台湾(Chinese Taipei)

(2024年4月現在)

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第1 根拠法

 台湾の競争法は公平交易法(Fair Trade Act)であり,「取引における秩序の維持,消費者利益の保護,公正な競争の確保並びに国民経済の安定及び繁栄の促進を図ること」(第1条)を目的とし,1992年2月に施行された。

第2 執行機関

1 公平交易委員会

 公平交易委員会は,行政院の直属機関であり,7人の委員(委員長,副委員長及び委員5名)と事務局(5処5室)で構成されている(別紙参照)。
 委員は,法律,経済,金融,税務,会計又は経営の専門家の中から,首相が指名し,立法院(国会)が承認する。定員の半数を超えて同一政党に属するものを委員に任命することは許されない。任期は4年であり,再任が可能とされている。

2 公平交易委員会の権限・機能

(1) 公平交易委員会の職掌は次のとおりである(公平交易委員会組織法第2条)。
ア 公正取引に関する政策及び関係法規を策定すること。
イ 公平交易法に関するあらゆる事項を検討すること。
ウ 事業者の活動及び経済実態について調査すること。
エ 公平交易法違反事案について調査し処分すること。
オ マルチ商法に関する政策,関係法規の策定及び関連事件を調査し処分すること。
カ 公正取引に関する政策及び関係法規を啓発すること。
キ その他公正取引に関すること。
(2) 公平交易委員会は,法により独立して職権を行使しなければならず(公平交易委員会組織法第8条),申告又は職権により,この法律の規定に違反し公共の利益を害する事件について調査し処理することができる(第26条)。

第3 規制の概要

1 カルテル

 カルテルとは,同一の生産又は取引段階において競争関係にある複数の事業者が,契約,協定又はその他の合意により共同して商品若しくは役務の価格を決定し,若しくは数量,技術,製品,設備,取引の相手方,販売地域その他事業活動を制限することにより,事業者の事業活動を相互に拘束し,商品の生産若しくは取引又は役務の市場需給の割合に対して影響を与えるおそれのあることをいう(第14条第1項)。「その他の合意」とは,契約及び協定を除き,法律上の拘束力の有無を問わず,事実上共同行為を引き起こすこととなる意思の連絡であり(同条第2項),カルテル合意は,市場の状況,商品若しくは役務の特性,費用若しくは利潤,又は事業者の行為の経済的合理性等の要素から推定することができるとされている(同条第3項)。
 協同組合又は他の団体が定款,総会若しくは理事・監事会議における決議その他の方法により,事業者の事業活動を拘束する行為は,カルテルとみなされる(第14条第4項)。

2 独占

(1) 独占とは,関連市場において,競争のない状態,又は競争を排除することのできる圧倒的地位を有する状態をいう(第7条第1項)。2以上の事業者が実質的に価格競争することなく,かつ,その全体としてみて前項に規定する状態と類似するときには独占とみなされる(第7条第2項)。ここでいう関連市場とは,事業者が一定の商品又は役務につき競争を行う地域又は範囲のことをいう(第5条)。
 関連市場において,[1]一つの事業者の市場シェアが2分の1以上,[2]二つの事業者の市場シェアの合計が3分の2以上,[3]三つの事業者の市場シェアの合計が4分の3以上のいずれかの状態が存在しなければ,当該事業者は独占しているとみなされない(第8条第1項)。また,上記のいずれかに該当していても,市場シェアが10分の1に達していない,又はその最終事業年度の総売上高が公平交易委員会の公告する額に達しない事業者は,独占しているとみなされない(第8条第2項)。
 ただし,市場参入につき法的若しくは技術的な制約があり,又は他の市場の需給に影響を与えることによって競争を排除しようとする者がいる場合,上記基準では独占しているとはみなされない事業者であっても,公平交易委員会はこれを独占と認定することができる(第8条第3項)。
(2) 独占に該当すると認定された独占事業者は,次の行為を行うことを禁止されている(第9条)。
ア 不公正な方法を用いて他の事業者の競争を直接的又は間接的に妨害すること。
イ 商品又は役務の価格を不当に設定し,維持又は変更すること。
ウ 正当な理由がないのに自己を有利に取り扱うよう取引相手に強要すること。
エ その他,市場における独占的地位を濫用すること。

