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金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について

金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について

平成16年12月1日
公正取引委員会
改正:平成19年9月30日
改正:平成19年12月22日
改正:平成21年9月1日
改正:平成23年6月23日

第1部 指針の必要性と構成

1 指針の必要性

(1) 平成5年4月施行のいわゆる金融制度改革法により、銀行業、信託業、証券業(注)の間で、これらの業を営む金融機関及び証券会社(注)は、いわゆる業態別子会社方式により他業態の業務に参入することが可能となり、これに併せて、公正取引委員会では、「銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について」を公表し、業態別子会社方式による他業態の業務への参入に伴って独占禁止法上問題となる行為を明らかにした。

(2) その後、平成5年当時には独占禁止法で認められていなかった持株会社の設立が、平成9年6月の同法改正により、原則として自由にできることとなった。これを受けた銀行法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)保険業法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)証券取引法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)等の改正により平成10年3月から銀行、保険会社、証券会社等は持株会社を設立することが認められ、従来の業態別子会社方式による他業態の業務への参入に加えて、持株会社方式による他業態の業務への参入が可能となり、業態区分の緩和が一層進んだ。
 これらの制度改正は、銀行、保険会社、証券会社に対して、一様に、持株会社の設立や子会社による他業態の業務への参入を認めるものであったが、実際には保険会社や証券会社が他業態の業務へ参入する動きは余りみられず、銀行が他業態の業務に進出する例が大半を占めた状況にあると認められる。
 このように、金融各分野を通じた銀行を中心としたグループ企業が形成された場合、従来の業態区分内の競争にとどまらず、業態区分を超えたグループ企業間の競争の活性化が期待されるが、他方、銀行が融資業務を通じた影響力を行使することにより、不当にグループ傘下にある企業の利益を図ることとなれば、金融市場等の公正かつ自由な競争をゆがめるおそれがあると考えられる。

(3) また、銀行については、銀行自らが取り扱うことのできる業務の範囲も段階的に拡大してきている。
 投資信託については、平成10年12月に銀行窓口等での販売が認められた。また、保険についても、平成13年4月から一部の保険商品を取り扱うことが認められ、以後、段階的にその範囲が拡大され、平成19年12月にすべての保険商品の取扱いが認められた。さらに、平成15年の証券取引法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)改正により、投資家が証券取引をより容易に行えるよう、証券仲介業(注)制度が創設されたが、この証券仲介業務(注)についても、平成16年12月から、銀行がその業務を取り扱うことが可能となり、株式等が銀行の窓口等において販売されることとなった。
 銀行において、投資信託や保険商品の販売に加えて株式等を新たに販売することは、投資家の利便に資するとともに、それぞれの商品の販売市場における競争を活性化させることが期待される。しかし、融資業務を通じた影響力を不当に利用して金融商品の販売活動を行うことになれば、当該取引に関する相手方の自由かつ自主的な判断が奪われるとともに、株式や投資信託あるいは保険商品の販売等に関し、当該銀行等はその競争者との関係において競争上有利となるなど、これらの販売市場における公正かつ自由な競争が阻害されるおそれがあると考えられる。

(4) 以上のことから、今般、「銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について」(平成5年4月)を改定するに当たり、融資業務を通じて一般事業会社に影響力を行使するおそれがあり、持株会社方式、業態別子会社方式を通じた他業態の業務への参入も進展し、かつ、業務範囲の拡大も進展している銀行を中心として改定を行うこととした。
 また、信託銀行及び保険会社については、一般事業会社に対する融資業務を行っていること、及び独占禁止法において、金融会社の議決権保有の制限の対象とされていることを踏まえて、本指針の対象とすることとした。証券会社については、平成10年に参入規制が免許制から登録制に緩和されたこと等のため引受け等により一般事業会社に対して影響力を行使する可能性が減少したと考えられることから、本指針の対象から削除することとした。
 また、本指針の改定に当たっては、制度改正に関する行為を中心として記載することとしたため、平成5年の指針に記載されていた子会社に対する出資の不当な強要や、事業会社の資金調達・運用に関する不当な拘束等の行為についても、本指針の対象から削除することとした。これらの削除は、本指針において特段の規定を設ける必要はないと判断したものにとどまり、一般的に独占禁止法が適用されるのはいうまでもない。
 本指針では、制度改正事項を中心としていることから、一般消費者との関係で特に問題となる金融商品の販売に当たってのぎまん的誘引行為等について、特段の記述は行っていないが、かかる行為について独占禁止法が適用されることについても、留意する必要がある。

