ミャンマー(Myanmar)

(2021年6月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

(1) 名称

 競争法(The Competition Law。以下,特段の記載がない限り,条文番号は競争法の条文番号を指す。)

(2) 制定及び施行

 2015年2月制定,2017年2月施行
 また,競争規則(以下「規則」という。)が2017年に制定された。

(3) 競争法の構成

 第1章 表題,施行日及び定義(第1条~第2条)
 第2章 目的(第3条)
 第3章 基本原則(第4条)
 第4章 委員会の構成(第5条~第7条)
 第5章 委員会の権限と義務(第8条~第10条)
 第6章 審査委員会の構成,機能及び義務(第11条~第12条)
 第7章 競争制限行為(第13条~第14条)
 第8章 市場独占(第15条~第16条)
 第9章 不公正な競争(第17条~第29条)
 第10章 事業者間の提携(第30条~第33条)
 第11章 行政措置及び不服申立て(第34条~第38条)
 第12章 罰則(第39条~第44条)
 第13章 雑則(第45条~第56条)

2 執行機関

(1)  名称

 ミャンマー競争委員会(Myanmar Competition Commission:MmCC(以下「MmCC」という。)

 (2)  設立

 2018年10月

 (3)  MmCCの構成等

 MmCCは,委員長及び8名以上の委員から構成される(第5条及び規則第5条)。商務大臣は,法律,経済又はビジネスの専門知識及び関連分野の実務経験を持つ者の中から委員長及び委員の候補を政府に提出する(規則第3条,第6条及び第7条)。
 委員の任期は3年間であり,連続して2期以上務めることはできないが,知見その他の条件によって任期が延長されることがある(規則第9条及び第10条)。
 また,MmCCの事務を行うために事務局が設置される(第5条及び規則第22条)。
 MmCCは,競争法において,独立してその機能及び義務を実施する(第7条)。ただし,MmCCは組織上商務省の下に設置されており,商務大臣はMmCCの業務に対して責任を負う(第54条)。

3 規制の概要

(1) 競争制限行為

 競争制限行為とは,市場における事業者間の競争を減殺又は妨害する行為を意味し,反競争的合意,支配的地位の濫用及び独占化を含む(第2条g項)。そして,次の行為は競争制限行為に該当し,禁止されている(第13条)。
ア 直接的又は間接的に売買価格を決定すること
イ 市場における競争を制限する合意をすること
ウ 関連市場における支配的状態を濫用すること
エ 市場を制限すること
オ 原料供給を制限及び妨害すること
カ 製造,企業買収,技術革新,投資等を制限又は支配すること
キ 入札談合

 なお,MmCCは,事業能力の向上に資する行為,商品又はサービスの品質改善のために技術を向上させる行為,商品の品質及び技術水準を均一的に向上させる行為,事業活動や流通,支払方法を均一にする行為であって,価格又は価格に関するものでないもの,中小企業の競争力を強化する行為並びに国家の国際競争力を強化する行為について,期間を定めて第13条の適用を免除することができる(第14条)。

(2) 市場独占

    市場における独占をもたらす次の行為は禁止される(第15条)。
ア 商品又はサービスの売買価格を統制すること
イ 価格を統制するために,他の事業者に対して直接又は間接的に,サービスや製造を制限したり,商品売買の機会を制限したり,義務的な条件を定めたりすること
ウ 正当な理由なくサービス,製造,購入,流通若しくは輸入を停止,削減若しくは制限すること又は品質を低下させ需要を減少させるために商品を損壊すること
エ 他の事業者の参入阻止及び市場シェアの統制のために,商品又はサービスの取引地域を制限すること
オ 他の事業者の事業活動を不当に妨害すること

 なお,事業者は,MmCCの許可を得て,他の事業の維持又は新事業の創造を目的として,他の事業における事業者と協力したり,他の事業者の全て又は一部の資産又は株式を取得したりすることができる(第16条)。

(3)  不公正な競争

 不公正な競争とは,他の事業者や消費者の正当な権利や利益に損害を与える又は損害を与えるおそれがある行為であるところ(第2条h項),次の行為が該当し,禁止されている(第17条~第29条)。
ア 消費者を誤認させること
イ 事業上の秘密を漏洩すること
ウ 他の事業者に強制すること
エ 他の事業者の評判を毀損すること
オ 他の事業者の事業を妨害すること
カ 不公正な競争を目的とした広告又は販売促進を行うこと
キ 事業者間で差別すること
ク 製造原価を下回る価格で販売すること
ケ 事業上の影響力を濫用すること又は契約相手に他の事業者との契約を破棄するよう説得すること
コ 必要に応じて消費者の利益のためにMmCCが指定する行為

