マルタ(Malta)

(2008年3月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。
※ 以下の概要については,2008年に作成したものであり,その後更新は行っておりませんので,その旨御留意ください。

1 根拠法

 マルタの競争法は,競争と公正取引に関する法律(Act to Regulate Competition and Provide for Fair Trading(Chapter 379 of Law of Malta):以下「競争法」という。)であり,1994年に制定された。その後,2000年,2003年及び2004年に改正されている。

2 執行機関

(1) 公正競争庁(Office for Fair Competition)

ア 公正競争庁(Office for Fair Competition:以下「競争庁」という。)は,競争・通信省(Ministry of Competitiveness & Communications)に置かれ,その機能は,消費者・競争局(Consumer and Competition Division)が担っている。機関の長は,競争庁長官(Director of the Office for Fair Competition)であるが,その任は消費者・競争局長(Director-General of Consumer and Competition Division)が担っている。

イ 競争庁は,カルテル,市場支配的地位の濫用及び事業集中に対する規制権限を有しており,競争法に加え,消費者問題法その他の法律を管轄している。

機構図

(2) 公正取引委員会

ア 公正取引委員会(Commission for Fair Trading:以下「委員会」という。)は,競争庁の決定に対する不服審査を管轄する準司法機関であるが,一部の案件については競争庁からの報告を受け,自らが決定を下す。また,競争・通信大臣の承認を得て競争法関連規則の作成も行う。

イ 委員会は,委員長1名,委員2名によって構成されており,総理大臣の助言により大統領が指名する。委員長は司法官,委員はそれぞれ経済学者と公認会計士であり,委員長の定年は60歳であるが任期は特に定められていない。委員の任期は3年で再任も可能。司法担当大臣は,公務員を委員会の事務局長(Secretary)として任命するが,事務局長は委員長の指揮の下で裁判所の事務局長(Registrar of Courts)と同等の権限及び任務を行う(第4条)。

ウ カルテル,市場支配的地位の濫用の重大な違反,及びEC条約81条・第82条の違反に対する規制権限を有している。

(3) 競争・通信大臣(商業担当大臣)

 企業結合規制規則,農業・漁業分野の適用免除に関する規則等競争法関係規則の制定を行う(第32条,第33条)。

 注:競争法に規定されているMinister responsible for commerce(商業担当大臣)とは,現状の政府機構においては,競争・通信大臣を指す。

3 規制の概要

(1) 反競争的協定(第5条)

 事業者間の協定及び協調的行為並びに事業者団体の決定であって,競争を妨げ,制限し,若しくは歪曲する目的又は効果を有するものは禁止されている。禁止される行為類型として,規定上次のものが挙げられている(第5条第1項)。
[1] 直接又は間接的に購入価格,販売価格又はその他の取引条件を決定すること
[2] 生産,販売,技術開発又は投資を,制限又は統制すること
[3] 市場又は供給源を割り当てること
[4] 協定に参加しない取引の相手方に対して,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
[5] 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が承諾する事を契約締結の条件とすること
 第5条第1項に違反するいかなる協定又は決定も,自動的に無効とされる(第5条第2項)。
 なお,商品・サービスの生産・販売の改善又は技術的・経済的進歩の促進に役立ち,かつ,消費者に対しその結果として生じる利益の公平な分配を行うものであって,参加事業者に必要不可欠でない制限等を課さない協定等については,適用免除とすることができる(第5条第3項)。また市場に対する影響が軽微な協定等については適用しない(第6条)ほか,競争・通信大臣は,競争庁長官に協議の上,一定の種類の協定等を適用免除とすることができる(第8条)。

(2) 支配的地位の濫用(第9条)

 支配的地位とは,「競争事業者,供給者又は消費者から独立して,当該市場における効率的競争の維持を相当程度阻害することができる能力を持つ一以上の事業者が有する経済力的地位」(第2条)であり,このような地位を有する者の以下の行為を支配的地位の濫用として禁じている。
[1] 直接又は間接的に,過度の若しくは不公正な購入価格・販売価格又はその他の取引条件を押し付けること
[2] 当該市場から競争者を排除する目的で,採算のとれない価格で販売すること
[3] 生産,販売又は開発技術を制限し,消費者に不利益を与えること
[4] 当該市場から競争者を排除する目的で,無差別に商品又はサービスの供給を拒絶し,消費者に不利益を与えること
[5] 取引の相手方に対して,同等の取引について価格差別を含め異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
[6] 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が承諾する事を契約締結の条件とすること

(3) 企業結合規制

ア 規制の概要

 企業結合は,企業集中規制規則(Regulations on Control of Concentrations)(2002年制定,2007年改正)(以下「規則」という。)によって規制されている。企業結合は,競争を実質的に減少させることとなる場合は禁止される(規則第4条)。
 次の基準をすべて満たす合併,他の事業者の事業の一部又は全部の取得及び自律的経済主体として営まれる永続的な共同事業の設立は,規制の対象となる(規則第2条)。
[1] 当事者のマルタ国内における前年度売上高の合計が100万マルタリラ(LM)超
[2] 各当事者が結合後の合計売上高の10%に当たる金額以上の売上高をマルタ国内で得ている

