タイ(Thailand)

(2022年3月 現在)

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1 根拠法

(1) 名称

 仏暦2560年取引競争法(Trade Competition Act B.E.2560)。以下「競争法」といい,特に記載がない限り,条文番号等は競争法の条文等を指す。)。
 ※仏暦はタイ特有の暦(西暦に543年を足す。)。

(2) 制定及び施行

 タイでは,1999年に「仏歴2542年取引競争法」が制定・施行されたが,①同法の規定に最近の事業形態に沿わない規定がみられたこと,②同法の執行機関である取引競争委員会事務局の意思決定に柔軟性・独立性が欠けていたことといった事情がみられたことから,より効率的な規制を行うため,2017年7月に競争法が制定され,同年10月に施行された。競争法の施行に伴って「仏歴2542年取引競争法」は廃止されている(第3条)。
 また,市場画定,支配的地位の認定方法,企業結合に関する事前許可や事後届出の要件や手続等を定めた各種の告示やガイドラインが2018年に制定された。

(3) 競争法の構成

 第1章 取引競争委員会
 第2章 取引競争委員会事務局
 第3章 独占及び不公正取引の防止
 第4章 職員
 第5章 損害賠償請求
 第6章 処罰
  第1節 刑事罰
  第2節 行政罰
 経過措置章

(4) 適用範囲

 競争法は,次に掲げる活動には適用されない(第4条)。
ア  中央行政機関,地方行政機関及び地方自治体(同条第1号)
イ  国有企業,公的機関又はその他の政府関係機関が,国家安全保障,公益,社会的利益又は公共事業の提供を維持するために必要な,法律又は閣議決定に基づく事業を行う場合(同条第2号)
ウ  法律に基づき認められた,農業者の利益に資することを目的とした農業者の集団,協同組合又は協同組合の集団(同条第3号)
エ  競争上の問題について管轄権を有する事業法により特別に規制される事業(同条第4号)

2 執行機関

(1) 名称

 取引競争委員会(Trade Competition Commission of Thailand。以下「TCCT」という。)

(2) 設立

 1999年

(3) TCCTの構成等

ア TCCTの構成等
 TCCTは,内閣の承認及び首相の任命を得た委員長,副委員長及び他の5名の委員(以下これら7名を単に「委員」という。)で構成される(第7条第1項)。委員については,法律,経済,財政,会計,産業,経営,事業規制,消費者保護又はその他の競争上の規制に関連する1以上の分野における必要な知識を有し,かつ,通算で10年以上の経験を有すること,年齢が40歳以上70歳未満であること等の資格要件及び事業者や事業者団体の役職との兼任等の欠格事項が設けられている(第8条,第9条及び第10条)。
 委員の選定に当たっては,まず,財務事務次官等の関係省庁の代表者(第11条第1項第1号から第7号まで),タイ商工会議所の会頭(同項第8号)及びタイ工業連盟の会長(同項第9号)の9名から構成される指名委員会(Selection Committee)が設置される(第11条第1項柱書)。指名委員会は,第8条,第9条及び第10条の要件を満たす者を委員の候補者として公募し(第12条第1項第1号),申請者の中から選定された候補者のリストを作成し,商務大臣に提出する(同項第2号)。商務大臣は,候補者の氏名等を内閣に提出する(同項第3号)。そして,内閣が候補者を委員として承認した後に,内閣は候補者の氏名を首相に提出して,首相の任命手続を経ることとなっている(同項第4号)。
 TCCTは,互選により委員長及び副委員長を選出する(第15条)。各委員の任期は4年であり,2期まで再任が可能である(第13条第1項)。

イ 事務局の構成等
 TCCTの事務を行う事務局(Office)が設置されている(第27条第1項)。
 事務局は,「仏歴2542年取引競争法」では商務省国内取引局内に設置されていたが,競争法では単独の「government agency」(政府機関)として設置されることとなった(第27条第1項)。
 

3 規制の概要

(1) 支配的地位の濫用

ア  「支配的地位にある事業者」とは,市場シェア及び売上額においてTCCTが告示で定める基準を上回る事業者であるところ(第5条),TCCTが定めた告示では,次に掲げるいずれかの基準を満たす場合に支配的地位にある事業者と認定される(「支配的地位にある事業者であることの基準に係るTCCT告示」第3条)。
(ア) 特定の商品又は役務の市場において,前年の市場シェアが50%以上であり,かつ,当該市場における前年の売上額が10億バーツ以上である事業者(同告示第3条第1項)
(イ) 特定の商品又は役務の市場における前年の市場シェアの上位3社の合計が75%以上であり,かつ,当該3社の当該市場における前年の売上額がいずれも10億バーツ以上である場合において,当該3社に含まれている事業者(ただし,前年の市場シェアが10%未満の事業者を除く。)(同告示第3条第2項)

