(2021年9月現在)
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1 根拠法
(1) 名称
2004年競争法(The Competition Act (Chapter 50B)。以下「競争法」といい,特に記載がない限り,条文番号等は競争法の条文等を指す。)。
(2) 制定の経緯等
ア 制定,施行等
競争法は,2004年10月に国会で可決・成立した。そして,2005年に執行機関である競争委員会(Competition Commission of Singapore。以下「CCS」という。)の設立に係る規定が先行して施行された後,2006年に企業結合関係規定を除く大半の規定が,2007年に企業結合関係規定等が,それぞれ施行された。CCSは,2018年4月に競争・消費者委員会(Competition and Consumer Commission of Singapore。以下「CCCS」という。)に改組された。
イ ガイドラインの策定
2005年のCCSの設立後,各種ガイドラインの策定が行われた。このうち,「2016年競争法主要事項に関するCCCSガイドライン」(以下「主要事項ガイドライン」という。)において,競争法の規制概要及び執行方針が明らかにされている。
なお,ガイドラインは,法的拘束力を持たないものの,競争法の解釈の補助的機能を有するものである(主要事項ガイドライン第1.5項)。
ウ 改正
競争法は,2004年の可決・成立後,2007年,2010年,2015年及び2018年に改正されている。このうち2018年改正の主な内容は,①競争制限的協定及び支配的地位の濫用における確約制度の導入,②企業結合の事前相談制度の法制化及び③CCCSの調査時の質問権の明確化である。
(3) 競争法の構成
第1章 前文(第1条~第2条)
第2章 競争・消費者委員会(第3条~第32条)
第3章 競争(第33条~第70条)
第4章 審判(第71条~第74条)
第5章 罰則(第75条~第84条)
第6章 雑則(第85条~第94条)
第7章 競争・消費者委員会への事業移管(第95条~第100条)
2 執行機関の概要
(1) 執行機関
競争法の執行機関は,CCCSである。その権限は,競争法の執行のほか,消費者保護(公正取引)法(Consumer Protection(Fair Trading)Act)の執行も含むものとなっている。
(2) 権限
CCCSは,ガイドラインの策定(第61条),立入検査(第64条~第65条)・報告徴収等の調査活動(第61A条),決定の発出(第68条~第69条),適用免除の承認等(第36条~第41条)を行う権限のほか,主なものとして,下記の権限を有している(第7条及び競争法別表第2)。
ア 競争法の執行に必要な調査の実施(別表第2第1項)
イ 競争法の執行に必要な情報提供の要求(別表第2第2項)
ウ 競争に関連する取引規約の承認,承認の取消し等(別表第2第3項)
エ 競争に関連する教育活動の実施,教材の発行又は他の機関による同様の活動に対する支援若しくは情報提供(別表第2第4項)
オ 競争に関連する研究,セミナー,ワークショップ及びシンポジウムの実施又は他の機関による同様の活動の支援(別表第2第5項)
カ 競争法その他の成文法に基づくCCCSの機能に付随する事項(別表第2第15項)
(3) CCCSの構成,委員長等の任期等
CCCSは,貿易産業大臣により任命される委員長及び2名以上16名以下の委員により構成される(第5条)。委員の任期は3年以上5年以下(貿易産業大臣が決定)であり,再任も可能である(別表第1第3項)。
また,CCCSの事務方の最高責任者であるチーフエグゼクティブ(Chief Executive)は,公共セクター(ガバナンス)法(Public Sector (Governance) Act 2018)に従い,任命,解任,懲戒及び昇進が行われる(第10条)。貿易産業大臣は,チーフエグゼクティブを委員に任命することができる(別表第1第1項)。
3 規制の概要
(1) 競争制限的協定等の禁止
ア 概要
