ラオス(Lao PDR)

(2021年1月現在)

最新の情報については,当局の情報を御確認ください。

1 根拠法

(1)名称

 競争法(Law on Competition)

(2)制定及び施行

 ラオスでは,反競争的行為等の防止を目的として2004年に「取引競争令(Decree on Trade Competition)」が制定されたが,より実効性のある競争法を実現するために2015年に「競争法」(以下,特段の記載がない限り,条文番号は同法の条文番号を指す。)が制定され,2016年に施行された。

(3)競争法の構成

 第1章 総則(第1条~第7条)
 第2章 不公正な競争(第8条~第17条)
 第3章 競争の制限(第18条~第47条)
  第1節 競争制限を目的とした合意(第20条~第29条)
  第2節 市場支配的地位及び市場独占の濫用(第30条~第36条)
  第3節 競争制限を目的とした企業結合(第37条~第44条)
  第4節 競争制限の適用除外(第45条~第47条)
 第4章 ラオス競争委員会(第48条~第54条)
 第5章 禁止行為(第55条~第58条)
 第6章 競争法違反に対する決定(第59条~第77条)
  第1節 競争法違反の調査(第59条~第71条)
  第2節 競争法違反に対する決定(第72条~第77条)
 第7章 競争活動の管理及び調査(第78条~第85条)
  第1節 競争活動の管理(第78条~第82条)
  第2節 競争活動の調査(第83条~第85条)
 第8章 協力者に対する報償及び違反者への措置(第86条~第93条)
 第9章 最終規定(第94条~第95条)

2 執行機関

(1)名称

 ラオス競争委員会(Lao Competition Commission:LCC(以下「LCC」という。)

(2)執行機関の構成等

 LCCは,委員長,副委員長2名,委員8名で構成される。委員長は商工副大臣が兼務し,副委員長及び委員は,各省庁等の代表者及びLCCの事務局長が就任する。委員長等については,商工大臣の推薦に基づき首相が指名する。また,商工省内にLCCの事務局を設置するほか,必要に応じて地方競争委員会(Provincial Competition Commission:PCC)を設置する(第49条)。

(3)権限

 LCCは,次のような職務及び権限を有する(第50条)。
ア 事務局からの提案に基づき,競争分野に係る計画を検討及び承認すること
イ 競争法について普及啓発及び研究・提言を行うこと
ウ 企業結合を審査すること
エ 競争法及び関連規則に違反した個人及び法人に対して行政処分を課すこと
オ 刑事訴訟法に定められた関係機関の決定を基に,調査に係る命令の発出や処分を行うこと
カ 検察庁に刑事告発すること
キ 競争政策について外国,地方組織及び国際機関と協力すること
ク LCCの活動内容を商工大臣に報告すること
ケ 法律及び規則に従って他の職務及び権限を行使すること

3 規制の概要

(1)不公正な競争

 事業者又は事業者の集団が次の行為を行うことは不公正な競争として禁止される(第8条,第9条,第56条)。
ア 消費者を誤認させること
イ 他の事業者の営業秘密の侵害
ウ 他の事業者を強制すること
エ 他の事業者の名誉を棄損すること
オ 他の事業者の事業活動を妨げること
カ 虚偽広告
キ 不当な販売促進
ク 事業者団体による差別的取扱い
ケ その他関係する法律及び規則に定められた行為

(2)競争の制限

ア 競争制限を目的とした合意
 競争制限を目的とした合意は,競争を減殺,歪曲又は妨害するための事業者間の合意を指し(第20条),次の行為を行うことは禁止される(第21条,第56条)。
(ア)商品又はサービスの価格を決定する合意
(イ)市場シェアを決定する合意又は市場を分割する合意
(ウ)生産量を決定する合意
(エ)技術の発展及び商品又はサービスの質を制限する合意
(オ)商品又はサービスの売買に条件を課す合意
(カ)他の事業者の市場への参入を妨げる合意
(キ)他の事業者を市場から退出させる合意
(ク)入札談合
(ケ)その他関係する法律及び規則に定められた行為
 
