ホーム >報道発表・広報活動 >委員長講演等 >

令和4年 委員長と記者との懇談会概要(令和4年6月)

令和4年 委員長と記者との懇談会概要(令和4年6月)

 [配布資料]

1 日時

令和4年6月16日(木) 13:30~14:30

2 概要

(1) 委員長からの説明

 今日は、御参集いただきありがとうございます。私から冒頭に3点、簡単にお話をした上で、皆さんからの御質問を受けたいと思います。一つ目は、競争政策の積極的な推進ということについてです。二つ目は、政府全体でのデジタル分野でのルール作りへの参画について、それから三つ目は、価格転嫁円滑化の取組についてお話をしたいと思います。
 まずは、競争政策の積極的な推進についてです。御承知のように、公正取引委員会は、独占禁止法の厳正な執行によって競争の回復を図る「エンフォースメント」と、競争環境の整備をするための「アドボカシー」、競争唱導と言っていますが、これを車の両輪として、自由で公正な競争を推進するための取組ということで進めていますが、先週取りまとめられた政府の「骨太の方針」や、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」におきましても、公正な競争を確保する競争政策を推進していくことが重要だという考えが示されていまして、取引慣行の改善や、規制の見直しを提言する競争当局のアドボカシー機能を強化するという方針が示されています。公正取引委員会はここ数年、特にこの2、3年は、デジタル化や、働き方の多様化といった新しい社会経済の動向にも着目をしながら、様々な分野で実態調査等を行い、競争上の問題点や考え方を積極的に提示して、事業者の取引慣行の改善やコンプライアンスの向上、あるいは関係省庁の規制や制度の見直しにつなげてきています。政府全体の方針が先週示されたということもありまして、この機会に、改めて公正取引委員会の考え方を整理して、組織全体としての対応を強化していこうということで、お手元にあります「デジタル化等社会経済の変化に対応した競争政策の積極的な推進に向けて」というステートメントを公表することにしました。
 御覧いただいたように、やや実務的というか、私どもの仕事の進め方の方針のようなものが書いてあるので、読みにくい部分もあるかと思いますが、アドボカシーの実効性の強化ということと、アドボカシーとエンフォースメントの連携の強化、それから、エンフォースメント自体の強化、そのための機能や体制を計画的に充実していく、という4本柱のステートメントになっています。前半のかなりの部分、アドボカシーの実効性の強化ということで書いてありますが、これまで、アドボカシー活動として様々な実態調査等をやってきていますが、このような形で、どういう趣旨・目的で何を重点にして公正取引委員会として実態調査をやっていくのか、その結果をどのように整理をして皆さんにお伝えするのかといったことをまとめてお示しをするのは初めてだと思います。特に3頁目の2(2)にありますが、実態調査の対象分野ということで大きく4点、こういうところに着目をして実態調査を行っていきたいということを整理していますし、また2(3)に実施方法等というところで、独占禁止法第40条に基づく調査権限を行使して、調査の充実を図っていくというところが新しいメッセージかと思います。実態調査は、基本的に事業者の皆さんの任意の協力の下で行っていまして、ほとんどの場合は十分な協力を得られているわけです。一方で、事業者によっては、内部規程によって任意の依頼には応じられないとか、法令に基づく報告命令があれば回答できるといったような話も聞きます。特に、外資系企業等はそうなのだと思いますが、公正取引委員会がどういう権限でこういう調査をしているのか明確にしてもらった方が、企業の中のガバナンスとかコンプライアンスの観点で説明しやすいといった声も聞きますので、調査目的を達成するために必要かつ相当な範囲で、独占禁止法第40条の調査権限を行使することがあるということを明らかにしたということです。
 次に、4頁目の「3.アドボカシーとエンフォースメントの連携の促進」ですが、実態調査で収集する情報は、一義的には、取引慣行等の実態把握のためにやっているわけです。一方で、実態調査に応じて情報提供したが、きちんと法執行につなげてもらっているのだろうかとか、報告書やガイドラインを発表するだけでなく、法執行もしっかりやっていくべきだといった意見を聞くことも少なくありません。これまでも、実態調査を行う中で独占禁止法に違反するおそれがある事実に接した場合には、それを端緒に法執行を行っていますが、実態調査に当たって、改めてそのことを明記する、あるいは申告窓口の存在を明記するといった対応を行いたいと思っています。実態調査によって得られた情報や知見を積極的に活用して独占禁止法違反事件の審査にもつなげるというアドボカシーとエンフォースメントのシームレスな連携強化ということをより意識して、やっていきたいと思っています。
 それから、5頁目の「4.エンフォースメントの強化」では、個別事件に関する情報・意見の募集を審査の初期段階で事案を公表して行うということを記しています。複雑で変化の早いデジタル市場の競争上の懸念に対応するためには、情報収集の体制・能力の向上が必要です。競争上の懸念を早期に発見し、迅速で積極的な法執行を行うことが大変重要になっていると思っています。デジタル分野の案件は、秘密裡に行われているカルテルや談合と違って、隠れた事実を探し出すというよりは、デジタル・プラットフォーマーがオープンに行っている取引やビジネスモデルに対して、競争阻害的ではないかという指摘を行い、事業者側とのコミュニケーションを重ねて競争上の懸念の評価を行っていくというケースが多いと思います。そこで、証拠隠滅や関係人の信用への悪影響の問題が大きくない場合で、広く情報収集することが必要で、かつ、審査にとって効率的・効果的であると判断した場合等には、審査を開始した早い段階で事案の概要を公表して、広く情報収集や意見募集を進めるということにしたいと思っています。この場合、当然、公表した段階で違法だということを予断するものではありませんので、そのことはきちんと断った上で、審査の初期段階で事案の公表を行うケースが今後デジタル分野を中心にあり得るということです。