 なお,前記の市場シェア及び売上額の算定に当たっては,TCCTの告示に基づき,親会社や子会社といった,ある事業者からみて政策(policies)又は権限(authorities)上の関連性を有する他の全ての事業者の,特定の商品又は役務の市場における市場シェア及び売上額を含めることとなっている(同告示第4条)。
 
イ  事業者は,次に掲げる方法により,その支配的地位を利用してはならない(第50条)。
(ア) 商品又は役務の購入又は販売価格の水準を,不当に固定又は維持すること(同条第1号)
(イ) 取引先の事業者に対して,商品の製造・売買,役務の供給・受給又は商品を製造・売買する,役務を供給・受給する若しくは他の事業者からの融資を求める機会を制限するため,不公正な取引条件を課すこと(同条第2号)
(ウ) 正当な理由なく,役務の供給,商品の製造・販売・流通若しくは国内へ輸入を停止・減少・制限すること又は供給量を市場の需要量以下に削減することを目的として商品を破壊若しくは棄損すること(同条第3号)
(エ) 正当な理由なく他の事業者の事業活動に干渉すること(同条第4号)
 

(2) 企業結合規制

ア  企業結合に関する事前届出
(ア) 事業者は,市場における独占又は支配的な地位を生じるおそれのある企業結合を行おうとする場合,TCCTから事前に許可を得なければならない(第51条第2項)。
「独占」とは,単独で商品・役務の価格及び供給量を決定する実質的な力を持つ,特定の市場における唯一の事業者で,売上額が10億バーツ以上の事業者を意味する(「企業結合の申請及び許可の基準,手続及び条件に係るTCCT告示」第3条)。
(イ) TCCTから許可を得ようとする事業者は,申請書と同告示第6条に規定された補助書類・証拠をTCCTに提出し,省令で規定される手数料を支払わなければならない(同告示第5条)。
 TCCTは,事業者からの申請を受理した日から90日以内に審査を終了しなければならない。ただし,必要に応じて,審査期限を最大15日間延長することができるが,その理由及び必要性は記録されなければならない(第52条第1項)。
 TCCTは,申請された企業結合計画を許可する場合,事業者に対して遵守すべき期限や何らかの条件を設定することができる(同条第3項)。また,TCCTは,申請された企業結合計画を許可するか否かを問わず,当該事案の事実関係及び法的関係の両観点から決定の理由を示さなければならない(同条第4項)。

イ  企業結合に関する事後届出
(ア) 事業者は,TCCTが告示で定めた基準に照らして市場における競争を実質的に減少させることとなる企業結合を行う場合,当該企業結合の実施日から7日以内に,TCCTに対して当該企業結合の実施結果を届け出なければならない(第51条第1項)。
「市場における競争を実質的に減少させることとなる企業結合」とは,当該企業結合を実施するいずれかの売上額又は全ての事業者の特定の市場における売上額の合計が10億バーツ以上であり,独占や支配的地位をもたらさない場合を意味する(「企業結合の結果の届出の規則,手続及び条件に係るTCCT告示」第3条)。
(イ) 第51条第1項に該当する企業結合を実施した事業者は,届出書と同告示第5条に規定された証拠書類をTCCTに届け出なければならない(同告示第4条,第5条)。

ウ  企業結合規制の対象となる企業結合には,次に掲げるものが含まれる(第51条第4項)。
(ア) 一方の事業者が承継して他方の事業者が消滅することとなる又は新しい事業者が設立されることとなる合併(同項第1号)
(イ) TCCTの定める告示に基づき,他の事業者の経営方針,事業の管理,方向性又は経営を支配するための当該事業者の資産の全部又は一部の取得と判断されるもの(同第2号)
(ウ) TCCTの定める告示に基づき,他の事業者の経営方針,事業の管理,方向性又は経営を支配するための直接的又は間接的な当該事業者の株式の全部又は一部の取得と判断されるもの(同第3号)
 

(3) カルテル

ア  競争関係にある事業者による,独占又は競争の減殺若しくは制限をもたらす共同行為
 同一の市場において競争関係にある事業者は,他の事業者と共同して,次に掲げる方法により,当該市場における独占又は競争の減殺若しくは制限をもたらす行為を行ってはならない(第54条第1項)。
(ア) 直接的又は間接的に,売買価格又は商品若しくは役務の価格に影響する取引条件を固定すること(同項第1号)
(イ) 各事業者が製造,購入,販売又は供給する商品又は役務の量を合意により制限すること(同項第2号)
(ウ) 商品又は役務に関するオークション又は入札において,ある事業者が受注できるように又は他の事業者が当該オークション若しくは入札に参加できないように,故意に合意又は条件を設定すること(同項第3号)
(エ) 各事業者が商品若しくは役務を販売する,その販売を減少させる若しくは購入する地域を割り当てること又は他の事業者が商品若しくは役務を割り当てられる販売先以外に販売しないことを条件に,各事業者の当該商品若しくは役務の販売先若しくは他の事業者が商品若しくは役務を割り当てられる購入元以外から購入しないことを条件に,各事業者の当該商品若しくは役務の購入元を割り当てること(同項第4号)

