メーカー数社が、温室効果ガス排出量削減に向け、パッケージの一部を小型化・軽量化するための共同研究等を実施することは、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社ら数社(製品Aのメーカー)
2 相談の要旨
⑴ X社ら数社(以下「X社ら」という。)は、製品Aの製造販売業を営む事業者である。我が国における製品Aの製造販売分野におけるX社らの市場シェアの合計は、70パーセントから80パーセント程度である。一般消費者は主に内容や価格により製品Aの選択を行っている。
⑵ X社らは、製品Aに係るパッケージについてそれぞれ開発を行っているが、パッケージの更なる小型化・軽量化に当たって高度の知見が必要となる場合には、パッケージメーカーの協力を得ることがある。
製品A業界では、グリーン社会の実現に向けた温室効果ガス排出量削減等の観点からパッケージの更なる小型化・軽量化が求められており、製品Aのパッケージの一部であるパッケージαもその例外ではない。X社らは、パッケージαについて、更なる小型化・軽量化を検討しているが、その実現には、特定の機能と利便性の確保を両立させるための技術的課題があると認識している。また、パッケージαの仕様を変更し実用化するためには、製品Aの製造、流通、販売等の方法の見直しを含めたサプライチェーン全体での取組が不可欠であり、X社らは、製品Aのメーカーがこれらについても対応する必要があると考えている。
⑶ そこで、X社らは、これらの課題を解決するため、以下のアからキまでの内容で、パッケージαの更なる小型化・軽量化の仕様(以下「本件仕様」という。)について共同して研究開発等を行うこと(以下「本件取組」という。)を検討している。X社らは、パッケージαの本件仕様の実用化により従来と比較して少ない温室効果ガス排出量で製品Aを供給できると見込んでいる。
なお、仮に本件取組を1社で行った場合にX社らが単独で負担することが困難となるような膨大なコストが生じることは想定されていない。
ア 本件取組の対象は、パッケージαの本件仕様の研究開発及びパッケージαの本件仕様の実用化により生じる製品Aに係るサプライチェーン全体への影響の分析とその対応策の検討とする。
イ パッケージα以外のパッケージ及び製品Aの開発及び製造は、各社が独自に行う。
ウ 製品Aのパッケージとして本件仕様によるパッケージαを採用した場合、製品Aの製造に要する費用全体に占めるパッケージαの製造に係る費用の割合は、各社において最大でも10パーセント程度である。
エ 本件取組の実施期間は3年程度とする。
オ 本件取組の成果であるパッケージαの本件仕様は、X社らの共有とし、本件取組に参加していない事業者も、X社らに対し、合理的な対価を支払うことでパッケージαの本件仕様を利用することができる。
カ パッケージαに係る本件仕様の策定が行われた後も、製品Aのメーカーは引き続き、パッケージα以外のパッケージを使用した製品Aを製造販売できる。
キ パッケージα及び製品Aの製造・流通・販売に係る費用・価格、数量、取引先等の情報は共有しない。
本件取組は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方
⑴ア 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
また、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、私的独占(独占禁止法第2条第5項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
イ グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果(注)を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもある。そのため、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い。
(注) 「競争促進効果」とは、事業者等による取組の結果として新たな技術、商品、市場等が生み出され、事業者間の競争が促進されることを指し、効率性の向上とも称される場合もある。また、「優れた商品」とは、温室効果ガス削減に資する商品であり、これには、当該商品の生産段階若しくは使用段階又は当該商品が部品として組み込まれた最終製品の生産段階若しくは使用段階における温室効果ガス削減に資する商品も含まれ得る。
ある具体的な事業者等の取組に競争制限効果が見込まれつつ競争促進効果も見込まれる場合、当該取組の目的の合理性及び手段の相当性(より制限的でない他の代替的手段があるか等)を勘案しつつ、当該取組から生じる競争制限効果と競争促進効果を総合的に考慮して、当該取組が独占禁止法上問題となるか否か判断されることとなる。
【参考】グリーンガイドライン「はじめに」2「基本的考え方」
ウ 共同研究開発に係る競争事業者間の取組が独占禁止法上問題となるか否かの検討に当たっては、まず、競争制限効果の有無及び程度について、次の点を考慮して検討が行われる。