競争法では,カルテル,垂直的な競争制限的協定など,シンガポール国内における競争を阻害,制限又は歪曲する目的又は効果のある事業者間の協定,事業者団体の決定及び協調的行為(以下「競争制限的協定等」という。)が禁止されている(第34条)。シンガポール国外において締結された協定や,協定を締結した当事者がシンガポール国外にいる場合であっても,当該禁止の対象となる(第33条第1項(a)及び(b))。
競争制限的協定等には,以下の協定等が含まれる(第34条第2項で例示)。
・直接又は間接に売買価格又は取引条件を拘束する協定等
・生産,販売,技術開発又は投資を制限又は支配する協定等
・市場又は供給源を分割する協定等
・同種の取引に関して,相手方により異なる条件を設定して当該相手方に競争上の不利益を与える協定等
・取引の相手方に対し,性質上又は商慣習上,当該取引と無関係の追加的義務を負担させる協定等
また,第34条に関するCCCSガイドライン(以下「第34条ガイドライン」という。)において,競争制限的協定に含まれるものとして以下が例示されている(第34条ガイドライン第3.2項)。
・直接又は間接に価格を拘束する行為
・入札談合
・市場分割
・生産,技術開発又は投資を制限又は支配する行為
・取引条件を拘束する行為
・共同購入又は共同販売
・情報共有
・価格に関する情報交換
・価格以外に関する情報交換
・広告の制限
・技術又は設計の標準設定
競争制限的協定が競争法違反と認定されるためには,当該協定が実質的な競争制限効果を有していることが要件となる(第34条ガイドライン第2.1項)。実質的な競争制限効果の有無は総合的に判断されるが,実質的な競争制限効果が認められるためには,競争者(いずれかの関連市場において実際の競争者又は潜在的な競争者である事業者)間の協定については,当該協定の参加者の市場シェアの合計が当該協定の影響を受ける関連市場において20%を超えることが必要であり,また,非競争者(いずれの関連市場においても実際の競争者でも潜在的な競争者でもない事業者)間の協定の場合については,当該協定の参加者のうちいずれかの市場シェアが当該協定の影響を受ける関連市場において25%を超えることが必要であるとされる(第34条ガイドライン第2.25項)。
イ 垂直的な競争制限的協定の取扱い
競争法においては,垂直的な競争制限協定として,①貿易産業大臣が指定したもの及び②知的財産権を主たる目的とする契約(ライセンス契約等)が第34条の禁止対象となっている(別表第3第8項及び第34条ガイドライン第2.14項)。しかしながら,現時点では,①に係る指定はなされていない。
ウ 第34条の適用除外
競争法においては,競争制限的協定(第34条)の適用除外が認められている(第35条)。主なものは,下記のとおり(別表第3)。
・成文法により課された規制を遵守するために必要な協定(別表第3第2項(1))
・シンガポールが国際的義務との摩擦を回避するために必要な合意であり,かつ,貿易産業大臣が承認した協定(別表第3第3項(1))
・公共政策に係る,例外的かつやむを得ない理由があり,かつ,貿易産業大臣が承認した協定(別表第3第4項(1))
・企業結合の実施に係る協定(別表第3第10項及び第11項(1))
また,一定の要件を満たす場合には,貿易産業大臣の命令による一括適用免除(block exemption)が認められる(第36条)。
(2) 市場支配的地位の濫用規制
ア 概要
市場支配的地位を有する一又は複数の事業者が,下記に例示される濫用行為を行うことは禁止されている(第47条第1項及び第2項)。
・競争者に対して略奪的行為をすること
・生産,販路又は技術革新を制限し,消費者に損害を与えること
・同種の取引に関して,相手方により異なる条件を設定して当該相手方に競争上の不利益を与えること
・取引の相手方に対し,性質上又は商慣習上,当該取引と無関係の追加的義務を負担させること
市場支配的地位については,シンガポール国内,国外いずれの地位かを問わない(第47条第3項)。また,第47条に関するCCCSガイドライン第9.4項によると,市場支配的地位の有無の判断においては,当該事業者が競争的水準以上の自社価格をそのまま維持したり,生産量や品質を競争的水準以下に制限したりし得る環境がどの程度存在するかのほか,いくつかの考慮要素(市場への参入障壁,商品の差別化,消費者の価格上昇に対する反応性,技術革新の容易性等)を併せて総合的に判断される。基本的には,関連市場において60%超の市場シェアを有する場合は,市場支配的地位を有する可能性があると判断されることとなる。