イ 適用除外
 競争制限を目的とした合意に関して,当該合意が技術発展を促進する場合,商品若しくはサービスの質を向上させる場合又は中小企業の競争力を強化させる場合には,LCCは個別の事案に応じて当該合意を競争法の適用除外とすることができる(第45条)。

(3)市場支配的地位及び市場独占の濫用

ア 市場支配的地位及び市場独占
 市場支配的地位とは,LCCによって定期的に定められた閾値を超える市場シェアを有する事業者又は事業者の集団を指し,市場独占とは,関連市場において商品又はサービスを提供する唯一の事業者又は事業者の集団を指す(第30条)。これらの地位にある事業者等が,次の行為を行うことは禁止される(第31条,第56条)。
(ア)商品又はサービスの売買価格を不当に決定すること
(イ)生産費用を下回る価格で商品又はサービスを販売したり,低品質の財を販売したりすること
(ウ)顧客への商品又はサービスの販売を拒絶すること
(エ)商品又はサービスの売買に関して抱き合わせの条件を課すこと
(オ)同質の商品又はサービスの売買の際に異なる条件を課したり,異なる価格で販売したりすること
(カ)その他関係する法律及び規則に定められた行為

イ 適用除外
 市場支配的地位及び市場独占の濫用に関しては,当該行為が社会経済の発展に貢献する場合,国家戦略及び防衛に関する場合には,一定の政府規制に服することを条件として,政府は個別の事案に応じて当該行為を競争法の適用除外とすることができる(第46条)。

(4)競争制限を目的とした企業結合

ア 競争制限を目的とした企業結合
 競争制限を目的とした企業結合とは,下記の結果をもたらす合併,株式取得,事業譲渡又はジョイントベンチャーを指す(第37条,第38条)。
(ア)関連市場においてLCCが定めた閾値を超える市場シェアを有すること
(イ)市場へのアクセス及び技術の発展を制限すること
(ウ)消費者,他の事業者及び国家社会経済の発展に悪影響を及ぼすこと

イ 企業結合の届出
 大企業による企業結合の際は,LCCに届出文書を提出しなければならない。中小企業による企業結合については届出文書の提出は免除されるが,企業結合を行う旨をLCCに通知しなければならない(第39条)。LCCは,事業者から届出文書の提出があった日から7日以内に当該文書を審査し,不備があれば追加文書の提出を求める(第41条)。そして,LCCは,全ての文書を受領した日から30日以内に当該企業結合の審査結果を当該事業者に通知しなければならない。LCCが当該企業結合を認めない場合,書面にてその理由を当該事業者に通知しなければならない(第42条)。
 なお,審査期間は,必要な場合に商工大臣の認可を得て30日間を限度に延長することができる(同条)。
 届出文書に不足がある場合,LCCは追加の情報や書類を提供する義務のある関係政府機関と協力することができる(第43条)。
 届出文書の提出後に届出の撤回を希望する事業者は,撤回の決定をLCCに通知しなければならない(第44条)。

ウ 適用除外
 競争制限を目的とした企業結合に関しては,①事業者の倒産が背景に存在する場合,②当該企業結合が技術の発展又は輸出の増加に貢献する場合のいずれかの理由に該当するときは,競争法の適用除外となり得る(第47条)。

4 法執行手続

(1)調査権限

 審査官は次に掲げる職務及び権限を有する(第53条)。
ア 競争法違反行為に係る申告を受領し,記録すること
イ 競争法違反行為について調査を実施し,予備的情報を収集すること
ウ 競争法違反行為に関連する証拠物件を差し押え,留置すること
エ 競争法違反行為に関連する施設を調査すること
オ 予備調査の結果及び収集した情報をまとめ,LCC事務局に報告すること
カ 関係する法律及び規則に規定された他の職務及び権限を行使すること

