア 反競争的協定(L.420-1条)

 市場における競争を歪曲し、制限し若しくは妨害することを目的とし、又はかかる効果を有する共同行為、協定、明示若しくは暗黙の合意又は提携は、禁止される。また、海外の関連会社の直接的又は間接的な仲介を通した行為についても同様である。本条は、水平的及び垂直的協定等のいずれにも適用される。
 L.420-1条は、禁止される協定等の例として、次の事項を内容とするものを挙げている。

  •  他の事業者による市場参入又は市場における自由な競争活動を制限すること(L.420-1条1号)

  •  価格を人為的に引き上げ又は引き下げることにより、市場の自由な活動による価格の決定を妨害すること(L.420-1条2号)

  •  生産、販路、投資又は技術進歩を制限又は統制すること(L.420-1条3号)

  •  市場又は供給源を分割すること(L.420-1条4号)

イ 支配的地位の濫用(L.420-2条1パラグラフ)

 国内市場又はその実質的部分において支配的地位にある単独の企業又は企業グループがその支配的地位を濫用することは、それが市場における競争を歪曲し、制限し若しくは妨害することを目的とし、又はかかる効果を有する場合には、禁止される。
 L.420-2条は、支配的地位の濫用を構成し得る行為として、販売の拒絶、抱き合わせ販売、差別的販売条件、及び取引の相手方が不当な取引条件に従わないことのみを理由とする既存の取引関係の破棄を例示している。  

ウ 経済的従属状態の濫用(L.420-2条2パラグラフ)

 経済的従属状態は、市場における支配的地位とは異なり、事業者間の相対的な力関係に着目した概念である。単独の企業又は企業グループが、自らに対して経済的従属状態にある事業者に濫用行為を行う場合、それが競争の機能又は構造に影響を及ぼすおそれがあるときには、禁止される。
 L.420-2条は、経済的従属状態の濫用を構成し得る行為として、販売の拒絶、抱き合わせ販売、差別的行為等を例示している。

エ 違反行為に係る契約等の効果及び適用除外

 L.420-1条及びL.420-2条に基づき禁止される全ての契約、協定又は契約条項は、無効とされる(L.420-3条)。ただし、次の行為にはL.420-1条及びL.420-2条は適用されない(L.420-4条)。
① 法律又は法律の施行のために定められた規則に基づく行為(L.420-4条I項1号)
② 雇用の創出又は維持等の経済成長を確保する目的を達成するために必要不可欠であり、当該行為から生ずる利益の一部が利用者に公平に配分されることが確保され、かつ、関係企業が当該製品の実質的な部分について競争を排除し得るものではないことを行為者が証明し得るような行為(L.420-4条I項2号)
 
 また、次のとおり例外が既定されている。
③ 中堅・中小企業の経営改善を目的とする等の一部の種類の協定等は、競争委員会の同意後に定められる政令により認めることができる(L.420-4条II項)。
④ 経済的効率性があることを客観的根拠に基づき証明でき、かつ、その結果生じる利益を消費者に対して公正に配分することを確保する協定又は行為には、L.420-1条及びL.420-2条は適用されない(L.420-4条III項1パラグラフ)。
⑤ 新しいサービスの出現を促進する目的を持つ一部の種類の協定又は行為は、競争委員会の同意後の経済及び運輸担当大臣の共同命令により、5年を超えない期間で認められる可能性がある(L.420-4条III項2パラグラフ)。

 

オ 生産者・加工者による不当廉売(L.420-5条)

 生産、加工及び商品化に要する費用と比較して過度に低い消費者向け販売価格を提示し、又はそのような価格で販売する行為は、それが、
① 他の事業者又はその製品を市場から排除する目的を有する場合
② 他の事業者又はその製品の市場参入を妨げる目的を有する場合
③ ①又は②のような効果をもたらす可能性がある場合
のいずれかに該当する場合には、禁止される。
 L.420-5条の適用範囲は、商品の生産、加工又は商品化を行う者による価格の提示・適用であり、商品を加工せずに再販売する小売業者の原価割れ販売については、L.442-6条(後述(2)ウ)が適用されることになる。  

