スペイン(Spain)

(2012年3月現在)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。
※ 以下の概要については,2012年に作成したものであり,その後更新は行っておりませんので,その旨御留意ください。

1 根拠法

 スペインの競争法制は,競争保護法(競争の保護に関する2007年7月3日の法律第15号。LEY 15/2007, de 3 de julio, de Defensa de la Competencia)及びその関連法令,不公正競争に関する1991年1月10日の法律第3号等から構成されているが,その中核となるのは競争保護法(以下「法」という。)である。

2 執行機関

(1) 全国競争委員会(La Comision Nacional de la Competencia)

 全国競争委員会の任務は,法に定められた職務を執行することを通じて,全国範囲の市場における有効な競争を保護,保証及び促進し,また,同法の統一的な適用を確保することである(法第12条第1項)。全国競争委員会は,委員長及び6名の委員(うち1名は副委員長)のほか,審査局(La Direccion de Investigacion),競争促進局(La Direccion de Promocion de la Competencia)等から構成されている。個別事案については,審査局が審査を行って処理案を作成し,委員長及び6名の委員によって構成される委員会会議(El Consejo de la Comision Nacional de la Competencia)において処分等が決定される(法第34条・第35条)。
 なお,委員会会議の行う処分等については,行政裁判所に取消訴訟を提起することができる。

(2) 自治州の担当機関(Los organos competentes de las Comunidades  Autonomas)

 スペインを構成する17の自治州の担当機関は,法第1条(共謀行為),第2条(支配的地位の濫用)及び第3条(不公正行為)に規定する各行為に該当する行為であって,各自治州における競争に影響を及ぼすものについて,必要な調査及び処分を行う(一の自治州の範囲を超えて競争に影響を及ぼすものは全国競争委員会が担当する。)。
なお,全国競争委員会と自治州の担当機関との法適用の整合性を確保するための機関として,全国競争委員会の委員長を議長とする競争保護評議会(El Consejo de Defensa de la Competencia)が設置されている。

3 規制の概要

(1) 共謀行為

ア 禁止規定

 法第1条第1項は,国内市場の全部又は一部における競争を阻害し,制限し,若しくは歪曲することを目的として有し,若しくはそのような効果を生じさせ,若しくは生じさせるおそれのある全ての合意,共同の決定若しくは推奨,協調的若しくは意識的並行行為を禁止している。同項は,禁止される行為として,特に,次のものを挙げている。

(1) 直接又は間接的に価格その他の取引若しくはサービスの条件を決定すること。
(2) 生産,流通,技術進歩又は投資を制限又は統制すること
(3) 市場又は供給源の割当てを行うこと
(4) 同等の取引について異なる条件を適用し,一部の競争者を他と比べて不利な立場に置くこと
(5) その性質上又は商慣習に照らして契約の対象とは関係のない追加的な義務を受け入れるよう強制すること

イ 適用除外

 生産,流通,技術進歩,経済発展等に資する合意等であって,(1)その便益が消費者に公正に配分されるものであり,(2)その目的の達成のために必要不可欠ではない制限が関係事業者に課されるものではなく,かつ,(3)当該合意等に参加する事業者が商品又はサービスの実質的な部分に係る競争を消滅させることを可能にするものではないものには,法第1条第1項は適用されず,禁止されない(法第1条第3項)。
 また,内閣は,競争保護協議会及び全国競争委員会の報告を受けて,勅令により,特定のカテゴリーの行為に法第1条第3項の規定が適用されることを宣言することができる(法第1条第5項)。

(2) 市場支配的地位の濫用

 法第2条第1項は,一又は複数の事業者が,国内市場の全部若しくは一部における支配的地位を濫用することを禁止している。同第2項は,濫用に該当し得る行為の具体例として,(1)不当な価格等の取引条件の設定,(2)事業者又は消費者に損害を与えるような生産,流通又は技術進歩の制限,(3)商品又はサービスの不当な供給拒絶,(4)同等の取引について異なる条件を適用し,一部の競争者を他と比べて不利な立場に置くこと,(5)その性質上又は商慣習に照らして契約の対象とは関係のない追加的な義務を受け入れるよう強制することを挙げている。
なお,一又は複数の事業者の支配的地位が法律の規定により形成された場合であっても,同条第1項の適用は妨げられない(法第2条第3項)。

(3) 不公正な行為(actos desleales)による自由な競争の歪曲

 全国競争委員会及び自治州の担当機関は,自由な競争を歪めることにより公共の利益に影響を及ぼす不公正な競争の行為について,共謀行為や支配的地位の濫用と同じ手続により審理する(法第3条)。

(4) 企業結合(concentracion economica)

ア 企業結合

 競争保護法において,「企業結合」とは,(1)二以上の事業者の合併,(2)一の事業者による他の事業者の支配権の全部または一部の取得,3共同出資会社の設立等をいう(法第7条第1項)。

