ベトナム(Vietnam)

(2020年6月修正)

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1.根拠法

(1) 競争法制の名称

 ベトナムでは,競争法制が制定された時点(2004年)から現在まで,「競争法 LUẬT CẠNH TRANH」という名称が使用されている。

(2) 競争法の制定経緯及び構成

ア 競争法の制定経緯

 ベトナム国会は,2004年12月3日にベトナム初の競争法(旧法)を制定し,同法は2005年7月1日に施行された。その後,ベトナム国会は,ベトナム経済事情の変化などに対応するため, 2018年6月12日に新法(以下「競争法」という。)を制定した。競争法は2019年7月1日に施行され,旧法は失効した。

イ 競争法の構成

 第1章 総則
 第2章 関連市場及び市場占有率
 第3章 競争制限協定
 第4章 市場支配的地位及び独占的地位の濫用
 第5章 経済集中
 第6章 不公正な競争行為
 第7章 国家競争委員会
 第8章 競争法執行手続
 第9章 競争法違反処分
 第10章 施行条項
 

2 執行機関

 競争法を執行する国家機関は,商工省傘下の国家競争委員会である。また,国家競争委員会の下位機関として,調査機関である競争調査庁が常設されるほか,国家競争委員会委員長の決定により,個別事件ごとに競争制限事件処理評議会及び不服申立解決評議会がそれぞれ設立される(競争法第58条)。

(1)  国家競争委員会

ア 権限(競争法第46条第2項)

(ア) 商工大臣に対し,競争政策の実施に関する助言及び支援を行うこと
(イ) 競争法上の法的手続を実施すること,経済集中を規制すること,競争制限協定の禁止規定の適用除外を決定すること,競争事件処理決定に対する不服申立てを解決すること並びに競争法及び他の関連法令に定めるその他の業務を実施すること

イ 国家競争委員会の委員

 国家競争委員会の委員は,委員長及び副委員長(競争法第46条第1項)を含む15名以内を定員とし,5年を任期とする(再任可)(競争法第48条第4項)。また,委員には,ベトナム国民であること,法学,経済学又は財政学の学識経験等を有すること等が求められる(競争法第49条)。

(2) 競争調査庁

 以下の権限を有する(競争法第50条)。

ア 競争法違反の疑いのある行為を発見するため,情報を収集及び受領すること
イ 競争事件に係る調査を実施すること
ウ 競争事件の調査及び処理において,証拠等の保全や事件処理を確実にする措置の実施,変更又は取消しを提案すること
エ 競争事件の調査を法令に基づき実施すること
オ その他国家競争委員会から命ぜられた業務を実施すること

(3) 競争制限事件処理評議会

 競争制限事件処理評議会の委員は,国家競争委員会委員長の決定により,個別事件ごとに国家競争委員会の委員から3名又は5名が選ばれ,以下の権限を行使する(競争法第61条)。

ア 聴取手続を実施すること
イ 関係者に対し聴取手続への出頭を命じること
ウ 当事者の要求に基づき,証人に出頭を命じること
エ 専門家の鑑定を求める決定をすること及び鑑定人又は通訳の変更を決定すること
オ 競争調査庁に対し,追加調査の実施を要求すること
カ 競争制限行為事件の処理の保留を決定すること
キ 競争制限行為事件に係る決定をすること
ク 国家競争委員会委員長に対して,以下の権限の行使を求めること
(ア) 競争制限事件処理評議会の委員又は聴取手続における書記官の変更を決定する権限
(イ) 競争事件の調査及び処理において,関係当局に対し,証拠等の保全や事件処理を確実にする措置の実施,変更又は取消しを要求する権限
ケ 競争法に定めるその他の職務及び権限

(4) 不服申立解決評議会(競争法第100条第1項第a号)

 競争制限事件処理評議会の委員に任命されなかった国家競争委員会の委員は,不服申立解決評議会の委員に任命され,競争制限行為事件の措置に対する不服申立てを裁定する権限を有する(後記4(4)参照)。