(2)事件処理手続

ア 端緒・予備調査
 事件の端緒としては,申告,違反事業者からの自主申告,職権探知がある(第60条)。事件の端緒を得た場合,審査官は,当該事件についての予備的情報を収集し,LCCに報告する(第65条)。
 なお,情報提供等によって,法執行において顕著な協力を行った個人及び法人は,規則に基づき報償を受け取ることができる(第86条)。
 
イ 正式調査
 LCCは,審査官からの報告を踏まえ,審査命令の発令を検討する(第66条)。審査命令の発令後,審査官は違反者,被疑者及びその他関係者を召喚し取調べを行うことができるが,全ての取調べは刑事訴訟法の規定に従って記録されなければならない(第67条)。捜索は,検察庁(Office of the Public Prosecutor)の検事長が発布した令状に基づいて行う必要があるが,緊急の場合は実施後24時間以内に同検事長に報告しなければならない(第68条)。留置した証拠物件は留置後24時間以内にLCC及び検察庁に報告されなければならない(同条)。
 不公正な競争に係る審査の場合は,審査命令が発令されてから90日以内に,競争の制限に係る審査の場合は,審査命令が発令されてから150日以内に,それぞれ審査を終了しなければならない。上記期間内に審査が終了しない場合は,審査官はLCCに対して,不公正な競争に係る審査の場合は60日間,競争の制限に係る審査の場合は90日間の審査期間の延長を,それぞれ求めることができる(第71条)。
 審査終了後,審査官は,収集した情報と証拠とともに審査結果をLCCに報告する(第70条)。
 
ウ 決定
 LCCは,審査官からの報告を踏まえ,①行政処分を課す命令の発出,②追加審査命令の発出,③刑事告発,④審査の中止のいずれかの措置を採らなければならない(第72条)。
 LCCから追加審査命令が発出された場合,審査官は,不公正な競争に係る審査については,追加審査命令が発出されてから30日以内に,競争の制限に係る審査については,追加審査命令が発出されてから60日以内に,追加の審査を終了しなければならない(第74条)。
 競争法違反を示す証拠がない場合,違反者からの自主申告があり,被害者への賠償について合意し,申告人又は被害者が審査の中止に同意した場合又はLCCの決定に従い違反者が自認し,被害者への賠償について合意した場合,LCCは,審査を中止する(第76条)。審査を中止する決定を行った後,LCCは決定を審査対象者,申告人,被害者及びその他関係者に通知する(同条)。
 
 なお,LCCは,審査中であっても必要な場合に,検察庁又は裁判所に対し暫定的措置の適用を検討することを提案することができる(第69条)。

(3)措置

ア 行政処分
 LCCは,違反者に対して,違反の重大性に応じて指導,警告,制裁金の賦課等の措置を行う(第73条,第87条)。軽微な違反及び初めての違反(刑事事件でないものに限る。)は,指導及び警告の対象となる(第88条)。制裁金の額の算定方法については,別途定める規則に規定される(第90条)。

イ 刑事罰
 競争法違反が刑事罰の対象となる明確な証拠が得られた場合,LCCは,全ての情報及び証拠物件とともに検察庁に刑事告発しなければならない(第75条)。競争法に違反する個人は,刑法又はその他罰則規定を有する法律に基づいて処罰される(第92条)。上記に加え,違反者は法人登録の停止,撤回等の措置を課される(第93条)。

ウ リニエンシー制度
 競争法違反の事実を自主的に申告した者は,関係する法令に従ってリニエンシーが認められる(第62条)。

5 損害賠償請求

 競争法違反行為による被害者は,関係する法令に従って,損害賠償を求めて裁判所に申し立てることができる(第77条)。また,競争法の禁止規定に違反し他者に損害を与えた個人又は法人は,実際に生じた損害を賠償しなければならない(第91条)。
 

「アルファベット目次」に戻る

ページトップへ