イタリア(Italy )

(2007年12月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

 競争及び公正取引に関する法律(以下,「競争法」という。)
 (法律第287号:The Competition and Fair Trading Act)
 制定:1990年10月10日
 最近の主な改正:2005年12月28日 金融市場における競争法執行の導入2006年8月4日 リニエンシー制度,確約制度の導入

2 執行機関(後掲の組織図参照)

(1) 競争・市場保護委員会(競争法第10条)

 競争・市場保護委員会は,委員長及び4名の委員からなる合議体であり,その任期は7年間である(再任は不可)。
 委員長は,委員会の重大な制度的責任を果たすに足る顕著な独立性を持つ者の中から,また,委員は,顕著な独立性を持ち,国務院,会計検査院,破毀院,大学教授又は財界有識者の中から,上下両院議長が連帯して指名する。
 委員会の下には,事務総長以下,3つの総局から構成される事務総局が置かれており,2006年末現在の職員数は224名である。(以下,事務局を含む競争・市場保護委員会のことを「競争当局」という。)

(2) 権限の概要

 競争当局は,競争法を所管しており,以下の行為に対する職権行使の独立性を保証されている。
[1] 競争制限的な共同行為
[2] 支配的地位の濫用
[3] 競争の排除又は制限を伴う支配的地位を創造又は強化する企業結合
 また,公共の利益にかんがみて正当な理由なく競争制限的である規則又は措置について議会及び政府に対して意見を表明することができる(競争法第21条及び第22条)。
 なお,競争当局は,政令に基づいて不当広告の規制も行う。

3 規制の概要

(1) 競争制限的な協定の禁止(カルテル)

ア カルテルの禁止(競争法第2条)

 国内市場又はその実質的な部分において,競争を妨害,制限又は歪曲する意図のある又は効果のある事業者間の協定は禁止される。以下の行為も禁止される。
[1] 仕入価格,販売価格又はその他の契約条件を直接的又は間接的に取り決めること
[2] 製造,販路,市場参入,投資,技術開発又は技術向上を制限又は統制すること
[3] 市場又は供給源を分割すること
[4] 同様の取引において,他の取引相手に対して客観的に異なる条件を課し,不当に競争上不利にさせること
[5] 契約の性質上,又は,商業上の慣例に従い,契約内容とは関係のない追加的な義務を相手方が受け入れることを条件として契約を締結すること 

イ 適用免除(競争法第4条)

 事業者の協定等が,市場における供給条件を改善し,消費者に相当の利益をもたらす効果を有するものであり,かつ,その目的に必要のない制限を課さず,実質的な市場の競争を排除しないものである場合には,競争法第2条の適用が一定期間免除される。

(2) 市場支配的地位の濫用(競争法第3条)

 国内市場又はその実質的な部分において,単一又は複数の事業者による支配的地位の濫用行為は禁止される。以下の行為も禁止される。
[1] 不当な仕入価格,販売価格又はその他の契約条件を直接的又は間接的に強要すること
[2] 製造,販路,市場参入,投資,技術開発又は技術向上を制限又は統制すること
[3] 同様の取引において,他の取引相手に対して客観的に異なる条件を課し,不当に競争上不利にさせること
[4] 契約の性質上,又は,商業上の慣例に従い,契約内容とは関係のない追加的な義務を相手方が受け入れることを条件として契約を締結すること

(3) 企業結合

ア 企業結合の定義(競争法第5条)

[1] 2社以上の事業者が合併する場合
[2] 1社以上の事業者を支配している1名以上の個人が,株式若しくは資産の購入を通じてか,又は,契約若しくはその他のあらゆる手段によってか否かにかかわらず,1社以上の事業者の全部又は一部の直接又は間接の支配権を取得する場合
[3] 2社以上の事業者が,新会社の設立によって共同企業体を形成する場合 

イ 企業結合の届出対象となる企業結合(競争法第16条)