3.規制の概要

(1) 競争制限行為

 競争制限行為とは,競争制限協定,市場支配的地位の濫用及び独占的地位の濫用により競争制限的効果を発生させ,又はそのおそれを生じさせる行為をいう(競争法第3条第2項)。

ア 競争制限協定

(ア) 概要

競争制限協定とは,以下のいずれかに該当する協定をいう(競争法第11条)。
a 直接又は間接的に,商品・サービスの価格を拘束する協定
b 商品・サービスの顧客,消費者市場又は供給元を割り当てる協定
c 生産,購入若しくは販売される商品・サービスの品質又は数量を制限若しくは調整する協定
d 商品・サービスの供給に関する入札において,協定を締結した1又は複数の事業者に落札させる協定
e 他の事業者による市場参入又は事業拡大を阻止又は禁止する協定
f 協定に参加しない事業者を当該市場から排除する協定
g 技術開発又は投資を制限する協定
h 他の事業者に商品・サービスの売買契約の締結条件を課す又は売買契約に直接関連のない義務を強要する協定
i 協定に参加しない事業者と取引しない協定
j 協定に参加しない事業者の商品・サービスの販売市場又は供給元を制限する協定
k 前記以外の協定であって,競争制限的効果を発生させ,又はそのおそれを生じさせるもの

(イ) 競争制限協定の禁止

 前記(ア)の競争制限協定は,以下のとおり分類される。

a 受注調整等に係る協定

 前記(ア)d,e及びfの受注調整等に係る協定は禁止される(競争法第12条第2項)。

b 水平的協定

(a) 前記(ア)a,b及びcに係る,同一の関連市場(競争法第3条第7項)にある企業間の競争制限協定(いわゆる「水平的協定」)は禁止される(競争法第12条第1項)。
(b) 前記(ア)g,h,i,j及びkに係る水平的協定は,市場における著しい競争制限的効果を発生させ,又はそのおそれがある場合には,禁止される(競争法第12条第3項)。

c 垂直的協定

 前記(ア)a,b,c,g,h,i,j及びkに係る,同種の商品・サービスの製造,流通又は提供の異なる段階にある企業間の競争制限協定(いわゆる「垂直的協定」)は,市場における著しい競争制限的効果を発生させ,又はそのおそれがある場合には,禁止される(競争法第12条第4項)。

(ウ) 著しい競争制限的効果の発生又はそのおそれの判断

国家競争委員会は,各事件における競争制限協定に「著しい競争制限的効果の発生又はそのおそれ」が認められるかどうかについて,協定の参加事業者の合計市場占有率,市場への参入又は拡大に対する妨害,商品・サービスを購入する顧客の費用及び時間の増加等,多様な要素を総合的に考慮して判断する(競争法第13条)。

イ 市場支配的地位及び独占的地位の濫用

(ア) 市場支配的地位及び独占的地位の認定

a 市場支配的地位の認定

 市場支配的地位については,単一の事業者又は事業者グループの関連市場における市場占有率が以下の場合(競争法第24条第2項)又は著しい市場優位性が認められる場合(同第26条第1項)には,市場支配的地位を有するとみなされる(競争法第24条第1項)。

事業者数

市場占有率

1

30%以上

2

50%以上

3

65%以上

4

75%以上

5以上

85%以上

 また,単一の事業者又は事業者グループにおける著しい市場優位性の有無は,以下の要素を考慮して判断される(競争法第26条第1項)。
 (a) 関連市場における事業者間の市場占有率の相関
 (b) 事業者の財務の健全性及び規模
 (c) 市場参入又は事業拡大に対する障壁
 (d) 商品・サービスの流通・消費市場又は供給元を所有,利用及び制限をする力
 (e) 技術上の優位性
 (f) インフラ施設を所有,制御及び利用する権利
 (g) 知的財産権を所有及び使用する権利
 (h) その他の関連商品・サービスの需給元の切替の可否
 (i) 事業者の事業が属する産業又は事業分野における特殊要因

