ドイツ(Germany)

(2022年2月現在)

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1 根拠法

 ドイツの独占禁止法は,競争制限禁止法(1957年7月27日公布,1958年1月1日施行。以下,特段の記載が無い限り,条番号は競争制限禁止法のものを意味する。)である。同法は,1965年,1973年,1976年,1980年,1989年,1998年,2005年,2007年,2013年,2017年及び2021年に改正が行われている。
 

2 執行機関

 競争制限禁止法の施行機関は,連邦カルテル庁,連邦経済エネルギー省(第一局)及び州カルテル官庁の三つである(第48条第1項。連邦カルテル庁の組織については別紙組織図参照。)。また,経済力集中の状況を調査する機関として独占委員会がある。

(1)連邦カルテル庁

 連邦カルテル庁は,連邦経済エネルギー大臣の所轄に属するものの,独立の連邦上級官庁としてボンに置かれている(第51条第1項)。
 連邦カルテル庁は,基本的に,競争制限禁止法の違反事案のうち,競争制限の影響・効果が州をまたいで及ぶ事案を所管し,これ以外の事案は後記(3)の州カルテル官庁の所管となる(第48条第2項)。ただし,企業結合規制については,連邦カルテル庁の専管事項である。
 連邦カルテル庁は,違反行為が存在するときは,自ら審査を行い,必要な措置及び制裁金処分を命じることができる。当該措置及び制裁金処分に不服がある者は,デュッセルドルフ高等裁判所に提訴することができる(後記4(3)を参照)。
 連邦カルテル庁の決定は,決定部において審理長と2名の審理官により行われる。決定部は,現在,12部あり,各決定部は,審理長,審理官,事務補助職員から構成される。審理長及び審理官は,裁判官又は高等行政官の資格を有する者とされている。

(2)連邦経済エネルギー省

 連邦経済エネルギー大臣は,企業結合の大臣許可(第42条第1項。後記3(4)オ参照)の権限を有する。ただし,連邦カルテル庁が禁止した企業結合案件を連邦経済エネルギー大臣が許可する場合には,同案件に関して後記(4)の独占委員会の意見を求めなければならない(第42条第5項)。
 連邦経済エネルギー大臣は,競争制限禁止法の運用(決定の発出の有無)について,一般的な指示を連邦カルテル庁に対して行うことができ,この指示は全て官報に公告される(第52条)。また,この指示は連邦カルテル庁の公表する年次報告にも記載される(第53条第1項)。
 連邦経済エネルギー省での競争政策担当組織は,主に第一局B1課(一般政策)及びB2課(競争政策・消費者政策)であり,競争制限禁止法の企画立案は同課が担当している。

(3)各州カルテル官庁(在各州)

 州カルテル官庁は,連邦カルテル庁及び連邦経済エネルギー大臣が所管しない事案について,州法に基づき執行する権限を有する。州カルテル官庁は,連邦カルテル庁との間で,手続の開始及び調査の実施について,相互に通知する義務を負い,管轄に従って,相互に事案を移管することとなっている(第49条第1項及び第2項)。

(4)独占委員会

 独占委員会は,1973年の競争制限禁止法第2次改正で企業結合規制を導入したのと同時に,独立した協議委員会として設立された。
 独占委員会は,経済,経営,社会政策,科学技術又は商法の知識・経験を有する5名の委員から成り,委員長は委員の中から互選される。委員(任期4年)は,連邦政府の提示に基づき連邦大統領が任命する(第45条)。
 独占委員会の役割は,政府に対して競争政策,競争法及び政府規制に関する分野の助言を行うことであり,行政処分の権限は有していない。具体的には,独占委員会は,企業集中の状況,競争法の規定の適用を評価し企業結合規制の運用,その他の競争政策上の問題について調査を行い,報告書を作成・公表する。
 独占委員会が作成する報告書には,2年ごとに作成される定期報告書と適当と認める場合に作成される特別報告書があり,これらの報告書は連邦政府に提出される。定期報告書については,連邦政府は遅滞なく議会に送付するとともに,相当の期間内に当該報告書に対する見解を議会に対して表明しなければならない(第44条)。

(5)裁判所

ア 連邦通常裁判所(最高裁判所に相当)

 連邦通常裁判所は,競争制限禁止法上の訴訟に関する唯一の上告審である。

イ 州高等裁判所(在各州)

 連邦カルテル庁の個別事案に対する最終決定に対する訴訟(第一審)については,デュッセルドルフ高等裁判所が管轄する。
 州カルテル官庁の個別事案に対する最終決定に対する訴訟(第一審)については,各州カルテル官庁の所在地を管轄する州高等裁判所が管轄する。

ウ 州地方裁判所

 競争制限禁止法に係る民事訴訟事件の訴訟(第一審)については,州地方裁判所が管轄する。

3 規制の概要

(1)カルテル等

 事業者間の協定,事業者団体の決議及び相互協調的行為は,競争の阻害,制限,若しくは歪曲を目的とする場合又はそれをもたらす場合に禁止される(第1条)。

(2)市場支配的地位の濫用及び競争制限的行為

ア 市場支配的地位の濫用

(ア)市場支配的地位の濫用の禁止
 単独又は複数の事業者による市場支配的地位の濫用は禁止される(第19条第1項)。

(イ)市場支配的地位
 単独の事業者が一定の種類の商品又は役務の供給者又は需要者として,次のいずれかに該当する場合には,市場支配的地位にあるとされる(第18条第1項)。
 ① 競争者が存在しない場合
 ② 実質的に競争に直面していない場合
 ③ 競争者との関係で,市場において卓越した地位を有している場合
 また,複数の事業者が,一定の種類の商品又は役務について,複数の事業者の間で実質的な競争が存在せず,かつ,それらが全体として前記①ないし③のいずれかの要件を満たす場合は,当該複数の事業者は市場支配的地位にあるとされる(第18条第5項)。