(2) 競争制限的行為等(L.440-1条からL.443-8条まで)

 商法典第4部第4編は、競争制限的行為及びその他の行為の禁止等について定めている。第4編で禁止される競争制限的行為のうち、原価割れ販売及び再販売価格の拘束については、刑事罰の対象となる(L.442-5-1条III項)。  

ア 差別的取扱い、取引関係の突然の打切り等(L.442-1条からL.442-4条まで)

 生産・流通又はサービス活動に従事する者が、取引の相手方に取引に関する義務及び権利の面で重大な不均衡を生じさせる義務を負わせる場合又は事前の通告文書なしに取引関係を打ち切るなどの行為を行った場合、オンライン仲介サービスを提供する者が、ビジネス・ユーザーのためのオンライン仲介サービスの公正性・透明性の促進に関する欧州議会及び欧州理事会規則(Regulation(EU)2019/1150)に規定された義務を遵守しない場合等には、その行為者は、当該行為により生じた損害を賠償する義務を負うとともに、一定額(500万ユーロ、不当に得た利益の額の3倍、当該行為が行われた会計年度の直近年度の税抜き国内売上高の5%のうちいずれか最も高い金額)を上限とする民事罰の対象となる。

イ 原価割れ販売(L.442-5条)

 いかなる小売業者も、商品をそのままの状態で販売するに当たり、自己の実際の購入価格(明細書に記載された単価から、売主により認められた割引を控除し、税金及び輸送費を加えた金額をいう。)を下回る価格で再販売し、又は再販売する旨告知する場合、7万5000ユーロ以下の罰金に処す(当該商品価格を広告に記載した場合、罰金を当該広告宣伝費の半額相当まで引き上げることができる。)。当該小売業者が、上記の原価割れ販売を行い、刑事罰を受けた場合には、当該法人に対する有罪判決が公示される。ただし、季節的性質が顕著な商品についてシーズン終了前に行われる原価割れ販売等に対しては、L.442-5条は適用されない。

ウ 再販売価格の拘束(L.442-6条)

 いかなる者も、商品若しくは財の再販売価格、役務の提供価格又は商業マージンについて、直接的又は間接的に最低水準額を強制した場合は、1万5000ユーロ以下の罰金に処す。

(3) 企業結合(L.430-1条からL.430-10条まで)

 商法典第4部第3編にいう「企業結合」とは、次のものをいう(L.430-1条I項及びII項)。
① 従来独立していた2以上の企業の合併
② 1以上の企業の支配を既に保有している1以上の自然人、又は1以上の企業による、資本参加、資産の買収、契約その他いかなる手段によるかを問わず、1以上の企業の全部又は一部の支配の、直接的な又は間接的な取得
③ 自立的経済主体としての全機能を有する長期継続的なジョイントベンチャーの設立
 なお、上記②の「支配」とは、「ある企業の活動に重要な影響を及ぼすことを可能にするような権利、契約その他の手段から生じるもの」とされ、例えば、企業の資産の一部又は全部に関する所有権又は使用権や、企業の構成、審議又は決定に重要な影響を与える権利又は契約が含まれる(L.430-1条III項。企業結合審査手続についての詳細は4(5)を参照)。  

4 執行手続

(1) 競争委員会による審査の着手(L.462-5条)

 競争委員会は、①職権により、又は②経済担当大臣、企業若しくは一定の団体(地方公共団体、事業者団体、消費者団体等)からの付託を受けて、L.420-1条からL.420-2-2条まで及びL.420-5条に定める反競争的行為の審査に着手する(L.462-5条)。

(2) 審査権限

 競争委員会の報告官及び経済担当大臣から授権された公務員(以下両者をまとめて「調査官」という。)は、次の審査権限を有する。

ア 通常の審査活動(L.450-3条)

① 事業上利用されているあらゆる施設又はサービスが提供されている施設に立ち入ること。
② 帳簿、明細書等の事業上の書類(媒体の如何を問わない。)の閲覧を要求し、それらを入手し、又は写しをとること。
③ 召喚して、又は(立入検査の)現場で、情報及び説明を求めること。
④ コンピュータのソフトウェア、保存されたデータ及び職務の遂行を容易にする可能性のある情報を暗号化せずに複製すること。また、管理目的のために直接利用可能な文書について、適切な処理により転写を要求すること。
  なお、調査官の要求に対する拒否は、2年以下の禁錮及び30万ユーロ以下の罰金に処される可能性がある(L.450-8条)。

