6 ソフトウェアメーカーによる保守契約の義務付け

 ソフトウェアメーカーが,自社のソフトウェアを利用している顧客に対して,当該ソフトウェアのアップグレード版を販売する際に保守契約を締結することを義務付けることについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社(ソフトウェアメーカー)

2 相談の要旨

(1)X社は,事業者向けの情報機器に使用されるソフトウェアAのメーカーであり,自社のソフトウェアAを購入した顧客に対し,ソフトウェアAに係る保守契約の提供及びアップグレード版の販売を行っている。

(2)ソフトウェアAのメーカーは複数存在するが,保守契約やアップグレード版を提供できるのは,自らが販売するソフトウェアAについてのみであり,他のソフトウェアメーカーが販売するソフトウェアAについての保守契約やアップグレード版は提供することができない。

(3)ソフトウェアAの需要者は,情報機器を新たに導入する際,複数のソフトウェアAのメーカーから最適なメーカーを選択し,ソフトウェアAを新たに購入している。
 ソフトウェアAはメーカーによって仕様が異なり,顧客は使い慣れたものを継続して使用する傾向があるため,顧客が一旦購入したソフトウェアAを他のメーカーのものに切り替えることはほとんどない。

(4)保守契約は,顧客があらかじめ一定額の料金を支払うことにより,機能を改善したソフトウェアAのアップグレード版が定期的に提供されるサービスである。顧客は,事前に保守契約を締結した上でアップグレード版の提供を受ける方が,保守契約を締結せずに後から個別にアップグレード版を購入するよりも購入費用を削減することができる。

(5)ところが,実際には,顧客は,ソフトウェアAを購入した時点では,将来的なアップグレードの必要性を判断し難いとして保守契約の締結を控える傾向にあり,顧客の保守契約の契約率は5パーセント程度にとどまっている。
 もっとも,最終的には,X社のソフトウェアAを購入した顧客のほとんどは,アップグレード版が出る度に個別にアップグレード版を購入し,ソフトウェアのアップグレードを行っている。

(6)ソフトウェアAは,販売した後もメーカーによる顧客サポートが必要となるが,X社が顧客サポートのために必要なコストは,顧客の規模にかかわらず一定程度生じているところ,現在は,保守契約を締結していない顧客が個別にアップグレード版を購入するまでの間の,アップグレード前のソフトウェアAに係る顧客サポートのコストがX社の負担となっている。

(7)そこで,X社は,ソフトウェアAに係る顧客サポートの負担を軽減するため,自社のソフトウェアAを利用している顧客に対して,個別に当該ソフトウェアAのアップグレード版を販売する際に保守契約を締結することを義務付けること(以下「本件取組」という。)を検討している。
 本件取組は,独占禁止法上問題ないか。

  • 本件の概要図

平成30年度相談事例集事例6概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって,当該取引の相手方が,それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり,又はその購入を希望していないときであったとしても,今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号イ)に該当し,不公正な取引方法として独占禁止法上問題となる(同法第19条)(優越的地位濫用ガイドライン第4-1(1))。

(2)本件取組は,ソフトウェアAのメーカーであるX社が,自社のソフトウェアAを利用している顧客に対して,アップグレード版を販売する際に保守契約の締結を義務付けるものであるところ,ソフトウェアAの顧客は,使い慣れを重視する傾向があり,他のメーカーに切り替えることはほとんどなく,X社との取引を継続する必要性が高いため,X社はソフトウェアAの顧客に対して取引上の地位が優越しているとも考えられるものの,
 [1] 保守契約を締結しない顧客のほとんどは最終的にアップグレード版が出る度に個別にアップグレード版を購入しており,アップグレード版は当初のソフトウェアAよりも機能が改善されているため,保守契約によるアップグレードが顧客にとって有益と考えられること
 [2] これまで保守契約を締結せずにアップグレード版が出る度にアップグレード版を購入していた顧客は,今後,保守契約を締結した上でアップグレード版の提供を受ける方が,従前よりも費用を削減することができるようになるため,顧客にとって不利益を与えることには該当しないこと
から,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものではなく,優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答の要旨

 X社が,自社のソフトウェアAを利用している顧客に対して,当該ソフトウェアのアップグレード版を販売する際に保守契約を締結することを義務付けることは,独占禁止法上問題となるものではない。

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