(ウ)「卓越した地位」(上記(イ)③)の考慮要素
 競争者との関係で,事業者が市場においてどのような地位を有しているかを評価するに当たっては,特に以下の要素を考慮する(第18条第3項各号)。
 ① 当該事業者の市場シェア
 ② 当該事業者の財務力
 ③ 競争に関連するデータへのアクセスの程度
 ④ 当該事業者の購入市場又は販売市場へのアクセスの程度
 ⑤ 他の事業者との結び付き
 ⑥ 他の事業者による市場への参入に対する法的又は事実上の障壁
 ⑦ 本法の適用領域の内外に所在する事業者による現実の競争又は潜在的な競争
 ⑧ 供給又は需要を他の商品又は役務に変更する能力
 ⑨ 取引の相手方を他の事業者に変更する可能性

(エ)多面市場における「卓越した地位」(上記(イ)③)の考慮要素
 特に多面市場及びネットワークで,事業者が市場においてどのような地位を有しているかを評価するに当たっては,特に以下の要素を考慮する(第18条第3a項各号)。
 ① 直接及び間接ネットワーク効果
 ② ユーザーによる複数のサービスの併用状況及び他のサービスへの変更の可能性
 ③ ネットワーク効果に関連する規模の経済
 ④ 競争に関連するデータへのアクセスの程度
 ⑤ イノベーションによる競争圧力
 また,多面市場における仲介事業者の市場支配的地位を評価する際には,購入市場及び販売市場へのアクセスを提供する仲介サービスの重要性も考慮に入れる必要がある(第18条第3b項)。

(オ)市場支配的地位の推定規定
 単独の事業者が40%以上の市場シェアを有している場合は,その事業者は市場支配的地位にあると推定される(第18条第4項)。
 また,事業者団体が次のいずれかに該当する場合には,全体として市場支配的地位にあると推定される(第18条第6項)。
 ① 3以下の事業者で構成され,構成事業者の合計の市場シェアが50%に達する場合
 ② 5以下の事業者で構成され,構成事業者の合計の市場シェアが3分の2に達する場合
 ただし,当該構成事業者間の競争状況が実質的に競争的であることが見込まれること,又は当該事業者団体が,他の競争相手との関係において,卓越した地位を有していないことを当該構成事業者が証明するときは,前記推定を覆すことができる(第18条第7項)。

(カ)濫用行為
 単独のあるいは複数の事業者による市場支配的地位の濫用行為は禁止される(第19条第1項)。特に,市場支配的地位にある事業者が,一定の種類の商品又は役務の供給者又は需要者として,以下に該当する行為を行った場合は,濫用行為とみなされる(第19条第2項)。
 ① 直接的若しくは間接的に不当に他の事業者を妨害する又は客観的に正当な事由無く,直接的若しくは間接的に他の事業者に対し当該他の事業者以外の事業者と異なる取扱いをする行為
 ② 効果的な競争が存在すれば,高度の蓋然性をもって形成されるであろう水準を逸脱した対価又はその他の取引条件を要求する行為
 ③ 市場支配的地位にある事業者が,比較市場(対象市場に近似する仮定の市場)において自らが同種の取引先に要求しているものより不利で,その差別が客観的に正当化されない対価又はその他の取引条件を要求する行為
 ④ 法的又は事実上の理由から共同利用が認められなければ,他の事業者が市場支配的地位にある事業者の競争者として,その前後の取引段階において活動できない場合において,適切な対価によりデータ,ネットワーク又は他の不可欠施設を当該他の事業者が利用することを拒否する行為。ただし,市場支配的地位にある事業者が,経営上の理由又は他の理由により,共同利用が不可能であるか又は期待できないことを証明する場合は,この限りでない。
 ⑤ 客観的に正当な事由無く,他の事業者に対して自らに利益を与えるように要請する行為

イ デジタル市場における「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」に係る規制(第19a条)