 (注) ここでは,証券取引法の金融商品取引法への改正(平成19年9月30日施行)前における金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に係る経緯を記載しているため,「金融商品取引業」を「証券業」に,「金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)」を「証券会社」に,「金融商品仲介業」を「証券仲介業」に,そして,「金融商品仲介業務」を「証券仲介業務」に,それぞれ置き換えている。)

2 指針の構成

(1) この指針は、銀行、信託銀行及び保険会社などの金融機関の持株会社方式又は業態別子会社方式が認められたことによる業態区分の緩和や、これら金融機関の業務範囲の拡大に伴って、独占禁止法上問題となる行為を明らかにすることによって、独占禁止法違反行為を未然に防止し、もって金融市場等における公正かつ自由な競争の促進に役立てようとするものである。

(2) この指針は、

第1 金融機関の業態区分の緩和に係る不公正な取引方法

第2 金融機関の業務範囲の拡大に係る不公正な取引方法

 の2部から構成されている。
 第1においては、金融機関の問題となる行為を(1)取引の強制等、(2)競争者との取引の制限、(3)不当な顧客誘引の3つの行為類型に分け、それぞれ業態別子会社方式及び持株会社方式において問題となる行為を列挙している。
 第2においては、金融機関自らが取り扱う業務範囲が拡大することに伴って問題となる行為を規定しており、(1)金融機関による金融商品仲介業務に関し問題となる行為、(2)銀行等による保険募集業務に関し問題となる行為、及び(3)金融機関による投資信託等の販売業務に関し問題となる行為をそれぞれ列挙している。
 なお、この指針において「金融機関」とは、本指針の対象範囲との関係から、(1)銀行等、(2)保険会社のことをいい、「(1)銀行等」とは、銀行、信託銀行、外国銀行のほか、銀行業に類似の事業を営む事業者(預貯金又は定期積金の受入れと資金の貸付を併せ行う事業者)も含むものとする。

(3) また、ここで取り上げた行為は、上記の制度改正に伴って独占禁止法上の問題が生じるおそれがあると現段階において考えられる主要なものであって、独占禁止法上問題となる行為はこれに限定されるものではない。今後の状況の変化に伴い、これ以外に問題となる行為が発生した場合には、適切に対処していくことはいうまでもない。

第2部 金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について

第1 金融機関の業態区分の緩和に係る不公正な取引方法

 金融機関の他業態への参入形態としては、業態別子会社方式と、持株会社方式とがある。業態別子会社方式とは、金融機関が直接その傘下に子会社を設置し、当該子会社を通じて他業態の業務に参入する形態である。これに対し、持株会社方式は、金融機関が持株会社を設立するとともにその持株会社の傘下に子会社を設置し、当該子会社を通じて他業態の業務に参入する形態である。
 しかし、業態別子会社方式であっても持株会社方式であっても、金融機関が中心となって子会社等を設置し、他業態の業務への参入を図っていくという点においては変わりがない。そして、金融機関の業態別子会社方式による他業態の業務への参入についても、持株会社方式による他業態の業務への参入についても、融資を通じた影響力を不当に利用した行為を行うことが懸念される。
 具体的には、前者については、融資先企業等と子会社との取引について、後者については、同じく融資先企業等と持株会社の傘下子会社との取引について、それぞれ、金融機関が、子会社との取引強制等や、子会社の競争者との取引の制限等を行うことが懸念されるところである。
 このようなことから、以下では、(1)取引の強制等、(2)競争者との取引の制限、(3)不当な顧客誘引のそれぞれについて、業態別子会社方式及び持株会社方式における独占禁止法上問題となる行為について記載することとした。