3 企業結合

(1) 結合とは,[1]他の事業者との合併,[2]他の事業者の議決権付株式若しくは総資本額の3分の1以上の保有又は取得,[3]他の事業者の事業若しくは資産の全部若しくは主要部分の譲受け又は賃借,[4]他の事業者との恒常的な共同経営,又は他の事業者の経営の受任,[5]他の事業者の経営若しくは人事の直接的又は間接的支配をいう(第10条第1項)。
(2) 次のいずれかに該当する結合は,事前に公平交易委員会に届出をしなければならない(第11条)。
ア 結合後の市場シェアが3分の1を超えるとき。
イ 結合に参加する一つの事業者の市場シェアが4分の1を超えるとき。
ウ 結合に参加する一つの事業者の最終会計年度の売上高が,公平交易委員会の公告する金額を上回るとき(第11条第1項)。
(3) 事業者は,公平交易委員会が申請を受理した日から起算して30日を経過するまでは,結合してはならない。ただし,公平交易委員会が必要と認めてその旨を書面で通知することにより,期間を短縮し又は延長したときは,この限りではない(第11条第7項)。期間を延長する場合、延長期間は60営業日を超えることができない。延長した届出案件の判断に当たっては、公平交易委員会は第13条の規定に基づいて、決定を行わなければならない (第11条第8項)。
(4) 企業結合の届出について、公平交易委員会は外部の意見を募集することができ、必要があるときに産業・経済分析の意見を提供するよう学術研究機関に依頼することができる。
ただし、当該企業結合に同意しない当事会社がいる場合、公平交易委員会は当該企業結合の届出事由を企業結合に同意していない当事会社に開示し、その意見を聴取しなければならない。ただし書きの案件の判断に当たっては、公平交易委員会は第13条の規定に基づいて、決定を行わなければならない(第11条第10項)。
(5) 次のいずれかに該当する場合は,第11条(企業結合の事前届出)は適用されない(第12条)。
ア  企業結合に参加する事業者又はその子会社が,議決権付株式又は総資本額の100分の50以上を既に有している事業者と企業結合をするとき。
イ  一の事業者が,企業結合に参加する複数の事業者の議決権付株式又は総資本額の100分の50以上をそれぞれ有する場合において,当該複数の事業者と企業結合をするとき。
ウ  事業者が,自らの事業若しくは資産の全部若しくは主要部分又は別個に営む事業の全部若しくは一部を,新たに設立する会社に譲渡するとき。
エ 会社法第167条第1項又は証券法第28条の2の規定に従い,株式を償却したとき。
オ 再投資のため子会社を設立することにより,当該子会社の株式又は資本額の全部を取得するとき。
カ その他,公平交易委員会が公告する類型であるとき。
(6) 企業結合について,国民経済上の利益が競争制限による不利益を上回る場合,当該企業結合は禁止されない(第13条第1項)。公平交易委員会は、期間を延長した届出案件の決定(第11条第8項)において、国民経済上の利益が競争制限による不利益を上回ることを確保するため、条件又は約束を命ずることができる(同条第2項)。

4 その他

 その他,次の行為が禁止されている。
(1) 再販売価格維持行為(第19条)
(2) 公正競争の阻害(第20条)
([1]間接ボイコット,[2]差別的取扱い,[3]低価格での顧客誘引その他不正な手段により競争者の参入又は競争を妨害すること,[4]脅迫,利益誘引その他不正な手段により他の事業者を競争制限的行為に参加するよう促すこと,[5]拘束条件付取引)
(3) 不当表示(第21条)
(4) 他の商品又は役務と誤認させる行為(第22条)
(5) 不当な景品類の提供(第23条第1項)
(6) 不実な情報の告知・流布(第24条)
(7) 欺瞞的又は著しく不公正な行為(第25条)

5 適用除外

 カルテルは原則禁止であるが,次に該当する場合であって,経済全体と公共利益に有益であり,かつ公平交易委員会の許可を得たときは,この限りではない(第15条)。
(1) 費用引下げ,品質改良又は効率増進のために,商品の規格又は型式を統一する場合。
(2) 技術向上,品質改善,費用引下げ又は効率増進のために,商品等の共同研究開発を行う場合。
(3) 事業者の合理的経営を促進するため,専門分野の開発を行う場合。
(4) 輸出の確保又は促進のため,専ら海外市場の競争について合意した場合。
(5) 貿易強化のため,海外商品の輸入に関する共同行為を行う場合。
(6) 不況期に商品の市場価格が平均生産費用を下回り,当該事業分野における事業の継続が困難となり,又は過剰生産のため,計画的に需要に適応する目的で,生産若しくは販売の数量,設備若しくは価格の制限の共同行為を行う場合。
(7) 中小企業の経営効率増進又は競争力強化のために,共同行為を行う場合。
(8) その他,産業発展,技術開発又は経営効率化のため,必要な共同行為を行う場合。

第4 法執行手続

1 事件審査

(1) 公平交易委員会は,申告又は職権により,この法律の規定に違反し,公共の利益を害する事件について調査することができる(第26条)。この法律に基づく調査は,次の手続によりこれを行う(第27条第1項)。
ア 当事者及び関係者に対し,出頭して意見陳述をするよう通知する。
イ 当事者及び関係者に対し,会計帳簿,文書及びその他必要な資料又は証拠物件を提出するよう通知する。
ウ 当事者及び関係者の事務所,営業所その他の場所に職員を派遣して必要な調査を行わせる。
(2) 公平交易委員会は,証拠物件を差し押さえることができる。ただし,差し押さえる範囲及び期間は,調査,検査,鑑定その他証拠の保全のため必要なものに限られる(第27条第2項)。
(3) 被調査者は,正当な理由がない限り,調査を回避,妨害又は拒否してはならない(第27条第3項)。これに違反した場合には,5万元以上50万元以下の行政制裁金が課される(第44条)。
(4) 調査を担当する職員は,職務を執行するときは,その執行する権限を示す証明書を提示しなければならない。職員が証明書を提示しない限り,調査を受ける者はこれを拒否することができる(第27条第4項)。

