スイス(Switzerland)

(2023年3月現在)

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1 根拠法

(1)根拠法

カルテル及び他の競争制限に関する連邦法
Federal Act on Cartels and Other Restraints of Competition
(1995年10月6日制定、1996年7月1日施行)

(2) 適用範囲

 カルテル及び他の競争制限に関する連邦法(以下「競争法」という。)は、法的又は組織上の形態にかかわらず、製品や役務の需要者又は供給者として、経済活動に従事する民間又は公的な事業者による全ての競争制限行為に適用される。具体的には、カルテル又はその他の競争に影響を与える協定に関与した事業者、市場支配力を有する事業者及び企業結合を行う事業者に適用される(第2条第1項)。また、他国で行われたものであっても、スイス国内に影響を与える行為であれば、競争法の対象となる(第2条第2項)。

2 執行機関

(1) 連邦競争委員会(Federal Competition Commission)

 スイスの競争当局である連邦競争委員会(以下「競争委員会」という。)は、委員長及び副委員長を含め、連邦参事会(Federal Council。スイスの内閣に当たる。)によって選出された11人から15人のメンバーで構成される。競争委員会は、組織的には連邦経済教育研究省(Federal Department of Economic Affairs, Education and Research)の下に位置付けられているが、独立した行政機関である(第18条及び第19条)。
 競争委員会の下部組織として、競争委員会を補佐し、違反被疑行為の審査などを行う事務局がある(第23条)。

(2) 連邦行政裁判所(Federal Administrative Court)

 競争委員会の決定に対する不服申立ては連邦行政裁判所に行う(行政手続法)。

3 規制の概要

(1) 競争制限的な協定(第5条:Unlawful agreements affecting competition)

 経済効率の観点から正当化されず、特定の商品や役務の市場における競争を著しく制限する又は有効な競争を排除する全ての協定は、違法である(第5条第1項)。ただし、生産若しくは流通コストの削減、製品の品質や製品の生産過程の向上、技術若しくは専門ノウハウの研究若しくは普及の促進又は合理的な資源開発のために必要な協定であって、それらが有効な競争を排除するものでないときには、経済効率の観点から正当化されるとみなされる(第5条第2項)。
 次の協定は有効な競争を排除するものと推測される(第5条第3項及び第4項)。
[1] 既存の又は潜在的な競争事業者間における次に掲げる水平的協定
・直接、間接を問わず、価格を決定するもの
・製造、販売又は購入する商品又は役務の数量を制限するもの
・地理的に又は取引相手ごとに市場を分割するもの
[2] 事業者間における次に掲げる垂直的協定
・最低又は固定の再販売価格を設定するもの
・販売店契約において販売地域を分割するもの
 また、経済効率の観点から正当化されるとみなされる協定を、連邦参事会の制定する政令(ordinance)又は競争委員会による包括的通知(general notice)で規定することができる。特に次の協定については、規定の際に考慮される(第6条)。
[1] 研究開発に係る協力協定
[2] 専門化協定及び合理化協定
[3] 特定の商品又は役務の取引に対して排他的な権利を与える協定
[4] 知的財産権に対して排他的なライセンスを認める協定
[5] 中小企業の競争力を向上させるための協定(市場への影響が限定的な場合に限る。)

(2) 支配的地位及び市場における相対的市場力の濫用(第7条:Unlawful practices by dominant undertakings and undertakings with relative market power)

 支配的地位又は市場における相対的市場力を濫用して、新規参入や競争事業者の事業活動を妨害し、又は取引相手に不利益を与えることは禁止される(第7条第1項)。支配的地位とは、当該市場において他の事業者から相当程度に独立して行動できる地位をいう(第4条第2項)。市場における相対的市場力を有する事業者とは、その取引相手が物やサービスの取引に当たり、取引相手を変更する適切かつ合理的な機会を持たないため従属せざるを得ない事業者をいう(第4条第2-2項) 。
 次の行為は特に、支配的地位又は市場における相対的市場力の濫用に該当し違法とされる(第7条第2項)。
[1] 取引拒絶
[2] 価格などの取引条件に関して、取引の相手方を差別すること。
[3] 不公正な価格又は取引条件を課すこと。
[4] 特定の競争事業者に対して価格の切下げなどの条件を課すこと。
[5] 生産、出荷又は技術開発の制限
[6] 抱き合わせ販売
[7] 物及びサービスの購入者が、スイス国内及び外国における市場価格並びに当該外国の業界において慣習となっている条件での購入が困難になる場合

(3) 企業結合規制

ア 企業結合の禁止
 競争委員会は、企業結合審査により、問題となっている企業結合が(1)有効競争を排除するような支配的地位を形成又は強化する場合、かつ (2)支配的地位による弊害を相殺する程度に、他の市場における競争を促進することがないことが明らかとなった場合、当該企業結合を禁止又はそれに条件を付けることができる(第10条第2項)。
 