1 取引の強制等

(1) 親会社による子会社との取引の強制等

 金融機関が、業態別子会社方式により参入した場合において、融資を通じた影響力を背景として、融資先企業等に対し自己の子会社との取引を事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該子会社等はその競争者との関係において競争上有利となるなどのおそれがある。。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、次のような取引の要請を行い、融資を取りやめる旨又は融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等により当該取引を行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用(注))

 (子会社が金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。以下同じ。)の場合)

ア 自己の子会社に有価証券の引受業務を行わせるよう要請すること

イ 有価証券の引受けに際し、自己の子会社を幹事会社とさせたり、一定率以上の引受シェアを確保させるよう要請すること

ウ 自己の子会社の取り扱う有価証券の購入等を要請すること

 (子会社が信託銀行の場合)

エ 自己の子会社に企業年金信託や投資信託等の受託業務を行わせるよう要請すること

 (注) 優越的地位の濫用として問題となるかどうかは、取引上の地位が相手方に優越しているかどうか、取引上優越した地位にある事業者が当該地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えているか否かを踏まえて個別具体的な取引ごとに判断する。

(2) 金融機関が、企業に対する融資を行うに当たり、自己の子会社の取り扱う有価証券の購入等を要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

(2) 持株会社の傘下子会社との取引の強制等

 持株会社の傘下にある金融機関が、融資を通じた影響力を背景として、融資先企業等に対し、自己と同じ持株会社の傘下にある他の子会社との取引を事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該他の子会社等はその競争者との関係において競争上有利となるなどのおそれがある。
 この場合、当該金融機関について、前記(1)と同様の行為が独占禁止法上問題となる。
 なお、金融機関が独占禁止法上問題となる行為を実行した場合であっても、当該金融機関と持株会社との間で共同して当該行為を行ったと認められるときは、持株会社に対しても独占禁止法が適用されることになる。

2 競争者との取引の制限

(1) 子会社の競争者との取引を不当に制限する行為

 金融機関が、業態別子会社方式により参入した場合において、融資先企業等に対し自己の子会社の競争者とは取引しないこと等を要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等は取引先選択の自由を制限され、子会社の競争者の取引機会が減少するおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、次のような要請を行い、融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨示唆すること等により、自己の子会社の競争者との取引を妨害すること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

 (子会社が金融商品取引業者の場合)

ア 自己の子会社の競争者に有価証券の引受けをさせないよう要請すること

イ 有価証券の引受けについて自己の子会社の競争者が引き受ける数量に限度を設けるよう要請すること

 (子会社が信託銀行の場合)

ウ 自己の子会社の競争者に企業年金信託や投資信託等の受託業務を行わせないよう要請すること

(2) 金融機関が、企業に対する融資を行うに当たり、自己の子会社の競争者に有価証券の引受けをさせないこと等の要請を行い、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(2) 持株会社の傘下子会社の競争者との取引を不当に制限する行為

 持株会社の傘下にある金融機関が、融資先企業等に対し、自己と同じ持株会社の傘下にある他の子会社の競争者とは取引しないこと等を要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等は取引先選択の自由を制限され、当該他の子会社の競争者の取引機会が減少するおそれがある。
 この場合、当該金融機関について、前記(1)と同様の行為が独占禁止法上問題となる。
 なお、金融機関が独占禁止法上問題となる行為を実行した場合であっても、当該金融機関と持株会社との間で共同して当該行為を行ったと認められるときは、持株会社に対しても独占禁止法が適用されることになる。