【参考】共同研究開発ガイドライン第1-2⑴(判断に当たっての考慮事項)
グリーンガイドライン第1-3⑵イ(ア)(共同研究開発)等
(ア) 共同研究開発の参加者の数、市場シェア等
研究開発の共同化に関連する市場としては、製品とは別に成果である技術自体が取引されるので、技術市場も考えられる。技術市場における競争制限の判断に当たっては、参加者の当該製品についての市場シェア等によるのではなく、当該技術市場において研究開発の主体が相当数存在するかどうかが基準となる。
(イ) 共同研究開発の性格(基礎研究、応用研究、開発研究の別等)
研究開発は、段階的に基礎研究、応用研究及び開発研究に類型化することができるが、この類型の差は共同研究開発が製品市場における競争に及ぼす影響が直接的なものであるか、間接的なものであるかを判断する際の要因として重要である。特定の製品開発を対象としない基礎研究について共同研究開発が行われたとしても、通常は、製品市場における競争に影響が及ぶことは少なく、独占禁止法上問題となる可能性は低い。
(ウ) 共同研究開発の必要性
研究にかかるリスク又はコストが膨大であり単独で負担することが困難な場合、自己の技術的蓄積、技術開発能力等からみて他の事業者と共同で研究開発を行う必要性が大きい場合等には、研究開発の共同化は研究開発の目的を達成するために必要なものと認められ、独占禁止法上問題となる可能性は低い。
(エ) 共同研究開発の対象範囲、期間等(対象範囲や期間が必要以上に広汎に定められていないか等)
エ なお、研究開発の共同化自体が独占禁止法上問題とならない場合であっても、参加者の市場シェアの合計が相当程度高く、規格の統一又は標準化につながる等、事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある。
⑵ 本件取組には、温室効果ガス排出量削減が見込まれることから、本件取組は、グリーン社会の実現に向けた取組であることが認められる。以下、これを前提に検討する。
ア 本件取組のうち共同研究開発に係る取組は、我が国における製品Aの製造販売分野で合計約70パーセントから80パーセントのシェアを有するX社らが、製品Aのパッケージの一部であるパッケージαの仕様の変更等を対象として、研究開発の中でも製品市場における競争に直接的な影響が及ぶ可能性が高いとされる開発研究を共同で行うものであり、また、研究開発に係るコストが膨大であって単独での負担が困難であるという事情が認められるものではないが、
(ア) 国内には製品Aのメーカーに加えパッケージメーカーが複数存在するなど研究開発・製造主体として相当数の事業者が存在することから、パッケージαの更なる小型化・軽量化の研究開発は、本件取組に参加しない事業者によっても可能であること
(イ) 本件取組開始後もパッケージαの製造並びに製品Aの開発及び製造は、各社が独自に行うこと
(ウ) 消費者は主に内容や価格で製品Aの選択を行っていることに加え、製品Aのパッケージとして本件仕様によるパッケージαを採用した場合の製品Aの製造に要する費用全体に占めるパッケージαに係る費用の割合は、各社において最大でも10パーセント程度であることから、本件取組における研究開発が製品Aの製造販売市場における競争に及ぼす影響は軽微と考えられること
(エ) 本件取組における研究開発の実施に当たり、X社らの間で共有される情報は、本件取組に必要な事項に限られ、パッケージα及び製品Aの製造・流通・販売に係る費用・価格、数量、取引先等の情報は共有せず、パッケージα以外のパッケージ並びに製品Aの開発及び製造は、各社が独自に行うこと
(オ) 本件取組に参加していない事業者も、本件取組の成果であるパッケージαの本件仕様を、合理的な対価を支払うことで利用することができることに加え、製品Aの製造販売はパッケージαの本件仕様を用いずとも可能であること
から、本件取組によって、パッケージαの研究開発における競争に与える影響は軽微であり、製品Aの開発及び製造といった製品A市場に与える影響も軽微であること、他方でパッケージαの本件仕様が実用化された場合、従来と比較して少ない温室効果ガス排出量で製品Aを供給できるため、本件取組には、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果があることから、これらを総合的に考慮すれば、独占禁止法上問題となるものではない。
イ また、本件取組のうちパッケージαの本件仕様の実用化により生じる製品Aに係るサプライチェーン全体への影響の共同分析とその対応策の共同検討についても、我が国における製品Aの製造販売分野で合計70パーセントから80パーセントの市場シェアを有するX社らが行う取組ではあるものの、共同研究開発の成果である本件仕様の影響の分析・検討、具体的には、パッケージαの小型化・軽量化に伴う製品Aの製造、流通、販売等の方法に対する影響についての分析・検討にとどまるものであり、前記ア(イ)ないし(オ)の各事実を踏まえれば、製品Aの製造販売分野における競争に影響を与えるものではなく、独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。