イ 裁判官の許可に基づく審査活動(L.450-4条)

 裁判官は、経済担当大臣又は競争委員会首席報告官の請求に基づき、命令により、調査官による捜索及び差押えを許可することができる。

ウ 調書の作成(L.450-2条)

 審査を行った場合は、調書を作成しなければならない。調書の写しは、供述人に交付される。調書は、反証が提示されない限り、供述人が調書に記載された事実を認めたという事実の証拠となる。

(3) 反競争的行為に対する執行手続

ア 競争委員会による審査・決定に係る大まかな手続の流れは次のとおりである。

(ア) 関係人等に対する申立書の送付(L.463-2条)
 競争委員会による正式な審査手続は、首席報告官又は次席報告官から関係人及び政府委員(競争委員会担当の政府委員は、経済担当大臣によって選出される。(L.461-2条))に対する申立書の送付によって開始される。関係人及び政府委員は、事件書類を閲覧し、2か月以内に申立書に対する意見を提出することができる。

(イ) 報告書の送付

 上記(ア)の意見提出期間の経過後、報告官の見解の根拠となる資料及び関係人からの意見を付した報告書が、関係人、政府委員及び関係大臣に送付される。関係人は、2か月以内に、報告書に対する趣意書を提出する(L.463-2条)。
 なお、首席報告官は、申立書を関係人に送付した後、あらかじめ報告書を作成することなく、競争委員会によって事案の審査が行われることを決定することもできる(L.463-3条)。

 (ウ) 競争委員会による聴聞(L.463-7条)

 競争委員会は、関係人及び政府委員が出席する非公開の会議を開催する。関係人は、競争委員会による聴聞を要求し、代理人を出席させ、又は補佐人の補佐を受けることができる。
 競争委員会は、必要と考えるあらゆる者から聴聞を行うことができる。また、首席報告官、次席報告官又は政府委員は、会議において意見を述べることができる。

イ 競争委員会の決定

(ア) 排除措置命令 

 競争委員会は、関係人に対して、反競争的行為を一定期間内に取りやめるよう命じ、又は侵害に比例しかつ侵害を効果的に停止するために必要な構造的又は行動的是正措置を課すことができる(L.464-2条I項)。

(イ) 確約決定

 反競争的行為(L.420-1条からL.420-2-2まで及び L.420-5条)に該当する可能性のある行為を行う関係人が、競争委員会が指摘する懸念に合致する確約を申し出ており、当該確約が競争上の問題を十分に払拭し、それ以上の措置は必要ないと競争委員会がみなす場合には、競争委員会は、当該確約の履行を関係事業者に義務付けた上で事件審査の終結を決定することができる(L.464-2条I項)。
 なお、反競争的協定、既に経済に重大な損害を与えている支配的地位の濫用行為等の制裁金を課すことが必要とされる事案には、確約手続は適用されない(確約に関する告示(2009年3月)11項)。

(ウ) 制裁金支払命令

 競争委員会は、関係人が反競争的行為を行った場合又は排除措置命令若しくは確約の不履行があった場合には、関係人に対して、制裁金の支払を命ずることができる(L.464-2条I項)。制裁金の額は、行為の重大性、期間、行為者の状況及び再発の可能性を勘案して、事業者又は団体ごとに個別に決定される。
 制裁金の最高額は、違反行為が行われた営業年度以降の営業年度のうち、全世界における税抜き売上高が最も高い営業年度における当該売上高の10%である。
 関係人が送付された申立書の事実について争わない場合には、首席報告官は、制裁金の上限及び下限を示した和解案を提案することができる。また、首席報告官が定めた期限までに関係人はこれを受諾することができ、その場合には、首席報告官は、競争委員会に対して、和解案で定めた範囲内で制裁金を課すよう提案する(L.464-2条第3項)(和解手続)。 