b 独占的地位の認定

 関連市場に競合他社がいない事業者は,独占的地位を有するとみなされる(競争法第25条)。

(イ) 市場支配的地位の濫用及び独占的地位の濫用

a 市場支配的地位の濫用

 市場支配的地位を有する事業者は,以下の濫用行為をしてはならない(競争法第27条第1項)。
 (a) 総費用を下回る価格で商品・サービスを提供することにより,競合事業者を排除する,又はそのおそれを生じさせる行為
 (b) 不当な購入若しくは販売価格を課すこと又は最低再販売価格を拘束することにより,消費者に不利益をもたらす,又はそのおそれを生じさせる行為
 (c) 商品・サービスの生産又は流通を制限すること,市場を限定すること若しくは技術開発を妨害することにより,消費者に不利益をもたらす,又はそのおそれを生じさせる行為
 (d) 同種の取引において,事業者ごとに異なる取引条件を課すことにより,他の事業者による市場参入若しくは事業拡大を妨害し,若しくは競争者を排除する又はそのおそれを生じさせる行為
 (e) 他の事業者に商品・サービスの売買契約の締結条件を課すこと又は売買契約に直接関連のない義務を強要することにより,当該事業者による市場参入若しくは事業拡大を妨害し,若しくは競争者を排除する又はそのおそれを生じさせる行為
 (f) 他の事業者による市場参入又は事業拡大を妨害する行為
 (g) 他の法律により禁止される市場支配的地位の濫用行為

b 独占的地位の濫用

 独占的地位を有する事業者は,以下の濫用行為をしてはならない(競争法第27条第2項)。
 (a) 上記aの(b)から(f)までの行為
 (b) 消費者に不利益な条件を課す行為
 (c) 合理的な理由なしに契約内容を一方的に変更又は破棄する行為
 (d) 他の法律により禁止される独占的地位の濫用行為

(2) 経済集中

ア 概要

 経済集中には,以下の形態がある(競争法第29条第1項)。
 (ア) 吸収合併
 (イ) 新設合併
 (ウ) 企業買収
 (エ) 共同事業
 (オ) 法令で定めるその他の経済集中形態

イ 禁止される経済集中

 ベトナム市場において「著しい競争制限的効果」を発生させ,又はそのおそれを生じさせる経済集中は禁止される(競争法第30条)。「著しい競争制限的効果」については,国家競争委員会により,以下のうちいずれか又は複数の要素に基づき判断される(競争法第31条第1項)。
 (ア) 関連市場における企業の市場占有率の合計
 (イ) 経済集中以前及び以後の関連市場における集中度
 (ウ) 特定の商品・サービスの製造・流通・供給において経済集中に関与する各事業者の関係又は各事業者の事業分野における取引関係若しくは補完的関係の有無
 (エ) 関連市場において経済集中によりもたらされる競争の優位性
 (オ) 経済集中後の事業者が,価格又は売上総利益率を著しく上昇させる可能性
 (カ) 経済集中後の事業者が,他の事業者の市場参入又は事業拡大を妨害する可能性
 (キ) 経済集中の参加事業者が存する産業又は分野における特殊要因

ウ 条件付き経済集中

 条件付き経済集中とは,以下のうちいずれか又は複数の問題解消措置の実施を前提に認められる経済集中をいう(競争法第42条)。
 (ア) 経済集中に関与する事業者の出資持分又は財産の分割又は一部売却
 (イ) 経済集中後の事業者の商品・サービスの購入若しくは販売価格又はその他取引条件に対する監視
 (ウ) 競争制限的効果を是正するための措置
 (エ) 経済集中の肯定的な効果を高めるその他の措置

