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南アフリカ共和国(South Africa)

南アフリカ共和国(South Africa)

(2021年5月)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

(1) 競争法制の名称

 1998年競争法第89号(the Competition Act,1998(Act No.89 of 1998)。以下「競争法」という。)。
 競争法は,1998年10月30日に公布され,同年11月30日に施行された。
 なお,競争法は,2018年改正競争法(the Competition Amendment Act,2018(Act No.18 of 2018)により改正されている。
 

(2) 競争法の構成

 競争法は,下記のとおり8つの章と3つの附則から構成される。

第1章 定義,解釈,目的及び適用
第2章 禁止行為
第3章 企業結合規制
第4章 競争委員会,競争裁判所及び競争不服申立裁判所
第5章 審査及び裁定手続
第6章 執行
第7章 違反に対する措置
第8章 一般規定
附則1 専門職団体に係る規制の適用除外
附則2 法律の廃止
附則3 経過措置

2 執行機関

 競争法の執行については,競争委員会(Competition Commission)が競争法違反被疑行為について審査し,競争裁判所(Competition Tribunal)が当該審査の結果に基づき,措置を課す仕組みとなっている。
 

(1) 競争委員会

ア 権限
 競争委員会は,主に下記の権限等が与えられている(競争法第21条第1項)。
①市場調査(同項第a号及び競争法第43B条)
②競争法の普及啓発(同項第b号)
③禁止行為に係る審査(同項第c号)
④禁止行為の適用除外に係る申請の認可(同項第d号)
⑤届出対象となる企業結合案件の承認,条件付承認,禁止又は競争裁判所への付託(同項第e号)
 
イ 構成等
 競争委員会は,1名の委員長及び1名ないし複数名の副委員長から構成され,いずれも貿易産業大臣により任命される(競争法第19条第2項)。委員長の任期は5年であり,再任が可能である(競争法第22条第1項及び第2項)。
 

(2) 競争裁判所

ア 権限
 競争裁判所は,禁止行為に係る措置を課す役割を担っており,下記の権限等が与えられている(競争法第27条第1項)。
①禁止行為がなされたか否かを判断し,禁止行為がなされたと判断した場合には,競争法に基づく措置を課すこと(同項第a号)
②競争委員会から申立てを受理し,競争委員会による決定を審査すること(同項第c号)
 
イ 構成等
 競争裁判所は,1名の裁判長及び3名以上10名以下の裁判官から構成され,いずれも大統領により任命される(競争法第26条第2項)。競争裁判所の裁判長及び裁判官の任期は5年であり,再任が可能であるが,三期連続して任命してはならない(競争法第29条第1項及び第2項)。
 

(3) 競争控訴裁判所

ア 権限
 競争控訴裁判所は,憲法で規定された高等裁判所に相当する位置付けの裁判所であり(競争法第36条第1項第a号),同意命令を除く競争裁判所の決定を審査することができる(競争法第37条第1項)。
 
イ 構成等
 競争控訴裁判所は,少なくとも3名の高等裁判所の裁判官から構成され,うち1名を裁判長とする(競争法第36条第2項)。
 

3 規制の概要

競争法は,第2章で水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用について,第3章で企業結合規制について,それぞれ規定している。
 

(1) 水平的制限行為

 水平的関係にある事業者間における協定若しくは協調的行為又は事業者団体による決定であって,下記のものは禁止される(競争法第4条第1項)。
ア 市場における競争を実質的に制限又は減少させるもの。ただし,これらの協定,協調的行為又は事業者団体による決定から生じる,技術的,効率的又は他の競争促進的効果が反競争的効果を上回ることを当事者が証明できる場合は,この限りでない。
イ 次に掲げる行為が含まれるもの
①購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を直接又は間接に決定すること
②顧客,供給業者,地域又は特定の種類の商品若しくはサービスを分配することによって市場を分割すること
③入札談合
 

(2) 垂直的制限行為

 垂直的関係にある事業者間における協定であって,市場における競争を実質的に制限又は減少させるものは禁止される(競争法第5条第1項)。ただし,当該協定から生じる技術的,効率的又は他の競争促進的効果が反競争的効果を上回ることを当事者が証明できる場合は,この限りでない。
 また,再販価格維持行為は禁止される(競争法第5条第2項)。ただし,供給業者又は生産者が,再販売業者に対して最低販売価格を推奨したものの,当該価格は拘束力を有しないことを明確にしている場合,又は製品自体に「推奨価格」と表示されている場合は,この限りでない(競争法第5条第3項)。
 
