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イノベーションの促進に向けた競争政策の積極的展開

イノベーションの促進に向けた競争政策の積極的展開

 我が国が持続的な経済成長を実現し競争力を発揮していくためにはイノベーションの創出が鍵となるという認識の下、「イノベーションの促進に向けた競争政策の積極的展開  ~変化の時代における公正取引委員会の役割~」を作成いたしました。


(概要)
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イノベーションの促進に向けた競争政策の積極的展開

~ 変化の時代における公正取引委員会の役割 ~

令和8年1月28日

公正取引委員会

1 はじめに

 我が国の経済を取り巻く環境は、デジタル技術の急速な進展による産業構造の変容、気候変動問題への対応等、複合的な変化の波による大きな転換点にあり、同時に、人口減少・少子高齢化による国内市場の縮小や供給制約、原材料費の高騰等、様々な課題に直面している。こうした状況にあっても、我が国が持続的な経済成長を実現し、国際経済の中で競争力を発揮していくためには、事業者の生産性を向上させることが重要であり、そのためには特に我が国のみならず世界が抱える課題の解決に寄与するような製品、サービスの創出といったイノベーションを生み出していくことが鍵となる。このような認識の下、今後、公正取引委員会は、公正かつ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を確保していく中で、特に、事業者の創意工夫が最大限発揮されるような環境を整備することにより、イノベーションを促進することを目指して競争政策を展開していく。

 日本経済は今、「デフレ・コストカット型経済」から成長に向けた投資拡大と生産性向上を伴う「成長型経済」への移行を進めている。円滑な価格転嫁や継続的な賃上げは、中小企業を含む日本経済全体に活気をもたらし、投資を促進し、イノベーションが生まれ、事業者の生産性が向上するという経済成長の好循環へとつながる。そして、公正取引委員会による取引適正化のための取組は成長型経済の実現に今や欠かせないものになっている。

 また、デジタル社会の進展、グリーン社会の実現や経済安全保障の強化に向けた取組の推進等、我が国を取り巻く経済社会環境の急速な変化への対応も喫緊の課題である。市場や産業構造が複雑化・専門化する中で、公正かつ自由な競争を促進するためには、関係事業者や消費者といったステークホルダー等との対話はこれまで以上に重要なものとなる。ステークホルダー等との緊密な対話を通じて各分野の競争の実態を的確に把握し、規制と実務のギャップを埋めるとともに、事業者の予見可能性を高め、イノベーションを引き出す市場環境を整備する必要がある。

 さらに、これらの政策を実効あらしめ、真にイノベーションが生まれる土壌を作るためには、それを根底から支える政策として、違反行為に対する厳正な法執行が不可欠である。中小企業等に不当に不利益を与える商慣習は、イノベーションへの挑戦を阻害するものであり、新規参入者を排除するための排他的な取引条件の設定等は市場の新陳代謝を妨げる行為である。また、カルテル・談合により価格や取引先を固定することは、イノベーションのインセンティブを削ぐ悪質な行為である。こうした不当な商慣習を維持し、閉鎖的な市場や固定的な取引関係を作り出すといった「変化を拒む力」に対して、独占禁止法を厳正に執行し、引き続き、経済の活性化、消費者利益の促進という公正取引委員会の基本的な任務を担っていく。

 公正取引委員会は、上記のような役割を果たし、公正かつ自由な競争を促進していくため、取引適正化による「公正な取引環境の確保」、ステークホルダー等との対話を通じた「市場環境の整備」及び違反行為に対する「厳正な法執行」という三つの柱の下で、後記2のような具体的な施策を着実に実施していく。これらの施策の実施により、イノベーションを促進し、事業者の生産性の向上に資することで、持続的に成長する強い日本経済、ひいては豊かな国民生活の実現に貢献していく。

2 具体的な施策

(1)取引適正化による公正な取引環境の確保

 我が国経済がイノベーションの力を取り戻し、活力を維持し、発展していくためには、長い間に形成されてきた「デフレ型の商慣習」を見直す必要がある。イノベーションを生み出す主体は事業者であり、そこで働く人々であるが、取引価格が据え置かれる構造は、事業者や労働者の行動を萎縮させ、イノベーションや技術革新の力を削ぐ一因となっている可能性がある。差別化された革新的商品やサービスによって付加価値を創造していくようなイノベーションを促していくためには、優越的地位の濫用といった、スタートアップを含む中小企業、フリーランス(個人として業務を受託する事業者)等に不当に不利益を与える行為を排除し、適正な条件で付加価値に見合った対価が支払われる公正な取引環境の確保が必要である。同様の観点から、知的財産やノウハウの取引適正化を図っていくことも重要である。