 連邦カルテル庁は,第18条第3a項に規定する考慮要素(前記ア(エ)参照)に照らして,事業者が「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」に該当する旨の決定を行う。当該決定の効力は,最長5年間継続する(第19a条第1項)。
 「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」の該当性の判断に当たっては,以下の要素を考慮するものとする(第19a条第1項各号)。
 ① 単一又は複数の市場における支配的な地位
 ② 財政力又は他のリソースへのアクセスの程度
 ③ 垂直統合又は他の方法により相互に接続された市場における活動
 ④ 第三者が購入市場及び販売市場にアクセスする上での当該事業者の事業活動の関連性及び第三者の事業活動への影響の大きさ
 連邦カルテル庁は,当該決定を受けた事業者(以下「特定事業者」という。)に対して,以下の行為を禁止することができる。ただし,以下の行為が客観的に正当化される場合にはこの限りではないが,特定事業者にその立証責任がある(第19a条第2項)。
 ① 購入市場及び販売市場へのアクセスを提供する際,競合他社よりも自社サービスを優先的に取り扱うこと。特に,
  a 表示上,自社のサービス提供を他社のサービス提供よりも優先的に取り扱うこと。
  b 事前に自社サービスのみを端末にプリインストールし,又はその他のあらゆる方法で自社の他の提供サービスと統合して提供すること。
 ② 他社が購入市場及び販売市場へアクセスするために,特定事業者の事業活動が必須であることを利用して,当該他社の事業活動を妨害すること。特に,
  a 排他的なプリインストール又は特定事業者が提供する他のサービスとの統合につながる方法を採ること。
  b 特定事業者が提供するアクセス以外の方法により,他社が広告を通じて消費者にアプローチすることを妨げ,又は困難にすること。
 ③ 特定事業者がまだ市場支配的地位を確立していないとしても,その地位を急速に拡大できる市場において,競合他社に対して直接的又は間接的に不公平な取扱い又は妨害行為を実施すること。特に,
  a 特定事業者のサービスと,当該サービスの利用に必要ではない他のサービスとを自動的に利用することとなるように組み合わせ,当該他のサービスの利用に関して,利用者に十分な選択肢を与えないこと。
  b 特定事業者のサービスの利用を,特定事業者の他のサービスの利用に依存させること。
  なお,これらの行為は,競争を顕著に減少させるものである必要はない。
 ④ 特定事業者が収集した,競争に関連するデータを処理することで,他の市場への参入障壁を設定若しくは顕著に増加させること,その他の方法で他社を阻害すること,又はそのような処理を可能にする条件を設定すること。特に,
  a データ処理の有無,目的及び方法に関して,利用者に十分な選択肢を与えることなく,特定事業者又は第三者の他のサービスにおいて得られた処理をすることに利用者が同意することを,サービス利用の条件とすること。
  b 他社から受け取った競争に関連するデータを,自社サービスを当該他社に提供するために必要な目的以外で,データ処理の有無,目的及び方法に関する十分な選択肢を当該他社に与えることなく処理すること。
 ⑤ 製品やサービスの相互運用性,データポータビリティを妨げ,結果として競争を阻害すること。
 ⑥ 提供又は委託されたサービスの範囲,品質又は成否について,他社に十分な情報を提供しないこと,又はその他の理由により当該他社が当該サービスの価値を評価することを困難にすること。
 ⑦ 他社からの申出を取り扱うために,要求の理由とは不釣り合いな対価を要求すること。特に,
  a 申出に対応するに際して,全く必要ではないデータ又は権利の移転を要求すること。
  b 申出に対応するに際して,合理的に必要とされないデータ又は権利の移転を条件として,申出が提示する品質に対応すること。

ウ 相対的又は優越的に市場支配力を有する事業者に対する規制

(ア)他の事業者が,特定の種類の商品若しくは役務の供給者又は需要者として,取引先を変更する十分かつ合理的な可能性が無い程度までに事業者又は事業者団体に依存している場合及び他の事業者の拮抗力に明らかな不均衡が存在する場合(当該事業者又は事業者団体が相対的に市場支配力を有する場合),当該事業者又は事業者団体が,直接的若しくは間接的に不当に他の事業者を妨害する又は客観的に正当な事由無く,直接的若しくは間接的に他の事業者に対して当該他の事業者以外の事業者と異なる取扱いをすることは禁止される(第20条第1項)。
 また,第19条第1項及び第2項第1号を併せて適用すると,他の事業者が購入市場及び販売市場へのアクセスにおいて仲介サービスに依存しており,他のサービスへと変更する十分かつ合理的な可能性が無い場合には,多面的な市場で仲介事業者として事業活動を行う事業者に対しても適用される(第20条第1項)。
 なお,特定の種類の商品又は役務の供給者が,ある需要者に対して,割引慣行や他の報酬に加え,同等の需要者には与えない特別な利益を定期的に与えている場合,その供給者はそのある需要者に依存していると推定される(第20条第1項)。
 また,第20条第1項における依存は,事業者が自らの事業活動を遂行するために,他の事業者が管理するデータへのアクセスに依存していることからも生じる可能性がある。事業者が,十分な見返りを申し出ているにもかかわらず,当該データへのアクセスを拒否することは,不当な妨害となるおそれがある(第20条第1a項)。

(イ)事業者又は事業者団体が,当該事業者又は事業者団体に依存している事業者に対して,客観的に正当な事由無く,自らに利益を与えるように要請する行為は禁止される(第20条第2項)。