イ 第47条の適用除外
競争法においては,競争制限的協定(第34条)と同様に,市場支配的地位の濫用についても適用除外が認められている(第48条)。主なものは,下記のとおり(別表第3)。
・成文法により課された規制を遵守するために必要な行為(別表第3第2項(2))
・シンガポールが国際的な義務との摩擦を回避するために必要な行為であり,かつ,貿易産業大臣が承認したもの(別表第3第3項(4))
・公共政策に係る,例外的かつやむを得ない理由があり,かつ,貿易産業大臣が承認した行為(別表第3第4項(4))
・企業結合の実施に係る行為(別表第3第10項及び第11項(2))
(3) 企業結合規制
ア 規制の概要
シンガポール国内市場における競争を実質的に減少させる又は減少させるおそれのある企業結合は禁止される(第54条第1項)。企業結合には,事業者間の合併だけではなく,ある事業者が他の事業者の全部又は一部の支配権を直接又は間接に取得すること等も含まれる(第54条第2項~第4項)。また,独立した経済主体として合弁会社を立ち上げることも企業結合に該当する(第54条第5項)。さらに,資産の保有,権利関係又は契約関係に基づき事業者の活動に決定的な影響を及ぼすことができる状態となることも,上記の支配権の取得に該当する(第54条第3項及び第4項)。
2012年企業結合手続に関するCCCSガイドライン(以下「企業結合ガイドライン」という。)によれば,①企業結合後の企業の市場シェアが40%以上となる企業結合又は②企業結合後の企業の市場シェアは20%から40%未満の間にとどまるものの当該結合後の市場上位3社の合計シェアが70%以上となる企業結合のいずれかでなければ,一般的には,競争の実質的な減少が生じる可能性は低いと考えられている(企業結合ガイドライン第3.6項)。また,CCCSは,支配権の取得に該当するか否かの判断に当たって,量的な観点よりも質的な観点を重視するとしている(主要事項ガイドライン第6.4項)。
イ 事前届出,手続等
企業結合に該当すると想定される取引を行おうとする事業者は,CCCSに事前届出を行う必要がある(第57条第1項)。届出基準の閾値は明確に示されていないものの,CCCSは,小規模事業者のみの合併は調査の対象となる可能性が低いとしている。具体的には,各当事者の取引前の会計年度におけるシンガポールでの売上高が500万シンガポールドル以下であること,及び全当事者の取引前の会計年度における全世界での売上高の合計が5000万シンガポールドル以下である場合である(企業結合ガイドライン第 3.5項)。
CCCSは,事前届出を受けた企業結合が,第54条に違反するか否かの決定を行うことができ(第57条第2項(a)),第54条に違反すると決定する場合には,当事者に書面による通知を行わなければならない(第57条第3項)。当事者は,CCCSによる通知日から14日以内に,当該企業結合が第54条の適用除外に該当する旨を貿易産業大臣に申し出ることができる(第57条第3項)。当該申出に対する貿易産業大臣の決定は,最終決定とされる(第57条第4項)。
他方で,CCCSが,第54条に違反しないと決定する場合は,①当該企業結合が第54条の適用除外に該当するため,②公共の利益を理由とする禁止の免除事由に該当するため,又は③問題解消措置を受け入れたためとされている(第57条第2項(b))。
ウ 「企業結合」非該当事由
下記のいずれかに該当する場合には,他の事業者の支配権を取得しても,「企業結合」に該当しない(第54条第7項~第9項)。
・支配権を取得した者が,管財人,清算人又は引受人としての立場である場合
・企業結合に関係する全ての事業者が,直接又は間接に同一事業者の支配下にある場合
・支配権の取得が,専ら故人からの贈与又は共同経営下で生存している者への権利の帰属の結果として生じた場合
