インドネシア(Indonesia)

(2022年6月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

(1) 競争法制の名称

 独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法1999年第5号(Law of the Republic of Indonesia Number 5 Year 1999 Concerning the Prohibition of Monopolistic Practices and Unfair Business Competition、以下「競争法」といい、特に記載がない限り、条文番号等は競争法の条文等を指す。)。

(2) 競争法の制定経緯

 1999年3月に制定・公布され、1年半の施行準備期間の後、2000年9月から施行されている。ASEAN諸国の中で最も歴史のある競争法の一つである。

(3) 競争法の構成

第1章(第1条)総則
第2章(第2条~第3条)原則及び目的
第3章(第4条~第16条)禁止される協定
第4章(第17条~第24条)禁止される活動
第5章(第25条~第29条)市場支配的地位
第6章(第30条~第37条)事業競争監視委員会
第7章(第38条~第46条)事件処理手続
第8章(第47条~第49条)制裁措置
第9章(第50条~第51条)雑則(適用除外規定)
第10章(第52条)経過規定
第11章(第53条)附則

2 執行機関

 競争法の執行機関は、事業競争監視委員会(英語名Indonesia Competition Commission(略称ICC)、インドネシア語名Komisi Pengawas Persaingan Usaha(略称KPPU)。以下「委員会」という。)である(第30条第1項)。委員会は、政府及び第三者の影響・監督を受けない独立機関であり(第30条第2項)、大統領に対して責任を負う(第30条第3項)。委員会の組織構成、任務及び所掌事務については、大統領令により定められることとされ(第34条第1項)、委員会の任務の継続的実施のために事務局が設置される(第34条第2項)ほか、作業部会を設置することができる(第34条第3項)。事務局及び作業部会の組織構成、任務及び所掌事務については、委員会の決定により定められる(第34条第4項)。

(1) 委員会の任務及び権限

ア 任務(第35条)

① 第4条から第16条までに定める独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を評価すること
② 第17条から第24条までに定める独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある事業活動又は事業者の行為を評価すること
③ 第25条から第28条までに定める独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある支配的地位の濫用の有無を評価すること
④ 第36条に定める委員会の権限に従って事務を遂行すること
⑤ 独占的行為又は不公正な事業競争に係る政府の政策について助言及び意見を提供すること
⑥ 競争法に係るガイドライン又は告示を立案すること
⑦ 委員会の活動結果について、大統領及び国会に対して定期的に報告すること

イ 権限(第36条)

① 独占的行為又は不公正な事業競争が存在する疑いに関する申立てを一般又は事業者から受領すること
② 独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある事業活動又は事業者の行為の存在の疑いについて調査を実施すること
③ 市民若しくは事業者から申立てを受けて、又は委員会が自ら探知して、独占的行為又は不公正な事業競争の疑いについて、調査又は審問を実施すること
④ 独占的行為や不公正な事業競争が存在するか否かに関する調査又は審問を行った結果に基づいて決定を下すこと
⑤ 競争法の規定に違反した疑いのある事業者に出頭を命じること
⑥ 参考人、鑑定人及び競争法の規定に違反する事実を知っていると思われる者に出頭を命じること
⑦ 委員会の出頭命令に応じて出頭する準備ができていない、事業者、参考人、鑑定人又は前記⑤若しくは⑥に該当する者を出頭させることについて、審査官に対して協力を求めること
⑧ 競争法の規定に違反した事業者に対する調査又は審問に関連して政府機関に陳述を要請すること
⑨ 調査又は審問の目的で文書その他の証拠を入手、調査、評価すること
⑩ 他の事業者又は社会に対する損失の有無を認定すること
⑪ 独占的行為又は不公正な事業競争を行ったとされる事業者に対して、委員会の決定を通知すること
⑫ 競争法の規定に違反した事業者に対して行政上の措置を課すこと