海外当局を見ていても、EC(欧州委員会)は異議告知書を発表する前の段階で事案の公表をすることがあります。イギリスのCMA(競争・市場庁)は、事件審査の透明性を向上させる目的で審査開始時に公表するという方針を示しているようですけれども、我々の問題意識は、審査の透明性向上というよりは、情報収集の必要性、効果的な情報収集によって事案を早期に発見し迅速な法執行につなげたいということです。これに関連して、企業結合審査においても、第2次審査開始前であっても必要に応じて第三者からの意見聴取を行う旨を次の6頁目に示しています。早速本日午後、デジタル分野の企業結合案件2件について、第2次審査前ですが、第三者からの意見聴取を行う旨を公表し、意見募集を開始したいと思っています。さらに、審査を開始するかどうかを判断するためのいわば準備段階での情報収集の充実という観点で、アドボカシーの実態調査の際と同じように独占禁止法第40条を活用することがあるということ、それから、企業結合審査に関して内部文書を一層活用するということも表明しました。いずれも、私どもの情報収集能力を向上させて機動的で迅速な法執行につなげたいという趣旨からです。以上がこのステートメントについての私のコメントであります。
 それから、二つ目のデジタル分野でのルール作りへの参画ということです。デジタル分野では、目下、公正取引委員会はクラウドサービスとモバイルOS等について実態調査を進めており、クラウドサービスの方は近く実態調査結果を公表したいと思っています。それから、モバイルOS等に関する実態調査の方は、内閣官房が事務局を務める「デジタル市場競争本部」で行っているモバイル・エコシステムの競争評価と連携して進めています。モバイルOSは、アップルのiOSやグーグルのAndroidといったスマートフォンの基盤となるソフトウェアですが、我が国では、この二つのOSのシェアがほぼ100パーセントということで、アップルとグーグルが圧倒的に有力な事業者ということになっています。このOSを基盤として、アプリストアとかブラウザ、検索サービスを提供しているデジタル・プラットフォーム事業者が市場の競争構造にどういう影響を与えているのかということについて、27項目にわたって、競争上の懸念を取り上げて評価する作業が行われていまして、本年4月には、大変分厚い中間報告が取りまとめられ、関係者への意見募集が行われているところです。GAFAのようなデジタル市場における有力なデジタル・プラットフォーム事業者による競争上の問題に対しては、海外の競争当局でも既存の競争法の枠組みを超えた規制の必要性等について活発な議論が行われています。世界的に共通の課題になっていることは皆さん御承知のとおりです。EUのデジタル市場法案というのが代表例ですけれども、独占禁止法というのは違反行為に対して事後的な摘発・取締りを行う仕組みになっていますが、このような競争法を補完する規制として、市場支配的なデジタル・プラットフォーマーに対して、前もって競争上の懸念のある行為を禁止するとともに、競争を促進するための義務を課すといった、いわゆる「事前規制」の導入が主たるテーマになって各国で議論が進んでいます。
 我が国でも、本年4月のデジタル市場競争会議の中間報告の中に、「従来の競争政策の枠組みでは必ずしも適切な対応が難しく、それとは異なるアプローチも含めた検討が求められているのではないか」という問題意識が提示されておりまして、今後、内閣官房を中心に、このような「事前規制」の必要性等も含めて新たな規制の枠組みに関する議論が進んでいくのだろうと思います。公正取引委員会としても、実態調査等も踏まえて、競争法を実際に執行している現場の経験等も提供しながら、この作業に積極的に参画していきたいと考えています。
 三つ目が、価格転嫁円滑化の取組です。これは昨年暮れに政府全体でまとめた、「価格転嫁円滑化施策パッケージ」に基づいて、中小企業庁や事業所管省庁と緊密に連携して、サプライチェーン全体の連鎖に着目して、特に中小事業者の皆さんが、原材料価格、労務費、エネルギーコストなどの上昇分を適切に価格転嫁して、適正な収益を獲得し、賃上げの原資を確保できるように公正な取引環境を整備しようという趣旨で取り組んでいるものです。公正取引委員会としては、中小事業者への不当なしわ寄せが起きないように独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法の「買いたたき」等について法執行の強化に取り組んでいます。従来、公正取引委員会は、個別の事業者の違反行為の摘発や指導といった取組が中心でしたが、今回は、各省庁とも連携しながら、優越的地位の濫用に関して問題の多い22業種を選定して、10万件の緊急調査を行う。そのため、今月3日に受注者向けに8万通の調査票を発送しました。さらに、昨日から、スタートアップを巡る取引に関する調査も始めています。今後、こうした書面調査の結果を踏まえて、立入調査や注意喚起文書の送付を実施して、年内を目途に調査結果を取りまとめて公表をしたいと思っています。また、下請法の方も、中小企業庁と共同して、道路貨物運送業等の4業種を選定し、この重点4業種に対して、下請法の立入調査の件数を大幅に増やして調査を開始しているところです。また、別途、公正取引委員会は、昨年からソフトウェア業の下請取引に関する実態調査を進めており、そちらの取りまとめも急ぎたいと思っています。さらに、重点4業種以外についても、今後違反が多く認められる業種に対しては、事業所管省庁と連名で自主点検を要請することにしています。このように受注側、発注側双方に対して、いわば面的な広がりのある取組を強化し、業種単位での違反行為の未然防止につなげたいという考え方で進めています。更に、先ほど、優越的地位の濫用の調査結果について年内を目途に取りまとめると申しましたが、これを踏まえて、サプライチェーンの取引の適正化を中心に、優越的地位の濫用に関するガイドラインの策定を来年度に行いたいと思っています。
 私からの冒頭の報告は以上です。何か質問がございましたらどうぞよろしくお願いします。