(4)  企業結合規制

 ミャンマーにおける企業結合は,「事業者間の提携」として規制されているところ,事業者間の合併,事業者間の統合,他の事業者の買収,ジョイントベンチャー及びその他MmCCが指定するものが含まれる(第30条)。そして,これらの提携が①一定期間において市場支配を著しく強化することを意図している場合,②独占又は寡占をもたらして競争を減少させることを意図している場合,当該提携は禁止される(第31条)。
 また,提携後の市場シェアがMmCCによって定められた市場シェアを上回る場合は,当該提携を行うことができない(第32条)。ただし,当該提携の実施後においても中小企業に該当する場合,当該提携の当事者が破綻又は破産の危機に直面している場合及び当該提携が輸出の促進,技術革新又は事業の創出に有効な場合は,第31条の適用が除外される(第33条)。

4 法執行手続

(1)  審査手続

ア 端緒
 競争法違反を認識している者又は疑う者は,何人もMmCCに直接又は事務局を通じて申告することができる(規則第53条)。事務局は,当該申告の有効性をその受領から7日以内に審査してMmCCに報告する(規則第56条)。MmCCは,申告人に対して,申告を踏まえた対応の有無を書面で通知する(規則第57条)。
 
イ 調査
 MmCCは5名以上9名以下で構成される審査委員会(Investigation Committee)を形成する(第11条)。審査委員会は,MmCCから命じられた場合に調査を実施する(規則第59条)。審査委員会には,証拠や書類の提出依頼,証人への質問,立入検査等の権限が認められている(第12条)。
 審査委員会は,MmCCの指示を受けて7日以内に審査を開始し,審査開始後90日以内に最終審査報告書をMmCCへ提出するが,必要に応じて期間の延長を求めることができる(規則第32条)。また,必要に応じて,審査活動のためにワーキンググループを形成することができる(規則第33条)。
 審査委員会は,報告書において,調査結果に関する評価をMmCCに報告する(規則第70条)。MmCCは審査委員会から提出された報告書を検討し,刑事告発を行うか否か決定する(規則第72条)。
 
ウ 決定
 審査委員会は,競争法に基づき発出された命令,手続等の違反に対して行政措置を講じる場合,会議を開催して措置を議論及び決定する。関係人は,当該会議に参加し,意見を述べることが認められている(規則第81条)。行政措置は審査委員会による判断が下された日から効力が生じる(規則第82条)。また,当該決定は申告人に書面で通知される(規則第83条)。
 MmCCは,審査委員会からの報告書を検討した結果,刑事告発が必要と判断した場合,審査委員会に警察への刑事告発を指示する(規則第91条)。

(2)  措置

ア 行政処分
 審査委員会は,競争法に基づき発出された命令,手続等に違反する事業者に対し,次に掲げる措置のいずれか又は複数を採ることができる(第34条)。
(ア)警告
(イ)制裁金の賦課
(ウ)事業の一時的又は永続的な停止のための関係省庁との調整
 
イ 刑事罰
 以下のとおり,違反行為類型ごとに刑事罰が規定されている。

違反行為 罰則 根拠条文
第13条違反(競争制限行為)
第23条,第24条,第29条違反(一部の不公正な競争)
3年以下の禁固刑若しくは1500万チャット以下の罰金又は併科 第39条,第40条
第15条違反(市場独占)
第19条,第22条,第26条,第27条(一部の不公正な競争)
第31条,第32条(事業者間の提携)
2年以下の禁固刑若しくは1000万チャット以下の罰金又は併科 第41条
第18条,第20条,第21条,第25条,第28条(一部の不公正な競争) 1年以下の禁固刑若しくは500万チャット以下の罰金又は併科 第42条


 また,理由なく審査委員会の情報提出の要求に応じないこと,証人としての召喚に応じないこと等の調査妨害行為は,3か月以下の禁固刑又は10万チャット以下の罰金の対象となる(第43条)。

(3) リニエンシー制度

 MmCCは,第13条(競争制限行為)に違反した者が,その違反を報告した場合,措置の減免について裁判所等と協議することができる(第52条)。リニエンシーの認定に当たっては,協力時期や協力内容によって異なる減免率が認定される(第53条)。
 減免率については,規則第76条に次のとおり規定されている。

報告時期 報告順位 減免率
調査開始前の報告 第1位 100%(完全な協力が認められた場合)
80%(完全ではないが,補完的な協力が認められた場合)
第2位 50%
第3位から第5位 30%
調査中の報告 第1位から第3位 30%


 リニエンシーは最大5社まで認められる(規則第75条)。違反行為の首謀者(ringleader)からの申請は認められず,リニエンシー申請者は審査委員会が認識していない証拠や情報を提供し,調査期間中を通して十分に協力する義務がある(規則第77条)。

(4) 不服申立て

 審査委員会の措置の決定に対して不服がある者は,当該決定の受領から60日以内にMmCCに不服を申し立てることができる(第35条)。MmCCは,現決定の是認,修正又は破棄をすることができ,MmCCによる決定が最終決定となる(第36条)。

5 損害賠償

 競争法違反の被害を受けた者は,民事訴訟を提起し,その損害の回復を求めることができる(第51条)。

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