(2) 委員の任免等

 委員会は、委員長1名及び副委員長1名を含む7名以上の委員から構成される(第31条第1項)。委員は、国会の承認に基づき、大統領によって任命及び罷免され(第31条第2項)、委員長及び副委員長は委員の中から互選される。委員の任期は原則5年とされ、一度のみ再任されることができる(第31条第3項)。委員の任期満了により委員の不在が生じる場合には、新委員の任命まで現職委員の任期を延長することができる(第31条第4項)。
 委員となる者は、任命時において30歳以上60歳以下のインドネシア国民であり、インドネシア国内に居住し、実業界での経験又は法学若しくは経済学の分野における専門的知見を有し、特定の事業体に所属していないこと等が条件となる(第32条)。
 委員の地位は死亡、辞任、インドネシア国外への転居、身体的若しくは精神的な継続的疾患、任期満了又は罷免により終了する(競争法第33条)。

3 規制の概要

(1) 禁止される協定

ア 寡占

 事業者が、他の事業者との間で、商品又は役務の生産又は販売を共同で支配し、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第4条第1項)。また、2若しくは3の事業者又は単独の事業者グループが、特定の商品又は役務に関し市場占有率の75%以上を有している場合には、当該事業者又は事業者グループは、前項にいう、生産又は販売を共同して支配しているとみなされる又はその合理的な疑いがあるとされる(第4条第2項)。

イ 価格拘束

(ア) 事業者が、競争者との間で、同一関連市場において消費者又は顧客が支払う特定の商品又は役務の価格を決定する協定を締結することは禁止される(第5条第1項)。ただし、合弁事業として締結する協定又は別の法律に基づいて締結する協定についてはこの限りでない(第5条第2項)。
(イ) 事業者が、同一の商品又は役務について、特定の購入者に対し、他の購入者と異なる価格で購入させる協定を締結することは禁止される(第6条)。
(ウ) 事業者が、競争者との間で、市場価格を下回る価格を決定し、不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第7条)。
(エ) 事業者が、他の事業者との間で、商品又は役務を受領した事業者が、当該商品又は役務について、協定により定めた価格を下回る価格で販売又は再販売しないように条件を定め、不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第8条)。

ウ 市場分割

 事業者が、競争者との間で、商品又は役務の販売地域の分割又は市場割当てを目的として、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第9条)。

エ ボイコット

 事業者が、競争者との間で、他の事業者が国内又は国外市場において同一の事業を行うことを妨害するおそれがある協定を締結することは禁止される(第10条第1項)。
 事業者が、競争者との間で、他の事業者が提供する商品又は役務の販売を拒絶する協定を締結することは、下記の場合に禁止される(第10条第2項)。
①他の事業者に損失を与える又はそのおそれがある場合
②他の事業者の当該市場における販売又は購入を制限する場合

オ カルテル

 事業者が、競争者との間で、特定の商品又は役務の生産又は販売を調整することにより、価格に影響を与えることを意図し、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第11条)。

カ トラスト

 事業者が、他の事業者との間で、商品又は役務の生産又は販売を支配することを意図して、個々の会社若しくはその構成員を存続させ、合弁会社若しくはより大規模な企業を設立することによって協力し、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第12条)。

キ 買手寡占

 事業者が、他の事業者との間で、関連市場における商品又は役務の価格を支配するために、それらの購入又は取得を共同して支配することを意図して、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第13条第1項)。また、2若しくは3の事業者又は単独の事業者グループが、特定の商品又は役務に関し市場占有率の75%以上を有している場合には、当該事業者は、前記の禁止規定において、購入又は取得を共同して支配しているとみなされる又は合理的な疑いがあるとされる(第13条第2項)。

ク 垂直的統合

 事業者が、他の事業者との間で、特定の商品又は役務の、直接又は間接の生産工程に含まれている複数の製品の生産を支配することを目的として、不公正な事業競争又は社会に損失を引き起こすおそれがある協定を締結することは禁止される(第14条)。

