農業協同組合が,農業生産を拡大することを条件として,組合員による生産資材や農業機械の購入に対して,組合の購買事業又は販売事業の利用とは無関係に助成金を交付することについて,独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X協同組合中央会(農業協同組合中央会)
2 相談の要旨
(1)X協同組合中央会は,Q県における農業協同組合(以下「単位農協」という。)及び単位農協の事業ごとに組織されている連合会が会員となっている都道府県単位の事業者団体であり,主として単位農協に対する指導業務を行っている。
(2)今後,Q県内の単位農協は合併して集約が進む予定があるところ,X協同組合中央会による指導を踏まえて,合併後の単位農協(以下「X協同組合」という。)は,Q県における農業生産の拡大を通じた農業者の所得増大を図るため,組合員である農業者に対して助成金を交付すること(以下「本件取組」という。)を検討している。
(3)助成金の対象となる品目は,Q県において生産規模の拡大が奨励されている複数の農産物であり,組合員が,当該品目の生産規模を拡大することを目的として,生産資材及び農業機械(以下「生産資材等」という。)を購入する際に,その費用のうちおおむね2割がX協同組合から助成金として交付される。
(4)X協同組合が組合員に対して助成金を交付する条件は,以下のとおりであり,実施要領として公表される予定である。
ア 組合員が,生産規模の拡大又は販売金額の増加に係る目標を設定し,X協同組合に提出する。
イ 組合員が,一定期間内に,生産規模の拡大又は販売金額の増加に係る目標を達成する。
ウ 組合員が,他の補助事業で補助金の交付を受けていない。
エ 組合員が組合の購買事業を利用して生産資材等を購入することや,組合の販売事業を利用して生産した農産物を販売することは,助成金を交付する条件とはしない。
オ 商系業者等から生産資材等を購入したり,商系業者等に対して生産した農産物を販売したりする場合も助成金の対象となる。
本件取組は,独占禁止法上問題ないか。
- 本件の概要図
3 独占禁止法上の考え方
(1)独占禁止法は,協同組合の一定の行為について適用除外規定を設けている(同法第22条)。農業協同組合法に基づき設立された連合会及び単位農協の行為についても,連合会及び単位農協が,[1]任意に設立され,かつ,組合員が任意に加入又は脱退できること,[2]組合員に対して利益分配を行う場合には,その限度が定款に定められていることの各要件を満たしている場合には,原則として独占禁止法の適用が除外される(同法第22条,農業協同組合法第8条)。しかしながら,[1]不公正な取引方法を用いる場合,又は[2]一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合には,適用除外とはならない(独占禁止法第22条)。
単位農協が,農畜産物の生産に必要な生産資材の一部について購買事業を通じて購入しようとしている組合員に対して,購買事業を利用せずに購入したいと当該組合員が考えている生産資材を含めて購買事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕,第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)(農協ガイドライン第2部第2-1(1)〔購買事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為〕)。
また,単位農協が,農畜産物の一部について販売事業を利用しようとしている組合員に対して,単位農協の販売事業を利用せずに販売したいと当該組合員が考えている農畜産物を含めて販売事業の利用を事実上余儀なくさせる場合には,組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに,競争事業者が組合員と取引をする機会が減少することとなり,不公正な取引方法に該当し違法となるおそれがある(一般指定第10項〔抱き合わせ販売等〕,第11項〔排他条件付取引〕又は第12項〔拘束条件付取引〕)(農協ガイドライン第2部第2-2(1)〔販売事業の利用に当たって単位農協の競争事業者との取引を制限する行為〕)。
(2)本件取組は,単位農協であるX協同組合が,合併後において,生産規模又は販売金額の拡大を条件として,組合員による生産資材等の購入に際し助成金を交付するものであるところ,
[1] 組合員が,X協同組合の購買事業を利用して生産資材等を購入することや,X協同組合の販売事業を利用して生産した農産物を販売することが,助成金を交付する条件となっていないため,組合員による組合の購買事業や販売事業の利用を事実上余儀なくさせるものではなく,組合員の自由かつ自主的な取引は阻害されないこと
[2] 商系業者等から生産資材等を購入したり,商系業者等に対して生産した農産物を販売したりする場合でも,助成金の交付の対象となるため,X協同組合の競争者である商系業者等を農産物の集荷市場や生産資材等の販売市場から排除するものではなく,商系業者等が組合員と取引をする機会が引き続き確保されていること
[3] 助成金の交付条件が実施要領として明確化された上で公表されるため,組合員が商系業者等との取引を自粛するような状況になるおそれがないこと
から,抱き合わせ販売等,排他条件付取引又は拘束条件付取引として独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答の要旨
X協同組合が,農業生産を拡大することを条件として,組合員による生産資材等の購入に対して,組合の購買事業又は販売事業の利用とは無関係に助成金を交付することは,独占禁止法上問題となるものではない。