エ 経済集中の届出

 以下の項目のうちいずれかの基準を満たした場合,事業者は経済集中を実施する前に,国家競争委員会に当該経済集中に係る書類を提出することにより届け出る必要がある(競争法第33条第1項及び第2項)。
 (ア) 経済集中に関与する全事業者のベトナム市場における総資産
 (イ) 経済集中に関与する全事業者のベトナム市場における総売上額
 (ウ) 経済集中の取引価格
 (エ) 経済集中に関与する全事業者の関連市場における市場占有率の合計
 これらの項目の詳細な基準は,政府により,その時期の経済・社会的条件を鑑みて定められる(競争法第33条第3項)。
 なお,競争法の施行細則を定める政令によれば,事業者は,以下のいずれかに該当する場合に,経済集中に関し届け出る必要がある(政令第13条第1項)。ただし,経済集中に係る取引価値の基準については外国において行われる経済集中には適用されないほか,金融・保険・証券業を営む事業者については、本政令第13条第2項の基準が適用される。
 ◇ 経済集中に関与する複数の事業者のうち一の事業者(連結事業者を含む。)について,経済集中に関し届け出た年度の前年度の監査済み財務諸表上,ベトナム市場における総資産が3兆ドン以上
 ◇ 経済集中に関与する複数の事業者のうち一の事業者(連結事業者を含む。)について,経済集中に関し届け出た年度の前年度の監査済み財務諸表上,ベトナム市場における売上額又は購入額が3兆ドン以上
 ◇ 経済集中の取引価格が1兆ドン以上
 ◇ 経済集中に関与する複数の事業者について,経済集中に関し届け出た年度の前年度の関連市場における市場占有率の合計が20%以上

オ 経済集中の届出に対する審査

 国家競争委員会は経済集中案件を以下のとおり審査する。

 

 

 

 

 

 

 

(3) 不公正な競争方法

 不公正な競争方法として,以下の行為が禁止される(競争法第45条)。
 ア 事業上の機密情報を,当該情報保持者が講じたセキュリティに侵入してアクセス若しくは収集する行為又は当該情報保持者の同意なく開示若しくは利用する行為
 イ 他の事業者の顧客又は取引の相手方に対し,他の事業者と取引させない行為
 ウ 直接又は間接を問わず,他の事業者の評判,財政状態又は事業活動に悪影響を及ぼす虚偽の情報を流布することにより,他の事業者に関する不正確な情報を提供する行為
 エ 直接又は間接を問わず,他の事業者による適法な事業活動を妨害又は混乱させることにより途絶する行為
 オ 顧客に対し,他の事業者に関する,又は他の事業者が提供する商品・サービスの販促条件若しく取引条件に関する虚偽の又は誤認させる情報を表示することにより,不当に顧客を誘引する行為
 カ 裏付けがないにもかかわらず,自社の商品・サービスを他の事業者の同種の商品・サービスと比較することにより,不当に顧客を誘引する行為
 キ 総費用を下回る価格で商品・サービスを提供することにより,同種の商品・サービスを提供する他の事業者を排除する,又はそのおそれを生じさせる行為
 ク 他の法律によって禁止される不公正な競争方法

4.法執行手続

(1) 端緒

ア 競争法違反行為に関する情報の提供

(ア) 情報提供義務
 本法違反の疑いのある行為を発見した法人及び個人は,その情報及び証拠を国家競争委員会に提供する義務を負う(競争法第75条第1項)。
(イ) 国家競争委員会は,上記(ア)の情報及び証拠の提供を受けた場合,これを受領,確認,評価し,必要に応じ,通報者に対し追加の情報及び証拠の提供を求めることができる(競争法第76条)。

イ 競争法違反行為の申告

(ア) 自己の正当な権利及び利益が,競争法違反の結果侵害されたと思料する法人及び個人は,国家競争委員会に対し,当該違反を申告することができる(競争法第77条第1項)。
(イ) 前記(ア)の申告期限は,競争法違反行為が実行された日から3年である(競争法第77条第2項)。
(ウ) 国家競争委員会が,前記(ア)の申告を受理したときは,その完全性及び有効性を審査し,適切かつ有効であると認めた場合,受理してから7営業日以内に,申告人及び被申告人に対し,申告に係る書面を受理した旨通知する(競争法第78条第1項)。また,当該申告が適切かつ有効であると認められなかった場合,受理してから15日以内に,申告人に対し,30日以内(15日以内の延長が1回可能)に申告を補完する書面を提出するよう,書面で通知しなければならない(競争法第78条第2項)。
(エ) 国家競争委員会は,以下の場合において,申告を却下する(競争法第79条)。
a 上記(イ)の申告期限を超過した場合
b 申告が国家競争委員会の権限に当たらない内容の場合
c 申告人が前記(ウ)の申告を補完する書面を提出しない場合
d 申告人が申告を撤回した場合

