娯楽施設運営事業者の全国団体が,政府による利用者の依存症対策の推進を踏まえ,傘下の組合員に対して,娯楽施設における付帯サービスの提供を中止するように要請することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協同組合連合会(娯楽施設運営事業者の全国団体)
2 相談の要旨
(1)X協同組合連合会は,娯楽施設運営事業者の全国団体であり,我が国の娯楽施設運営事業者のほとんどは,X協同組合連合会の傘下の組合に加入している。
(2)娯楽施設では,施設全体の利便性を向上させ,娯楽施設をより利用してもらえるように様々な付帯サービスが提供されている。これらの付帯サービスのうち,付帯サービスAについては,関係法令等による規制はなく,全国の娯楽施設の一部で提供されているが,娯楽施設の利用を強く促し,利用者が依存症になるリスクがあることから,一定の利用制限が自主的に設けられている。
(3)しかしながら,現在,政府は娯楽施設における利用者の依存症対策をより一層推進することとしており,娯楽施設運営事業者による依存症対策の強化が求められている。
(4)X協同組合連合会は,このような動きを踏まえ,利用者の依存症対策として,傘下の全ての組合員に対して,娯楽施設における付帯サービスAの提供を中止するように要請することを検討している。ただし,X協同組合連合会は,組合員に付帯サービスAの提供の中止を強制するものではなく,実際に付帯サービスAの提供を中止するか否かは各組合員の判断に委ねられている。
このようなX協同組合連合会の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)事業者団体が,営業の種類,内容,方法等に関連して,消費者の商品選択を容易にするため表示・広告すべき情報に係る自主的な基準を設定し,また,社会公共的な目的又は労働問題への対処のため営業の方法等に係る自主規制等の活動を行うことについては,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多い。
一方,事業者団体の活動の内容,態様等によっては,多様な営業の種類,内容,方法等を需要者に提供する競争を阻害することとなる場合もあり,独占禁止法上問題となるおそれがある(同法第8条第3号,第4号及び第5号)。このような活動における競争阻害性の有無については,[1]競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか,及び[2]事業者間で不当に差別的なものではないかの判断基準に照らし,[3]社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかの要素を勘案しつつ,判断される(事業者団体ガイドライン第2-8(2)〔自主規制等〕)。
(2)本件取組は,X協同組合連合会が,傘下の組合員に対して,娯楽施設における付帯サービスAの提供を中止することを要請することによって,組合員の営業の種類,内容,方法等を制限するものであるところ,
[1] 需要者である娯楽施設の利用者にとっては利便性が一定程度損なわれるものの,本件取組が利用者の依存症対策のために行われるものであることから,需要者の利益を不当に害するものではないこと
[2] 全ての組合員に対して付帯サービスAの提供の中止を要請するものであり,組合員間で不当に差別的な内容ではないこと
[3] 利用者の依存症対策という社会公共的な目的に基づく取組であり,取組の内容も合理的に必要とされる範囲内のものであること
に加え,X協同組合連合会は,付帯サービスAの提供の中止を組合員に強制しないことから,事業者団体による自主規制として独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協同組合連合会が,政府による利用者の依存症対策の推進を踏まえ,利用者の依存症対策の一環として,傘下の組合員に対して,娯楽施設における付帯サービスの提供を中止するように要請することは,独占禁止法上問題となるものではない。