ケ 排他的協定

(ア) 事業者が、他の事業者との間で、商品又は役務を受領した事業者が、特定の相手方又は特定の地域に対してのみに当該商品又は役務を再販売すること、又は再販売しないことを条件とする協定を締結することは禁止される(第15条第1項)。
(イ) 事業者が、他の者との間で、特定の商品又は役務を受領した事業者が、それを供給する事業者から、当該商品又は役務以外の商品又は役務についても購入しなければならないことを条件とする協定を締結することは禁止される(第15条第2項)。
(ウ) 事業者が、商品又は役務の価格又は値引きに係る下記のいずれかの行為を規定する協定を締結することは禁止される。
・  供給事業者から商品又は役務を受領した事業者が、当該供給事業者のその他の商品又は役務を購入しなければならないこと(第15条第3項第a号)
・  供給事業者から商品又は役務を受領した事業者が、当該供給事業者の競争者から同様又は類似の商品又は役務を購入しないこと(第15条第3項第b号)

コ 外国事業者との協定

 事業者が、外国に所在する者との間で、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある内容を含む協定を締結することは禁止される(第16条)。

(2) 禁止行為

ア 独占

 事業者が、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある商品又は役務の生産又は販売を支配することは禁止される(第17条第1項)。また、下記のいずれかに該当する場合には、前記の支配をしているとみなされる又は合理的な疑いがあるとされる(第17条第2項)。
(ア) 当該商品又は役務の代替品が存在しない場合
(イ) 他の事業者が、同一商品又は役務の事業競争に新規に参入できない場合
(ウ) 単独の事業者又は事業者グループが、特定の商品又は役務に係る市場占有率の50%以上を有している場合

イ 購入独占

 事業者が、関連市場における商品又は役務について、その購入を支配し、又は唯一の購入者として活動することにより、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある行為を行うことは禁止される(第18条第1項)。また、2若しくは3の事業者又は単独の事業者グループが、特定の商品又は役務に関し市場占有率の50%以上を有している場合には、当該事業者は、前項にいう、購入を支配し、又は唯一の購入者として活動しているとみなされる又はその合理的な疑いがあるとされる(第18条第2項)。

ウ 市場支配

 事業者が、単独で又は他の事業者と共同して、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある、下記のいずれか又は複数の行為を行うことは禁止される。
(ア) 関連市場において、特定の他の事業者が同一の事業を行うことを拒絶し又は阻害すること(第19条第a号)
(イ) 競争者の消費者又は顧客に対し、競争者との取引関係を持つことを阻害すること(第19条第b号)
(ウ) 関連市場における商品又は役務の流通又は販売を制限すること(第19条第c号)
(エ) 特定の事業者に対して差別的行為をすること(第19条第d号)
 また、事業者が、競争者の事業を排除又は毀損することを目的として、費用を下回る価格又は著しく低い価格により商品又は役務を提供し、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすおそれがある行為を行うことは禁止される(第20条)。さらに、事業者が、商品又は役務の価格を構成する生産費用又はその他費用を決定するに当たって不公正な行為を行い、不公正な事業競争を引き起こすおそれがある行為を行うことは禁止される(第21条)。

エ 共謀

 事業者が、他の者との間で、不公正な事業競争を引き起こすおそれがある下記の共謀行為を行うことは禁止される。
(ア) 入札の受注予定者を決定すること(第22条)
(イ) 競争者の営業秘密に該当する情報を入手すること(第23条)
(ウ) 競争者の商品又は役務の生産又は販売について、当該商品又は役務の関連市場への供給において必要とされる量、質又は適時性を低下させる目的をもって、妨害すること(第24条)

(3) 支配的地位の濫用

 事業者が、直接又は間接に、下記の行為により支配的な地位を行使することは禁止される(第25条第1項)。

ア 競合する商品又は役務を消費者が購入することを妨害する目的で、価格又は品質に関する取引条件を決定すること
イ 市場及び技術の進展を制限すること
ウ 他の潜在的な事業者による関連市場への参入を阻害すること
  また、下記のいずれかに該当する場合、事業者は、前記の支配的地位を有するものとされる(第25条第2項)。
ア 単独の事業者又は事業者グループが、特定の商品又は役務に関し市場占有率の50%以上を有している場合
イ 2若しくは3の事業者又は単独の事業者グループが、特定の商品又は役務に関し市場占有率の75%以上を有している場合

