事業者団体が,共同研究開発における会員の役割及び費用負担に応じて,合理的な範囲で,中間的成果の帰属先及び最終的な成果としての特許権等の使用料について,会員間で差を設けることは,独占禁止法上問題ないと回答した事例
1 相談者
A工業会(化学品メーカーの団体)
2 相談の要旨
(1) A工業会は,化学品メーカーの団体である。
(2) A工業会は,次世代化学品の基盤となる技術を開発するために,X大学の工学部と産学共同研究を行っている。研究開発は,X大学が基礎研究を行い,この基礎研究の結果を基に会員のうち研究所等の設備を有している者数名(以下「甲会員」という。)が,応用研究を行い,その結果をX大学にフィードバックしてさらに研究を進める方法で行っている。研究開発費用は,A工業会が一部負担するほか,甲会員及び当該研究に賛同し出資することとした会員(以下「乙会員」という。)が負担している。(以下,甲会員及び乙会員以外の会員を「丙会員」という。)。
なお,研究期間は3年間である。
(3) 共同研究の結果,実用化の可能性が確認されれば,すべての会員に技術が開示される。
(4) 共同研究の成果が得られた場合,甲会員,乙会員及び丙会員間において次のように取扱いに差を設けることは,独占禁止法上問題ないか。
[1] 基礎研究に目途がついた段階において費用を負担している甲及び乙会員に対してのみ中間的成果のサンプルを配布して実用化に向けた実験評価を行わせること
なお,実験評価の結果,実用化が可能だと判断されれば,希望するすべての会員に共同研究の成果を公表する
[2] 特許権や実用新案権等は,A工業会に権利が帰属するが,甲,乙及び丙会員間において権利使用料に一定の差を設けること
3 独占禁止法上の考え方
(1) 共同研究開発の成果である技術について,成果の定義又は帰属先を取り決めることは,共同研究開発の円滑な実施のために必要とされる合理的な範囲内のものと認められ,また,競争に及ぼす影響が小さいと考えられることから,原則として独占禁止法上問題ない。
ただし,その内容において参加者間で著しく均衡を失し,これによって特定の参加事業者が不当に不利益を受けることとなる場合には,一般指定第14項(優越的地位の濫用)又は同5項(共同行為における差別取扱い)として,独占禁止法上問題となる。
[共同研究開発ガイドライン第2-2-(2)(共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について)]
(2) 本件については,A工業会が,甲,乙及び丙会員間において共同研究の成果の取扱いに差を設けることになるが,
[1] 甲及び乙会員に対してのみ中間製品のサンプルを配布して実用化に向けた実験評価を行わせることについては,実用化の可能性が確認されれば,丙会員にも共同研究の成果が公表されることから,すべての会員が成果を享受できることとなる。また,甲及び乙会員には事前にサンプルが配布されることから,実験評価が可能となるが,これによって直ちに製品化できるものではない。一方,甲,乙及び丙会員間で実質的な費用負担には相当の差が認められる。これらのことを考慮すると,甲及び乙会員に対するサンプルの事前配布は,参加者間で著しく均衡を失しているものではないと考えられる
[2] 特許権等の使用料について,研究開発費の負担割合に応じて甲,乙及び丙会員間で一定の差を設けることは,合理的な範囲内であると考えられる
ことから,それぞれ独占禁止法上問題ないと考えられる。
ただし,(1)及び(2)の実施に当たっては,会員間で著しく均衡を失し,これによって特定の会員が不当に不利益を受けることとならないように注意する必要がある。
4 回答の要旨
A工業会が,共同研究開発における会員の役割及び費用負担に応じて,合理的な範囲で,中間的成果の帰属先及び最終的な成果としての特許権等の使用料について,会員間で差を設けることは,独占禁止法上問題ない。
ただし,共同研究開発の成果の取扱いについて会員間で著しく均衡を失し,これによって特定の会員が不当に不利益を受けることとならないように注意する必要がある。