アイルランド(Ireland)

(2009年6月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。
※ 以下の概要については,2009年に作成したものであり,その後更新は行っておりませんので,その旨御留意ください。

1 根拠法

 アイルランドの競争法は,2002年競争法(Competition Act 2002)である。同法は,1991年競争法(Competition Act 1991),1996年改正競争法(the Competition(Amendment)Act 1996)及び1978年合併,テイクオーバー及び独占(規制)法(Mergers,Takeovers and Monopolies (Control) Act 1978)を統合し近代化させたものとなっており,2006年改正競争法(the Competition(Amendment)Act 2006)により補完され,現在に至っている。
 同法はEC条約第81条及び第82条に準拠している。

2 執行機関

(1) 競争委員会(Competition Authority)

 競争委員会は、アイルランドにおける競争法の執行当局である。同委員会は、委員長(Chairman)及び2名以上4名以下の委員(Member)により構成され,2009年の職員数は約55名である。同委員会は主として以下の業務を行う。
[1] 競争法違反があると思料する事案の審査
[2] 合併審査
[3] 競争の唱導

(2) 企業・貿易・雇用大臣(Minister for Enterprise, Trade and Employment)

 企業・貿易・雇用大臣(以下「大臣」という。)は,商品の供給・流通又は役務の提供に影響を及ぼす慣行について調査・分析をし,その結果を報告するよう競争委員会に要請することができる(第30条第2項)。
 また,大臣は,メディア企業の合併に関してのみ,競争委員会の承認決定を覆し,禁止又は条件付き承認とすることができる(第23条第4項)。ただし,競争委員会が禁止した合併を承認することはできない。

3 規制の概要

(1) 反競争的協定

 ア 禁止規定

 2002年競争法第4条第1項は,次のように規定している。
 「国内又は国内の一定地域において商品又は役務の取引に関する競争を阻害し,制限し,歪曲する目的又は効果を有する事業者間の協定,事業者団体による決定又は協調的取引慣行は,禁止され,かつ,無効である。」
 同条に示されている反競争的協定の例示としては,以下の行為が挙げられている。
[1] 購入若しくは販売価格又はその他の取引条件を直接又は間接に固定すること
[2] 生産,市場,技術開発又は投資を制限し又は支配すること
[3] 市場又は供給源を分割すること
[4] 同様な取引について差別的な条件を適用し,それによって取引相手を競争上不利な立場に置くこと
[5] 契約締結に際し,その性質上又は取引慣行上,当該契約とは無関係である付加的な義務を相手が受け入れることを条件とすること

イ 適用免除

 競争委員会は,2002年競争法第4条第1項に違反する場合であっても,協定等が,商品の生産・販売若しくは役務の提供を改善し,又は技術的・経済的進歩を促進することに貢献するものであり,かつ,消費者に対しその結果として生じる利益の公平な分配を行うものであって,次の各号に該当しない場合,適用免除を宣言することができる(第4条第2項~第5項)。
[1] 前記の目的達成のために必要不可欠でない制限を参加事業者に課すこと
[2] 当該商品又は役務の実質的部分について,参加事業者に競争を排除する可能性を与えること

(2) 市場支配的地位の濫用

 国内又は国内の実質的部分における商品又は役務の取引に関する市場支配的地位の濫用は,2002年競争法第5条第1項の規定により禁止されている。当該濫用には,次のような行為が含まれている。
ア 直接的又は間接的に,不公正な購入価格,販売価格,又はその他の取引条件を課すこと
イ 生産,市場又は技術開発を消費者利益を害するように制限すること
ウ 同様な取引について差別的な条件を適用し,それによって取引相手を競争上不利な立場に置くこと
エ 契約締結に際し,その性質上又は取引慣行上,当該契約とは無関係である付加的な義務を相手が受け入れることを条件とすること

(3) 合併

ア 規制の概要

 合併等企業結合は,2002年競争法第3部によって規制されている。

イ 規制対象(届出基準)

 次の基準を満たす合併等企業結合は,規制の対象となる。かかる企業結合の当事者は,事前に競争委員会に届出をしなければならない(競争法第18条第1項)。
[1] 当事者の少なくとも2社の全世界での売上高がそれぞれ4000万ユーロ以上
[2] 当事者の少なくとも2社がアイルランド国内で事業活動を行っており,そのうちのいずれか1社のアイルランド国内における売上高が4000万ユーロ以上

ウ 合併審査の基準

 規制対象となる合併等企業結合については,国内の商品又は役務市場における競争を実質的に減少させることとなるか否かを判断する観点から評価される。

エ 事前届出と法定禁止期間

 契約の締結又は公開買付の発表後,1か月以内に競争委員会に届け出なければならない。届出義務違反は,刑事罰の対象となる(第18条第1項,第9項)。
 届出の対象となっている合併等企業結合は,競争委員会が承認を決定するまで実施してはならない(第19条)。