3 不当な顧客誘引

(1) 子会社との取引を不当に誘引する行為

 金融機関が、業態別子会社方式により参入した場合において、顧客に正常な商慣習に照らして、不当な経済上の利益を提供して自己の子会社との取引を誘引する行為は、顧客の適正かつ自由な取引選択をゆがめるものであり、金融市場等における公正かつ自由な競争が妨げられるおそれがある。
 例えば、金融機関が、顧客に対し、正常な商慣習に照らして、通常であれば行われない融資又は著しく有利な条件での融資を提供することにより、次のような自己の子会社との取引の誘引をすることは独占禁止法上問題となる。(不当な利益による顧客誘引)

 (子会社が金融商品取引業者の場合)

ア 自己の子会社に有価証券の引受業務を行わせるよう誘引すること

イ 有価証券の引受けに際し、自己の子会社を幹事会社とさせたり、一定率以上の引受シェアを確保させるよう誘引すること

ウ 自己の子会社の取り扱う有価証券を購入するよう誘引すること

 (子会社が信託銀行の場合)

エ 自己の子会社に企業年金信託や投資信託等の受託業務を行わせるよう誘引すること

 なお、金融機関の子会社が、親会社に対して正常な商慣習に照らし不当な利益を提供させ、自己との取引を誘引することも同様に独占禁止法上問題となる。

(2) 持株会社の傘下子会社との取引を不当に誘引する行為

 持株会社の傘下にある金融機関が、顧客に正常な商慣習に照らして不当な経済上の利益を提供して自己と同じ持株会社の傘下にある他の子会社との取引を誘引する行為は、顧客の適正かつ自由な取引選択をゆがめるものであり、金融市場等における公正かつ自由な競争が妨げられるおそれがある。
 この場合、当該金融機関について、前記(1)と同様の行為が独占禁止法上問題となる。
 なお、金融機関が独占禁止法上問題となる行為を実行した場合であっても、当該金融機関と持株会社との間で共同して当該行為を行ったと認められるときは、持株会社に対しても独占禁止法が適用されることになる。

第2 金融機関の業務範囲の拡大に係る不公正な取引方法

1 金融機関の金融商品仲介業務に係る不公正な取引方法

 金融商品仲介業とは、金融商品取引業者等の委託を受けて、有価証券の売買等の媒介や、有価証券の募集若しくは売出しの取扱いを業として行うことである。
 金融機関による金融商品仲介業務については、融資業務を通じた影響力を背景として、顧客に対して取引強制等不当な行為を行った場合、あるいは委託元金融商品取引業者に対して、委託の強制等不当な行為を行った場合には独占禁止法上問題となる。

(1) 顧客に対する不当な行為

ア 自己との取引の強制等
 金融商品仲介業務を行う金融機関が、融資を通じた影響力を背景として、融資先企業等に対して、自己と金融商品仲介業に係る取引を行うことを事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該金融機関はその競争者との関係において競争上有利となるなどのおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆し、自己と有価証券の売買の媒介等の取引を行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 金融機関が、企業に対する融資を行うに当たり、自己と有価証券の売買の媒介等の取引を行うことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

イ 競争者との取引の制限
 金融商品仲介業務を行う金融機関が、融資を通じた影響力を背景として、融資先企業等に対して、自己の競争者と金融商品仲介業に係る取引を行わないようにさせる場合には、当該融資先企業等は取引先選択の自由を制限され、当該金融機関の金融商品仲介業務に係る競争者の取引機会が減少するおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、自己の競争者と取引する場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆することにより、自己の競争者との有価証券の売買の媒介等の取引を妨害すること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(2) 金融機関が、企業に対する融資を行うに当たり、自己の競争者と有価証券の売買の媒介等の取引を行わないことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

ウ 不当な顧客誘引
 金融商品仲介業務を行う金融機関が、顧客に正常な商慣習に照らして不当な経済上の利益を提供して誘引する行為や、顧客に誤認を与えて誘引する行為は、顧客の適正かつ自由な商品選択をゆがめるものであり、証券市場における公正かつ自由な競争が妨げられるおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、顧客に対し、正常な商慣習に照らして、通常であれば行われない融資又は著しく有利な条件での融資を提供することにより、自己と有価証券の売買の媒介等の取引を行うよう誘引すること。(不当な利益による顧客誘引)