(2) 調査権限

 事件の調査を実施する機関は以下のとおりである(競争法第58条第1項)第1項)。
ア 国家競争委員会
イ 競争制限事件処理評議会
ウ 不服申立解決評議会
エ 競争調査庁

(3) 競争事件の調査・処理手続

ア 競争事件の調査

(ア) 調査決定
競争調査庁の長は,下記の場合において,競争事件の調査開始を決定する(競争法第80条)。
a 申告が法定の要件を満たし,申告を却下する事由がない場合
b 国家競争委員会が,競争法違反の兆候がある行為を,その行為の日から3年以内に発見した場合
(イ) 調査期限(競争法第81条)

競争事件の類型

調査期限

(調査開始決定日から)

期限延長期限

(複雑な案件の場合に1回に限る)

競争制限事件

9か月

3か月以内

経済集中規定違反事件

90

60日以内

不公正な競争方法事件

60

45日以内

(ウ) 調査活動
 競争事件の調査官は,申告人,調査対象者,利害関係人,証人その他関係者の供述聴取を行う(競争法第83条第1項)。また,競争事件を調査し処理する際に,国家競争委員会の委員長は,関係当局に対し,行政違反に対する措置に関する法令に従い,以下の証拠等の保全及び事件処理を確実にする措置の実施を要請する(競争法第82条)。
a 違反に係る証拠・手段,営業許可証,免許状の領置
b 運送手段及び対象物の検査
c 違反に係る証拠及び手段を隠匿した場所の検査
(エ) 調査報告書
 調査完了後,調査官は,事件の要点,特定された違反行為,確認された事情及び証拠並びにこれらから導かれた措置案を明記した調査報告書を作成し,競争調査庁の長に提出する(競争法第88条第1項)。競争調査庁の長は,国家競争委員会の委員長に対し,調査結果を示し,調査報告書及び調査結果報告書とともに,競争事件に関する資料を移管する(競争法第88条第2項)。

イ 競争事件の処理

(ア) 競争制限事件の場合
 事件資料並びに調査報告書及び調査結果報告書を受領した日から15日以内に,国家競争委員会の委員長は,競争制限事件処理評議会を設立する決定を発する。競争制限事件処理評議会は,証拠が不十分であると判断した場合に,同評議会の設立日から30日以内に,競争調査庁に対して追加調査を要請できる。追加調査は要請した日から60日以内を期限とする。同評議会の設立日又は追加調査報告書等を受領した日から60日以内に,競争制限事件処理評議会は,競争事件処理停止決定又は競争事件処理決定を下す。その前に,聴聞会を実施しなければならない(競争法第91条)。
(イ) 経済集中規定違反事件及び不公正競争事件の場合
 事件資料並びに調査報告書及び調査結果報告書を受領した日から30日(経済集中規定違反事件の場合)又は15日(不公正競争事件の場合)以内に,国家競争委員会の委員長は以下のいずれかの決定を下す(競争法第89条及び第90条)。
 a 措置を採る決定
b 証拠が不十分であると判断した場合に,競争調査庁に対して追加調査を要請する決定。追加調査期限は30日とする。この場合の処理期限は,追加調査の資料等を受領した日から,経済集中規定違反事件の場合は20日,不公正競争事件の場合は10日とする。
c 措置を採らない決定

(4) 不服申立てに係る手続

ア 不服申立書の提出

 競争事件に係る決定の内容の全部又は一部について異議のある者は,当該決定を受領した日から30日以内に,国家競争委員会の委員長に対し不服申立てをすることができる(競争法第96条)。

イ 申立書の受理

 国家競争委員会の委員長は,不服申立書を受領した日から10日以内に,それを受理し,当該申立ての内容に関連する者に対して文書によって通知する責任を負い,受理しない場合はその理由を明記した書面により申立人に回答する(競争法第98条)。