(4) 企業結合規制

ア 役職の兼任

 会社の取締役又は理事の役職にある者は、下記のいずれかに該当する他の会社の取締役又は理事の地位の兼任により、独占的行為又は不公正な事業競争を生じさせることとなる場合は、当該兼任が禁止される(第26条)。
(ア) 同一関連市場にある会社
(イ) 事業活動の分野又は類型において密接な関連性を有している会社
(ウ) 特定の商品又は役務に係る市場を共同して支配することが可能となる会社

イ 株式所有

 事業者が、同一関連市場において同一分野の事業活動を行う複数の会社の株式の過半を保有し、又は同一関連市場において同種の事業活動を行う複数の会社を設立することは、下記の場合に禁止される(第27条)。
(ア) 単独の事業者又は事業者グループが、特定の商品又は役務に係る50%以上の市場占有率を有することとなる場合
(イ) 2若しくは3の事業者又は単独の事業者グループが、特定の商品又は役務に係る75%の市場占有率を有することとなる場合

ウ 合併等

 事業者が、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる他の事業体との合併若しくは結合又は他の会社の株式取得を行うことは禁止される(第28条第1項、第2項)。

(5) 適用除外

 下記のいずれかに該当する場合には、競争法の適用が除外される(第50条)。

ア 現行の法令の規定を実施するための協定及び行為
イ 知的財産権及びフランチャイズ契約に係る協定
ウ 競争を制限又は阻害しない商品又は役務の標準技術化に関する協定
エ 再販売価格維持を条件としない代理店契約
オ 広く生活水準の向上を目的とする共同研究に関する協定
カ インドネシア政府が締結する国際協定
キ 国内市場の需要又は供給を阻害しない輸出に係る契約及び行為
ク 小規模事業に分類される分野の事業者
ケ 組合員に対する便宜の供与のみを目的とする協同組合の活動

4 法執行手続

(1) 違反被疑行為に対する事件審査手続

ア 申立て・職権探知

 競争法違反被疑行為に関する事件処理手続は、一般からの申立て(第38条)又は委員会の職権探知(第40条)により開始される。
競争法違反の発生を知った者又は当該違反行為の発生についての合理的な疑いを有する者は、委員会に対して、自ら及び報告対象者の身元、違反に関する明確な説明、並びに違反行為を証明する手段を示した書面により、当該違反行為の発生を申立てることが可能であり(2019年委員会規則第1号(以下「2019年規則第1号」という。)第3条)、また、委員会は前記の申立てがない場合であっても違反行為の有無について事業者を調査することができる(2019年規則第1号第10条)。申立て又は 職権探知により、競争法違反被疑行為を裏付ける証拠が少なくとも1つ以上存在するなどの要件が確認された場合には、当該事案は審査官による審査手続(Pre-investigation)に進められる(2019年規則第1号第15条)。

イ 審査

 前記アに基づく審査手続は最大で60日間実施され、その期間は必要に応じて延長される(2019年規則第1号第16条)。同審査手続において、対象事業者等に対する調査、関連資料の収集・分析が行われる(2019年規則第1号第17条)。
審査の結果、競争法違反の証明・分析が行われているなどの要件を満たすことが確認された場合には、当該事件は審問手続に移行する(2019年委員会規則第1号第27条)。

ウ 審問手続

 審問手続は、3名以上の委員により構成される委員会パネル(Commission Panel)により行われる。審問手続は、予備手続(最大30日間)及び正式手続(最大60日。必要に応じてさらに30日間の延長が可能)から構成される(2019年規則第1号第30条及び第43条)。予備手続においては、審査官が違反被疑行為に関する報告書の読み上げを行い、対象事業者には反論のための証拠を提出する機会が与えられる(2019年規則第1号第32条)。また、予備手続においては、①是正措置を講じること(下記エ参照)、②正式手続を行うこと又は③委員会決定(下記オ参照)を行うための審議に進むことのいずれかの結論が出される(2019年規則第1号第38条)。