(2) 金融機関が、有価証券の仲介業務において、顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図るいわゆる利益相反に該当する事情があるにもかかわらず、顧客に対して虚偽の説明をして有価証券の仲介をすること。
 例えば、社債発行企業が金融機関からの借入金の弁済のために社債を発行しているという事情がある場合において、当該金融機関が、顧客に対し、設備投資等の支出に充てられるとの虚偽の説明をして、当該社債を販売すること。(ぎまん的顧客誘引)
 なお、利益相反に該当する事情により顧客が不利益を受ける蓋然性が高いにもかかわらず、これを告げずに誘引する場合も同様に考えられる。

(2) 委託元金融商品取引業者に対する不当な行為

ア 金融商品仲介行為の委託の強制等
 金融機関が、融資を通じた影響力を背景として、融資先金融商品取引業者等に対して、自己への金融商品仲介行為の委託等を事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先金融商品取引業者等の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該金融機関はその競争者との関係において競争上有利となるなどのおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資先金融商品取引業者に対し、自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆し、自己に金融商品仲介行為を委託することを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 金融機関が、金融商品取引業者に対する融資を行うに当たり、自己に金融商品仲介行為を委託することを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

イ 他の事業者への委託の制限
 金融機関が、融資を通じた影響力を背景として、融資を行っている委託元金融商品取引業者等に対して、自己の競争者に金融商品仲介行為を委託しないようにさせる場合には、当該融資先金融商品取引業者等は取引先選択の自由を制限され、当該金融機関の金融商品仲介業務に係る競争者の取引機会が減少するおそれがある。
 例えば、以下のような行為は独占禁止法上問題となる。

(1) 金融機関が、融資を行っている委託元金融商品取引業者に対し、自己の競争者と取引する場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆することにより、自己の競争者への金融商品仲介行為の委託を妨害すること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(2) 金融機関が、金融商品取引業者に対する融資を行うに当たり、自己の競争者に金融商品仲介行為を委託しないことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

ウ 有価証券の発行に関する不当な干渉
 金融機関が、融資先である委託元金融商品取引業者に対して、有価証券発行の条件について、当該金融商品取引業者の引受リスクを増加させるような要請を行い、事実上これに従うことを余儀なくさせる場合、当該金融商品取引業者の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該融資先金融商品取引業者等はその競争者との関係において競争上不利になるなどのおそれがある。
 例えば、金融機関が、融資を取りやめる旨又は融資に関して不利な取扱いをする旨を示唆することによって、自己の手数料収入の大幅な増額等自己の利益を図るため、有価証券の発行条件について、有価証券の発行額の大幅な上乗せなど金融商品取引業者の引受リスクを増加させるような要請を行い、これに従うことを事実上余儀なくさせるなどの行為は、独占禁止法上問題となる。(取引強制、優越的地位の濫用)

2 銀行等の保険募集業務に係る不公正な取引方法

 銀行等による保険募集業務については、銀行等が、融資業務の相手先である顧客に対して、不当に保険の販売を行った場合、あるいは、取引上優越した地位にある銀行等が委託元保険会社に対して、不当な干渉を行った場合には、独占禁止法上問題となる。
 委託元保険会社に対して銀行等が優越的地位にある場合とは、委託元保険会社にとって、販売チャネルが限定されていること等により、特定の銀行等との保険募集業務の委託の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来たすこととなることから、当該銀行等が当該保険会社にとって著しく不利益な要請等を行っても、当該保険会社がこれを受け入れざるを得ないような場合がこれに該当する。

(1) 保険契約申込みの強制等

ア 融資先企業又はその代表者等に対する保険契約申込みの強制等
 保険募集業務を行っている銀行等が、融資先企業又はその代表者等に対して、自己を通じた保険加入の申込みを事実上余儀なくさせる場合には、当該融資先企業等の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されるとともに、当該銀行等はその競争者との関係において競争上有利となるなどのおそれがある。
 例えば、以下のような行為は、独占禁止法上問題となる。