ウ 競争制限事件の解決

 競争制限事件の場合,不服申立書の受理日から5営業日以内に,不服申立解決評議会を設立する。
 解決決定を下すためには,不服申立解決評議会の委員の総数のうち少なくとも3分の2の参加を要する。不服申立ての解決は,多数決の原則に従って決定される。不服申立解決決定期限は,個別事件に関する不服申立解決評議会を設立した日から30日とされる。なお,複雑な事件の場合は,その期限を,45日を上限として延長できる。(競争法第100条第1項及び第3項)。

エ 経済集中規定違反事件及び不公正競争事件の解決

 経済集中規定違反事件及び不公正競争事件の場合,国家競争委員会委員長は,不服申立てを受理した日から30日以内に不服申立てを解決する。なお,複雑な事件の場合は,その期限を,45日を上限として延長できる(競争法第100条第2項及び第3項)。

オ 解決決定に対する提訴

 解決決定内容の一部又は全部について不服がある者は,解決決定を受領した日から30日以内に,行政訴訟法に基づき,管轄裁判所に提訴する権利を有する(競争法第103条第1項)。

(5) 確約制度

ア 調査段階

 事件の調査に当たり,①申告人が申告を撤回した場合又は②発生から3年以内に国家競争委員会により発見された違反事件の場合で,かつ,調査対象者が,調査の対象となった行為の中止及び原状回復措置の実施を確約し,競争調査庁により承認された場合には,競争調査庁の長は,事件の調査停止を決定する(競争法第86条第2項及び第3項)。ただし,調査対象者が当該確約を遵守しない場合又は当該確約の承認が不正確,不足若しくは不正な情報に基づいていた場合は,競争調査庁の長が調査を再開する(競争法第87条第1項)。

イ 措置段階

 措置段階においても,上記ア①又は②に該当する場合において,国家競争委員会委員長(経済集中規定違反事件及び不公正競争事件の場合)又は競争制限事件処理評議会(競争制限事件の場合)は,事件処理手続の停止を決定する(競争法第92条第1項及び第2項)。

(6) リニエンシー制度(競争法第112条)

ア 要件(競争法第112条第1項,第3項及び第4項)

 (ア) 競争法第12条で禁止される競争制限協定の当事者であること
 (イ) 関係当局の調査開始決定前に,自ら違反行為を報告すること
 (ウ) 違反行為を発見,調査及び処理するために重要な全ての情報及び証拠を誠実に報告し,提供すること
 (エ) 事件を調査し措置が採られるまで間,関係当局に全面的に協力すること
 (オ) 他の事業者に競争制限協定への参加を強制した又は当該協定を組織した事業者でないこと

イ 制裁金の減免額

 (ア) リニエンシー制度は最大3社に適用される(競争法第112条第5項)。
 (イ) リニエンシーの適用を受ける事業者については,下記基準に基づいて,国家競争委員会が決定する。
  a 報告の順番
  b 報告時点
  c 権限機関に提供される情報及び証拠の確実性及び価値(競争法第112条第6項)
 (ウ) リニエンシーの適格が認められた最初に報告した事業者に対して制裁金の100%を免除し,2番目の事業者に対して制裁金の60%を減額し,3番目の事業者に対して制裁金の40%を減額する(競争法第112条第7項)。

5 罰則等

(1) 競争法による制裁

ア 制裁金

 競争法違反行為に対する制裁金の額は以下のとおりである(競争法第111条)。
 (ア) 競争制限協定,市場支配的地位の濫用及び独占的地位の濫用行為に該当する違反行為をした事業者に対し,違反行為を実行した年度の前会計年度の関連市場における当該事業者の総売上額の10%以下の制裁金を課す。ただし,その制裁金は刑法において定められた競争関連違反行為(下記(2)参照)に対する下限の罰金より低い金額でなければならない。
 (イ) 経済集中規定に係る違反行為をした事業者に対し,違反行為を実行した年度の前会計年度の関連市場における当該事業者の総売上額の5%以下の制裁金を課す。
 (ウ) 不公正な競争行為に該当する行為をした事業者に対し,20億ドン以下の制裁金を課す。
 (エ) 競争法に違反するその他の行為をした事業者に対し,2億ドン以下の制裁金を課す。
 (オ) 上記(ア),(イ),(ウ)及び(エ)の制裁金は組織に適用するものであり,個人の場合はその制裁金の半分とする。