 ただし,本条の規定は,TCCTの告示が定める方針(policy)又は権限(commanding power)により,親会社と子会社間といった,相互に関連する事業者間で行われる行為には適用されない(第54条第2項)。

イ  事業者による,独占又は競争の減殺若しくは制限をもたらす共同行為
(ア) 事業者は,他の事業者と共同して,次に掲げる方法により,市場における独占又は競争の減殺若しくは制限をもたらす行為をしてはならない(第55条)。
a  同一の市場において競争関係にない事業者間において,第54条第1項第1号,第2号又は第4号に規定する条件を定めること(第55条第1号)
b  商品又は役務の質を以前に製造,販売又は供給していたものよりも低下させること(同条第2号)
c  同一若しくは同種の商品の販売又は同一若しくは同種の役務の供給を排他的に行う者を指定する又は割り当てること(同条第3号)
d  行為が合意された内容に従うようにするために、商品又は役務の購入又は製造に関する条件又は行為を設定すること(同条第4号)
e  その他TCCTが告示で定める方法により合意を締結すること(同条第5号)

(イ) ただし,第55条の規定は,次に掲げるいずれかの場合には適用されない(第56条第1項)。
a  当該行為が,TCCTの告示が定める方針又は権限により,相互に関連する事業者間で行われる場合(同項第1号)
b  当該合意が生産の発展,商品の流通又は技術的若しくは経済的進歩の促進を目的とする場合(同項第2号)
c  当該合意が,取引段階の異なる事業者間で締結され,一方の事業者が商品若しくは役務,商標,経営手法又は経営支援に係る権利を付与し,他方の事業者が当該権利のために料金,手数料又はその他の報酬を支払う義務を負う場合(同項第3号)
d  合意の形態又は事業形態がTCCTの勧告に基づき省令で規定されている場合(同項第4号)

 なお,同項第2号(上記b)及び第3号(同c)に基づく合意は,各号が定める利益を達成するために必要な限度を超えるものであってはならず,市場における独占力を生じさせたり,競争を実質的に制限したりしてはならない。また,上記の判断に当たっては,消費者に与える影響が考慮される(第56条第2項)。

(4) 不公正な取引方法

 事業者は,次に掲げる方法により,他の事業者に損害を与える行為を行ってはならない(第57条)。
ア  他の事業者の事業活動を不当に妨害すること(同条第1号)
イ  優越的な市場支配力(superior market power)又は優越的な交渉力(superior bargaining power)を不当に利用すること(同条第2号)
ウ  他の事業者の事業活動を制限又は妨害する取引条件を不当に設定すること(同条第3号)
エ  TCCTの告示で定められたその他の方法を行うこと(同条第4号)

 なお,「優越的な交渉力」とは,他の事業者が黙示的に受け入れざるを得ない,当該他の事業者の事業の状況について,支配し,指示し,限定し又は決定する能力等を有することを意味し(「他の事業者に損害を与える行為の検討のためのガイドラインと題するTCCT告示」第3条),その有無の判断に当たっては,①事業者が商品又は役務の売買から生じる収入の30%以上を当該相手方事業者との当該商品又は役務の購入に依存しているか否か,②(①を満たす場合)取引先の変更可能性の有無及び取引先を変更する場合に,同じ事業者から得られる利益よりも多くの事業経費が生じるか否かが考慮される(同告示第7条第2項)。また,優越的な交渉力の「不当な利用行為」とは,不当に取引先の選択肢を制限する又は取引先を搾取する行為(同告示第9条第2項)とされている。
 

(5) 国外の事業者との共同行為の禁止

 事業者は,正当な理由なく,独占的行為若しくは不当な取引制限につながる,又は経済全体若しくは消費者利益全体に重大な侵害が生じることとなる,国外事業者との法律上の行為又は契約を行ってはならない(第58条)。

