種苗メーカーを会員とする団体が,会員による種苗の販売における表示の適法性を確保することを目的として,品種に係る登録制度を設けることについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協会(種苗メーカーを会員とする団体)
2 相談の要旨
(1)X協会は,種苗Aのメーカーを会員とする団体である。我が国における種苗Aの販売市場におけるX協会の会員の合算市場シェアは,約90パーセントである。
(2)種苗法(平成10年法律第83号)は,種苗メーカーが種苗を販売するに当たって,商品の包装等に種苗の品種や生産地,種苗業者の名称等を表示することを義務付けるとともに,品種の虚偽表示を禁止している。
(3)最近,X協会が会員による種苗法の遵守状況を調査したところ,種苗Aの販売における表示について,種苗法違反と疑われる事例が複数存在した。
(4)そこで,X協会は,コンプライアンスを徹底する観点から,会員による種苗Aの販売における表示の適法性を確保することを目的として,以下の方法により,種苗Aの品種に係る登録制度を設けることを検討している。
ア X協会は,会員からの申請を受けて,会員が販売しようとする種苗Aの品種に係る表示の適法性を審査し,適法と認定した品種をX協会の登録簿に登録する。
イ X協会による登録制度を利用するか否かは会員の任意であるが,非会員が登録制度を利用することはできない。
ウ 会員が販売する種苗Aの包装等には,X協会による登録を受けているか否かは表示しない。
なお,種苗Aのメーカーは,会員・非会員を問わず,X協会による登録制度を利用せずに種苗Aを販売することが可能である。
このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者団体が,営業の種類,内容,方法等に関連して,消費者の商品選択を容易にするため表示・広告すべき情報に係る自主的な基準を設定し,また,社会公共的な目的又は労働問題への対処のため営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある(同法第8条第3号,第4号及び第5号)。このような活動における競争阻害性の有無については,[1]競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか,及び[2]事業者間で不当に差別的なものではないかの判断基準に照らし,[3]社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかの要素を勘案しつつ,判断される(事業者団体ガイドライン第2-8(2)〔自主規制等〕)。
(2)本件取組は,事業者団体であるX協会が,会員による種苗Aの販売における表示の適法性を確保することを目的として,品種に係る登録制度を設けるものであるところ,
[1] 会員による種苗Aの販売における表示の適法性を確保することは,需要者による商品選択に資するものであり,需要者の利益を不当に害するものではないこと
[2] 全ての会員が対象となっているため,会員間で不当に差別的な内容ではなく,また,種苗Aのメーカーは会員・非会員を問わずX協会による登録を受けずに種苗Aを販売することが可能であり,種苗Aの包装等にはX協会による登録を受けているか否かが表示されないため,会員と非会員の間で不当に差別的な内容ではないこと
[3] 会員による種苗法の遵守という社会公共的な目的に基づく取組であり,取組の内容も合理的に必要とされる範囲内のものであること
に加え,登録制度を利用するか否かは会員の任意であることから,事業者団体による自主規制として独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協会が,会員による種苗Aの販売における表示の適法性を確保することを目的として,品種に係る登録制度を設けることは,独占禁止法上問題となるものではない。