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5 事業者団体による会員の代理店の評価基準の策定及び実態調査の実施・公表

5 事業者団体による会員の代理店の評価基準の策定及び実態調査の実施・公表

 保険会社を会員とする団体が、保険代理店の業務品質に関する会員共通の評価基準を策定し、その評価基準に基づく実態調査及び結果の公表を行うことについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例 

1 相談者

 X協会(保険会社を会員とする団体) 

2 相談の要旨

⑴X協会は、国内において特定の種類の保険商品(以下「保険商品A」という。)を販売する保険会社の全てを会員とする団体である。
⑵ア 保険商品Aは、会員自らが販売する割合が高いが、最近では会員が代理店に販売業務を委託して販売させる割合も増えてきている。
 イ 代理店には、単独の会員と契約し、単独の会員の保険商品Aのみを販売している専属代理店と、複数の会員との間で契約し、複数の会員の保険商品Aを販売している乗合代理店の2つがある。
⑶ア 会員は、代理店に対して、保険商品Aの販売業務、保全業務等の対価として、各会員がそれぞれ定める「代理店手数料規程」に基づき代理店手数料を支払っている。
 イ 代理店手数料規程は、主に代理店の保険商品Aの販売量及び代理店の業務上の品質評価(以下「業務品質評価」という。)の2つの要素で構成されているところ、両者をどのように代理店手数料の算出の基礎とするかや、業務品質評価の項目として具体的に何を設定するか、業務品質評価をどのように査定するかは、各会員がそれぞれ定めている。
 ウ 乗合代理店は、複数の会員による異なる業務品質評価の各項目に対応する必要があり、代理店の対応負担が大きくなっている。
⑷X協会は、監督官庁が保険商品Aの業界全体として顧客本位の業務運営に努めることが重要である旨の原則を策定したこと、また、X協会が自主的に立ち上げた検討会(X協会の会員、代理店、代理店団体、消費者団体等から構成されている。)においても、顧客本位の業務運営に資する代理店の業務品質の在り方として、共通の業務品質評価の基準を導入することが望ましいとの意見が出されたこと等を踏まえ、次の取組を検討している。
 ア X協会は、会員の代理店に対する業務品質評価に関して、顧客本位の業務運営に係る、共通の評価基準(以下「共通評価基準」という。)を策定する。共通評価基準は、代理店が事業を営む上で通常遵守すべき取組を評価項目として挙げており、当該評価項目には、例えば、顧客のニーズに合致した提案の実施に向けた態勢整備がなされているか、個人情報保護に係る態勢整備がなされているかなどが含まれる。各会員が、自社の業務品質評価に共通評価基準を採用するか否かは任意とする。
 イ 共通評価基準は、広く一般公開して意見公募した上で策定され、公表される。
 ウ X協会は、代理店を対象に、1年に一度、当該共通評価基準を満たしているかについての実態調査を行い、評価付けを実施する。当該実態調査の対象となる代理店は、当面、全国の代理店の全てではなく、大規模な代理店を中心とした一部の代理店とする。
 エ X協会は、実態調査の結果を会員に報告する(各会員が業務委託契約を締結している代理店に関するものに限る。)。
   また、一定以上の評価を獲得した代理店については、X協会のウェブサイト上で公表する(公表する旨及び公表内容を事前に当該代理店に通知し、当該代理店から申出があれば非公表とする。)。その際、公表対象外となった代理店の対応等が劣っていると消費者から誤認されることがないよう、十分かつ適切な説明を付す。
 オ 会員は、実態調査の評価付けの結果に拘束されることなく、代理店の業務品質評価の査定を独自に行うことができる。
  このようなX協会の取組(以下「本件取組」という。)は、独占禁止法上問題となるか。
 