 競争法第5条に該当する企業結合が,次のいずれかの要件に該当する場合,当事会社は,あらかじめ競争当局に届出を行わなければならない(2007年5月現在)。
[1] すべての当事会社の国内合計売上高が4億4000万ユーロを超える場合
[2] 買収される当事会社の国内合計売上高が4400万ユーロを超える場合
 なお,当該売上高は,銀行及び金融機関の事案においては,総資産額の10分の1に相当する金額とし,保険会社の事案については,徴収した保険料に相当する金額とする。
 競争当局は,届出の受理から5日以内に,首相及び通商産業大臣に通知しなければならない。
 なお,当事会社は,届出に係る手数料として取引額の1.2%に相当する金額(下限:3,000ユーロ,上限:6万ユーロ)を競争当局に対して支払わなければならない。  

ウ 自由競争を制限する企業結合の禁止(競争法第6条)

 競争当局は,競争法第16条に基づく届出に従い,競争を実質的に排除又は制限することにより,イタリア国内市場における支配的地位が形成又は強化されるかどうかを評価する。
 当該評価は,(1)供給者及び顧客の代替可能性,(2)当事会社の市場における地位,(3)供給品又は市場へのアクセス条件,(4)関連市場の構造, (5)イタリア国内産業の競争状態,(6)競争事業者の参入障壁,(7)関連する商品又はサービスの需給の進展を考慮に入れて行われる。
 競争法第16条に基づく企業結合審査が,上記の結果につながるとの結論に達した場合,競争当局は,当該企業結合を禁止するか,又は,上記の結果を回避するために必要な対策を講じることを認める。

(4) 金融市場における競争法の執行

 2005年12月の競争法改正により,それまでイタリア銀行(中央銀行)に認められていた金融市場における競争法の執行権限が,競争当局へ委譲された。
 なお,イタリア銀行は,競争当局に対し,金融市場について以下の要請を行うことができる。(競争法第20条5-bis)
[1] 支払システムの効率性のために,事業者間の協定を一定期間承認するよう要請できる。
[2] 当事会社の安定性のために,金融機関が含まれる合併については,支配的地位が形成又は強化される可能性があっても承認するよう要請できる。

4 法執行手続

(1) 競争制限的行為に対する審査

ア 審査権限(競争法第12条)

 競争当局は,所有する情報並びに公共企業及び消費者団体を含む利害関係者から提出された情報を評価した後,競争法2条及び3条の違反行為について審査を開始しなければならない。
 また,競争当局は,自らの職権や通商産業大臣等の要請に基づいて,取引の発展,価格の進展又は他の状況から,競争が妨害,制限又は歪曲されているおそれがあると考えられる事業分野について,一般的な事実調査も開始できる。  

イ 協定の届出(競争法第13条)

 事業者は,締結する協定を競争当局に届け出ることができる。競争当局は,届出から120日以内に競争法第14条に基づく調査を開始しなければならず,当該届出が不完全又は虚偽であると判明した場合を除き,当該期間以降に審査が行われることはない。

ウ 審査手続(競争法第14条)

(ア) 競争法2条又は3条違反の疑いがある場合,競争当局は,関係する事業者及び事業者団体に対して審査開始の通知をしなければならない。関係する事業者及び事業者団体のオーナー又は法律上の代表者は,(1)通知時に設定された期限までに直接又は代理人を通じて意見書を提出すること,(2)審査過程のあらゆる段階において服従及び意見表明をすること,(3)審査が終結するまでに更なる意見書を提出することができる。

(イ) 競争当局は,審査のあらゆる段階において,事業者,事業者団体及び個人に対して,所有するすべての情報を提供するよう要求し,審査に関係するすべての資料を提出するよう要求することができる。競争当局は,(1)事業者の帳簿及び記録を検査してコピーすること,(2)必要に応じて他の政府機関の協力を得ること,(3)専門的報告書,経済統計分析を作成すること,(4)審査に関係するあらゆる事項について専門家に助言を求めることができる。
 競争当局は,正当な理由なく情報提供又は資料提出を拒絶する者又は実施しない者に対して最高2万5822 ユーロの制裁金を課すことができる。また,虚偽の情報や資料が提出された場合には,制裁金を5万1645ユーロまで引き上げることができる。 競争当局の審査対象となっている事業者の情報及び資料は,すべて秘密扱いとなっており,他の政府機関に対しても開示されることはない。