 なお、令和7年11月21日に閣議決定された「「強い経済」を実現する総合経済対策」においても、「中小企業・小規模事業者が物価上昇を上回る賃上げを継続するための原資の確保に資するべく、価格転嫁・取引適正化の徹底を図る。」とされている。

 原材料価格やエネルギー価格が上昇する厳しい事業環境の中、公正取引委員会は、スタートアップを含む中小企業、フリーランス等に不当に不利益を与える優越的地位の濫用や中小受託取引適正化法(取適法)又はフリーランス・事業者間取引適正化等法違反行為等に対して積極的に対処するとともに、違反行為を未然に防止する施策を実施する。これによって、事業者間の公正な取引環境を確保し、円滑な価格転嫁の実現を図るとともに、あまねく全国において事業規模を問わず全ての事業者がイノベーションの担い手となることができるような環境を整備していく。具体的には、公正取引委員会は、アドボカシーとエンフォースメントを組み合わせながら、当面、次の施策を中心に実施していく。

○ 令和8年1月に施行された取適法、フリーランス・事業者間取引適正化等法や独占禁止法の迅速かつ効果的な執行や、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の周知により、あまねく全国において、円滑な価格転嫁を阻害する商慣習を一掃し、取引を適正化する。また、取適法の面的な執行を実現するために中小企業庁及び各事業所管省庁との連携体制を構築・強化する。

○ 優越的地位の濫用に係る考え方を整理するなどして、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁の環境確保や支払条件の適正化、物流に関する商慣習の問題に対する更なる対応を検討する。

○ 知的財産・ノウハウ・データに関連する取引実態調査を実施し、その結果を踏まえて、独占禁止法の指針策定を検討するなど、知的財産やノウハウの取引適正化を図る。

○ 働き方が多様化する中で、フリーランスが安定的に業務に従事することができる環境を確保するため、令和6年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法を積極的に執行する。

○ 映画・アニメ等のコンテンツ産業において、独占禁止法等及び競争政策上の具体的な考え方を公表・周知するなど、クリエイター支援のための公正な取引環境を確保する。

 取引の適正化は、サプライチェーン全体に資金を循環させることで、日本発のイノベーションを底支えする基盤作りであり、これらの取引適正化のための取組によって、大規模事業者だけでなくスタートアップを含む中小事業者・個人事業者によるイノベーション、都市部だけでなく地方からのイノベーションなど、事業規模、地域にかかわらずイノベーションの芽が育つような公正な取引環境を確保していく。

(2)対話を通じた市場環境の整備

 イノベーションが持続的に生まれるようにするためには、市場環境が適切に整備される必要がある。我が国経済がデジタル化に伴う市場の構造変化やグリーン社会の実現に向けた取組の推進の要請等、多様な変化に直面している状況において、イノベーションを促進する市場環境を整備するためには、幅広いステークホルダー等と緊密な対話を行い、各分野の競争の実態を正確に把握することが不可欠になっている。

 例えば、デジタル分野では、多面市場に由来する間接ネットワーク効果等により、独占化・寡占化が進みやすく、新規参入等が起こりにくい市場構造になりやすい。このような状況を踏まえ、スマートフォンの特定ソフトウェアについて、競争を通じて多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスを選択できその恩恵を享受できるよう、市場環境を整備する観点からスマホソフトウェア競争促進法が制定され、令和7年12月に全面施行された。同法については、指定事業者や関係事業者、関係省庁等の幅広い市場参加者・利害関係者との継続的な対話を通じて市場の実態を正確に把握し、海外競争当局やデジタル分野の専門家等とも連携しながら、セキュリティ等にも配慮しつつ対象分野における競争的な環境を実現するための実効的な法運用を行っていく。また、市場関係者等との対話を深めながら、生成AI等の新たな技術に関連する市場の動向を注視し、デジタル分野においてイノベーションの芽が不当に摘まれることがないように市場環境を整備していく。

 他の分野でも、例えば、サステナビリティに関連して、国際的に気候変動問題への取組の強化が急務となっており、我が国の事業者においても気候変動問題への取組が進められている中で、令和6年4月に改定した「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」に照らしながら事業者等からの相談に積極的に対応するとともに、市場や事業活動の変化、具体的な法執行や相談事例等を踏まえ継続的にガイドラインの見直しを行うことによって、グリーン社会の実現に向けた事業者のイノベーションを後押しする。