・支配権の取得が,自社又は他社のための有価証券取引をその通常業務として行う者によって,有価証券を一時的に取得する方法でなされた場合かつ有価証券に係る議決権の行使が①取得から12か月(又はCCCSが決定するより長い期間)以内に,他の事業者又はその資産若しくは有価証券を譲渡することを目的としており,かつ,②他の事業者の行動で,市場競争に影響を与え得るような行動を決定する目的ではない場合
エ 第54条の適用除外
競争法においては,企業結合規制の適用除外について,下記のとおり列挙されている(第55条及び別表第4)。
・成文法の要請に基づき,各大臣又は規制当局(CCCSを除く)が承認した企業結合(別表第4第1項(a))
・成文法の要請に基づき,シンガポール通貨監督庁が承認した企業結合(別表第4第1項(b))
・他の規制当局の管轄下の競争に関する成文法に基づく企業結合(別表第4第1項(c))
・企業結合による経済効果が,それによる競争制限効果を上回る場合(別表第4第3項)
(4) その他の適用除外
競争法は,上記(1)ウ,(2)イ及び(3)エに記載されている行為のほか,政府及び特別の立法をもって設立された法人並びにこれらの委託を受けて業務を行う者の行為については適用されない(第33条第4項)。また,競争法は,郵便,上下水道,鉄道,バス等の事業については適用されない(第35条,第48条,第55条及び別表第4第6項第2号)。
4 法執行手続
(1) 調査権限
ア 第62条に基づく調査
CCCSは,第34条,第47条及び第54条に違反する合理的な疑いのある場合には,下記の調査を実施する権限がある(第62条第1項)。また,CCCSは,当該調査を実施するに当たり,調査を実施する「調査官」を指定することができる(第62条第2項)。
・通知をもって,調査対象者に特定の文書を作成させること又は情報を提供させること(第63条第1項)
・令状なく立入検査を行うこと(第64条)
イ 第65条に基づく調査
CCCS又は調査官は,上記アの調査による情報収集が困難な場合など,合理的な理由がある場合には,裁判所の令状に基づき下記調査を実施することができる(第65条第2項)。
・強制立入検査
・調査に関連する書類等を保持している人物の捜索
・文書の複写又は抜粋の取得
・必要があると認められる場合における文書の押収
・証拠の破棄が行われる可能性がある場合における防止措置
・事業所から調査に関連する機器等を持ち出すこと
ウ 立入検査時の質問権
立入検査を行う者は,令状による場合(第65条)又は令状がない場合(第64条)を問わず,現場に立ち会わせた関係者と思われる者に口頭で質問し,回答を要求することができる(第63条第4A項)。
(2) 決定
ア 決定までの手続等
CCCSは,競争制限的協定規制,支配的地位の濫用規制及び企業結合規制に違反する行為が認められた場合には,各規制に違反するとの決定を行う旨を,当該決定の影響を受けるおそれのある者に通知し,通知を受けた事業者に申出の機会を付与した(第68条第1項)後に,各違反行為について決定することができる(第68条第2項)。しかしながら,企業結合規制に係る上記決定の通知を受けた当事者は,14日以内に貿易産業大臣に対して,公共の利益上の理由から第54条の適用除外を申請することができる(第68条第3項)。この申請に基づく貿易産業大臣による適用除外の決定は,最終決定となる(第68条第4項)。ただし,企業結合規制に係る適用除外の決定の根拠となった情報が,不完全,虚偽又は誤解を招く内容であると疑う合理的理由がある場合には,貿易産業大臣は,適用除外の決定を取り消すことができる(第68条第6項)。
イ 決定の執行
CCCSの決定を受けた者は,CCCSの命令に基づき,必要に応じて以下の措置を講じるなどして違反行為を排除しなければならない(第69条)。
・第34条の規定に違反する協定の修正又は破棄(第69条第2項(a))
・第47条の規定に違反する行為の修正又は排除(第69条第2項(b))
・第54条の規定に違反する企業結合の修正又は実施取止め(第69条第2項(a)~(c))
・第34条,第47条又は第54条の規定に違反した旨を決定した場合であって,当該違反が故意又は過失によるときは,CCCSが決定する制裁金の支払い(違反行為期間〔最長3年間〕中の当該事業の国内総売上高の10%以下に相当する額)(第69条第2項(d),第3項及び第4項)