(3) 市場支配的地位の濫用
ア 市場支配的地位
 以下に掲げる事業者は市場支配的地位を有するものとされる(競争法第7条)。

市場シェア 市場シェア以外の要件
45%以上
35%以上45%未満 市場支配力を有していないことを自ら証明できない場合
35%未満 市場支配力を有している場合

 
イ 禁止行為
 市場支配的地位にある事業者を有する以下の行為は禁止される(競争法第8条及び第9条)。
① 消費者を害する程度の著しく高い価格を設定すること
② 不可欠施設(essential facilities)に対するアクセスについて,経済的には提供可能であるにもかかわらず拒否すること
③ 次に掲げる排他的行為を行うこと。ただし,当該行為から生じる技術的,効率的又は他の競争促進的効果が反競争的効果を上回ることを,当事者が証明できる場合は,この限りでない。

・ 供給業者又は顧客に対して,競争者と取引しないことを要求又は誘導すること
・ 競争者又は顧客に対して,希少な商品又はサービスを供給することが経済的に可能であるにもかかわらず,その供給を拒否すること
・ 購入者に対して,契約の対象とは関係のない商品若しくはサービスの購入を条件として商品若しくはサービスを提供すること,又は契約の対象とは関係のない条件の受入れを強制すること
・ 略奪的な価格で商品又はサービスを販売すること
・ 競争者が必要とする希少な中間財又は資源を買い占めること
・ マージンスクイーズ(margin squeeze)を行うこと

④ 上記③以外の排他的行為のうち,当該行為から反競争的効果が,技術的,効率的又は他の競争促進的効果を上回るものを行うこと
⑤ 販売者として,以下の価格差別を行うこと

・ 競争を実質的に制限又は減少させる可能性のあるもの
・ 異なる購入者への同等・同質の商品又はサービスに係る同等の取引における販売に関するもの
・ 購入者間において取引条件(価格設定,割引・手当・リベート等の提供,付随的サービスの提供又はサービスの支払の提供)で差別するもの
 

(4) 企業結合規制

ア 概要
 事業者が,株式取得,資産取得,合併等の,他の事業者の事業の全部若しくは一部を直接に若しくは間接に取得し又はその支配を確立する行為は,企業結合規制の対象となる(競争法第12条第1項)。また,「支配」とは,①他の事業者の発行済株式の50%以上を保有する場合,②定時株主総会において過半数の議決権を有する場合,③過半数の取締役の指名を承認又は拒否する権限を有する場合等である。
 
イ 届出要件等
 競争法において,企業結合を以下の3類型に分類している(競争法第11条第5項)。

類型 南アフリカ国内における年間売上額又は資産額
買収後の当事会社 被買収者
大規模企業結合 66億ランド超 1.9億ランド超
中規模企業結合 6億ランド以上66億ランド以下 1億ランド超1.9億ドル以下
小規模企業結合 大規模企業結合又は中規模企業結合に該当しないもの

 大規模企業結合又は中規模企業結合を行う当事者は,競争委員会に対して事前に届出をしなければならない(競争法第13A条第1項)。小規模企業結合については,原則として事前の届出は不要であるものの,当該企業結合を実行した後6か月以内に,競争委員会が競争を実質的に制限又は減少させる可能性があるとして届出を要求する場合等には,例外的に届出が必要となる(競争法第13条第3項)。
 当事会社が必要とされる届出を懈怠した場合,競争裁判所は以下の措置を採ることができる(競争法第59条第1項第d号(i)及び第2項並びに第60条第1項)。
①違反行為を行った者の直近事業年度における南アフリカ及び南アフリカからの輸出に係る年間売上額の10%以下の制裁金の賦課
②違反行為を行った者が,当該企業結合により取得した株式,資産等の売却命令
③当該企業結合の対象となった契約の規定の破棄に係る宣言
 