オ 審査・決定

 競争委員会は,届出を受理した場合は直ちにこれを審査し(通称「Phase I」審査),
[1] 当該企業結合が,アイルランド国内の商品・役務市場における競争を実質的に減少させるものではないとの結論に達したときは,当該企業結合を承認する決定を下す。
[2] 当該企業結合による競争への影響を審査するため,詳細審査(通称「Phase II」審査)手続を開始する決定を下す。
 上記[1],[2]の決定は,1か月以内に行わなければならない(当事者が問題改善措置を申し出た場合,この期間は45日まで延長される)(第21条)。
 Phase II審査を経て,競争委員会は,以下の決定を行うことができる(第22条)。
[1] 当該企業結合の承認
[2] 当該企業結合の禁止
[3] 当該企業結合の条件付き承認
 上記の決定は,詳細審査開始から4か月以内に行わなければならない。

4 法執行手続

(1) 審査

 競争委員会による審査は,一般的に,申告,職権探知又はリニエンシー申請により開始される。競争委員会は,証拠の収集のため,書面による情報提供要求,裁判所の令状に基づく立入検査(第45条)及び証人喚問(第31条)を行うことができる。
 競争委員会は,事案を民事提訴するか,刑事訴追するかの判断を行う。カルテルは,通常,刑事事件として扱われるが,競争委員会が提起できるのは,略式起訴のみであるため,重大なカルテル事件の場合には,競争委員会は,正式起訴を担当する検察長官(DPP)に事案を送付する。

(2) 民事手続

 競争法で禁止されている協定,決定,協調的取引慣行,若しくは市場支配的地位の濫用により被害を被った者又は競争委員会は,巡回裁判所(Circuit Court)又は高等裁判所(High Court)に,差止め又は宣言的救済を求めて違反行為の当事者(法人及び個人)を提訴できる(第14条)。損害の賠償請求(懲罰的請求を含む。)は,私人のみが提訴できる。

(3) 経営者等の個人責任

 民事訴訟は,禁止されている反競争的行為への参加や実行を承認又は同意した経営者,管理者その他の幹部に対しても行うことができる(第14条第1項)。事業者によって行われた行為は,当該事業者の各経営者,管理者及び同種の幹部が当該行為の実行に同意したとの法的推定が認められている(ただし,反証がない場合に限る。)(第8条第7項,第14条第8項)。

(4) 刑事訴追

 正式起訴は,競争委員会から付託を受けた検察長官(DPP)が中央刑事裁判所(Central Criminal Court)に対して提起する。略式起訴の場合は,競争委員会が地方裁判所に対して行う。
 競争法第4条(カルテル)に違反する協定の締結若しくは実行,決定の採択若しくは実行,又は協調的取引慣行への関与を行った事業者は,刑事罰の対象となり(第6条),次のような罰則が定められている(第8条第1項)。また,違反行為への参加や実行を承認又は同意した経営者等は,事業者と同様の刑事責任を負う(第8条第6項)。
 法人:(罰金の上限)最高400万ユーロ又は関係事業者の直前の事業年度における年間売上高の10%のいずれか高い額
 (略式起訴の場合には,3,000ユーロ)
 個人:(罰金の上限)最高400万ユーロ又は関係個人の直前の事業年度における年間売上高の10%のいずれか高い額
 (略式起訴の場合には,3,000ユーロ)
 (禁錮刑)5年以下の禁錮刑(略式起訴の場合には,6か月以下)
 なお,これらの併科も可能。
 競争法第5条(支配的地位の濫用)に違反した事業者は,刑事罰の対象となる(第7条)。罰則は,法人,個人ともに,最高400万ユーロ又は関係事業者の直前の事業年度における年間売上高の10%のいずれか高い額の罰金(略式起訴の場合には,3,000ユーロの罰金)(第8条第2項)である。

5 免責プログラム

(1) 概要

ア CARTEL IMMUNITY PROGRAMME (カルテルに対する免責プログラム)(2001年12月)を根拠とする。同プログラムは,カルテルについて最初に競争委員会に報告をした者については,刑事訴追を行わないというものである。
イ 刑事事件の正式訴追は, DPPのみが行うことができるため,このプログラムにおいて,免責(訴追免除)を受けようとする企業や個人は,競争委員会に対し,免責の申請を行い,これを受けて,競争委員会がDPPに対し,免責の付与について勧告する構造となっている。

(2) 免責勧告の要件

ア 競争委員会による免責の勧告は,次の場合に行われる。
[1]申請者が最初の情報提供者であり,かつ
[2]競争委員会がDPPに事件を送付するには十分な証拠を有していない場合
 さらに,申請者は,以下の条件を満たす必要がある。
[1]競争委員会との合意に基づき,違反行為を取り止めるための適切な行動をとること
[2]競争委員会に免責申請したことを,他の違反行為参加者に対して知らせないこと
[3]違反行為の主導者でなく,また,違反行為に参加するよう他の事業者を強要していないこと
[4]競争委員会の審査及びその後の訴追に対し,完全に協力すること
[5]免責の申請が,法人としての行為であること
イ 最初の申請者がこの必要条件を満たさない場合で,次の申請者がこの必要条件を満たす場合には,免責を受けることができる。
ウ 企業に免責の資格がある場合,代表者や従業員等も,違反行為への関与を認めて,調査に協力すれば,企業と同様に免責を受けることができる。
 

「アルファベット目次」に戻る

ページトップへ