(ウ)中小規模の競争者に優越的な市場支配力を有する事業者が,それらの競争者を直接的又は間接的に不当に妨害するためにその市場支配力を行使してはならない。特に,当該事業者が,以下に該当する行為を行った場合は,不当な妨害行為とみなされる。
 ① 食料品を,原価を下回る価格で販売する場合(第20条第3項第1号)。
 ② その他の商品又は役務を,単に一時的でなく原価を下回る価格で販売する場合(第20条第3項第2号)。
 ③ 商品やサービスの流通において,川下市場で自己と競争する中小事業者に対して,当該商品やサービスの卸売をする際,自己が川下市場において設定する小売価格よりも高い価格を求める場合(第20条第3項第3号)。
 ただし,これらの行為が客観的に正当化される場合は,この限りでない(第20条第3項)。タイムセールにより店舗で食品が悪化することや売れなくなることを避けるのに適している場合や,それと同等に差し迫った場合における,食品の原価割れ販売は正当化される。  
 また,慈善団体に対して,その団体の責任において食品を使うことを目的に,食品を寄付することは,不当な妨害には当たらない(第20条第3項)。
 さらに,多面市場・ネットワークにおいて優越的な市場支配力を有する事業者が,競合他社が独立してネットワーク効果を達成することを妨げ,それによって業績競争が少なくない程度に制限されるという重大なリスクが生じる場合にも,第20条第3項の意味での不当な妨害とみなされる(第20条第3a項)。

(エ)事業者団体は,事業者に対して,自己への加入を拒否することが客観的に不当に不利な取扱いとなり,その事業者を不当に競争上不利な立場におく場合には,その加入を拒否してはならない(第20条第5項)。

エ ボイコットの禁止,他の競争制限的行為の禁止

(ア)事業者及び事業者団体は,特定の事業者を不当に妨害する意図で,他の事業者又は事業者団体に供給拒絶又は購入拒絶させてはならない(第21条第1項)。
(イ)事業者及び事業者団体は,本法における禁止行為をさせるために,他の事業者に対して不利益を与えると脅かし若しくは不利益を与え,又は,利益を供与することを約束し若しくは利益を供与してはならない(第21条第2項)。
(ウ)事業者及び事業者団体は,他の事業者に対して次に掲げる行為を強制してはならない(第21条第3項)。
 ① 第2条,第3条又は第28条第1項に定める適用除外カルテルに参加すること
 ② 他の事業者と,第37条に定められた結合を行うこと
 ③ 競争を制限する意図で,市場において同調的に行動すること
(エ)連邦カルテル庁による措置を要求又は提案したことを理由にして,その者に経済的不利益を課してはならない(第21条第4項)。

(3)適用除外

ア 包括的適用除外

 事業者間の協定,事業者団体の決議及び相互同調的行為であっても,消費者に対してその結果として生ずる利益の適切な分配を行うものであり,また,商品の生産・販売の改良又は技術的若しくは経済的進歩に寄与し,①関係事業者に対して前記目的の実現に必要ではない制限を課していない場合かつ②関連する商品の相当な部分が競争から除外される可能性が生じない場合は,第1条の規制(カルテルの禁止)の適用から除外される(第2条第1項)。
 また,事業者間で共同事業を行うことにより経済活動を合理化することを目的とした,競争関係にある事業者間の協定及び事業者団体の決議であって,①その市場における競争が実質的に阻害されることがなく,かつ,②中小事業者の競争能力を改善することに寄与する場合は第2条第1項の要件を満たす(第3条)。

イ 特定の経済分野に関する特則及び適用除外

(ア)エネルギー分野に関する特則
 電力又はパイプラインによるガスの供給を行う(公益事業者)であって,単独で又は他の事業者と共同して,市場支配的地位にある事業者が,
 ① 客観的に正当化できる証拠を示すことなく,他の公益事業者や類似市場における事業者と比べ,不利な料金又はその他の取引条件を求める行為,又は
 ② 原価を不当に超える料金を求める行為
 を行うことで,その地位を濫用することは禁止される(第29条)。

(イ)農業分野に関する適用除外
 農業分野における生産者間の協定又は生産者団体若しくはその生産者団体の連合会の協定及び決議については,それらが再販売価格を維持するものではなく,競争を排除するものではない場合,第1条の規制(カルテルの禁止)の適用から除外される(第28条)。

(ウ)出版業に関する適用除外
 事業者がその新聞又は雑誌の購入者に対し,一定の再販売価格を要求し,又は最終消費者への再販売に至るまでこれらの購入者に対し同様の義務を課すよう,法律的又は経済的手段により拘束することによる垂直的再販売価格維持は,第1条の規制(カルテルの禁止)の適用から除外される(第30条)。
 なお,書籍については,2002年に成立した書籍再販法により,再販売価格の拘束が義務付けられている。

(4)企業結合

ア 企業結合規制の適用範囲

 企業結合規制に関する規定は,企業結合以前の前年の事業年度において,以下の2条件を全て満たす場合に適用される(第35条)。
(ア)全当事会社の全世界売上高の合計が5億ユーロ以上
(イ)少なくとも1以上の当事会社の国内売上高が5000万ユーロ以上であり,他の1以上の当事会社の国内売上高が1750万ユーロ以上
 また,前記(ア)の条件を満たす場合において,以下の条件を全て満たすときにも適用される。
(a)少なくとも1当事会社の前事業年度の国内売上高が5000万ユーロ以上であるが,もう1以上の当事者の売上高が1750万ユーロに達していない場合
(b)被買収企業の価格(反対給付の価値)が4億ユーロ以上の場合
(c)被買収企業がドイツ国内の相当な地理的範囲において事業活動をしている場合

イ 禁止される場合

 合併,株式・資産の取得等の結合により,効果的な競争が著しく損なわれる場合,特に市場支配的地位を確立し,又は強化する場合には,当該結合は連邦カルテル庁によって禁止される。ただし,当該結合により競争の状況が改善され,その改善が競争の阻害よりも大きいことを当事会社が証明した場合等を除く(第36条第1項)。