イ 届出基準
 次の2つの基準をいずれも満たす企業結合は届出の対象となる。かかる企業結合の当事会社は、事前に競争委員会に届け出なければならない(第9条第1項)。
[1] 前年度において当事会社の売上高の合計が20億スイスフラン以上か、又はスイス国内の当事会社の売上高の合計が5億スイスフラン以上の場合
[2] 前年度において当事会社のうち少なくとも2社のスイス国内の売上高がそれぞれ1億スイスフラン以上の場合
 また、次の2つの基準をいずれも満たす場合には、上記届出基準に該当しなくても、届出が必要になる(第9条第4項)。
[1] 競争委員会が、当事会社がスイスの市場において支配的地位を有していると決定したことがある場合
[2] 当該企業結合が、支配的地位を有する市場、その隣接市場又はそれらの上流若しくは下流市場で行われる場合
 なお、保険会社については、年間保険料収入を売上高とし、銀行やその他金融仲介機関については、1934年スイス銀行法による会計規則上の総収入を売上高とする(第9条第3項)。

(4) 他法令と競争法との関係

 公定価格、公的な義務を果たすために法律で特別の権利を与えられている業務、知的財産権に係る規定等、ある製品又は役務の市場について競争が前提とされていない旨定める規定は、競争法の規定に優先する(ただし、知的財産権に基づく輸入制限に関するものは除く。)(第3条)。

(5) 公共の利益による例外的な認可

 競争に影響を与える協定や支配的地位を有する事業者の行為が競争当局により違法と判断されても、公共の利益を守るために必要がある例外的な場合には、当事者の申立てにより、連邦参事会により認められる場合がある(第8条)。

4 法執行手続

(1) 審査手続

 競争制限的な協定及び支配的地位を有する事業者の違法行為に対する競争委員会の審査には、予備審査及び正式審査の二段階がある。
ア 予備審査(Preliminary investigation)
 事務局は、自らの職権により、又は関係事業者若しくは第三者からの申告により、予備審査を行うことができる(第26条第1項)。予備審査を受けて、事務局は競争制限行為(競争制限的な協定及び支配的地位の濫用)を排除又は防止するための措置を提案することができる(第26条第2項)。
 
イ 正式審査(Investigation)
 予備審査で競争制限行為の証拠が認められた場合、事務局は、競争委員会の委員長又は副委員長と協議の上で正式審査を開始しなければならない。競争委員会又は連邦経済教育研究省の要請があった場合は、正式審査を行わなければならない(第27条第1項)。
 なお、正式審査を行うに当たっては、事務局は、その開始の旨を公示(official publication)しなければならない(第28条第1項)。当該公示には、審査の目的及び対象事業者を明記し、審査に参画することを希望する第三者は、30日以内に当局に知らせる旨が記載される(第28条第2項)。
 審査に参加することができる第三者は、(1) 違法な競争制限により、市場への参入や市場における競争を妨害された者、(2) 構成員の経済上の利益を守ることを定款に規定している専門家団体又は事業者団体(当該団体の構成員が、当該審査に関わっている場合に限る。)、(3) 定款により消費者保護を行うこととされている国又は地方の重要な組織である(第43条第1項)。
 競争委員会は、違反行為を立証するために必要な証拠の収集のため、情報提供要求(第40条)、関係施設への立入検査(第42条第2項)等を行うことができる。

(2) 違反に対する措置

ア 和解(第29条)
 事務局は、審査の結果、競争制限的な協定又は市場支配的地位の濫用が認められた場合、関係事業者に対し、違反行為を排除するための方法に関する和解(amicable settlement)を提案することができる。和解は書面で行われ、競争委員会の承認を必要とする。
 
イ 決定(第30条)
 事務局の提案に基づいて、競争委員会は(違反行為を排除するための)適切な処分(appropriate measures)又は和解の承認の決定を行う。関係事業者は事務局の提案に対して書面にて意見を述べることができる。競争委員会は、ヒアリングを行うこと又は事務局に対して追加的な調査を指示することができる。
 
ウ 行政罰
 競争委員会は、競争制限的な協定又は支配的地位の濫用を行った事業者に対して、スイス国内における過去3年間の売上高の10%を上限として制裁金を課すことができる(第49a条)。
 競争委員会との和解決定、不服申立てできない確定した委員会決定又は上訴機関(連邦行政裁判所及び連邦最高裁判所)の決定に違反した事業者に対しては、スイス国内における過去3年間の売上高の10%を上限として制裁金が課される(第50条)。
 
エ 刑事罰
 故意に、競争委員会との和解決定、不服申立てできない確定した委員会決定又は上訴機関(連邦行政裁判所及び連邦最高裁判所)の決定に違反した者に10万スイスフラン以下の罰金が科される(第54条)。情報提供に関する競争委員会の決定(第40条)の全部又は一部に故意に従わない場合には、2万スイスフラン以下の罰金が科される(第55条)。 

