放送事業者5社が、新たに共同で団体を設立し、従来各社で行っていた広告審査業務の一部を当該団体に委託する取組について、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社ら5社(放送事業者)
2 相談の要旨
⑴ X社ら5社(以下「5社」という。)は、放送法(昭和25年法律第132号)に基づく放送事業等を行う事業者(以下「放送事業者」という。)である。我が国のテレビジョン放送のうち日本全国のα放送(以下「α放送」という。)で放送される広告に係る広告枠の販売分野における5社の市場シェアの合計は、約50パーセントである。
⑵ テレビジョンで放送される広告の放送を希望する者(以下「広告希望者」という。)は、広告会社経由で放送事業者に対し広告枠の購入を打診し、その広告の内容につき、放送事業者による後記⑶の広告審査を受ける。広告審査を経て放送事業者に採用された広告は、当該広告希望者と放送事業者との間で広告枠供給契約を締結した後に、放送される。
テレビジョンで放送される広告に係る広告枠の放送事業者による販売競争は、主に、広告料金の設定、広告を放送する番組の制作・編成、広告放送の頻度・時間帯等を手段として行われている。
⑶ア 放送事業者における広告審査は、大別して、広告の内容が各社の放送基準に合致しているかを確認する表現考査と、実際に放送するか否かの最終的な判断を行う二次考査とがある。
イ 表現考査は各社の放送基準に基づき行われているが、当該基準は各種法令や業界団体が定める放送基準に基づいているため、5社の各放送基準の内容はおおむね一致している。
なお、二次考査の基準は各社で異なる。
ウ α放送の広告枠の販売に要するコストに占める表現考査のコストの割合は、5社いずれも1パーセント未満である。
⑷ 広告希望者は、同一の内容の広告の放送について複数の放送事業者に広告枠の購入を打診することが一般的であるものの、同じ内容の広告であったとしても、前記⑶のとおり、広告枠を販売する放送事業者各社によるおおむね同一の放送基準に基づく表現考査を重複して受けなければならない。そのため、5社は、広告希望者から、この非効率な状況の改善が求められている。
⑸ 5社は、前記⑷を踏まえ、事業者団体(以下「本件団体」という。)を共同で設立し、本件団体にα放送で放送する広告の表現考査を委託することで、広告希望者から打診のあった同一の広告の内容について、5社共同で表現考査を行うこと(以下「本件取組」という。)を検討している。
5社は、本件団体が行う表現考査の結果を受けて、個別に当該考査の最終決定を行う。また、5社各社が、本件団体によらない独自の表現考査を行うことも妨げられない。さらに、5社それぞれにおける広告料金の設定、広告を放送する番組の制作・編成、広告放送の頻度・時間帯等に係る情報を5社間及び本件団体との間で共有しない。
なお、実際に広告を放送するか否かの最終的な判断を行う二次考査は、従前どおり5社が個別に行う。
本件取組は独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方
⑴ 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
⑵ 本件取組は、日本全国のα放送で放送する広告に係る広告枠の販売分野において合計で約50パーセントのシェアを有する5社が、本件団体を介して表現考査を共同で行うことにより広告枠販売業務の一部を共同化するものであるが、
ア 表現考査の基準は各種法令や業界団体が定める放送基準に基づいているため、5社の各放送基準の内容はおおむね一致しており、表現考査での競争はほとんど想定されない上、5社は、表現考査の最終決定について、本件取組実施後も個別に行うこととしており、本件団体によらない独自の表現考査を行うことも妨げられないこと
イ 5社は、各社で基準の異なる二次考査について、本件取組実施後も独自に行うこと
ウ α放送で放送する広告に係る広告枠の販売に要するコストに占める表現考査のコストの割合は5社いずれも1パーセント未満であることから、5社間で共通化される表現考査のコストの割合は小さく、α放送で放送する広告に係る広告枠の販売価格に与える影響は軽微と考えられること
エ 本件取組で共有する情報は表現考査の共同実施に必要な情報に限られており、広告料金の設定に係る情報等重要な競争手段に具体的に関係する内容の情報は5社間及び本件団体との間で共有しないこと
から、我が国におけるテレビジョン放送のうちα放送の広告枠販売分野における競争を実質的に制限するものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。