・CCCSが指定する,反競争的効果の防止又は減少を目的とした,法的強制力のある協定の締結(第69条第2項(e)(i))
・違反行為に係る事業,資産又は株式の処理(第69条第2項(e)(ii))
・決定の履行を保証する債権,保証書又はその他の形態の担保を提供すること(第69条第2項(e)(iii))
(3) 不服申立てに係る手続
CCCSの決定に不服のある者は,競争審判評議会に不服申立てができる(第71条)。同評議会は,貿易産業大臣により任命される30人以下のメンバーで構成され(第72条第1項),同評議会の議長は,最高裁判所の判事の資格を有する人物が任命される(第72条第5項)。同評議会には地方裁判所と同等の権限が与えられる(第73条第3項)。また,同評議会の決定については,高等裁判所に取消訴訟を提起することが可能である(第74条)。
(4) リニエンシー制度
カルテル行為については,CCCSにリニエンシーを申請することで,申請の順番に応じて,制裁金が免除又は減額される旨がガイドラインに定められている(2016年カルテル活動に係る情報提供の申出をする事業者に対するリニエンシーの取扱いに関するCCCSガイドライン。以下「リニエンシーガイドライン」という。)。
ア リニエンシーの要件
リニエンシーの適用に当たっては,下記の要件を満たさなければならない(リニエンシーガイドライン第2.2項及び第2.4項)。
・CCCSに対し,カルテル行為に係る入手可能な全ての情報,書類及び証拠を速やかに提供すること。ただし,CCCSが調査を開始するのに十分な情報を有していない場合に限る。
・リニエンシーを申請した他の競争当局等との関係において,CCCSに対して適切な秘密保持を求める権利を放棄する(つまり,CCCSが他の競争当局と申請者の情報を交換することができる)こと。
・リニエンシー申請の対象となるカルテル行為を無条件で認め,シンガポール国内の競争を阻害,制限又は歪曲することによって,当該行為がシンガポールにもたらした影響の程度を詳述すること。
・リニエンシー申請以後,調査期間中及び調査の結果として生じた,CCCSによる措置の結論に至るまで,CCCSに継続的かつ完全に協力すること。
・CCCSへの報告以降,当該カルテル行為に参加しないこと(CCCSが指示する場合は除く)。
・当該カルテルを主導した事業者ではないこと。
・他の事業者に対して当該カルテル行為に参加することを強制した事業者ではないこと。
イ リニエンシーによる減免額
・CCCSによる調査開始前の第1申請者については,制裁金が100%を上限に免除又は減額される(リニエンシーガイドライン第2.3項)。
・CCCSによる調査開始後の第1申請者については,制裁金が100%を上限に免除又は減額される(リニエンシーガイドライン第3.1項)。
・その他の申請者については,制裁金が50%を上限に減額される(リニエンシーガイドライン第4.1項)。申請事業者数及び減免適用事業者数の上限は定められていない。
ウ リニエンシーでの考慮要素
制裁金の減免額の決定に当たっては,以下の事項が考慮される(リニエンシーガイドライン第4.2項)。
・違反行為について事業者が報告を行った段階
・CCCSが既に有している証拠
・事業者が提供する情報の質
エ リニエンシープラス
ある市場(第一市場)でのカルテル行為に関してCCCSの調査に協力している申請者が,異なる市場(第二市場)のカルテル行為をリニエンシー申請し,第二市場でのカルテル行為について第1申請者として情報提供をした場合,第一市場でのリニエンシー対象の行為についての制裁金が更に減額される(リニエンシープラス。リニエンシーガイドライン第6.1~6.3項)。
(5) 確約制度
確約制度(Commitments)とは,競争制限的協定規制又は市場支配的地位の濫用規制に係る競争法違反のおそれがあるとして調査等の対象となった事業者が,一定の問題解消措置等をCCCSに対し提案して約束することにより,CCCSが,当該事業者との間で締結する法的拘束力のある合意に基づき法的措置を採らずに事件処理をする制度である(第60A条第1A項及び第1B項)。