 また、我が国における経済安全保障の強化が求められている中で、競争を通じた多様な主体によるイノベーションを促進することにより、我が国の自律性・不可欠性の確保につながる製品・サービスの創出を後押しすることは、経済安全保障の強化にも資するものである。そして、経済安全保障の強化を進めるに当たっては、事業者の取組が独占禁止法上問題とならない場合を明確化することも重要である。このため、公正取引委員会は令和7年11月に「経済安全保障に関連した事業者の取組における独占禁止法上の基本的な考え方」及び「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」を公表しており、今後、事業者等からの相談に積極的に対応していく。こうした取組によって、公正取引委員会への相談を円滑化し、個別の相談等を通じて事業者のコンプライアンス上の不安を解消し、経済安全保障の強化に向けた事業者の取組を後押しする。

 このように、公正取引委員会は、複雑化、専門化した変化する経済実態をステークホルダー等との対話を通じて的確に把握しながら、スマホソフトウェア競争促進法や企業結合審査の実効的な運用、実態調査の実施、ガイドライン・事例集等の策定・改定や事業者等からの相談対応を行うことによって、事業者の予見可能性を確保するとともに、イノベーションを促進する市場環境を整備していく。

(3)厳正な法執行

 独占禁止法は、自由経済社会において事業者が事業活動を行うに当たって遵守すべき基本的なルールを定めたものである。独占禁止法に違反する行為に対しては、公正かつ自由な競争を阻害するものとして厳正な法執行を行う必要があり、独占禁止法の執行は公正取引委員会に任された最も基本的な任務である。また、厳正な法執行は、違反行為を排除するだけでなく、不当に固定化した取引関係や取引慣行を打ち破り、イノベーションを強力に後押しする力を持っている。そして、その独占禁止法の厳正な法執行が確保されることにより、取引適正化による「公正な取引環境の確保」やステークホルダー等との対話を通じた「市場環境の整備」を円滑に行うことができるという点において、厳正な法執行は、これらの二つの柱を根底から支えるものといえる。

 公正取引委員会は、事業者の自由な創意工夫を引き出すとともに、イノベーションの芽が不当に摘み取られることのないよう、次のような「公正な取引環境の確保」や「市場環境の整備」の取組を後押しする法執行や物価高等の国民生活に影響が大きい問題に関連する法執行に積極的に取り組む。

○ スタートアップを含む中小企業、フリーランス等に不当に不利益を与え、イノベーションに向けた事業活動を困難にし得る不当な商慣習(優越的地位の濫用等)に対する厳正な法執行

○ 新規参入妨害や競争者の不当な排除といった、市場の新陳代謝を低下させ、イノベーションを阻害する行為に対する厳正な法執行

○ 国民生活に密接に関連する商品・サービスについて、共同で値上げを行う価格カルテルや入札談合、不当に再販売価格を維持しようとする行為に対する厳正な法執行

 これらの厳正な法執行は、引き続きアドボカシーとエンフォースメントのそれぞれの強みを活かした効果的な連携の下で行っていく。

3 組織の改革

 このような具体的な施策を着実に実施し、日本経済の持続的な成長のために必要な公正取引委員会の役割を果たすため、「公正な取引環境の確保」、「市場環境の整備」、「厳正な法執行」という三つの柱それぞれの特性に応じ、中長期的にも持続可能な最適化された組織体制に移行する。そのため、既存の部局レベルを含む体制の見直しを進め、各組織が有機的に連携しながら具体的施策を機動的かつ効果的に実施できる体制への再編・強化を図る。また、地方においても、健全な競争環境を確保し、地方経済を活性化させるためには、独占禁止法、取適法及びフリーランス・事業者間取引適正化等法の周知広報活動によって競争政策の考え方を普及させていくだけでなく、中小企業、フリーランス等に不当に不利益を与える優越的地位の濫用等を始めとした違反行為に対する法執行等をきめ細かく行う必要がある。具体的な施策をあまねく全国で実施できるよう公正取引委員会の地方組織の体制の強化を図る。

 併せて、公正取引委員会の中核的役割を担う人材の充実・確保を図るとともに、経済社会環境の変化に即応し得る専門性を備えた人材を計画的に育成・確保していく。また、最新のデジタル技術を積極的に活用して業務を効率化し、人材の有効活用を図る。

 今後、公正取引委員会としては、必要な人員及び体制の確保・充実に努めていく。

以上

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