(ウ) 競争当局は,審査の終了後,異議告知書によって利害関係者に対して審査結果を通知する(通知は事件終結の30日前までに行われる)。利害関係者は,競争当局による最終の聴聞会の5日前までに意見書を提出することができる。
 競争当局の決定は,委員会の多数決によって行われる。
 なお,例えば,カルテルに関する審査は,通常,審査開始から240日以内に完了する。  

エ 暫定措置(競争法第14条-bis)

(ア) 大まかな調査によって違反の存在が明らかになり,競争に対する重大で回復不可能な損害が生じるおそれがある緊急の場合,競争当局は,職権により暫定措置の導入を決定することができる。
(イ) 前記決定は,更新又は延長することができない。
(ウ) 事業者が,暫定措置を課す決定に従わない場合,競争当局は,売上高の3%を上限とする制裁金を徴収
 することができる。

オ 確約手続(競争法第14条-ter)

(ア) 関係事業者は,競争法第2条(競争制限的な協定),同3条(市場支配的地位の濫用),EC条約第81条又は同第82条の違反被疑行為に対する審査開始の通知から3か月以内に,審査対象である反競争的行為を
 是正する旨の確約を提示することができる。競争当局は,確約の適切性を判断し,関係事業者に当該確約を履行する義務を課し,違反を確定することなく審査手続を終結することができる。

(イ) 競争当局は,関係事業者が前記確約を遵守しない場合,売上高の10%を上限とする制裁金を課すことができる。

(ウ) 競争当局は,確約決定後であっても,以下の場合には職権によって審査手続を再開することができる。
[1] 確約決定の基礎となった事実関係に変化が生じた場合
[2] 関係事業者が確約に反する行為を行った場合
[3] 確約決定が,関係事業者からの不完全,不正確又は虚偽の情報に基づいたものであった場合

(2) 企業結合に対する審査

ア 審査の実施(競争法第16条)

 競争当局は,企業結合が競争法第6条(自由競争を制限する企業結合の禁止)の規定に違反する可能性があると考える場合,届出の受理から30日以内に,競争法14条の規定に基づく審査を開始しなければならない。他方,競争当局は,審査不要と考える場合,届出の受理から30日以内に,その旨を当事会社及び通商産業大臣に通知しなければならない。ただし,当事会社が届け出た情報が著しく不正確,不完全又は虚偽なものである場合,競争当局は,当該期限後であっても審査を開始することができる
 競争当局は,審査開始後45日以内に,当事会社及び通産大臣にその結果を通知しなければならない。当該期間は,当事会社が要求された情報及びデータを提出しない場合には延長することができる。
 なお,競争当局は,当事会社に対し,審査の結果が出るまでは企業結合を開始しないよう命ずることができる(競争法第17条)。

イ 審査の結果(競争法第18条)

 競争当局は,審査により,企業結合が競争法第6条(自由競争を制限する企業結合の禁止)に違反すると認定した場合,当該企業結合を禁止する。
 審査において,企業結合に関する措置を正当化する十分な証拠が示されなかった場合,競争当局は,審査を終了させ,直ちに当事会社及び通商産業大臣に審査結果を通知しなければならない。また,当初計画していた企業結合について,競争を歪曲するおそれのある状況が取り除かれたことを当事会社が証明できれば,当該措置は,当事会社の要求に基づいて行うことができる。
 なお,競争当局は,企凝結合が既に行われてしまっている場合,有効な競争条件を回復し,競争を歪曲するあらゆる影響を取り除くための措置を採ることができる。

(3) 制裁

ア 反競争的行為に関する制裁(競争法第15条1及び2)