イ 事前届出制

 (1)企業結合の結果,関連市場において市場シェア30%以上を得る場合若しくは市場シェアが30%以上増加する場合,若しくは(2)当事者のうち二以上の者の国内売上高がそれぞれ6000万ユーロを超え,最近一事業年度における当事者の国内売上高の合計額が2億4000万ユーロを超える場合のいずれか又は両方に該当する場合(届出基準は法第8条第1項所定),実施する前に全国競争委員会に届け出なければならず(法第9条第1項),原則として,当局の承認が得られるまで実施してはならない(同第2項)。

ウ 審査の流れ

 全国競争委員会は,届け出られた企業結合が国内市場の全部又は一部における有効な競争の維持を妨げる可能性について審査し,とりわけ,(1)関連市場の構造,(2)当事者の市場における地位,(3)競争の状況,(4)当事者の取引相手にとっての代替的な取引先,(5)参入障壁,(6)関連商品及びサービスの需給の動向,(7)当事者の取引相手の交渉力,(8)効率性の向上等を考慮して,決定(decision)を行う(法第10条第1項)。
 審査局は,届出を受理した場合,審査を開始し,届け出られた企業結合について処分案を作成する(第一次審査。法第57条第1項)。委員会会議は,審査局の作成した処分案に基づき,(1)当該企業結合の承認,(2)問題解消措置を条件に承認,(3)有効な競争が妨げられるおそれがあるとして詳細審査手続への移行,(4)当該企業結合の欧州委員会への付託,又は(5)審査手続の中止のいずれかの決定を行う(法第57条第2項)。全国競争委員会は,届出受理後1か月以内に上記のいずれかの決定を下さなければならない(当事者が問題解消措置を申し出た場合,10日延長される。)(法第36条第2項,第59条第2項)。
 詳細審査において,審査局は,必要に応じて利害関係者からの意見を求める(法第58条第1項)。全国競争委員会は,詳細審査開始決定後2 か月以内(当事者が問題解消措置を申し出た場合,15日延長される。)に,(1)当該企業結合の承認,(2)問題解消措置を条件に承認,(3)当該企業結合の禁止,又は(4)審査手続の中止のいずれかの決定を下さなければならない(法第36条第2項,第58条第4項,第59条第2項)。

エ 閣議による介入

 経済財政大臣(El Ministro de Economia y Hacienda)は,企業結合についての決定を閣議(El Consejo de Ministros)に付託することができる。閣議は,競争の保護以外の一般的な利益(国防及び国家安全保障,国民の安全・健康の確保,国内における商品・サービスの自由な移動,環境保護,研究開発の促進など)の観点から,当該企業結合を審査し,決定を行う(法第10条第4項,第14条,第60条)。

(5) 公的補助(ayudas publicas)

 全国競争委員会は,職権により又は行政庁からの要請に基づき,公的補助の基準について審査することができる。全国競争委員会は,当該公的補助が市場における有効な競争の維持に及ぼし得る影響について審査し,当該補助制度及び個別の補助に関する報告書の公表,競争を維持するための行政庁への提言を行う(法第11条第1項)。また,自治州の担当機関も,管轄地域における公的補助について報告書を作成することができる(同第5項)。

4 法執行手続(共謀行為,支配的地位の濫用等)

(1) 手続の開始

 審査局は,職権又は申告(denuncia)により調査手続を開始する(リニエンシー制度については後述。)。競争保護法違反行為に係る申告は,法人であるか自然人であるかを問わず,また,当該行為に利害関係を有する者か否かを問わず,行うことができる(法第49条第1項)。

(2) 処分(resolucion)に至る手続等

 審査局は,必要な調査(立入検査(法第40条所定)など)を実施した上で,関係人に対し,違反となり得る事実を記載した異議告知書(pliego de concrecion de hechos)を送付する。異議告知書の送付を受けた関係人は,15日以内に意見を述べ,証拠を提出することができる(法第50条第3項)。
 審査局は,異議告知書に係る関係人の意見及び証拠を受領した後,又は意見提出期間が経過した後,当該事件に係る処分案を作成して関係人に通知する。処分案の通知を受けた関係人は,15日以内に意見を述べることができる(法第50条第4項)。
その後,審査局は,処分案を含む報告書を委員会会議に上程する(同第5項)。
 委員会会議は,職権で又は関係人の求めに応じて,審査局に対し,補足的な調査の実施を命じることができる(法第51条第1項)。委員会会議は,関係人の求めに応じて,聴聞の開催を決定することができる(同条第3項)。委員会会議は,審査局の処分案を不適当と判断したときは,当該事案についての新たな評価を関係人及び審査局に提示する。関係人及び審査局は,15日以内に意見を述べることができる(同第4項)。
 委員会会議は,処分に当たり,違反の存否等を明らかにすることができる(法第53条第1項)。委員会会議による処分には,(1)違反行為の差止命令,(2)構造的又は行動的措置,(3)違反行為の効果の除去命令,(4)制裁金の賦課などが含まれる(同第2項)。
 違反行為者が,調査対象行為が競争にもたらす弊害を解消することを確約した場合,委員会会議は,審査局の提案に基づき,処分を行わずに手続を終了することができる(法第52条第1項)。
 委員会会議は,手続開始後,将来行う処分の有効性を確保するために必要な暫定的措置を講じることができる(法第54条)。

