3 ソフトウェアメーカーによる周辺機器の無料提供

 ソフトウェアメーカーが,自社のレジ向けソフトウェアを一定期間レンタルする事業者に対して,期間を限定して,高額ではないレジ向けプリンタを無料で提供することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(ソフトウェアメーカー)

2 相談の要旨

(1)X社は,レジ向けソフトウェアのメーカーであり,全国の小売業者に対してソフトウェアのレンタルを行っているほか,レジ向けプリンタ等の周辺機器の販売を行っている。

(2)レジ向けソフトウェアは,小売業者であれば業種を問わず利用できる汎用的なものが一般的であるが,X社がレンタルするレジ向けソフトウェアは,サービスAを提供する小売業者に特化している。
 また,レジ向けプリンタ等の周辺機器は,X社のレジ向けソフトウェアを利用するのに必須ではなく,小売業者はレジ向けソフトウェアのメーカーから周辺機器を購入せずに既存の周辺機器を継続して使用することもある。

(3)サービスAを提供する小売業者は全国に多数存在するところ,当該小売事業者に特化したレジ向けソフトウェアのメーカーは,全国にX社のほかに少なくとも10社は存在する。

(4)X社は,レジ向けソフトウェアを,サービスAを提供する小売業者に対して,導入に係る初期費用を徴収した上で,月額使用料α円でレンタルしている。導入に係る初期費用は,月額使用料の約10倍であり,月額使用料の金額(α円)は,X社によるレジ向けプリンタの販売価格とほぼ等しい。

(5)X社は,レジ向けソフトウェアのレンタルを促進するため,今後4か月間に限って,サービスAを提供する小売業者のうち,過去にX社からレンタルしたことがあり,現在はレンタルしていない小売業者の一部のみを対象として,ソフトウェアを1年間以上レンタルすることを条件として,自社のレジ向けプリンタを無料で提供することを検討している。
 このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。

  • 本件の概要図

平成30年度相談事例集事例3概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が正常な商慣習に照らして不当な利益をもって,競争者の顧客を自己と取引するように誘引することは,不公正な取引方法(一般指定第9項〔不当な利益による顧客誘引〕)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第19条)。

(2)本件取組は,X社が顧客を誘引するための手段として,自己の供給する商品の取引に付随して経済上の利益を提供するものであるところ,
 [1] レジ向けソフトウェアを1年間以上レンタルする際に必要な費用は導入に係る初期費用を含めて月額使用料α円の20倍以上となる一方,レジ向けプリンタの販売価格は月額使用料α円とほぼ等しいため,レジ向けプリンタを無料で提供することによる経済上の利益の程度が過大とまではいえないこと
 [2] 無料で提供されるレジ向けプリンタは,X社が販売するレジ向けソフトウェアと密接に関連する商品であり,顧客はレンタルするレジ向けソフトウェアと無償で提供されるレジ向けプリンタの効用を合わせて捉えた上で,自らの費用負担が適正かどうかを見極めることができるため,顧客であるサービスAを提供する小売業者の商品選択を歪めるとまではいえないこと
 [3] 実施期間が4か月間と限られており,反復継続性がないため,競争者への影響が限定的であると考えられること
から,競争手段として不公正ではなく,また,レジ向けソフトウェアのレンタル市場において市場閉鎖効果(注)が生じるおそれは小さく,不当な利益による顧客誘引として独占禁止法上問題となるものではない。

(注)「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3(2)ア〔市場閉鎖効果が生じる場合〕)。

4 回答の要旨

 X社が,自社のレジ向けソフトウェアを一定期間レンタルする事業者に対して,期間を限定して,高額ではないレジ向けプリンタを無料で提供することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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