(エ) リニエンシー・プログラムによる制裁金の減免
① リニエンシー・プログラムの根拠
・ L.464-2条4項
・ リニエンシー・プログラムの手続に係る告示(以下「告示」という。2006年4月11日策定・2015年4月3日改定)
 
② リニエンシー・プログラムの対象

 L.420-1条(反競争的協定)又はEU機能条約第101条違反が対象であり(告示10パラグラフ)、支配的地位の濫用、経済的従属状態の濫用、不当廉売は対象とならない。

③ リニエンシー・プログラムの適用条件

A 制裁金全額免除の適用条件
(A) 競争委員会が反競争的協定に関する情報を有していない場合(告示15パラグラフ)
 競争委員会は、次の両条件を満たす場合、反競争的協定の存在に関する情報及び証拠を競争委員会に最初に提供した事業者に対し、制裁金の全額免除を認める。
・ 競争委員会が、審査を自発的に実施する又はL.450-4条に基づき実施させるための十分な情報及び証拠をこれまで有していない。
・ 当該事業者がリニエンシー申請のために提供した情報及び証拠により、審査を行うことが可能であると競争委員会が判断する。
(B) 競争委員会が反競争的協定に関する情報を既に有している場合(告示17パラグラフ)
 競争委員会は、次の3条件が満たされる場合、制裁金の全額免除を認める。
・ 反競争的協定の存在を立証するのに十分であると競争委員会が判断する証拠を当該事業者が最初に提出した。
・ リニエンシー申請の時点で、競争委員会は反競争的協定の存在を立証する十分な証拠を有していなかった。
・ 当該反競争的協定に関して、上記(A)の全額免除の通知(注:リニエンシー申請後、首席報告官又は経済担当大臣の要請により、制裁金減免の条件を記載した通知が、競争委員会から申請者及び経済担当大臣に送付される。)を受けた事業者がいない。
B 制裁金減額の適用条件
 上記Aの条件に当たらない場合であって、競争委員会が保有する証拠への付加価値が十分ある証拠を提示した場合、制裁金の減額率は、最初に大きな付加価値のある証拠を提供した事業者については25~50%の範囲で、大きな付加価値のある証拠を2番目に提供した事業者については15~40%の範囲で、それ以降の事業者は25%までの範囲で、証拠の価値及び提供のタイミング(順位)を勘案してそれぞれ決定される(告示18パラグラフ、19パラグラフ及び21パラグラフ)。
 また、上記A及びBに共通の前提として、次の条件が満たされる必要がある(告示23パラグラフ及び24パラグラフ)。
a 事業者が、申請を提出した時点から審査等の過程を通じて、完全かつ継続的に競争委員会に対して迅速に協力すること。特に、(a)違反行為に関連する自らが所有する全ての情報及び証拠を遅滞なく競争委員会に提出すること、(b)リニエンシー手続の枠組みの中で事業者が競争委員会に開示し、リニエンシー通知の根拠となった事実関係、競争委員会が摘発した事実の重要性又は行為の存在について、手続終了までの間、競争委員会に対して疑義を呈さないこと、(c)事業者の現在の代表者及び従業員並びに可能であれば過去の代表者及び従業員が競争委員会による尋問に応じること、(d)当該反競争的協定に関連する情報又は証拠を破棄、改ざん又は隠ぺいしないこと、並びに(e)競争委員会が関係人に対して申立書を送付する前に、競争委員会の同意がない限り、リニエンシー申請の存在又は内容を開示しないこと
b 原則として、事業者が、違反行為への参加を遅滞なく取りやめていること
c 事業者が、他の事業者に対して、違反行為への参加を強要していないこと(※全額免除の対象とならないものの、減額の対象とはなり得る。)
d 事業者が、リニエンシー申請の事実及び内容について、他の競争当局を除き開示しないこと
(オ) 保全措置
 違反行為が、経済全体、関連分野の経済、消費者利益又は申告人に重大かつ急迫の侵害をもたらすものであるときは、競争委員会は、経済担当大臣、L.462条1項最終パラグラフに記載の者(地方公共団体、事業者団体等)若しくは事業者の要請により又は自らの判断で、関係人及び政府委員の意見を聴取した後、違反行為の停止、原状回復命令等を内容とする保全措置を命じることができる(L.464-1条)。
(カ) 命令・措置等の不遵守に対する履行強制金
 競争委員会は、排除措置命令、制裁金支払命令及び保全措置が遵守されない場合には、関係人に1日につき1日当たりの平均売上高の5%を超えない範囲の履行強制金を課すことができる(L.464-2条II項及びL.464-3条)。
(キ) 共和国検事への資料送付(刑事告発)
 L.420-6条は、反競争的協定、支配的地位の濫用及び経済的従属状態の濫用の計画、組織又は実行において、個人として重要な役割を不法に果たした自然人について、4年以下の禁錮及び7万5000ユーロ以下の罰金に処する旨定めている。また、2反競争的協定(L.420-1条)に関する違反行為を行った法人についても、7万5000ユーロ以下の罰金を科すことができる(Law No.2004-204 of 9 March 2004)。