ウ 結合の定義

 結合とは,次のものをいう(第37条第1項)。
(ア)他の事業者の資産の全部又は重要部分の取得
(イ)単一又は複数の事業者による,単一又は複数の他の事業者の全部又は一部に対する直接的又は間接的な支配の獲得
(ウ)他の事業者の持分の取得であって,当該持分取得によって又は既にその事業者に属する持分と合わせて,当該他の事業者の資本又は議決権の50%又は25%に達する場合
(エ)単一又は複数の事業者が,直接的又は間接的に他の事業者に対して競争上重要な影響を及ぼし得る,その他のあらゆる事業者の結び付き

エ 企業結合規制の手続

 企業結合規制の対象となる結合計画は,事前に,連邦カルテル庁に届け出なければならない(第39条第1項)。また,2021年改正により,第35条の届出基準を満たしていない結合計画であっても,以下の①から③までの条件を全て満たし(第39a条第1項),以下④及び⑤のとおりドイツ国内市場における有効な競争が著しく損なわれる可能性の高い結合計画については,連邦カルテル庁の判断で届出命令を出すことができる(第39a条第2項)。
 ① 買収企業の前事業年度の全世界の売上高の合計が5億ユーロ以上(第39a条第1項第1号)
 ② 当該結合により,ドイツ国内市場における有効な競争が著しく損なわれるとする合理的な兆候があること(第39a条第1項第2号)
 ③ 買収企業のドイツ国内での関連市場における商品又は役務の需要又は供給のシェアが,少なくとも15%を占めていること(第39a条第1項第3号)
 ④ 被買収企業の全世界の売上高が200万ユーロ以上で,かつ,そのうち3分の2以上がドイツ国内における売上であること(第39a条第2項)
 ⑤ 連邦カルテル庁が,既に関連市場の一つにおける調査を十分に行っていること(第39a条第3項)
 連邦カルテル庁は,届出者に対して,届出受理後1か月以内に重点審査を開始する旨を通知した場合にのみ当該結合を禁止することができる(第40条第1項)。重点審査の手続において,連邦カルテル庁は,結合の禁止又は承認を決定する。承認には条件を付すことができる。届出後5か月以内に連邦カルテル庁からの決定が送達されない場合には,当該結合は承認されたとみなされる(第40条第2項)。

オ 連邦経済技術大臣による許可

 個別の企業結合事案に関し,結合によって経済全体にもたらされる利益が競争制限よりも大きい場合又は結合が顕著な公共の利益により正当化される場合には,連邦経済エネルギー大臣は,申請に基づいて,連邦カルテル庁によって禁止された結合を許可することができる。この場合,この法律の適用領域外にある市場における参加事業者の競争力をも考慮しなければならない。連邦経済エネルギー大臣は,競争制限の程度が市場経済秩序を脅かすものでない場合に限り,許可を与えることができる(第42条第1項)。
 許可には,制限及び条件を付すことができる。ただし,これにより,参加事業者に対して長期的な行動規制を行ってはならない。また,第42条の規定に基づく許可は,参加事業者が付された条件に違反した場合又は虚偽の届出が行われた場合は,撤回することができる(同条第2項)。
 連邦経済エネルギー大臣は,許可するか否かを決定する前に,独占委員会に意見を求めなければならず,また,当事会社が所在する州政府に意見表明の機会を与えなければならない(同条第5項)。

4 法執行手続

 連邦カルテル庁の法執行手続には,行政手続法及び競争制限禁止法に基づく行政手続(Verwaltungsverfahren)並びに秩序違反法に基づく制裁金手続(Bußgeldverfahren)の二つがある。行政手続の目的は,制裁金の賦課ではなく,競争状態の早期回復のために違反行為の終結を命ずることにあり,制裁金手続の目的は,違反行為に対して制裁金を賦課することによって,違反行為を予防及び抑止し,利益を剥奪する点にある。連邦カルテル庁の運用では,市場支配的地位の濫用行為に対しては行政手続が採られることが多く,また,カルテル行為に対しては競争に与える影響が深刻であるとして制裁金手続が採られる。ただし,市場支配的地位の濫用行為であっても,累犯や,侵害の度合いが大きい場合は制裁金手続が採られるとしている。

(1)行政手続

ア 調査権限

 行政手続において,連邦カルテル庁は,必要な全ての調査を行い,証拠を収集することができる(第57条第1項)。そのために,具体的には以下の調査権限が与えられている。
(ア)報告徴収権(第59条)
(イ)事業者等の営業所での帳簿書類の閲覧・検査権(第59a条)
 ※ 事業者の代表者等は,要求された帳簿書類を提出し,これらの帳簿書類の検査,営業所への立入りを容認しなければならず(第59a条第2項),これらを拒んだ場合は秩序違反法違反となり,制裁金の対象となる。
(ウ)連邦カルテル庁が所在する地方裁判所の裁判官が発行する令状に基づく捜索権(第59b条)
 ※ 緊急を要する場合は,営業時間内であれば,裁判官の命令無しに捜索を行うことができる(第59b条第2項)。
(エ) 押収権(第58条)