(1) 保険募集業務を行っている銀行等が、融資先企業又はその代表者(代表者に準じる者も含む。)に対し、融資を取りやめる旨若しくは融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等により、自己を通じて保険加入の申込みを行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 保険募集業務を行っている銀行等が、企業に対する融資を行うに当たり、当該企業又はその代表者に対して自己を通じて保険加入の申込みを行うことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

(3) (1)及び(2)の要請を行う過程で、他の保険に加入することを制限し、又は現在加入中の保険を解約させること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(4) 保険募集業務を行っている銀行等が、住宅ローンの利用を希望する顧客に対し、ローン加入の際に当該銀行等の窓口での火災保険への加入申込みを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

イ 融資先企業の役員又は従業員に対する保険契約申込みの強制等
 保険募集業務を行っている銀行等が、融資先企業に対し、当該融資先企業の役員又は従業員が自己を通じて保険契約を申し込むよう勧誘したとしても、それが単なる勧誘にとどまる限りは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかし、例えば、取引上優越した地位にある銀行等が、融資先企業に対し、役員又は従業員の保険契約について目標を設定するとともにその達成を要請し、当該融資先企業が目標達成に向けた対策を講じることを事実上余儀なくさせる場合は独占禁止法上問題となる。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 不当な顧客誘引

 保険募集業務を行う銀行等が、顧客に対し、正常な商慣習に照らして、不当な経済上の利益を提供して誘引する行為は、顧客の適正かつ自由な商品選択をゆがめるものであり、保険市場における公正かつ自由な競争が妨げられるおそれがある。
 例えば、銀行等が、顧客に対し、正常な商慣習に照らして、通常であれば行われない融資又は著しく有利な条件での融資を提供することにより、当該銀行等を通じて保険加入を申し込むことを誘引するような行為は独占禁止法上問題となる。(不当な利益による顧客誘引)

(3) 委託元保険会社に対する不当な干渉

 銀行等が、販売チャネルを当該銀行等に依存せざるを得ない委託元保険会社に対し取引上優越した地位にあると認められる場合において、例えば次のような行為を行い、委託元保険会社に対して、正常な商慣習に照らして不当な不利益を与える場合には、独占禁止法上問題となる。

(1) 銀行等が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、委託元保険会社に対し、取扱手数料の大幅な増額等自己の利益を図るために、例えば、当初予定していた販売数量を著しく超過した引受けを受け入れさせるなど、保険の過度の引受けを行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 銀行等が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、委託元保険会社に対し、保険の販売量確保のために、保険の引受リスクを著しく上昇させるような一般的な審査基準の緩和や、加入申込みに対する個々の審査の緩和を行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

3 金融機関の投資信託等の販売業務に係る不公正な取引方法

 投資信託等の販売業務については、金融機関が、顧客との関係において、融資業務を通じた影響力を背景として、取引の強制等の不当な行為を行った場合には、独占禁止法上問題となる。

(1) 自己との取引の強制等

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆し、自己を通じて投資信託等の売買等を行うことを事実上余儀なくさせること。(取引強制、優越的地位の濫用)

(2) 金融機関が、企業に対する融資に当たり、自己を通じて投資信託等の売買等を行うことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(抱き合わせ販売等)

(2) 競争者との取引の制限

(1) 金融機関が、融資先企業に対し、自己の競争者と取引する場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆し、自己の競争者を通じた投資信託等の売買等を妨害すること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(2) 金融機関が、企業に対する融資を行うに当たり、他の金融機関等を通じて投資信託等の売買等を行わないことを要請し、これに従うことを事実上余儀なくさせること。(取引妨害、排他条件付取引、拘束条件付取引)

(3) 不当な顧客誘引

 金融機関が、顧客に対し、正常な商慣習に照らして、通常であれば行われない融資又は著しく有利な条件での融資を提供することにより、自己を通じて投資信託等の売買等を行うよう誘引すること。(不当な利益による顧客誘引)

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