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(平成19年度:事例6)(株)島津製作所による三菱重工業(株)のターボ分子ポンプ事業の統合

(平成19年度:事例6)(株)島津製作所による三菱重工業(株)のターボ分子ポンプ事業の統合

第1 本件の概要

 本件は,株式会社島津製作所(以下「島津製作所」という。)が,吸収分割により,三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。)の高真空ポンプの一種であるターボ分子ポンプの製造販売事業を承継することによって,両社のターボ分子ポンプの製造販売事業を統合することを計画したものである。
 関係法条は,独占禁止法第15条の2である。

第2 一定の取引分野

1 製品概要

(1) 高真空ポンプの概要

 高真空ポンプとは,真空度の高い気体状況を創出するための装置である。例えば,半導体の製造工程では,高レベルの真空が必要であるため,半導体の製造装置に高真空ポンプが組み込まれている。高真空ポンプは,半導体以外にも,液晶パネル,太陽電池等の精密機器の製造過程でも使用されている。

(2) 高真空ポンプの種類

 高真空ポンプには,ターボ分子ポンプとクライオポンプという2つの方式のポンプがある。ターボ分子ポンプとは,アルミ合金の羽根を高速回転させて窒素や酸素などの分子を弾き飛ばし,高真空を作り出す機械である。また,クライオポンプとは,極低温を作り出し,気体を凝縮化又は低温吸着することで高真空を作る機械である。
 ターボ分子ポンプとクライオポンプは,半導体等の生産工程で使用されており,一部用途が重なってはいるが,ユーザーは,以下のような要因から,両ポンプを基本的に使い分けている。
ア クライオポンプは,水分子の排気能力が高いという特徴があるが,ターボ分子ポンプと異なり,排気構造は外部への排出ではなく,ポンプ内部に取り込んで蓄積するという方法を採るので,一定期間ごとにメンテナンスを要する。
イ クライオポンプは,半導体の製造工程の一部で腐食性ガス等が使用される場合,これが内部に吸着すれば,機器に損傷を与えるおそれがあるので,この場合には使用されない。
 また,両ポンプは,用途が重なっている場合でも,同じ製造装置を生産している間は,組み入れる高真空ポンプについて,既に設計段階でどちらのポンプを使うのかが決定されているので,水分子の排気が必要になった場合など,特に理由がない限り,通常は同種のポンプが継続して使用されている。

2 一定の取引分野の画定

 当事会社は,高真空ポンプの一種であるターボ分子ポンプの製造販売事業を行っており,クライオポンプの製造販売事業は行っていない。
 高真空ポンプには,ターボ分子ポンプとクライオポンプという2つの方式があるところ,ユーザーは,前記1(2)のとおり両ポンプを基本的に使い分けている実態にあることから,検討の対象となる商品の範囲は,ターボ分子ポンプに画定した。
 また,ターボ分子ポンプメーカーは,全国のユーザーに販売しており,ユーザーも,国内で販売しているメーカーから購入しているので,地理的範囲は全国で画定した。

第3 本件企業結合が競争に与える影響の検討

1 市場規模

 ターボ分子ポンプの市場規模は,平成17年で約200億円であり,近年,半導体や液晶パネルの需要が拡大していることに伴い,ターボ分子ポンプの需要も増加する傾向にある。

2 市場シェア・HHI

 ターボ分子ポンプの市場における各社のシェアは,下表のとおりである。
 本件企業結合により,当事会社の合算シェア・順位は約30%・第1位となる。
 また,本件企業結合後のHHIは約1,900,HHIの増分は約340である。

順位 会社名 シェア
1 島津製作所 約25%
2 A社 約25%
3 B社 約20%
4 C社 約15%
5 三菱重工業 約5%
6 D社 0~5%
7 その他 5~10%
(1) 当事会社合算 約30%
合計 100%

 (注)平成17年度実績
 (出所:当事会社提出資料を基に当委員会にて作成)

3 競争事業者の存在

 10%以上のシェアを有する競争事業者が複数存在する。

4 取引先変更の容易性

 ユーザーは,価格交渉を有利に行えるようにする観点から,特定のターボ分子ポンプメーカーのみに取引先が限定されることがないようにするため,複数のメーカーに対応できるように製造装置を設計している。したがって,ユーザーが取引先のターボ分子ポンプメーカーを切り替えることは容易であると認められる。

5 競争事業者の供給余力等

 ターボ分子ポンプメーカーは,半導体や液晶パネルの需要拡大を受けて,積極的に生産設備の増強を行っている。また,ターボ分子ポンプは,増産を行うための大がかりな生産工場や設備を設置するための広い敷地を必要とせず,金属加工のための工作機械等の設備を追加的に購入することで増産が可能であり,増産は容易であると認められる。

6 参入

 ターボ分子ポンプの製造のために必要とされる技術は,回転体製造技術及び真空技術のみで,これらの技術に係る障壁は低く,参入自体は容易である。

7 需要者からの競争圧力

 半導体等の市場においては,競争が熾烈なため,半導体メーカーに製品を供給している製造装置メーカーは,半導体メーカーから値下げを強く要請されることが多い。この場合,ターボ分子ポンプメーカーに対して,製造装置メーカーは,購入数量の多さを背景として,他のメーカーへの切替えも選択肢に入れて値下げ要求を行っている実態にある。他方,販売代理店を経由してユーザーに販売される場合には,販売代理店は,ターボ分子ポンプメーカーとの間で基本的な取引価格が決まっており,事後的に値引きがあるとしても価格交渉力は限定的である。
 以上から,全体の取引数量の約7割を占める半導体等の製造装置メーカーについては,価格交渉力が強いと認められる。
 なお,ターボ分子ポンプの販売価格は,生産技術の進歩から約10年前に大きく価格が低下し,それ以降も低下する傾向にある。

8 競争の状況

 ターボ分子ポンプメーカーは,ターボ分子ポンプ市場が拡大していることから,これを売上げ拡大の機会と考え,活発な競争を行っていると考えられる。その結果,ターボ分子ポンプ市場のシェアについては,平成13年と平成17年を比べると,シェアを大きく拡大させているメーカーがいる一方で,逆にシェアを半分近くに縮小させているメーカーがいるなど,シェアが激しく変動している。

第4 独占禁止法上の評価

1 単独行動による競争の実質的制限についての検討

 競争が熾烈な半導体や液晶パネル等の市場から値下げ要求を受けている半導体製造装置メーカー等は,コストを最大限削減するために,ターボ分子ポンプメーカーに対して,値下げ要求を強めている。また,ターボ分子ポンプの市場においては,当事会社以外にも複数の有力な競争事業者が存在しているほか,ターボ分子ポンプの増産が容易であることから,仮に当事会社が価格を引き上げた場合には,競争事業者は,短期間に生産量を増加させて顧客を奪うことが容易であると考えられる。
 したがって,当事会社の単独行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

2 協調的行動による競争の実質的制限についての検討

 半導体や液晶パネル等の川下市場からの価格牽制力が強く,多数の競争事業者が存在し,各社のシェアも激しく変わっているほか,ターボ分子ポンプの需要の拡大を受けて各社が活発に競争を行い,他の競争事業者がどのような行動をとるかを予測することが困難な状況であると考えられる。
 したがって,当事会社と競争事業者の協調的行動により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

第5 結論

 以上の状況から,本件行為により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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