イ 聴聞手続,文書閲覧

(ア)連邦カルテル庁は,関係人に対して聴聞の機会を与えなければならず,職権によりその形式を決定する。特別な事情により必要がある場合には,口頭での意見陳述を求めることができる(第56条第1項)。
(イ)関係人は,自己の法的利益を主張又は防御するために,文書に含まれる情報を知ることが必要である限りにおいて,競争当局における手続に関する文書を閲覧する権利を持つ(第56条第3項)。連邦カルテル庁は,当事者及び第三者に対し,通知,陳述書,文書その他の情報を提出する際又は提出後に秘密情報を特定し,当該秘密情報を文書に適宜表示するよう求めることができる(第56条第6項)。
(ウ)連邦カルテル庁は,申立て又は職権により,聴聞会を開催することができる(第56条第7項)。
 聴聞手続について具体的に規定している規則はないが,実務上,連邦カルテル庁の決定部は,禁止決定の前に,決定に係る理由,根拠及びその他の情報が含まれる「警告書」を関係人に送付している。関係人は,警告書を受け,全ての関係事実及び法律上の問題について自らの意見を述べる。

ウ 連邦カルテル庁による主な決定

 連邦カルテル庁の決定は,決定部において審理長及び2名の審理官により行われる。
(ア)競争制限禁止法又はEU機能条約第101条若しくは第102条違反行為の排除措置命令(第32条第1項)
(イ)(ア)に関連して,違反行為の効果的な排除のため必要であり,かつ,立証された違反行為に相応した全ての排除措置命令(第32条第2項)
(ウ)重大かつ,再び回復することができない競争に対する損害が存在する,緊急を要する案件における暫定措置命令(第32a条)
(エ)事業者が競争上の懸念を排除するために適切な義務を受け入れることを確約した場合,当該確約が,事業者を拘束するものとする決定(第32b条)
(オ)行為の不問の決定(第32c条)
(カ)適用除外の撤回(第32d条)
(キ)経済分野及び特定の種類の協定に関する調査(第32e条)
(ク)不当利得の返還命令(ただし,違反事業者が損害賠償や制裁金の支払い等を行っている場合は除く。)(第34条)

(2)制裁金手続

 制裁金手続において,連邦カルテル庁は,検察官に準じた調査権限を有し,カルテル等の秩序違反行為に対して制裁金を課すことができる。

ア 秩序違反行為

  秩序違反行為とは,「法律違反の構成要件を満たす,違法かつ非難に値する行為」とされており,このような行為に対しては制裁金が課される(秩序違反法第1条)。競争制限禁止法では,故意又は過失により次の行為を行った者は,秩序違反を行ったものとされる(第81条)。
(ア)EU機能条約第101条第1項,第102条違反(第81条第1項)
(イ)競争制限禁止法上の禁止規定の違反(第81条第2項第1号)
 ① カルテル(第1条)
 ② 市場支配的地位の濫用(第19条第1項)
 ③ 不当な差別・不当妨害(第20条第1項)
 ④ 中小事業者の競争者に優越的な市場支配力を有する事業者による不当な妨害(原価割れ販売)(第20条第3項)
 ⑤ 事業者団体等による不当な加入拒絶(第20条第5項)
 ⑥ 他事業者への違反行為の強制(第21条第3項)
 ⑦ 申告者に対して不利益を与える行為(第21条第4項)
 ⑧ エネルギー分野における市場支配的地位にある事業者による差別対価又は差別的取扱い(第29条第1号)
 ⑨ 待機期間満了前の結合の実行(第41条第1項)
(ウ)当局による執行可能な命令に対する違反(第81条第2項第2号)
(エ)企業結合承認又は大臣許可に付加された条件に対する違反(第81条第2項第5号)
(オ)ボイコット等を行わせるための利益・不利益の付与(第81条第3項)
(カ)企業結合規制に際しての市場データの提供拒否(第81条第2項第2号b)
(キ)企業結合の事前届出の懈怠(第81条第2項第3号)
(ク)結合実行届出の懈怠(第81条第2項第4号)
(ケ)行政手続において要求された説明の拒否等(第81条第2項第6号)
 

イ 調査権限

 制裁金手続において,連邦カルテル庁は,秩序違反法第46条第2項に基づき,訴追行政庁として,犯罪行為の訴追の際の検察官に代わり,検察官と同じ権限と義務を有する。したがって,例えば,連邦カルテル庁は全ての官庁に報告を求め,かつ,自ら調査を行う,又は警察署・警察官にこれを行わせることができる(刑事訴訟法第161条第1文)。警察署・警察官は,連邦カルテル庁の嘱託又は請求に応じる義務を負う(刑事訴訟法第161条第2文)。連邦カルテル庁は,証人及び鑑定人を召喚することができる。証人及び鑑定人は,出頭し,事実について供述する,又は鑑定を行う義務がある(刑事訴訟法第161a条)。
 真実の供述を得るためのより強い手段として,裁判官による捜査行為があり,連邦カルテル庁は,例えば,裁判官による証人の尋問を地方裁判所に申請できる(刑事訴訟法第162条)。裁判官の面前で連邦カルテル庁,被疑者,弁護人が出席して行われる証人尋問での偽証行為には罰則(3か月以上5年以下の自由刑)が科せられる(刑法第153条)。また,連邦カルテル庁は,被疑者を召喚することができる(刑事訴訟法第163a条第3項)。
 連邦カルテル庁は,事業所や役員私宅等を捜索し,関係書類を押収することができる。ただし,緊急を要する場合を除き,あらかじめ地方裁判所裁判官の令状を得ることを要する(刑事訴訟法第98条及び第105条)。
 連邦カルテル庁は,制裁金手続において,上記(1)の行政手続の調査権限も行使できる。

