農業協同組合が,災害の被害を受けたビニールハウスの復旧のために,組合員に対し,期間を限定してビニールハウスの施工料を割り引くことについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協同組合中央会(農業協同組合中央会)
2 相談の要旨
(1)X協同組合中央会は,P県における農業協同組合(以下「単位農協」という。)及び単位農協の事業ごとに組織されている連合会が会員となっている都道府県単位の事業者団体であり,P県における単位農協は全てX協同組合中央会に加入している。
単位農協は,市町村単位など地域ごとに設立されており,P県における農業者のほとんどは,P県におけるいずれかの単位農協に加入している。
(2)単位農協の組合員は,農産物の生産に使用されるビニールハウスの施工を,自らが加入する単位農協又はP県内に複数存在するビニールハウス専門の施工業者(以下「ビニールハウス専門業者」という。)に発注している。また,単位農協は,組合員からビニールハウスの施工を受注した場合,自らビニールハウスを施工する能力がないため,ビニールハウス専門業者に委託している。
(3)最近,P県において,自然災害により多くのビニールハウスに被害が発生し,被害を受けたビニールハウスの所有者である組合員は,ビニールハウスを迅速に復旧するために,多額の費用負担が必要となった。
(4)そこで,P県における単位農協は,今回の自然災害の被害を受けた組合員の費用負担の軽減を図るために,X協同組合中央会から助成金を受け,自己の組合員に対して,以下のとおり,ビニールハウスの施工料を割り引くことを検討している。
ア 組合員からビニールハウスの施工を受注した場合,ビニールハウス専門業者に対する委託料から10パーセントを割り引いた額を施工料として組合員に請求する。
イ 割引の対象となるビニールハウスは,今回の自然災害の被害を受けたビニールハウスの復旧に係るものであり,かつ,一定の期間内に施工が完了するものに限定する。
このような単位農協の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(同法第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,[1]任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,[2]組合員に対して利益配分を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(同法第22条,農業協同組合法第8条)。しかしながら,[1]不公正な取引方法を用いる場合,又は[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない(独占禁止法第22条)(農協ガイドライン第2部第1-3〔独占禁止法の禁止行為と協同組合に対する適用除外制度〕)。
事業者が,[1]正当な理由がないのに,商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合(独占禁止法第2条第9項第3号),又は[2]独占禁止法第2条第9項第3号に該当する行為のほか,不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合(一般指定第6項)には,不公正な取引方法(不当廉売)に該当し,独占禁止法上問題となる(同法第19条)(不当廉売ガイドライン1 はじめに)。
(2)本件取組は,自然災害の被害を受けた組合員が単位農協に対してビニールハウスの施工を注文する場合にのみ,助成金を原資として施工料を割り引くものであるところ,
[1] 割引を行う理由が,自然災害の被害を受けたビニールハウスの復旧という社会公共的な目的に基づくものであること
[2] 単位農協は自らビニールハウスを施工できず,ビニールハウス専門業者に施工を委託しなければならないため,ビニールハウス専門業者が取引をする機会が奪われるものではないこと
[3] 割引の対象となるビニールハウスは今回の自然災害の被害を受けたものに限られており,対象期間も一定の期間内に限定されていること
から,施工料を割り引くことについては正当な理由があり,また,ビニールハウス専門業者の事業活動を困難にさせるおそれもなく,不当廉売として独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
単位農協が,災害の被害を受けたビニールハウスの復旧のために,組合員に対し,期間を限定してビニールハウスの施工料を割り引くことは,独占禁止法上問題となるものではない。