イ 競争法によるその他の制裁(競争法第110条第2項,第3項及び第4項)

 競争法によるその他の措置として,以下の処分が規定されている。
 (ア) 警告
 (イ) 事業登録の抹消
 (ウ) ライセンス及び事業免許の取消し
 (エ) 違反行為に係る証拠及び設備等の没収
 (オ) 違反行為によって得られた収益の没収
 (カ) 製品回収等の是正措置
 (キ) 市場支配的地位又は独占的地位を濫用した事業者の再編
 (ク) 契約及び取引上の違法条項の削除
 (ケ) その他必要な措置

 (2) 刑事罰(2015年刑法(2017年に改正))

 刑法は,競争に関する規定に違反する罪として,以下のとおり規定する。
ア 次のいずれかに該当する行為を実行し,5億ドン以上30億ドン未満の不正利益を得るか,他人に10億ドン以上50億ドン未満の損害を与えた個人を,2億ドン以上10億ドン以下の罰金,2年以下の非拘束矯正又は3か月以上2年以下の懲役に処す(第217条第1項)。
 (ア) 合意して,他の企業を市場に参入させない又は経営を発展させない行為
 (イ) 合意して,合意参加者でない企業を市場から排除する行為
 (ウ) 合意参加者の合計占有率が30パーセント以上に達する場合で,次のいずれかの方法で競争を制限する行為
  a 合意して,直接又は間接的に商品・サービスの価格を設定する行為
  b 合意して,消費市場及び商品・サービス供給源を分割する行為
  c 合意して,商品・サービスの数量を制限又は調整する行為
  d 合意して,技術的開発又は投資を制限する行為
  e 合意して,他の企業に商品・サービスの売買条件を押し付けるか,他の企業に取引に直接関係のない義務を受け入れるよう強制した場合
イ 上記アの行為を実行し,更に以下のいずれかに該当する個人を,10億ドン以上30億ドン以下の罰金又は1年以上5年以下の懲役に処す(第217条第2項)。
 (ア) 2回以上罪を犯した場合
 (イ) 策略的な手段を使った場合 
 (ウ) 市場支配的地位や独占的地位を濫用した場合
 (エ) 50億ドン以上の不正利益を得た場合
 (オ) 他人に30億ドン以上の損害を与えた場合
ウ 上記ア又はイの罪を犯した個人は,5000万ドン以上2億ドン以下の罰金又は1年以上5年以下の期間,一定の役職,職業への就業を禁止されることがある(第217条第3項)。
エ 法人が上記の罪を犯したときは,以下のように処罰される(第217条第4項)。
 (ア) 上記アの罪を犯したときは,10億ドン以上30億ドン以下の罰金に処す。
 (イ) 上記イの罪を犯したときは,30億ドン以上50億ドン以下の罰金又は6か月以上2年以下の営業停止に処す。
 (ウ) その他,1億ドン以上5億ドン以下の罰金,1年以上3年以下の期間,一定の領域における事業の禁止又は資金調達禁止の処分を受けることがある。
オ 入札において他の応札者と共謀するなどした者が,1億ドン以上3億ドン未満の損害をもたらすなどした場合,3年以下の非拘束矯正又は1年以上5年以下の懲役に処される(第222条第1項)。また,3億ドン以上10億ドン未満の損害を与えるなどした場合には3年以上12年以下の懲役(同条第2項),10億ドン以上の損害を与えるなどした場合には10年以上20年以下の懲役(同条第3項)に処されるほか,一定の役職,職業への就業を禁止され,又は財産の全部若しくは一部が没収され得る(同条第4項)。

6 損害賠償

 競争法は,競争法制に係る特別の損害賠償制度を設けておらず,競争法違反行為により国家の利益,又はその他の法人・個人の権利・利益に対して損害を与えた場合には,法令の規定に従って損害賠償義務を負うことを確認する規定を置いている(競争法第110条第1項)

 

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