ウ 聴聞手続

 制裁金手続における聴聞の機会については,刑事訴訟法の規定(第163a条第1項)が準用され,関係人には遅くとも調査が終了する前までに自己の意見を述べる機会が与えられる。

エ 秩序違反に対する制裁金決定

(ア)制裁金の算定

 競争制限禁止法に関する秩序違反に対しては,企業結合届出の懈怠等の一部の行為を除き,100万ユーロ又は直近の事業年度における事業者若しくは事業者団体の全世界売上高の10%のいずれか高い額を上限とする制裁金が課される(第81c条第1項及び第2項)。制裁金額の算定の際には,違反行為の重大性とともに,その期間も考慮される(第81d条第1項)。
 事業者が,事前に競争制限法違反行為を察知し,防止するための十分かつ効果的なコンプライアンスプログラムを構築していた場合には,連邦カルテル庁は,制裁金の算定に際して当該事情を考慮する(第81d条第1項)。
 制裁金は第81c条,第81d条等の規定により算定されるところ,特に秩序違反として問題となる事業者に係るカルテル事案について,連邦カルテル庁は,制裁金算定のガイドライン(2013年6月制定・2021年10月改正)を公表し,同ガイドラインに基づき制裁金を算定している。制裁金は,法定の上限及び下限が定められており,算定の手順は「基本額の算定」の後に,「基本額の調整」を行うこととなっており,大要以下のとおり行われる。

a 法定の上限及び下限
 ・上限:事業者の直近の事業年度の全売上高の10%。この金額が100万ユーロ未満の場合,制裁金の上限は100万ユーロ
 ・下限:5ユーロ

b 基本額の算定
 基本額は,直近の事業年度の全売上高による事業者の売上規模に応じた割合に基づき,決定される。

c 基本額の調整
 違反行為に対応した制裁金を適用するために,以下の事情を総合的に考慮して,基本額の加算又は減算を行う。

 ① 違反行為の性質と規模(特に違反行為に直接的又は間接的に関連する売上高の金額)
 ② 違反行為の影響を受ける製品及びサービスの関連性
 ③ 違反行為の態様
 ④ 違反行為者の過去の違反歴,違反を防止・発見するための予防措置
 ⑤ 違反行為の発見及び被害救済のための違反行為者の取組,違反行為後にとられた予防措置

(イ) リニエンシー制度による制裁金の減免

 連邦カルテル庁は,第81h条から第81n条までの規定並びにカルテル事件における制裁金の免除及び減額に係る連邦カルテル庁告示(14/2021号。以下「カルテル庁告示」という。)に基づき,制裁金の免除及び減額を行っている。リニエンシーは,カルテル(特に,価格又は販売数量の決定,市場分割についての取決め及び入札談合)への参加者(自然人,事業者及び事業者団体。以下「カルテル参加者」という。)に適用される。

a 制裁金の免除が認められる要件(第81j条及び第81k条並びにカルテル庁告示第5段落及び第6段落)
 審査開始前の情報提供の場合,連邦カルテル庁が,捜索令状を取得できる十分な証拠を有していない時点で,連邦カルテル庁が捜索令状を取得し得る情報と証拠を最初に提供したカルテル参加者について,制裁金の免除が認められる。
 審査開始後の情報提供の場合,連邦カルテル庁が,捜索令状を取得した後であっても違反行為を立証するのに十分な証拠を有しておらず,かつ,どのカルテル参加者にも制裁金の免除が認められていない時点で,連邦カルテル庁が違反行為を立証できるような情報及び証拠を最初に提供したカルテル参加者について,制裁金の免除が認められる。
 なお,全額免除の資格を得るためには,①カルテル参加者が,唯一のカルテル先導者ではない,又は他の者にカルテル参加を強要していないこと,かつ,②カルテル参加者が,連邦カルテル庁に継続的かつ全面的な協力をする,という要件を満たされなければならない。  

b 制裁金の減額が認められる要件(第81j条及び第81l条並びにカルテル庁告示第8段落及び第9段落)
 連邦カルテル庁は,前記aの制裁金免除の要件を満たしていないカルテル参加者が,違反行為の立証に実質的に貢献する情報及び証拠を提出する場合,かつ,カルテル参加者が,連邦カルテル庁に継続的かつ全面的な協力をする場合,制裁金を50%まで減額することができる。減額の程度は,取り分け,事実解明への貢献度及び申請の順位による。

c 協力義務(第81j条及びカルテル庁告示第12段落)
 リニエンシーの申請者は,手続の全期間中,連邦カルテル庁に継続的かつ全面的に協力する義務に加え,以下の義務を負う。
 ① 申請者は,カルテルに関する情報と参加状況を連邦カルテル庁に開示すること。
 ② 申請者は,連邦カルテル庁による要請に基づき,カルテルへの参加を遅滞なく取りやめること。
 ③ 申請者は,申請後も,あらゆる入手可能な情報及び証拠を連邦カルテル庁に提出すること。
 ④ 申請者は,制裁金決定に関連する質問を含む,事実確認のためのあらゆる質問に答えること。
 ⑤ 申請者は,経営幹部及び従業員が質問に応えることを保証すること及び退職者が質問に応えるよう努めること。
 ⑥ 申請者は,カルテルに関する情報及び証拠を破壊,改ざん及び隠蔽しないこと。
 ⑦ 申請者は,連邦カルテル庁が守秘義務を解除するまで,連邦カルテル庁への協力を,秘密にしておくこと。
 ⑧ 申請者は,手続期間中,情報及び証拠を破壊,改ざん及び隠蔽してはならず,リニエンシーを申請していること及び申請内容を秘密にしておくこと。

