医療機器メーカーが,医療法人との間で,当該医療法人傘下の医療機関に医療機器を販売する際の価格を取り決め,卸売業者に対し,取り決めた価格で販売するように指示することは,実質的にみてメーカーがエンドユーザーである医療機関に直接販売していると認められる場合には,直ちに独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
A社(医療器具メーカー)
2 相談の要旨
(1) A社は医療機器を製造し,販売する事業者であり,市場におけるシェアが2位の有力な事業者である。また,B会は,全国に複数の医療機関を持つ医療法人である。
A社は,自社の製品について卸売業者を通じて,B会所属の各医療機関に納入しているが,卸売業者が,医療機関ごとに種々の条件を勘案した価格で販売するため,同じ医療機器であっても医療機関ごとに納入価格が異なっている。
(2) このような状況において,B会はA社に対して,卸売業者がB会所属医療機関に医療機器を販売する際の価格を,A社との間で直接決定するという取引方法に変更したい旨を申し入れた。A社としては,当該申入れを踏まえ,卸売業者に対して,A社がB会と取り決めた価格で各医療機関に販売するように指示することとしたいが,独占禁止法上問題ないか。
なお,A社がB会との間で決定するのは価格のみであり,数量については取り決めない。
3 独占禁止法上の考え方
(1) メーカーが流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束することは,原則として不公正な取引方法に該当し,違法となるが,メーカーの直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており,実質的にみてメーカーが販売していると認められる場合には,メーカーが当該取引先に対して販売価格を指示しても,通常,違法とはならない。[流通取引慣行ガイドライン 第2部第1-2(6)[2]]
(2) 本件については,A社が卸売業者に対して医療器具を販売する際に,卸売業者が当該機器を医療機関に販売する価格について指示するものである。
しかしながら,
ア A社が卸売業者に対して指示する価格は,A社がB会との間で取り決めた,B会所属の医療機関に販売する価格であることから,実質的には,A社がB会所属の医療機関に直接販売し,卸売業者は両者の取次ぎとして機能していると認められる。
イ また,A社が卸売業者に販売価格を指示するのは,あくまでもB会に所属する医療機関向けのみであり,他の医療機関向け製品の販売価格まで拘束するものではない。
(3) したがって,本件A社の行為については公正競争阻害性は認められず,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
ただし,卸売業者が自らの判断でA社が指示した価格を下回る価格で販売しようすることまでを制限することは,独占禁止法上問題となるおそれがある。
4 回答の要旨
A社がB会との間で直接交渉して価格を取り決め,A社が卸売業者に対して,当該価格でB会所属の医療機関に販売するように指示することは,実質的にはA社がB会所属の医療機関に直接販売していると認められ,再販売価格の拘束として直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
ただし,卸売業者が自らの判断により,さらに値引きして販売することまでを制限することは独占禁止法上問題となるおそれがある。