エネルギー商品の小売事業者が,他のエネルギー商品の小売事業者と業務提携を行い,大口需要者に対して,原則として供給に要する費用を下回ることなく自社が供給するエネルギー商品と提携先のエネルギー商品をセットで販売することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(エネルギー商品の小売事業者)
2 相談の要旨
(1)X社は,P地域においてエネルギー商品A(以下「商品A」という。)の小売事業を営む事業者である。P地域の商品Aの小売市場におけるX社の市場シェアは,50パーセントを超えている。
(2)X社の子会社であるY社は,P地域においてエネルギー商品B(以下「商品B」という。)の卸売事業を営む事業者であり,P地域における複数の小売事業者に対して商品Bの卸販売を行っている。
近年,他の地域を販売地域としていた商品Bの卸売業者がP地域まで販売地域を拡大してきており,P地域における商品Bの卸売事業の競争は激しくなってきている。このため,Y社の販売先を確保することがX社にとって急務となっている。
(3)商品A及び商品Bの需要者のうち,工場等の大口需要者は,商品A,商品B等を組み合わせて又は単独で使用しているが,これまでは商品A又は商品Bをそれぞれ個別に調達してきた。
(4)そこで,Ⅹ社は,Y社の商品Bの卸売事業を拡大するために,Y社が卸販売を行っている商品Bの小売事業者であるZ社と業務提携を行い,大口需要者を対象として,以下の方法によって,X社の供給する商品Aと提携するZ社の供給する商品Bをセットで販売することを検討している。
ア X社は,提携するZ社と連携しながら,大口需要者に対して商品Aと商品Bのセット販売を提案する。
イ 大口需要者との契約については,商品AはX社が,商品Bは提携するZ社がそれぞれ行う。
ウ X社の子会社であるY社は,セット販売を前提として,商品Bの卸販売価格の割引を実施する。割引の範囲は,原則として,Y社の供給に要する費用を下回らない範囲とする。
エ 提携するZ社は,Y社による卸販売価格の割引を原資として,商品Bの小売価格の割引を実施する。割引の範囲は,原則として,自らの供給に要する費用を下回らない範囲と見込まれるほか,小売価格の設定にX社及びY社はいずれも関与しない。
オ 大口需要者は,商品Aと商品Bをセットで調達するか,個別に調達するかを自由に選択できる。
カ 提携するZ社は,商品Aの他の小売事業者と提携して,本件取組と同様の取組を行うことは制限されない。
このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)ア 事業者が,取引の相手方に対し,ある商品又は役務(主たる商品等)の供給に併せて他の商品又は役務(従たる商品等)を自己又は自己の指定する事業者から購入させる行為は,主たる商品等の市場における有力な事業者が行い,従たる商品等の市場における自由な競争を減殺するおそれがある場合には,不公正な取引方法(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕)に該当し,独占禁止法上問題となるおそれがある(同法第19条)。
イ 事業者が,自己の商品又は役務と併せて他の商品又は役務を販売する場合において,セット割引による不当な安値設定,他の事業者の業務提携に対する不当な介入等により,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるときには,私的独占(独占禁止法第2条第5項)又は不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項第3号又は一般指定第6項〔不当廉売〕,一般指定第11項〔排他条件付取引〕,一般指定第12項〔拘束条件付取引〕,一般指定第14項〔取引妨害〕等)に該当し,独占禁止法上違法となるおそれがある(同法第3条又は第19条)。
(2)本件取組は,P地域の商品Aの小売市場において有力な事業者であるX社が,商品Bの小売事業者であるZ社と業務提携を行うことにより,大口需要者に対して,自己の商品Aと併せて商品Bを販売し,商品Bの料金を割り引くものであるところ,
[1] 大口需要者は,引き続き,セット販売を利用せずに,X社から商品Aを,提携するZ社から商品Bを,それぞれ調達することが可能であり,商品A又は商品Bの販売市場において市場閉鎖効果(注)が生じるおそれは小さいこと
[2] セット販売に伴い商品Bの料金の割引が実施されるが,商品Bの小売価格は,原則として,提携するZ社の供給に要する費用を下回るものではないものと見込まれ,かつ,その割引の原資となる商品Bの卸販売価格も,原則として,Y社の供給に要する費用を下回るものではないため,セット割引による不当な安値設定には該当しないこと
[3] 提携するZ社は,商品Aの他の小売事業者と本件取組と同様の取組を行うことを制限されていないため,他の事業者の業務提携に対する不当な介入には該当しないこと
から,抱き合わせ販売,不当廉売又は取引妨害等として独占禁止法上問題となるものではない。
(注)「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3(2)ア〔市場閉鎖効果が生じる場合〕)。
4 回答の要旨
X社が,Z社と業務提携を行い,大口需要者に対して,原則として供給に要する費用を下回ることなく自社が供給する商品Aと提携先の商品Bをセットで販売することは,独占禁止法上問題となるものではない。