エ 是正措置

 審問手続においては、当該審問手続の対象とされた違反行為の類型、当該行為の実行期間及び当該行為によって生じた損害を考慮した上で、当該行為者に対し、是正措置(behavior change)が講じられ得る(2019年規則第1号第33条)。是正措置に関し、当該事業者は、少なくとも以下の陳述等を含む「是正措置に係る規範協定書」(Behavior Change Integrity Pact)を作成した上で(2019年規則第1号第34条)、同協定書の内容が承認された場合には最大60日間、委員会によってその実施の監視を受ける(2019年規則第1号第35条)。
(ア) 委員会よる違反の主張を承認し、受け入れること
(イ) 今後違反行為を行わないこと
(ウ) 是正措置の実施を報告すること
(エ) 事業者の署名

オ 委員会決定

 委員会は、競争法違反行為の有無について、前記ウの審問手続の終了から30日以内に決定しなければならない(第43条第3項)。委員会の決定は、公開の場において発表され、違反行為に関係する事業者に直ちに通知されなければならない(第43条第4項)。当該事業者は、当該通知を受け取ってから30日以内に、当該決定に基づく措置を採り、当該措置について委員会に報告しなければならない(第44条第1項)。

カ 異議申立てに係る手続

 違反行為に関係する事業者は、競争法違反行為の有無に関する決定の通知を受領してから14日以内に、商事裁判所に対して異議申立てをすることができる(第44条第2項)。当該事業者は、当該期間中に前記の異議申立てをしなかった場合、委員会の決定を受諾したものとみなされる(第44条第3項)。
 前記の異議申立てを受けた商事裁判所は、事業者によって提起された異議申立てについて、当該異議申立てを受理してから14日以内に審理を行わなければならず(第45条第1項)、また、審理は最短で3か月、最長で12か月以内の期間で実施される(2021年インドネシア共和国政令第44号(以下「2021年政令第44号」という。)第19条第3項)。商事裁判所の判決に対して異議のある当事者は、当該決定から14日以内に最高裁判所に対して上告することができる(第45条第3項)。

(2) 企業結合審査制度

ア 事前相談

 合併、統合、株式取得等(以下まとめて「企業結合」という。)を行おうとする事業者であって、当該企業結合による資産又は売上高の合計額が届出基準を超える場合は、委員会に対して当該企業結合について、事前に書面により相談することが可能であり、書面で相談を行う場合は、委員会が求める書式及び補助資料を提出する必要がある(2010年インドネシア共和国政令第57号(以下「2010年政令第57号」という。)第10条)。また、委員会は、前記事前相談に関し、提出を受けた書式及び書面に基づき評価し、その評価に基づき、前記書面を受理してから90日以内に、書面により助言、指導又は意見を提供しなければならないが、当該評価は当該企業結合に対する法的な承認又は禁止をしたものではなく、また、企業結合後に委員会が当該企業結合を評価する権利を排除するものではない(2010年政令第57号第11条)。