ウ 審査
 競争委員会又は競争裁判所は,まず,当該企業結合が競争を実質的に制限又は減少させるものであるか否かについて,①市場の輸入品との実際及び潜在的な競争の程度,②市場への参入の容易性,③市場集中度や傾向及び過去の共謀の有無,④市場における対抗力の程度等を考慮して検討する(競争法第12A条第1項及び第2項)。
 その結果,当該企業結合が競争を実質的に制限又は減少させるものである場合には,当該企業結合が,公共の利益に照らして正当化されるか否かなどについて,①特定の産業分野又は地域,②雇用状況,③中小事業者又は歴史的にみて経済的に不利な立場にある者により,支配又は所有されていた事業者が市場に参入し,成長する能力,④国際市場で競争するための国内産業力に与える影響を考慮して検討する(競争法第12A条第1項及び第3項)。
 
エ 承認
 競争委員会は,中規模企業結合について,届出を受理してから原則として20営業日以内に(40営業日を超えない範囲で延長可),当該企業結合について,上記ウに掲げる基準に基づき審査し,承認,条件付承認又は不承認の決定を行う(競争法第14条第1項)。
 また,競争委員会は,大規模企業結合について,届出を受理した場合には,競争裁判所及び貿易産業大臣に報告し,原則として40営業日以内に,競争裁判所及び貿易産業大臣に対して,当該企業結合について,承認,条件付承認又は不承認のうちいずれの決定を行うべきか,理由を付して提言する(競争法第14A条第1項)。競争裁判所は,当該企業結合について,競争委員会による提言を受けて,上記ウに掲げる基準に基づき審査し,承認,条件付承認又は不承認の決定を行う(競争法第16条第2項)。
 

(5) 適用除外

 事業者は,競争委員会に対して,水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用に関して,適用除外の申請を行うことができる(競争法第10条第1項)。競争委員会は,当該申請を受理した場合,適用除外の承認又は不承認を決定する(競争法第10条第2項)ところ,原則として,以下の目的を達成する場合に限り,適用除外を承認することができる(競争法第10条第3項)。
①輸出の維持又は促進
②中小事業者又は歴史的にみて経済的に不利な立場にある者により支配又は所有される事業者が市場に参入し,拡大する能力
③産業の衰退を阻止するために必要な生産能力の変化
④貿易産業大臣によって指定された産業の経済的発展,経済成長,経済転換(economic transformation)又は経済的安定

 

4 法執行手続

 水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用についての法執行手続は以下のとおりである。
 

(1) 端緒

 水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用の端緒は,市民による競争委員会への申告,リニエンシー制度による禁止行為を行った者による自主申告,競争委員会の職権又は市場調査に基づく探知のいずれかであることが一般的であるとされる。
 

(2) 審査権限

ア 立入検査
 審査官又は警察官は,高等裁判所裁判官等により発行された令状に基づき立入検査を行うことができる(競争法第46条及び第48条)。
 
イ 召喚
 競争委員会委員長は,審査期間中において,審査対象に関する情報等を提供することが可能と思われる者を召喚することができる(競争法第49A条第1項)。召喚された者は,質問に対して,誠実かつ真摯に回答しなければならない(競争法第49A条第2項)。
 
ウ 申告の結果の報告
 競争委員会委員長は,申告が提出されてから1年以内に,水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用を認定する場合には競争裁判所に報告し,それ以外の場合には申告人に対してその旨を通知する(競争法第50条及び第51条)。
 
エ 同意命令
 審査又は市場調査の期間中,終了時又は終了後において,競争委員会及び審査対象者又は市場調査の対象者が,適切な命令の内容に合意した場合,競争裁判所は,下記(3)の手続を経ることなく,同意命令として,当該合意を承認することができる(競争法第49D条第1項)。
 

(3) 決定

競争裁判所は,聴聞を実施した上で,当該聴聞の結果を踏まえ,文書による理由を付して,違反行為を行った者に対する措置(下記5参照)を決定する(競争法第52条第1項及び第4項)。
 