4 法執行手続

(1) 調査権限

 競争法の執行に当たり,事務局のオフィサー(事務局長及び競争法の執行のためにTCCTによって任命された事務局職員〔第5条〕)は次に掲げる権限を有する(第63条第1項)。
ア  調査又は検討のために,口頭での説明,事実に関する情報の提出,書面での説明又は帳簿,登録証,書類若しくはその他の証拠の提出を行わせるために召喚状を発出すること(同項第1号)
イ  競争法に基づく調査を行うために,競争法に違反していることが合理的に疑われる事業者若しくは個人の事務所,生産拠点,販売拠点,購入拠点,商品の保管拠点,役務の供給拠点又はその他の場所に立ち入ること又は競争法に基づく調査及び事件処理のために,書類,帳簿,登録証及びその他の証拠を捜索,差押え若しくは押収すること(同項第2号)
ウ  調査又は分析のために対価を支払うことなく必要な量の商品を見本として収集すること(同項第3号)。

 なお,同項第2号(上記イ)について,刑事手続法に基づく捜索の場合は令状が必要となるが,令状の取得の遅滞が懸念され,書類又は証拠が移動,隠匿,破棄又は改ざんされるおそれがあると信じるに足る理由がある場合には,オフィサーは事前に取得した令状無しに,違反に関係する書類又は証拠の捜索,差押え又は収集に着手しなければならない(同項第3号)。

(2) 措置

ア 排除措置命令
 TCCTは,ある事業者が第50条,第51条第2項,第54条,第55条,第57条又は第58条に違反している又は違反するおそれがあると認めるに足りる十分な証拠がある場合,当該事業者に対し,書面により,当該行為を停止,中止,修正又は変更を指示する命令を発出する権限を有する(第60条第1項)。TCCTは,本命令を発出する場合,競争法の目的を達成するために必要な条件を課すことができる(同条第2項)。
 TCCTは,本命令を発出する場合,事実関係及び法的論点の双方を含む当該命令の理由を,検討に関与した委員の署名とともに示さなければならない(第61条第1項)。

イ その他の措置

 競争法違反に対しては,違反行為類型ごとに刑事罰又は行政制裁金が次のとおり規定されている。

行為類型

刑事罰

行政制裁金

支配的地位の濫用
(第72条第1項)

 

・2年以下の禁錮刑
及び/又は
・違反行為が行われた年の売上高の10%以下の罰金

企業結合規制違反
(事後報告違反)
(第80条)

 

・20万バーツ以下の制裁金
及び
・違反行為期間1日当たり1万バーツ以下の追加制裁金

企業結合規制違反
(事前届出違反)

(第81条)

結合事業の取引額の0.5%以下の制裁金

競争制限的行為
(ハードコア・カルテル)
(第72条第1項)

 

 

・2年以下の禁錮刑
及び/又は
・違反行為が行われた年の売上高の10%以下の罰金

競争制限的行為
(非ハードコア・カルテル)
(第82条第1項)

違反行為が行われた年の売上高の10%以下の制裁金
 

不公正な取引方法
(第82条第1項)

違反行為が行われた年の売上高の10%以下の制裁金

国外の事業者との共同行為の禁止
(第82条第1項)

違反行為が行われた年の売上高の10%以下の制裁金

 なお,刑事罰又は行政制裁金の対象となる違反者が法人である場合であって,当該法人の役員,支配人若しくは当該法人の業務に責任を持つ者の指示若しくは行為によって当該違反が行われた場合又は当該個人がある行為を指示する若しくは実行する義務があるにもかかわらず,当該指示若しくは実行を怠ったことにより,当該法人が当該違反を犯した場合,当該個人も当該違反に関して刑事罰又は行政制裁金の対象となる(第77条〔刑事罰〕,第84条〔行政制裁金〕)。

5 損害賠償請求

 第50条,第51条第2項,第54条,第55条,第57条又は第58条違反により損害を受けた者は,違反者に対し損害賠償を求めて提訴する権利を有する(第69条第1項)。ただし,被害者が当該損害の要因を知った日又は知り得た日から1年以内に提訴しなかった場合,当該権利は失効する(第70条)。

6 事前相談

(1) 事業者による事業活動を促進するため,事業者はTCCTに対して,次に掲げる事項を検討するように要請することができる(第59条第1項)。
ア  要請者の行為が,第50条で規定している市場支配的力を有する事業者の行為に該当するか(同項第1号)。
イ  要請者の行為が,第54条,第55条,第57条又は第58条に該当する性質を有するか(同項第2号)

(2) TCCTは,本条に基づく要請の検討結果に鑑み,要請者に対して,競争法を遵守するために従わなければならない条件を課すことができる(同条第3項)。TCCTの決定の法的拘束力は,TCCTが定めた範囲及び期間の限度で要請者のみに及ぶ(同条第4項)。そして,TCCTの検討に用いられた,要請者がTCCTに提出した情報が実質的に正確ではなく,かつ完全ではないこと又は要請者が課された条件を遵守していないことが事後的に判明した場合,TCCTはその決定を撤回して要請者に通知しなければならない(同項)。
 

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