ウ 競争委員会の決定に対する不服申立て

(ア) 排除措置命令等に対する不服申立て
 違反行為に対する排除措置命令及び制裁金支払命令等に係る競争委員会の決定の事件関係人(名宛人)及び経済担当大臣は、決定の通知から1か月以内に、当該決定の取消し又は修正の訴えをパリ控訴院に提起することができる(L.464-8条)。また、保全措置の命令に係る決定については、事件関係人及び政府委員は、決定の通知後10日以内に、パリ控訴院に当該決定の取消し又は修正の訴えを提起することができ、パリ控訴院は、当該訴えがなされてから1か月以内に判断を下す(L.464-7条)。
(イ) パリ控訴院の判決に対する不服申立て
 パリ控訴院の判決に不服のある者は、判決の通知から1か月以内に、破毀院に上告することができる(L.464-8条)。
 

(4) 競争制限的行為等に対するその他の執行手続等

 商法典第4部第4編に定める競争制限的行為等については、経済担当大臣、競争委員会委員長、検察官及び正当な利益を有する私人は、民事裁判所又は商事裁判所に訴えを提起することができる(L.442-4条I項)。請求の内容としては、行為の差止め、契約又は契約条項を無効とすること、不法に取得された利得の返還を命じること、損害賠償を命ずること及び500万ユーロ、不法利益の3倍額又は当該行為が行われた直前の会計年度の税抜き国内売上高の5%を超えない金額等の民事罰金の納付がある。
 そのほか、共和国検事への資料提供、私人間の訴訟等によって救済が図られることとなっている。
また、商事実務検討委員会は、競争制限的行為等について、広告業者、製造業者、納入業者及び再販売業者の事業上の関係にかかる諸事項について、民事又は商事裁判所に対して、諮問的意見を述べ、又は勧告を行う(L.440-1条IV項及びV項)。

 

(5) 企業結合の審査手続

ア 企業結合審査に係る大まかな手続の流れは次のとおりである。

イ 事前届出義務

 企業結合の当事者は、次の3要件を満たす場合、当該企業結合計画を競争委員会に届け出なければならない(L.430-2条I項)。
① 企業結合の全ての当事者の全世界における税込み売上高の合計額が1億5000万ユーロを超えていること
② 企業結合の当事者のうち少なくとも2者のフランス国内における税込み売上額が5000万ユーロを超えていること
③ 当該企業結合がEUの理事会規則第139/2004号(合併規則)の適用対象となるものでないこと
 企業結合の当事者は、企業結合の届出後、原則として競争委員会が企業結合の実施を承認するまでは、当該企業結合を実施してはならない(L.430-4条)。
 なお、届出に係る手数料は設けられていない。

ウ 競争委員会における審査(第1次審査)及び決定(L.430-5条)