(4) 不服申立てに係る手続

競争裁判所の決定に不服のある者は,管轄の競争控訴裁判所に対して,当該決定の内容について不服を申し立てることができる(競争法第17条,第37条及び第61条)。
 

(5) 執行手続

競争委員会,競争裁判所又は競争控訴裁判所による決定,判決又は命令は,高等裁判所による命令とみなされ,執行される(競争法第64条第1項)。
 

(6) リニエンシー制度

水平的制限行為に関与した事業者に対するリニエンシー制度が存在し,以下の要件を全て満たす者は課徴金の全額免除の対象となる(競争法第49E条並びに企業リニエンシーポリシー第5.5条,第9.1.2.1条及び第10.1条)。
①保有する全ての関連する証拠,情報及び文書を競争委員会に提出すること
②競争委員会に対する最初の申請者であること
③審査の終了及び裁判所における手続が完了するまで,競争委員会に全面的に協力すること
④競争委員会の指示に従い,水平的制限行為を直ちに取りやめること
⑤他の関与者や第三者に対し,リニエンシー申請の事実を明らかにしないこと
⑥関連する情報,証拠及び文書を破壊,改ざん,隠匿しないこと
⑦関連する重要な事実について虚偽の報告をしないこと
⑧競争委員会による審査の開始前であること
 

(7) 時効

禁止行為が,水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用に係る申告がなされた日より3年以上前に終了している場合には,審査は開始されない(競争法第67条第1項)。
 

5 措置等

(1) 競争裁判所による命令

 競争裁判所は,禁止行為に対して,以下の措置を採ることができる(競争法第58条第1項)。
①禁止行為等に関連した禁止命令
②禁止行為を終了させるための,合理的な取引条件による商品又はサービスの提供の命令
③禁止行為を行った者に対する制裁金納付命令
④違法な企業結合を実施した事業者に対する株式,資産等の売却命令
⑤事業者の行為が禁止行為に該当する旨の宣言
⑥禁止行為を行った者による協定の全部又は一部の無効宣言
⑦合理的な条件による不可欠施設へのアクセスの命令
 

(2) 競争裁判所による制裁金

 競争裁判所は,①水平的制限行為,垂直的制限行為及び市場支配的地位の濫用に該当する場合又は②企業結合規制違反に該当する場合等には,事業者に対して,直近事業年度における南アフリカ及び南アフリカからの輸出に係る年間売上額の10%以下の制裁金を賦課することができる(競争法第59条第1項及び第2項)。また,同一の禁止行為を再度行った事業者に対して,直近事業年度における南アフリカ及び南アフリカからの輸出に係る年間売上額の25%以下の制裁金を賦課することができる(競争法第59第2A項)。
 

(3) 競争裁判所による仮差止命令

 競争裁判所は,以下のとおり,仮差止命令を発することができる(競争法第49C条)。
①申告人は,違反被疑行為について,競争裁判所に対して,いつでも,仮差止めを命じるよう申立てを行うことができる。
②競争裁判所は,仮差止めを命じることの合理性,違反被疑行為に関する証拠,申告人に対する重大又は回復できない損害を防止する必要性などが認められる場合,仮差止命令を発することができる。
③仮差止命令は,当該違反被疑行為に係る決定がなされるまでの期間又は仮差止命令の発出後6か月のいずれか早い時点を超えて認められないが,仮差止命令の発出後6か月以内に決定がなされなかった場合には,更に6か月を超えない範囲で延長することができる。
 

(4) 治安裁判所(Magistrate’s Court)による罰則

 秘密情報の漏洩,召喚の拒否,仮差止命令及び命令違反等の禁止行為については,以下の罰則が科される(競争法第74条)。
①競争裁判所又は競争不服申立裁判所の命令に違反した場合には,50万ランド以下の罰金,10年以下の懲役又はその双方が科される。
②その他の場合には,1万ランド以下の罰金,6か月間以下の懲役又はその双方を科される。
 

6 その他

 競争法は,被害者救済の観点から,民事訴訟について規定しているところ(競争法第65条),競争裁判所又は競争控訴裁判所による決定は,原則として,裁判所に対する拘束力が認められている(競争法第65条第2項)。また,被害者が民事訴訟を提起する場合,競争裁判所から禁止行為があった旨の証明書の交付を受けることができるところ(競争法第65条第6項第b号),当該証明書の内容も裁判所に対する拘束力を有するものとされている(競争法第65条第7項)。
 なお,同意命令の対象となった行為により損害賠償を受けた者は,その損害額及び損害の評価や裁定を求めて,民事訴訟を提起することはできない(競争法第65条第6項第a号)。
 

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