9 競合する出版物卸売業者による物流業務の共同化

 出版物卸売業者2社が,物流センターの一部を統合し,構内作業を共同化することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

1 相談者

 X社及びY社(出版物卸売業者)

2 相談の要旨

(1)X社及びY社(以下「2社」という。)は,出版物を出版社から仕入れて小売業者に販売する出版物卸売業者である。我が国の出版物の卸売市場におけるX社及びY社の合算市場シェアは20パーセントを超えている。

(2)2社は,自らの物流センターにおいて,出版社又は小売業者からの依頼に基づいて,出版物を小売業者へ発送する業務や,あらかじめ定められた条件に基づいて,出版物を出版社へ返送する業務等の構内作業を行っている。

(3)近年,大手の小売業者は,出版社との直接取引を拡大しているほか,出版物の電子化が進展しており,出版物卸売業者を介さない取引が増えてきているため,出版物卸売業者の事業は縮小傾向にあり,2社は物流業務等を効率化し,コストを削減する必要に迫られている。

(4)そこで,2社は,以下の方法により,物流センターの一部を統合し,構内作業を共同化すること(以下「本件取組」という。)を検討している。
 ア 2社は,それぞれ,共同化される構内作業を除く全ての物流業務を引き続き独立して行う。
 イ 本件取組により共有され得る全ての情報を対象として,物流部門と営業部門との間で当該情報が交換,共有されないよう情報遮断措置を採る。
 なお,2社のそれぞれの総販売原価に占める,本件取組により共通化されるコストの割合はいずれも僅少である。
 本件取組は,独占禁止法上問題ないか。

  • 本件の概要図

平成30年度相談事例集事例9概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第3条)。
 また,本件取組は,事業者による共同行為・業務提携であるものの,事業者団体の構成事業者による共同事業と類似するため,事業者団体ガイドライン(第2-11〔共同事業〕)の考え方を踏まえて,出版物卸売市場における競争の実質的制限について検討を行う。

(2)本件取組は,物流業務の一部を共同化するものであり,出版物卸売事業に付随する事業に係る共同事業であるところ,2社の合算市場シェアは20パーセントを超えるものの,
 [1] 2社のそれぞれの総販売原価に占める,本件取組により共通化されるコストの割合が僅少であるため,共同事業としての規模が小さく,また,コストの共通化を通じて卸売価格の水準が共通化されるおそれは小さいこと
 [2] 2社が共同化するのは物流業務の一部を占める構内作業のみであり,2社は引き続き,独立した競争単位として事業活動を行うとみられること
から,出版物卸売市場における競争を実質的に制限するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。
 また,本件取組により共有され得る全ての情報を対象として適切な情報遮断措置を採るとしているため,重要な競争手段に関する情報が競争者の間で共有されないことから,本件取組が,将来における2社による独占禁止法違反行為につがなるおそれもない。

4 回答の要旨

 2社が,物流センターの一部を統合し,構内作業を共同化することは,独占禁止法上問題となるものではない。

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