(ア) 届出から決定までの流れ
 競争委員会は、届出を受理した日から原則として25営業日以内に、当該企業結合について決定を行う。
 企業結合の当事者は、競争委員会が決定を行う前に、企業結合の反競争的効果の改善等を目的とする問題解消措置の確約を申し出ることができる。
 競争委員会が当該確約の申出を受けた場合には、審査期間は15営業日延長される。
(イ) 決定の内容
 競争委員会は、次の決定を行うことができる。
① 当該企業結合が届出対象に該当しないことを認定する決定
② 当該企業結合の実施を承認する決定(当事者が申し出た確約の履行を承認の条件とする場合もある。)
③ 当該企業結合が競争を阻害する蓋然性が高いと思料される場合には、L.430-6条の規定による詳細審査を行う旨の決定
 競争委員会が定められた期間内に上記①ないし③の決定のいずれも行わなかった場合には、競争委員会はその旨を経済担当大臣に報告し、当該報告を受けてから5営業日が終了した時点で、当該企業結合は経済担当大臣により実施を承認する決定が行われたものとみなされる。

エ 競争委員会における詳細審査(第2次審査)(L.430-6条)

 競争委員会は、企業結合が、
① 特に、支配的地位の創出若しくは強化により、又は供給業者を経済的従属状態に置くこととなる購買力の創出若しくは強化により、競争を阻害する蓋然性があるか否かを検討する。
② 競争の阻害を補償するのに十分な程度に経済成長を促進させるものであるか否かを評価する。

オ 競争委員会の決定(詳細審査後)(L.430-7条)

(ア) 審査開始から決定までの流れ
 競争委員会は、詳細審査の開始日から65営業日以内に、決定を行う。詳細審査の開始を知った企業結合の当事者は、競争委員会が決定を行う前に、企業結合の反競争的効果の改善等を目的とする問題解消措置の確約を申し出ることができる。確約が上記期間終了の20営業日前より後に申出された場合、審査期間は、申出が受理された日から20営業日以内となる。
(イ) 決定の内容
a 競争委員会は、次の決定を行うことができる。
① 企業結合の実施を禁止する決定。場合によっては、競争を十分回復するために適切なあらゆる措置を採ることを命ずる決定
② 当事者に対して、十分な競争を確保するために適切なあらゆる措置を採るよう命じた上で、又は競争の阻害を補償するのに十分な程度に経済成長に寄与するような要件を遵守することを義務付けた上で、企業結合の実施を承認する決定
b 競争委員会が上記aの決定を行わない場合、競争委員会は、当該企業結合を承認する決定を行う。当該決定においては、当事者が申し出た確約の履行を承認の条件として付すことができる。
c 定められた期間内に上記a及びbのいずれの決定も行われなかった場合には、競争委員会はその旨を経済担当大臣に報告し、当該報告を受けてから5営業日が終了した時点で、当該企業結合は経済担当大臣により実施を承認する決定が行われたものとみなされる。

カ 経済担当大臣の決定(L.430-7-1条)

(ア) 第1次審査の段階で、競争委員会から決定の報告を受けた場合、経済担当大臣は、報告の受領日から5営業日以内に、競争委員会に対して詳細審査を行うことを要請することができる。
(イ) 詳細審査の段階で、競争委員会から決定の報告を受けた場合、経済担当大臣は、報告の受領日から25営業日以内に、競争の維持以外の公益的理由(産業の発展、国際競争に対する当該企業の競争力又は雇用の創出若しくは維持)により、場合によっては当該企業結合による競争の阻害の補償を条件として、決定を行うことができる。経済担当大臣はこの決定を遅滞なく、競争委員会に伝達する。

キ 届出義務の懈怠、決定前の企業結合の実施等に対する制裁金(L.430-8条)

①届出が行われずに企業結合が実施され、原状回復しなかった場合、②特例措置を除き届出後決定前に企業結合が実施された場合、③届出に不備がある場合及び④定められた期限までに競争委員会又は経済担当大臣の決定に記載された命令、指示又は確約を実行しなかった場合には、競争委員会は、次の額を上限額とする制裁金を課すことができる。
・ 事業者:直近の事業年度の税抜き国内総売上高の5%
・ 自然人:150万ユーロ  

ク 競争委員会又は経済担当大臣の決定に対する不服申立て

 企業結合に関する競争委員会の第1次審査の決定(L.430-5条)及び競争委員会及び経済担当大臣の詳細審査の決定(L.430-7条及びL.430-7-1条)に不服のある者は、国務院に訴えを提起し、その決定の全部又は一部の取消しを求めることが(商法典規則R.430-9条)。

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