○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

⑴独占禁止法第8条は、事業者団体が一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為(同条第1号)や、構成事業者の機能又は活動を不当に制限する行為(同条第4号)を禁止している。
  事業者団体が、当該産業に関する商品知識、技術動向、経営知識、市場環境、産業活動実績、立法・行政の動向、社会経済情勢等についての客観的な情報を収集し、これを構成事業者や関連産業、消費者等に提供する活動は、当該産業への社会公共的な要請を的確にとらえて対応し、消費者の利便の向上を図り、また、当該産業の実態を把握・紹介する等の種々の目的から行われるものであり、このような情報活動のうち、独占禁止法上特段の問題を生じないものの範囲は広い(事業者団体ガイドライン第2-9(情報活動)⑴)。
  しかしながら、事業者団体の情報活動を通じて、競争関係にある事業者間において、現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して、相互間での予測を可能にするような効果を生ぜしめる場合がある。このような観点からみて、重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報活動は、独占禁止法違反となるおそれがある。このような情報活動を通じて構成事業者間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され、又はこのような情報活動が手段・方法となって競争制限行為が行われていれば、原則として独占禁止法第8条違反となる(事業者団体ガイドライン第2-9(情報活動)⑵)。
  この点、市場における価格の比較が困難な商品又は役務について、費用項目、作業の難易度、品質等価格に関連する事項についての公正かつ客観的な比較に資する資料又は技術的指標を、需要者を含めて提供すること(事業者間に価格についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)は、原則として独占禁止法上問題とならない(事業者団体ガイドライン第2-9-6(価格比較の困難な商品又は役務の品質等に関する資料等の提供))。
⑵会員に対する影響
 ア 共通評価基準は、代理店手数料を算出するための一要素である代理店の業務品質評価の査定に関連するものである。
 イ しかしながら、本件取組は、
 (ア) 代理店手数料の算出は、代理店の業務品質評価だけでなく、代理店の保険商品Aの販売量によっても決定されており、両者をどのように代理店手数料の算出の基礎とするかや、どのように査定するかは、会員ごとに異なること
 (イ) 共通評価基準は、各会員の業務品質評価の項目のうち「顧客本位の業務運営」に関する項目のみに係るものであるから、仮に各会員が共通評価基準を採用したとしても、各会員の業務品質評価全体としては、ある程度異なるものになることが想定されること
 (ウ) 各会員が、自社の業務品質評価に共通評価基準を採用するか否かは任意であること
 (エ) 会員は、実態調査の評価付けの結果に拘束されることなく、代理店の業務品質評価の査定を独自に行うことができること
 (オ) 少なくとも当面の間は、全国の代理店の全てではなく、一部のみが共通評価基準を満たしているかについての実態調査の対象となること
  を踏まえると、本件取組は、直ちに会員間で代理店手数料について共通の目安を与えるようなこととはならず、会員間の競争を制限する行為につながるとはいえない。
⑶代理店に対する影響
 ア 本件取組を通じて、代理店のサービスの内容・品質が、共通評価基準で定める内容・水準に収れんし、より高品質・多様なサービスを提供しようとする代理店間の競争が制限される可能性が考えられる。
 イ しかしながら、本件取組は、
 (ア) 共通評価基準の内容は、個人情報保護のための態勢整備等の事業者が通常守るべきものであって、会員のほか、消費者団体、代理店も加わった形で議論され、一般公開して意見公募されて策定されたものであり、さらに、今後も消費者団体等の第三者も交えて妥当性について見直しを行うことが予定されているものであること
 (イ) 前記⑵のとおり、①代理店手数料は業務品質評価のみによって決定されるものではないこと、②業務品質評価をどのように査定するかは、会員ごとに異なること、③共通評価基準は、各会員の業務品質評価の一部分のみに係るものとなること、④各会員が、自社の業務品質評価に共通評価基準を採用するか否かは任意であること等から、直ちに代理店のサービスが共通評価基準で定める内容・水準に収れんするとはいえないこと
  を踏まえると、本件取組を通じて、直ちに代理店間の競争が実質的に制限されるとはいえない。
⑷したがって、本件取組は、会員間の競争及び代理店間の競争のいずれについても制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

 本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。 

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