建築資材メーカー3社が,建築資材の部品の共同研究開発を行うことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
A社,B社及びC社(共に建築資材メーカー)
2 相談の要旨
(1) A社,B社及びC社は建築資材メーカーであり,建築資材Xの市場におけるシェアは,それぞれ15%,10%,5%である。建築資材Xについては,これら3社以外にも有力な事業者が3社おり,6社で国内向け建築資材Xの全量を供給している。
(2) 3社は,環境・防犯等に配慮した製品へのニーズに対応し,また,製品価格の低下傾向に対応するため,建築資材の部品を共同で開発し,共通化することを検討している。
(3) 現在,3社が計画を進めているのは建築資材Xの部品の共通化であり,共通化される部分の割合は以下のとおりであるが,このような共同研究開発は独占禁止法上問題ないか。
なお,共同研究開発期間は1年であり,また,生産・販売は3社別々に行う。
ア 建築資材Xについては,機能,用途,材料により価格帯が大きく異なるところ,これら3社が販売する建築資材X全体において,本件共同研究開発の対象となる部品が利用される製品の割合は5%程度と見込まれている。
イ また,共通化される費用の,建築資材Xの生産費用全体に占める割合は,おおむね10%となっている。
3 独占禁止法上の考え方
(1) 本件については,建築資材Xの製品市場における競争事業者間の共同研究開発であることから,当該市場において競争が実質的に制限されるか否かについて判断する必要があり,以下,(1)参加者の数・市場シェア,(2)研究の性格,(3)共同化の必要性,(4)対象の範囲・期間についてそれぞれ検討する。
ア 参加者の数・市場シェア
製品市場において競争関係にある事業者間で行う当該製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発であっても,参加者の当該製品の市場シェアの合計が20%以下である場合には,通常は問題を生じない。[共同研究開発ガイドライン 第1-2(1)(1)]
本件共同研究開発には3社が参加し,建築資材Xの市場におけるこれら3社のシェアの合計は30%に上ることから,市場における競争に影響を及ぼす可能性がある。
イ 研究の性格
本件共同研究開発の対象は建築資材Xの部品であり,建築資材Xの生産に要する費用の一部が共通化され3社の自由な価格設定を困難にするなど,建築資材Xの製品市場における競争に直接的な影響を及ぼし得る。しかしながら,本件については共通化される費用の建築資材Xの生産費用全体に占める割合は約10%であり,3社の自由な価格決定を困難にするとは認めにくい。
ウ 共同化の必要性
本件共同研究開発の目的は,環境・防犯等に配慮した製品の部品を共同で開発し,3社で共通化することで,スケールメリットによる生産コストの低減を図り,利用者のニーズに対応していくものであり,共同化についての合理的な必要性が認められる。
エ 対象範囲・期間
3社が販売する建築資材X全体において,本件共同研究開発の対象となる部品が利用される製品の割合は5%程度であり,残りの製品については,各社が独自に開発するものであること,また,研究開発期間も1年に限られていることから,本件共同研究開発の対象・期間が必要以上に広範囲にわたるものとは認めにくい。
(2) 以上の点から総合的に判断すると,本件は競争事業者間の共同研究開発であり,建築資材Xの市場に占める3社のシェア合計は30%と高いものであるが,本件共同研究開発の結果,3社の建築資材Xについての自由な価格設定が困難となるものではなく,また,生産コストの低減や利用者ニーズへの対応などの効果も期待され,さらに,共同研究開発の対象範囲も確定されていることから,本件共同研究開発は直ちに独占禁止法問題となるものではない。
ただし,このような共同研究開発を契機として,3社が,建築資材Xの生産及び販売に関して競争回避的な行為をとることのないよう十分な注意が必要である。
4 回答の要旨
本件共同研究開発は直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
ただし,当該対象分野における3社の市場シェア合計が30%と高いことから,本件共同研究開発を契機として,生産及び販売に関して相互に競争を回避する行為をとることのないよう十分な注意が必要である。