運送事業者11社が,ドライバーの労働環境の改善及び効率的な輸送の実現のため,幹線輸送の一部区間において,大型の貨物自動車による共同輸送を実施することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(運送事業者)
2 相談の要旨
(1)X社は,日本全国において貨物自動車運送事業を営む運送事業者であり,顧客と輸送契約を締結した上で,荷主からの集荷,高速道路を利用する拠点間の幹線輸送,及び配送先までの配送といった貨物の輸送を一貫して行っている。
(2)近年,貨物自動車運送業界においては,人手不足に伴うドライバーの長時間労働が常態化しているため労働環境を改善する必要があり,運送事業者は,それぞれ効率的な輸送に取り組んでいるが,一層の改善が必要となっている。
(3)効率的な輸送の実現には,貨物自動車の大型化がその手段として考えられるが,大型の貨物自動車を使用する場合,個社では輸送する貨物量が不足しており,また,小型の貨物自動車を使用する場合と比べて輸送頻度が限られるため,顧客の要望に応じて柔軟なスケジュールで輸送することが困難であった。
(4)そこで,X社を含む貨物自動車運送事業を営む運送事業者11社(以下単に「11社」という。)は,高速道路を利用する幹線輸送の一部区間(以下「共同輸送区間」という。)において,以下の方法により,大型の貨物自動車による共同輸送を実施すること(以下「本件取組」という。)を検討している。
ア 11社は顧客と個別に運賃交渉等を行い,輸送契約を締結する。
イ 11社間において輸送協定を締結し,顧客と輸送契約を締結した事業者(元請運送事業者)が,共同輸送区間において大型の貨物自動車によって貨物を実際に輸送した事業者(実運送事業者)に対し,輸送協定に定める委託料金を支払うこととする。
ウ 11社の間で共有される情報は,共同輸送を行う上で必要最低限の情報に限定され,顧客との輸送契約のうち,荷主の名称,運賃の水準,貨物の具体的な内容や最終的な発着地等に関する情報は共有されない。
なお,貨物自動車運送事業における11社の合算市場シェアは不明であるが,共同輸送区間における11社による輸送量に占める共同輸送による輸送量の割合は1パーセント未満であり,単位当たりの輸送コスト(集荷から配送までの輸送コスト)に占める共同輸送区間における輸送コストの割合は5パーセント未満と推測される。
本件取組は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第3条)。
また,本件取組は,事業者による共同行為・業務提携であるものの,事業者団体の構成事業者による共同事業と類似するため,事業者団体ガイドライン(第2-11〔共同事業〕)の考え方を踏まえて,貨物自動車運送市場における競争の実質的制限について検討を行う。
(2)本件取組は,11社が,ドライバーの労働環境の改善及び効率的な輸送の実現のために,高速道路を利用する幹線輸送の一部区間において,大型の貨物自動車による共同輸送を実施するものであり,運送事業者の主たる事業に係る共同事業であるところ,
[1] 貨物自動車運送市場における11社の合算市場シェアは不明であり,有力な事業 者による共同事業か否かは判断できないものの,共同輸送区間における11社による輸送量に占める共同輸送による輸送量の割合は1パーセント未満と僅かであるため,共同事業としての規模が小さいこと
[2] 単位当たりの輸送コストに占める共同輸送区間における輸送コストの割合が5パーセント未満と低いため,輸送コストが共通化される割合は小さく,コストの共通化を通じて運賃の水準が共通化されるおそれは小さいこと
[3] 11社は顧客と個別に運賃交渉等を行い,輸送契約を締結するため,引き続き独立の競争単位として事業活動を行うとみられること
から,貨物自動車運送市場における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
また,11社の間で共有される情報は,共同輸送を行う上で必要最低限の情報に限定され,顧客との輸送契約のうち,荷主の名称,運賃の水準,貨物の具体的な内容や最終的な発着地等に関する情報は共有されないため,重要な競争手段に関する情報が競争者の間で共有されないことから,本件取組が,将来における11社による独占禁止法違反行為につがなるおそれもない。
4 回答の要旨
11社が,ドライバーの労働環境の改善及び効率的な輸送の実現のため,共同輸送区間において,大型の貨物自動車による共同輸送を実施することは,独占禁止法上問題となるものではない。