2 制裁措置

(1) 行政措置
 公平交易委員会は,9条(独占),15条(カルテル),19条(再販売価格維持行為)及び20条(公正競争の阻害行為)の規定に違反した者に対し,期限を定めて当該行為の差止め,修正若しくはその他の是正のために必要な措置を命ずることができ,また,10万元以上5000万元以下の行政制裁金を課すことができる。事業者が期限内にこれに従わなかった場合,公平交易委員会は,引き続き必要な措置を命ずるとともに,10万元以上1億元以下の行政制裁金を課すことができる(第40条第1項)。さらに,第9条(独占)又は第15条(カルテル)の重大な違反行為に対しては,直近の事業年度における総売上高の10%まで増額することができる(第40条第2項)。
 公平交易委員会は,同委員会から企業結合の許可を受けずに結合を実行し,又は届出事項に虚偽若しくは不実の記載をした事業者に対し,当該結合の禁止,分割等必要な措置を命じることができ,併せて行政制裁金を課すことができる(第39条第1項,第2項)。また,この公平交易委員会の処分に違反した事業者に対しては,解散,営業停止等の処分を命ずることができる(第39条第3項)。
 公平交易委員会は,21条(不当表示),23条(不当な景品類の提供),24条(不実な情報の告知・流布)又は25条(欺瞞的又は著しく不公正な行為)に違反した者に対し,期限を定めて当該行為の差止め,修正若しくはその是正のために必要な措置を命ずることができ,又は5万元以上2500万元以下の行政制裁金を課すことができる。事業者が期限内にこれに従わなかった場合,公平交易委員会は,引き続き必要な措置を命ずるとともに,10万元以上5000万元以下の行政制裁金を課すことができる(第42条)。
(2) 刑事責任
 定められた期限内に,公平交易委員会の行政措置に従わなかった場合,刑事責任が問われる。
 第9条(独占)又は第15条(カルテル)違反について,定められた期限内に排除命令に従わなかった場合又は再び同一若しくは類似の行為をした場合,行為者に対し,3年以下の懲役,拘留若しくは1億元以下の罰金又はこれらを併科することができる(第34条)。
 第19条(再販売価格維持行為)又は20条(不正競争の阻害行為)違反について,定められた期限内に排除命令に従わなかった場合,2年以下の懲役,拘留若しくは5000万元以下の罰金又はこれらを併科することができる(第36条)。
 第24条(不実な情報の告知・流布)違反については,親告罪となっており,2年以下の懲役,拘留若しくは5000万元以下の罰金又はこれらが併科され,法人の代表等が違反行為に関与した場合には,法人に対しても罰金が科される(第37条)。

3 不服申立て

 公平交易委員会の処分に不服のある者は,直接裁判所に対し取消訴訟を提起することができる。ただし,改正法施行前の請求については,行政院訴願委員会において審理することができる(第48条第1項,第2項)。

4 行政制裁金の減免

 第15条違反行為(カルテル)に関して,事業者が次のいずれかの条件を満たした場合,第40条第1項又は第2項に基づく行政制裁金が減額又は免除される(第35条第1項,第2項)。
(1) 公平交易委員会が違反行為について認識していない又は法令に基づく審査を開始していない段階で,自らが行った具体的な違反行為について書面又は口頭で申告し,証拠を提出して同委員会の審査に協力すること。
(2) 公平交易委員会が法令に基づく審査を開始した後に,自らが参加しているカルテルについて,具体的な違法事実を陳述した上,証拠を提供して同委員会の審査に協力すること。

 

5 独占禁止基金

 共同行為に対する審査及び制裁を強化し、市場競争の健全な発展を図るため、公平交易委員会は、独占禁止基金を設けることができる(第47条の1)。
 独占禁止基金の資金源は、次のとおりである。
(1) 公平交易法違反による制裁金の30%を充当
(2) 基金の資産から生じた利息
(3) 予算配分による資金
(4) その他


 独占禁止基金は、次の目的のために使用する。
(1) 違法な共同行為の通報に対する報奨金
(2) 海外競争当局との協力・調査・連絡事項の推進
(3) 公平交易法及び違反行為通報の奨励金に関連する訴訟案件の関連費用の支出の補助
(4) 競争法に関連するデータベースの整備・維持
(5) 競争法に関連制度の研究
(6) 競争法の教育と宣伝
(7) その他市場の取引秩序を維持するために必要な支出

 公平交易委員会は、違法な共同行為の通報に対する報奨金に係る規定(報奨金を適用する範囲、情報提供者の資格、支給基準、支給手続、報奨金の取消し、廃止及び回収並びに情報提供者の身元の秘密保持に関する規定)を定める。


(参考)
公正交易委員会組織図

公平交易委員会組織図

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