イ 届出

 規制の対象となる企業結合を行う場合,取得を行う事業者(合併及び事業全体の取得の場合は当事者すべて)は,合併合意の締結,公開買い付けの発表又は支配権の取得後のいずれか一番早いものから15営業日以内に競争庁に届出を行わなければならない(規則第5条)。

ウ 競争庁における審査

 競争庁長官は,届出から6週間以内に審査を終了する。しかし,届出後5週目最終日までに事業者から追加の確約が提出された場合,当該審査期間は2か月まで延長することができる(規則第9条)。審査に当たっては次の点を考慮する(規則第4条)。
[1] すべての関連市場の構造,国内外の事業者の現実的又は潜在的競争等,国内市場における効率的競争の維持及び発展の必要性
[2] 企業結合の対象となる当事者の事業又は事業の一部が破綻している又は破綻する蓋然性があるか否か
[3] 当該市場における発展・進歩の特性及び程度
[4] 当該事業者の市場における地位及び経済財政力,供給者及び需要者から入手可能な代替品,供給又は市場へのアクセス,参入に関する法律等の障壁,当該商品又はサービスに対する需給動向,中間業者及び最終消費者の利益,消費者の利益となり競争を阻害する方法とならない技術開発及び経済進歩
 審査の結果,競争を減少させるおそれがある場合,競争庁長官は,詳細審査を行うことを決定するとともに,審査期間を最長4か月間延長する(規則第6条,第9条)。
 競争庁長官の決定は,公表される。当該決定に対して不服がある者は,15日以内に委員会に対して不服申立てを行うことができる(第13A条)。

エ 簡略審査

 営業・資産譲渡等の規模が30万マルタリラ以下の小規模の共同支配・共同事業,商品・地理的市場が重複しない企業結合,商品・地理的市場が重複する場合の市場シェア15%以下又は上流及び下流市場を含めた商品市場における企業結合後のシェアが25%以下の企業結合については,簡略審査手続が採られる。競争庁は4週間以内に当該企業結合に対する決定を下さなければならない(規則第12条)。

4 法執行手続

(1) 審査手続

 競争庁は,自らの職権,競争・通信大臣からの要請,事業者からの申告又は加盟国競争当局若しくは欧州委員会からの要請に基づき,自ら又は委員会がその機能を実施するために必要な情報を収集する。審査に当たっては,競争庁長官は,審査に関連があると考えられる理由がある場合には,いかなる相手方に対しても情報の提供,書類の写しを求めることができ,また,証言の録取を行うことができる。さらに,委員会委員長の令状(warrant)に基づき,事業所,移動機関等に対して立入検査を行うことができるほか,事業用の建物,帳簿及び記録を封印することができる。立入検査に当たっては警察の支援を得ることも可能である(第12条)。

(2) 違法行為に対する措置

ア 排除措置命令及び遵守命令

 競争庁は,第5条(反競争的協定)又は第9条(支配的地位の濫用)に違反した事業者及び事業者団体に対して,違反行為の認定の決定を行うとともに,違法行為を迅速かつ効果的に停止させるため,排除措置命令
 及び遵守命令を行うことができる(第12A条第1項,第13条第1項)。また,緊急を要する場合には,委員会に対して仮差止めを求めることができる(第15条)。
 競争庁が行った決定及び命令に関しては,命令を受けた者は15日以内に委員会に対して審理を求めることができる(第13A条)。
 また競争庁は,第5条又は第9条違反に関してその結果が重大な違反であった場合,及びEC条約第81条又は第82条の違反があった場合,委員会に対して違反事実を報告しなければならない。委員会は報告を受けた上で排除措置命令又は遵守命令を行うか否かを決定する(第12A条第2項・第3項,第13条第2項)。
 委員会の決定に不服がある場合,民事裁判所に提訴することができる。

イ 刑事罰

 第5条及び第9条に違反した個人には,当該企業が違反行為によって得た売上げの前年度分の1%以上10%以下の罰金(罰金額は3000マルタリラを下回る場合には3000マルタリラ)が科される。当該個人の所属する事業者は,連帯して罰金を支払う責任を負う(第21条)。
 競争庁による審査手続又は委員会による手続の中で課された義務に従わなかった個人は,100マルタリラ以上1000マルタリラ以下の罰金又は3か月から6か月の禁錮刑に処せられる(第23条)。
 ただし,競争庁長官は,当該違反行為者との間で,委員会の同意を得た上で,当該違反行為者が罰金の下限額の50%以上かつ上限額の70%以下の金額を払うことを条件に,同違反行為者に対する刑事的責任を消滅させる旨の協定を結ぶことができる(第26B条)。

5 私訴

 競争法違反行為に係る損害賠償請求については,民法(Civil Code Chapter16, Law of Malta)に規定に従い提訴が可能である。
 

「アルファベット目次」に戻る

ページトップへ