(ウ) 同意による審査手続の終結(和解手続)

 関係人の同意によって審査手続を終結すること,いわゆる和解手続(settlement)により,制裁金額が追加的に最大で10%減額されることが認められている。この和解手続を行うためには,関係人が,連邦カルテル庁によって立証された事実を認めることを宣言することが必要となる。この手続によって,連邦カルテル庁は短期間で制裁金を賦課する決定を下すことができ,事件を終結させることができる。

(3)司法審査(不服申立て)

 連邦カルテル庁により処分を受けた当事者は,デュッセルドルフ高等裁判所に取消訴訟を提起できる(行政手続に基づく措置については第63条及び第66条,制裁金処分については第83条及び秩序違反法の規定)。制裁金処分に関する司法手続において,連邦カルテル庁は,検察官と同等の権利を有する(第82a条第1項)。
 また,高裁判決に不服のある者は,法律上の問題に限って,連邦通常裁判所(最高裁判所に相当)に上告できる(行政手続に基づく措置については第74条第1項,制裁金処分については第84条)。
 なお,例外として,連邦カルテル庁が第19a条の規定に基づき決定を発出した場合,当該決定に係る取消訴訟は,連邦通常裁判所が第一審かつ終審裁判所となる(第73条5項)。

5 損害賠償,差止請求

 違反行為によって損害を受けた者は,損害賠償を請求する(第33a条第1項),又は違反行為の差止めを請求することができるほか(第33条第2項),事業者団体も差止請求を行うことができる(第33条第4項(1))。
 また,違反行為により獲得された利得の剥奪権限が競争当局に与えられており(第34条),事業者団体もまた,競争当局に代わって,利得剥奪請求を行うことができる(第34a条)。

6 競争当局間の協力

(1)欧州競争ネットワーク(EU加盟国の競争当局と欧州委員会により構成される組織)における調査

 連邦カルテル庁は,欧州連合の機能に関する条約(以下「EU機能条約」という。)第101条又は第102条の執行に関する手続に関連して,EUの他の加盟国の競争当局に代わって,また当該競争当局のために,かつ,ドイツの法律に従って,事業者又は事業者団体が,申請当局(applicant authority)の調査又は決定に関する義務を遵守していないかどうかを確認するために,調査及びその他の事実確認を行うことができる(第50a条第1項)。また,連邦カルテル庁は,EUの他の加盟国の競争当局に対して,第50a条第1項に基づく調査を要請することができる(第50a条第2項)。
 

(2)欧州競争ネットワークにおける文書送達

 連邦カルテル庁は,EUの他の加盟国の競争当局から要請があった場合,当該競争当局に代わって,ドイツに本拠を置く事業者又は事業者団体に対して,以下の文書を送達する(第50b条第1項)。
 ア EU機能条約第101条又は第102条の違反の疑いに対する予備的異議申立て
 イ EU機能条約第101条又は第102条の適用の決定
 ウ EU機能条約第101条又は第102条の執行に関する手続に関連して採択されたその他の手続的行為であって,国内法の規定に従って送達されるべきもの
 エ 制裁金又は履行強制金の執行を含む,EU機能条約第101条又は第102条の適用に関するその他の文書
 

(3)欧州競争ネットワークにおける執行

 連邦カルテル庁は,EUの他の加盟国の競争当局から要請があった場合,EU機能条約第101条又は第102条の適用に関する手続において,制裁金又は履行強制金を賦課する決定を執行する(第50c条第1項)。
 

(4)欧州競争ネットワークにおける情報交換

 連邦カルテル庁は,理事会規則1/2003号第12条第1項に従い,EU機能条約第101条及び第102条を適用する目的で,EU及びEUの他の加盟国の競争当局に,機密情報(特に営業秘密を含む事実上又は法律上の問題)を通知し,対応する文書及びデータを転送することができ,また,これらの競争当局に対して機密情報の転送を要求し,当該情報を証拠として受領し,使用することができる。(第50d条第1項)。
 

(5)その他の海外競争当局との協力

 連邦カルテル庁は,競争法の規定を適用する目的で,欧州委員会又は海外の競争当局と協力する場合にも,第50d条第1項に基づく情報交換を行う権限を有する(第50e条第1項)。
 

(6)他の当局との協力

 競争当局,規制当局,データ保護及び情報の自由のための連邦委員会及びデータ保護のための州委員会並びにEU消費者保護施行法第2条における管轄当局は,手続の種類にかかわらず,それぞれの職務を遂行する目的で必要な範囲内で,個人情報,企業及び事業の秘密を含む情報を交換し,それらの情報を手続の中で使用することができる(第50f条第1項)。

 

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