2 証券会社による証券仲介業者に対する専属契約の義務付け

 証券会社が,証券仲介業者との契約において,他の証券会社等と契約してはならない旨の規定を設けることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 A社(証券会社)

2 相談の要旨

(1) A社は証券市場において約20%のシェアを有する証券会社である。従来,証券会社等(証券会社又は登録金融機関)以外の者は勧誘業務ができなかったが,平成16年4月1日に証券仲介業制度が導入され,証券会社等は勧誘業務を他の事業者(例えば,税理士等)に委託することが可能となった。
 そこで,A社は新たに証券仲介業者との間で,業務委託契約を締結することによる,証券の販売ルートの多角化を検討している。

(2) 証券取引法上,証券会社等は,委託先の証券仲介業者が証券仲介業務において顧客に与えた損害を賠償する責任を負わなければならないところ,A社は,証券仲介業者が複数の証券会社等の仲介業務を行っていた場合,賠償責任の範囲が不明確になるおそれがあるとして,証券仲介業者と業務委託契約を結ぶ際,他の証券会社等と委託契約を締結してはならない旨の規定を設けることを検討しているが,独占禁止法上問題ないか。

3 独占禁止法上の考え方

(1) 市場における有力な事業者が,取引先事業者に対し自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為又は取引先事業者に自己又は自己と密接な関係にある事業者の競争者との取引を拒絶させる行為を行い,これによって競争者の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(独占禁止法第19条一般指定2項(その他の取引拒絶),11項(排他条件付取引)又は13項(拘束条件付取引))[流通取引慣行ガイドライン 第1部第4-2]

 (注) 「市場における有力な事業者」と認められるかどうかについては,当該市場(行為の対象となる商品と機能・効用が同様であり,地理的条件,取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場)におけるシェアが10%以上又はその順位が上位3位以内であることが一応の目安となる。[流通取引慣行ガイドライン 第1部第4-2(注7)]

(2) 本件は,証券市場において約20%のシェアを有し同市場において有力な事業者であるA社が,取引先に対して,自己の競争者と取引しないよう求めるものである。
 しかしながら,証券仲介業制度は創設されてまだ間もなく,証券仲介業を取り巻く環境は過渡的な状況にあるため,証券仲介業者と証券会社等との間で継続的・固定的な取引関係が形成されているとは認められず,A社と取引する者以外にも,潜在的に証券仲介業者となり得る者は多数存在すると考えられる。

(3) したがって,本件A社の行為については,現時点において他の証券会社等が取引先を見いだすことが著しく困難になるとまでは認められないことから,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 ただし,今後,証券仲介業者を通じた取引が証券取引において有力な販売ルートとなった場合に,当該分野における有力な証券会社等が証券仲介業者との契約を専属契約とすることにより,競争事業者である他の証券会社等を排除したり,新規参入を阻害したりすることとなる場合には独占禁止法上問題となるおそれがある。

4 回答の要旨

 A社が証券仲介業者との間の契約において,他の証券会社等と委託契約を締結してはならない旨の規定を設けることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 ただし,今後,証券仲介業者を通じた取引が証券取引において有力な販売ルートとなった場合に,当該分野における有力な証券会社等が証券仲介業者との契約を専属契約とすることにより,競争関係にある他の証券会社等を排除し,又は新規参入を阻害する場合には独占禁止法上問題となるおそれがある。

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