医療用医薬品卸売事業者3社と運送事業者1社が協力し、中山間地域等への医療用医薬品の配送を維持するために配送を共同化することは、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社、Y社及びZ社(いずれも医療用医薬品卸売事業者)並びにW社(運送事業者)
2 相談の要旨
⑴ X社、Y社及びZ社の3社(以下「3社」という。)は、いずれも、多種多様な品目の医療用医薬品群(以下「医薬品群M」という。)を扱う卸売事業者であり、A県内で営業している。A県内における3社の医薬品群Mに係る市場シェアは、X社が約30パーセント、Y社が約20パーセント、Z社が約10パーセントであり、合計約60パーセントと推計される。W社はZ社の物流子会社であり、医薬品の配送業務を行っている。
⑵ 3社は、いずれもA県内のa市に医薬品群Mの配送拠点を設けているほか、A県内に複数の営業所等を設けている。3社は、それぞれの配送拠点又は営業所等に保管している医薬品群Mを、A県内の病院、薬局等の需要者(以下「需要者」という。)に対し、自ら配送している(自らの子会社に委託して配送する場合を含む。)。
⑶ア 一般に医薬品は品質、有効性及び安全性の確保等の観点から、厳しく管理されているところ、医薬品群Mは品目数が多く、品目ごとに重量や保管時の温度が異なることから配送条件が様々であり、需要者の依頼による頻回配送や緊急の配送も生じている。一方で、地方の働き手の不足や物流業界の働き方改革への対応といった社会的要請もあり、流通の効率化が課題となっている。
さらに、A県は鉄道網や高速道路網が脆弱(ぜいじゃく)であるため、中山間地域等の過疎化が進行する地域(A県内の面積の大半を占める。以下「山間部」という。)にまばらに存在する需要者に対し、3社は一般道路で片道何時間も掛けて医薬品群Mを配送しており、とりわけ配送人員の確保が困難である。
イ 医薬品群Mの供給に要する費用のうち配送費の占める割合は極めて小さいものの、3社は、A県の山間部向け配送のために追加の人員を確保することや、卸売価格に当該人員の確保に係る費用を付加することが難しい状況にあるため、単独ではA県の山間部向け医薬品群Mの配送を維持することが極めて困難であると認識している。
ウ A県の山間部向け医薬品群Mの3社の販売額は、3社のA県全体の医薬品群Mの販売額の約20パーセントを占めており、残りの約80パーセントはA県の都市部向けの医薬品群の販売額である。
⑷ そこで3社は、医療用医薬品の流通の効率化を図り、A県の山間部向け医薬品群Mの配送サービスの維持を図るため、A県の山間部の需要者向けに配送する医薬品群Mのほとんどについて、以下のアないしウの内容で、W社に一括して配送を委託することを計画している(以下「本件取組」という。)。
なお、a市中心部など都市部の需要者に対しては、本件取組後も、3社が各自配送を行う。また、本件取組への参加は自由であり、3社は、医薬品群Mのうち、本件取組の利用を希望しない医療用医薬品について、引き続き自らA県の山間部の需要者に配送することができる。
ア 共同配送する区間は、a市内の3社の配送拠点からA県の山間部の各需要者の間とする。本件取組の実施に向けて、3社はそれぞれが配送を希望する地域の情報のみを共有し、共同配送の対象地域を定める。本件取組の開始後、3社はそれぞれW社との間で配送日時を調整し、他の2社と情報交換をすることはない。
イ 3社は配送希望の連絡をW社に行い、それを受けたW社の車両が3社の配送拠点を順に回り、地域別・配送先別に仕分けされた荷物を集荷し、A県の山間部の各需要者に一括して配送する。運賃は、W社が3社からの荷物量で案分した運賃を計算し、3社に個別に請求する。
ウ W社は、事前に3社それぞれとの間で、知り得た情報を社外と共有・交換しない旨の条項を含む秘密保持契約を締結する。このため、W社は、3社から配送を受託するに当たり、3社それぞれの配送先、配送される医療用医薬品の名称、数量といった情報に接することとなるが、当該情報を他の2社に共有することはない。また、W社とその親会社であるZ社は、組織上及びシステム上分離されており、Z社の従業員はW社のシステムにアクセスできない。
本件取組は独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方
⑴ 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
⑵ 本件取組は、A県の医薬品群Mの卸売市場において競争関係にある3社が、従前自ら需要者に医薬品群Mの配送を行っていたところ、そのうち3社のA県全体の医薬品群Mの販売額の約20パーセントに当たる山間部の需要者への配送を共同化する取組であるが、
ア 本件取組は、医療用医薬品の運送の効率化を図り、3社それぞれが単独では維持することが難しいA県の山間部向け医薬品群Mの配送サービスの維持を目的とするものであること
イ 本件取組により、山間部向けの配送費が3社間で統一されることになるものの、医薬品群Mの供給に要する費用のうち配送費の占める割合は極めて小さいことから、本件取組によって3社の間で共通化されるコストの割合は小さく、本件取組が3社の卸売価格、数量等に影響を及ぼすおそれが小さいこと
ウ 本件取組への参加は自由であること
エ 本件取組が行われても、次の内容を含め、情報管理が適切に行われている限り、3社間で協調的な行動が助長されるおそれがないこと
(ア) 3社は、互いに相手方の配送先、配送する医療用医薬品の名称、価格、数量等、重要な競争手段に関する情報を共有しないこと
(イ) W社は、本件取組により、3社の配送先、配送する医療用医薬品の名称及び数量に係る情報に接するものの、秘密保持契約及びW社の親会社であるZ社との組織的分離により、当該情報をZ社を含む他社に伝達しないこと
(ウ) 3社のA県全体の医薬品群Mの販売額の約80パーセントを占めるA県の都市部向けの医薬品群Mは、引き続き3社がそれぞれ配送すること
から、本件取組の対象市場をA県の医薬品群Mの卸売市場とみた場合であっても、そのうちの山間部向けの卸売市場とみた場合であっても、これらの市場における競争を実質的に制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。