CCCSは,事業者から提案された問題解消措置等を確約として受け入れた場合には,当該事業者の行為が,企業結合規制(第54条),競争制限的協定規制(第34条)又は市場支配的地位の濫用規制(第47条)の規定に違反しない旨の決定を行わなければならない(第60B条第1項,第1A項及び第1B項)。ただし,CCCSが確約を受け入れる根拠となった情報が不完全又は虚偽等であると疑う合理的理由がある場合又は事業者が前記確約を履行しなかったと疑う合理的理由がある場合には,CCCSは,前記決定を取り消すことができる(第60B条第2項)。
(6) 企業結合審査制度
CCCSは,事業者が不備のない届出書をCCCSに提出した時から30営業日以内に簡易審査を終了する必要がある(企業結合ガイドライン第2.7項)。また,CCCSは,簡易審査のみで競争法上の懸念が生じるおそれがないと判断することができない場合には,当該事業者に対して主要な懸念点を通知して,詳細審査に移行することができる。
詳細審査に関して,CCCSは,事業者が追加質問への回答を提出した後,120営業日以内に審査を終了することが求められる(企業結合ガイドライン第2.8項)。
なお,CCCSは,事業者が質問事項への回答に時間を要している等の様々な事情により,事業者への事前通知を行うことで,30営業日又は120営業日といった期間の経過を停止することができる(企業結合ガイドライン第2.9項)。
(7) 迅速手続(Fast Track Procedure)
迅速手続は,2016年12月から導入されているもので,CCCSが,CCCSの調査対象事業者に対して,CCCSが入手した情報及び証拠が立証基準を満たしていると合理的に判断した場合には(競争法第34条及び第47条事案に対する迅速手続に関する実務上の声明(以下「迅速手続声明」という。)第1.6項),その旨を通知し(迅速手続声明第2項),さらに,当事者が第34条又は第47条に係る責任があることを認める等一定の条件(迅速手続声明第4.2項)でCCCSと合意したとき(迅速手続声明第4.1項)は,制裁金が10%減額される手続である(迅速手続声明第5.2項)。迅速手続は,CCCSのイニシアティブで開始する点及び当事者が上記責任を認める必要がある点でリニエンシー制度と異なるものの,リニエンシー制度との併用も可能であり,併用した場合,両制度による制裁金の減額率を合計できるため,更に大きな減額を享受することが可能となる(迅速手続声明第1.2項)。
5 その他
(1) 域外適用
競争法第3章の規定(第33条~第70条)は,シンガポール国外で行われた競争法違反行為であっても,国内の関連市場に競争制限効果をもたらすものに対しては適用される(第33条第1項)。
(2) 罰則
下記の違反行為等を行い競争法上有罪と認定された場合には,他に特段の規定がない限り,10,000シンガポールドル以下の罰金若しくは12か月以下の懲役又はこれらが併科される(第83条)。
・CCCSの文書提出命令に従わなかった場合(第61A条)
・CCCSによる質問に回答しなかった場合(第63条)
・CCCSによる立入検査を拒否した場合(第64条,第65条及び第75条)
・文書を破棄又は隠匿した場合(第76条)
・CCCSに対して虚偽の情報提供をした場合(第77条)
・CCCSによる法執行を妨害した場合等(第78条)
(3) 私訴
競争法違反により損害を受けた者は,民事訴訟を提起することができる(第86条第1項)。ただし,第86条第1項の規定に基づく訴訟は,CCCSによる決定の確定,事業者からの不服申立て処理の終結又は裁判所に対する上訴の終結等の事由が生じた後でなければ提起することができない(第86条第2項)。また,当該民事訴訟において,当事者は,CCCS等による確定した決定をその訴訟の主張の根拠として提出することができる(第86条第3項及び第7項)。競争法違反を理由とする民事訴訟は,CCCSによる決定等が確定してから2年を経過した場合,提起することができない(第86条第6項)。
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