(3) 制裁金(multa)

 違反行為者に課される制裁金は,直近の事業年度における総売上高の10%を超えない範囲で算定される(法第61条第3項)。
 違反行為は以下の3段階に分類される(法第62条):
(1) 軽微な違反行為(infracciones leves)」:企業結合の届出の懈怠,検査妨害等
(2) 「重大な違反行為(infracciones graves)」:非競争者との共謀行為,「非常に重大」とされない支配的地位の濫用,不公正行為等
(3) 「非常に重大な違反行為(infracciones muy graves)」:競争者との共謀行為,近年自由化された市場において,独占に近いシェアを有する又は特別の若しくは排他的な権利を有する事業者による支配的地位の濫用,全国競争委員会の処分・決定等の不遵守

 上記の分類に基づき,(1)軽微な違反行為については直近の事業年度における総売上高の1%以下,(2)重大な違反行為については直近の事業年度における総売上高の5%以下,(3)非常に重大な違反行為については直近の事業年度における総売上高の10%以下の制裁金が課される(法第63条第1項)。また,違反行為者が法人である場合は,その代表者等に別途6万ユーロ以下の制裁金を課すことができる(同第2項)。

 制裁金の算定に当たっては,以下の事項が考慮される。

(1)違反行為の影響を受ける市場の規模及び性格
(2)関係事業者の市場シェア
(3)違反行為が行われた範囲
(4)違反行為が行われた期間
(5)消費者や他の事業者の利益・権利に及ぼした影響
(6)違反行為による不当利得
(7)その他加重要因・軽減要因(法第64条第1項)

 なお,制裁金を含む処分の除斥期間は,(1)軽微な違反行為は違反行為が行われてから(継続的な違反行為の場合は違反行為終了後。以下(2)及び(3)において同じ。)1年,(2)重大な違反行為は2年,(3)非常に重大な行為は4年である(法第68条)。

(4) リニエンシープログラム(programa de clemencia)

ア 対象行為

 リニエンシープログラムが適用される行為は,カルテル(2以上の競争者間の秘密の協定であって,価格の決定,生産量若しくは売上高の割当て,入札談合を含む市場割当て又は輸入若しくは輸出の制限を目的とするもの(法第4追加規定第2項))である。

イ 制裁金の全額免除(法第65条)

(ア) 全国競争委員会が立入検査を行うために十分な証拠を有していないときに立入検査を可能にする証拠を最初に提出した者;又は
(イ) 全国競争委員会が違反行為を立証するために十分な証拠を有していないときに,違反認定を可能にする証拠を最初に提出した者(上記(ア)により制裁金の全額免除を認められた者が既にいる場合を除く。)
のいずれかであって,次の(1)~(4)の要件を満たす者については,制裁金が全額免除される。

(1) 行政調査の手続を通じて,全国競争委員会に対し,完全に,継続的に,かつ迅速に協力すること
(2) 証拠の提出の時点で違反行為を取りやめていること。ただし,立入検査の有効性を確保するために違反行為への参加を継続することが必要であると全国競争委員会が認める場合はこの限りでない。
(3) リーニエンシー申請に係る証拠を破棄したり,申請の事実又は申請の内容を第三者(欧州委員会その他関係当局を除く。)に直接的若しくは間接的に明らかにしたりしていないこと
(4) 他の事業者が違反行為に参加することを強要するための方策を講じていないこと
 事業者について全額免除が認められた場合,その代表者等についても制裁金が免除される(ただし,代表者等が全国競争委員会に協力した場合に限る。)。

ウ 制裁金の減額(法第66条)

 全国競争委員会が既に保有している証拠との関係で重大な付加価値を有する証拠を提出した者であって,制裁金の全額免除に係る上記イの(1)~(3)の要件を満たす者については,制裁金が減額される。上記の減額の要件を最初に満たした者は制裁金の30~50%,2番目に満たした者は制裁金の20~30%,3番目以降に満たした者は制裁金の20%以下の額が減額される。
 事業者について制裁金の減額が認められた場合,その代表者等についても同じ割合で制裁金が減額される(ただし,代表者等が全国競争委員会に協力した場合に限る。)。
 

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