 競争当局は,競争法第2条(競争制限的な協定)又は同第3条(市場支配的地位の濫用)違反が明らかになった場合,事業者及び関連事業者団体に対して当該違反を改善する期限を定める。最も重大な事案においては,競争当局は,違反の重大性及び継続期間に応じ,事業者又は事業者団体の直近会計年度における売上高の10%を上限とする制裁金を課すことができる。
 競争当局は,事業者が通知された違反を改善しない場合,売上高の10%を上限とする制裁金を課す。既に当該制裁金が課されている場合には,その2倍の金額を上限とする制裁金を課す。競争当局は,制裁金の支払期限を設定する。
 競争当局は,事業者が違反を繰り返す場合,最長30日間の事業停止を命ずることができる。

イ 企業結合規制に関する制裁(競争法第19条)

 競争当局は,企業結合の禁止措置を遵守しなかった事業者に対し,企業結合の対象となる事業の売上高の最低1%から最高10%の範囲で制裁金を課す。
 また,競争当局は,企業結合の事前届出要件を遵守しなかった事業者に対し,年間売上高の1%の制裁金を課すことができる。

ウ 刑事罰

 イタリアにおいては,競争法違反は刑事罰の対象とされていない。
 なお,刑法においては,投機的行為等によって恐慌状態を引き起こすなどした者には,3年以下の禁錮刑及び25,822ユーロ以下の罰金が科され(第501条),ボイコット活動に関与した者には,3年以下の禁錮刑が科される(第507条)。

エ その他(競争法第33条)

 取消訴訟,損害賠償請求及び緊急措置の申立ては,該当地域を管轄する控訴裁判所に提起される。

(4) 不服申立て(競争法第33条)

 利害関係者は,競争当局の行政措置について,ローマ所在の行政裁判所に60日以内に不服申立てをすることができる。行政裁判所の判決に不服がある場合は,ローマ所在の最高行政裁判所に上告することができる。

(5) リニエンシー(競争法第15条2-bis)

ア 根拠規定

(ア) 競争法第15条2-bis
 競争当局は,EUのルールに則って制裁金の免除又は減額(リニエンシー)を行う。

(イ) 競争法第15条に基づく制裁金の免除及び減額に関する通知

イ 対象

 競争法第2条又はEC条約第81条に違反するカルテルや入札談合

ウ 概要

(ア) 制裁金の免除
 カルテル等に関する情報又は証拠を最初に提供した事業者は,当該情報又は証拠が違反の認定において決定的に重要なものであり,かつ,競争当局が違反容疑を証明する十分な情報又は証拠を有していない場合,制裁金を免除される。

(イ) 制裁金の減額
 前記(ア)の条件は満たさないものの,カルテル等に関する証拠を提供した事業者は,通常50%を超えない範囲で制裁金を減額される。このとき提供される証拠の内容は,競争当局が既に有している証拠を著しく補強し,違反容疑の証明に寄与するものでなければならない。

(ウ) 制裁金の免除及び減額に共通する要件
 事業者は,リニエンシーの資格を得るために,前記(ア)又は(イ)に加えて以下の要件を満たさなければならない。
[1] 事業者は,リニエンシー申請後,直ちにカルテルへの関与を終結させなければならない。ただし,競争当局が必要と考える場合にはこの限りではない。
[2] 事業者は,競争当局の手続全体を通じて,全面的かつ継続的に協力しなければならない。この協力には以下が挙げられる。 

  • 事業者は,競争当局に対し,カルテルに関して手に入るすべての情報及び証拠を速やかに提出しなければならない。
  • 事業者は,事実認定に寄与する競争当局のいかなる要求に対しても,迅速に応えられるようにしておかなければならない。
  • 事業者は,現従業員及び可能であれば元従業員を競争当局の招致及び聴取に応じさせるため,あらゆる行動を採らなければならない。
  • 事業者は,関係する情報又は証拠を破損,改ざん又は隠匿してはならない。
  • 事業者は,競争当局の同意があった場合を除き,競争当局が異議告知書をを発出する前に,リニエンシー申請を行った事実又はその内容を公開してはならない。

[3] リニエンシー申請を検討する場合,事業者は,他の競争当局を除き,その意図を外部に伝えてはならない。

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