イ 事後届出

(ア) 届出対象
 企業結合後の総資産額2兆5000億ルピア又は総売上額5兆ルピアを超える企業結合(全ての当事者が銀行である場合には総資産額が20兆ルピアを超えるもののみ)については、当該企業結合の効力発生日から30日以内に、委員会に事後届出を行わなければならない(第29条、2010年政令第57号第5条)。また、資産譲渡についても、対象資産の支配・所有の移転が生じる場合又は資産を取得する事業者により市場支配力が強まる場合は、株式取得と同様に扱われ、事後届出が必要となる(2019年委員会規則第3号第5条)。
 外国事業者であっても、当事会社の1社以上がインドネシア国内で事業活動を行っていること、届出基準を満たしていること、支配関係の変化が生じること、インドネシアの国内市場に影響を与えることといった条件を全て満たす場合は届出が必要となる(企業結合の評価のためのガイドライン(Guidelines for the Assessment of Mergers, Consolidations, or Acquisitions、以下「企業結合ガイドライン」という。)3.4.)
同一企業グループ内の企業結合については、届出不要とされる(2010年政令第57号第7条)。事業者が既に前記アの事前相談を行っていた場合であっても、事後届出が必要とされる。
 委員会の判断又は下記の基準に該当する企業結合の当事会社の要求に基づき、競争上の問題がない又は重大な競争の減殺が生じない場合は、簡易評価手続が適用可能となり、14日以内に手続が終了する(企業結合ガイドライン第7章)。
a 同様の事業活動を行っていないこと
b 垂直関係にある事業活動を行っていないこと
c 同様の事業活動を行っているが、以下の基準に該当する場合
 ① ハーフィンダール・ハーシュマン指数(以下「HHI」という。)が1500以下であること
 ② HHIが1500以上2500以下で増加分が250以下であること
 ③ HHIが2500以上で増加分が150以下であること
d 垂直関係にある事業活動を行っているが、それぞれの事業におけるHHIが1500以下であること
e 抱き合わせやネットワーク効果を引き起こす可能性のある行為を行う潜在的な能力を有していないこと
f 企業結合の効力発生日から30日以内に届出が行われること
g 従前に共同で他の事業者を支配していた事業者の1社が単独で支配するようになること
(イ) 評価
 委員会は、企業結合に関する届出が行われてから60日以内に届出書類や追加書類の確認を行い(企業結合ガイドライン3.2.4)、その後90日以内に当該企業結合における競争法第28条違反の有無について評価を行う(2010年第57号政令第9条)。当該評価の結果は、①独占的行為若しくは不公正な事業競争の疑いがないとの認定、②独占的行為若しくは不公正な事業競争の疑いがあるとの認定又は③独占的行為若しくは不公正な事業競争の疑いがあるが条件付きで承認のいずれかとなる(企業結合ガイドライン5.1.2)。
(ウ) 届出義務違反
 当事会社が前記(1)の届出を行わなかった場合、事業者は1日当たりの遅延に対して10億ルピア、最大で250億ルピアの行政制裁金の対象となる(2010年政令第57号第6条)。

5 行政上の措置

(1) 行政上の措置の類型

 委員会は、競争法の違反行為者に対して、下記の行政上の措置を採ることができる(第47条)。
ア 第4条から第13条まで、第15条及び第16条に係る協定を取り消すこと
イ 第14条に規定される垂直的統合を取りやめるよう命じること
ウ 第17条から第24条まで、第26条及び第27条に規定された独占的行為を形成する、不公正な事業競争を引き起こす又は社会に対して損害を及ぼすと判断された事業行為を取りやめるよう命じること
エ 第25条に規定される支配的地位の濫用を取り止めるよう命じること
オ 第28条に規定される合併、結合又は株式の取得の取消しなどを命じること
カ 損害が生じた者に対して補償すること
キ 10億ルピア以上の行政制裁金を賦課すること

(2) 行政制裁金

 前記(1)キの行政制裁金は、下記の要素を考慮して(2021年政令第44号第14条、第15条及び第16条)、違反行為期間の関連市場における①純利益の最大50%又は②売上高の最大10%のいずれかを基に算出される(2021年政令第44号第12条第1項)。
ア 違反行為によって引き起こされた悪影響
イ 違反行為の期間
ウ 減算事由(①事業者が法令遵守活動を実施していること、②事業者が審査開始時点で自主的に違反行為を取り止めていること、③事業者がこれまでに同様の違反行為に関与していないこと、④事業者が故意に違反行為を行っていないこと、⑤事業者が違反行為を主導していないこと及び⑥違反行為の競争への影響が重大でないこと)
エ 加算事由(①過去8年間に同様の違反行為を行っていたこと及び②違反行為において主導的な役割を担っていること)
オ 事業者の支払能力

6 刑事罰

 第41条(委員会の調査への協力)に違反した場合には、50億ルピア以下の罰金又は1年以下の禁固刑が科される(第48条)。

7 大企業・中小企業間の取引に係る規制(パートナーシップ規制)

 中小企業法(Law of the Republic of Indonesia Number 20 of 2008 Concerning Micro, Small, and Medium Enterprises)において、大企業と中小企業とのパートナーシップ関係(下請取引、フランチャイズ、ジョイントベンチャー等)に係る遵守事項(支配の禁止、書面作成義務等)が定められており、委員会に対してパートナーシップ関係を監視する権限が与えられている。

「アルファベット目次」に戻る

 

 

ページトップへ