(3) 企業結合に係る審査手続

ア 企業結合審査の開始(第32条)
 合併等企業結合の事前届出を受けた競争委員会は、企業結合審査を行う事由があるか否かについて判断しなければならない。競争委員会は、企業結合審査を開始する場合には、事前届出を受け取ってから1か月以内に当事会社に通知しなければならない。もし、競争委員会が1か月以内に当該通知を行わなかった場合には、当事会社は、当該企業結合を留保なく実行できる(第1項)。
 当事会社は、合併等企業結合の事前届出を行ってから1か月の間は、当該企業結合を実行してはならない。ただし、競争委員会が、当事会社の要請により、必要性を認めた場合には、この限りではない(第2項)。
 
イ 審査手続(第33条)
 競争委員会が、企業結合審査を行うとの決定を行った場合には、事務局は、審査の対象となる企業結合に係る届出の主な概要を公表し、当事会社以外の第三者が当該企業結合に対して意見を述べることができる期間を示さなければならない(第1項)。企業結合審査の開始に当たっては、競争委員会は、例外的措置として、暫定的に当該企業結合が実行されることを認めるか、又は当該企業結合審査の終了まで実行を保留させるかについて決定しなければならない(第2項)。競争委員会は、企業結合審査を、当事会社に起因する理由がない限り、審査開始から4か月以内に終了させなければならない(第3項)。
 
ウ 行政罰
 企業結合に関しては、事業者が、必要な届出をせずに企業結合を行った場合、待機期間を遵守しない場合、違法な企業結合を実行した場合、競争委員会の決定した条件に従わない場合又は有効な競争を回復するための措置を実行しない場合に100万スイスフランを上限として制裁金が課される(第51条第1項)。
 
エ 刑事罰
 情報提供に関する競争委員会の決定(第40条)の全部又は一部に故意に従わない場合、届出をせずに企業結合を行った場合又は企業結合に関する競争委員会の決定に違反する場合には、2万スイスフラン以下の罰金が科される(第55条)。 

(4) 控訴

 競争委員会の決定は、連邦行政裁判所に提訴することができる。連邦行政裁判所の判断に不服がある場合、連邦最高裁判所(Federal Supreme Court)に上告することができる(行政手続法)。

(5) 民事訴訟手続

 違法な競争制限により、市場への参入や市場における競争を妨害された者は、民事訴訟の中で、(1)違法行為の停止、(2)損害賠償 又は(3)不当利得の返還を求めることができる。競争の妨害には、取引拒絶や差別的な取扱いも含まれる(第12条第1項及び第2項)。民事訴訟において、競争制限の適法性が問題になった場合は、裁判所は競争委員会に対し意見を求めることができる(第15条第1項)。

5 リニエンシー制度

(1) 概要

 スイスでは、2003年の法改正により、リニエンシー制度が導入され、2004年4月1日に施行されている。
 競争制限的な協定の発見及び除去に協力した事業者に対しては、競争委員会によって課される制裁金が全額免除又は減額される(第49a条第2項)。
 細則は「違法な競争制限に対する制裁に関する政令(Ordinance regarding the Sanctions for Unlawful Restrictions of Competition)」に規定されている。

(2) リニエンシーを受けるための要件等

ア 制裁金の免除
 制裁金の免除は、次のいずれかの場合に行われる(政令第8条)。
[1] 競争委員会が違反行為について審査を開始するために十分な証拠を有していない段階で、競争法第27条に基づく審査の開始を可能とする証拠を最初に提供する場合(審査開始前の情報提供)
[2] 競争委員会が既に違反行為について情報を得ているものの、違反を認定するために十分な証拠を有しておらず、かつ、どの事業者も制裁金の免除を認めるための必要な条件を満たしていない段階で、違反認定を可能にする証拠を提供する場合(審査開始後の情報提供)
 さらに、次の条件を満たす必要がある。
[1] 他の事業者を違反行為に参加するよう強要したことがなく、また当該違反行為の教唆者又は指導者でないこと。
[2] 競争委員会に違反行為に関して保有する情報及び証拠の全てを自主的に提供すること。
[3] 審査を通じ、完全、迅速かつ継続的に競争委員会に協力すること。
[4] 申請時までに又は当局に指示される時までに違反行為への関与を取りやめていること。
 
イ 制裁金の減額
 制裁金の減額は、自主的に審査に協力し、また証拠の提出までに違反行為への参加を取りやめている場合に認められる。当該事業者は、協力の程度に応じて、最大50%の減額を受けることができる。ただし、別の違反行為に関する情報や証拠を自主的に提出した場合には、最大80%の減額を受けることができる(政令第12条)。


 

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