(2) 質疑応答

(問)ステートメントに関する質問なんですけれども、なぜ、今回あえてこういった形で、公正取引委員会としての方針を改めて打ち出されたのかというところを改めて教えていただきたいのと、独占禁止法第40条の活用等を見ていると、なぜ、今これを持ち出してこられたのかというと、やっぱり既存の手法では対処が難しいGAFAといった巨大ITへの対応が念頭にあるのかなと想像しているんですが、そのあたりも含めてお聞かせください。
(答)なぜ今かという点につきましては、先ほども言及しましたが、昨年の「成長戦略実行計画」でも、先週まとまった「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においてもそうですが、競争政策の強化と、そのために公正取引委員会が様々な実態調査等を行い、関係省庁に提起するアドボカシーを強化することをやってくれということが、2年続きで閣議決定されているわけです。公正取引委員会はここ数年、大変積極的にいろいろな競争上の課題を掘り起こして、アドボカシーをやってきているわけですが、どういう目的・趣旨で何を重点的にやるのか、その意義はどこにあるのか、そういうことを公正取引委員会として関係者や世の中に対して説明したことは無かったものですから、せっかくの機会ですので、アドボカシーの強化について私どもが考えていること、どういう進め方をしているかということを改めて整理して、公表しようと、そのことによって、公正取引委員会がどういう問題意識で動いているかが分かれば、公正取引委員会に協力していただく側の人たちも動きやすくなると思いますので、そういう意味での予見可能性を高める意味でも、今回、こうして整理をして発表することに意味があるのかなと思っています。独占禁止法第40条の話も、使える条文が独占禁止法の中にある。これまでアドボカシーをやるときに、基本的には、任意の協力を前提に、調査活動をやってきていますが、先ほど申し上げたように、企業の中の説明責任の問題ですとか、企業の内部規程の関係で出せないものもあるというような場合もあり、そういう時に必要な範囲で情報提供していただくために、法令に根拠のある形でお願いする、その際には独占禁止法第40条を使わせていただく。今回、そのことも対外的に明らかにしたということです。

(問)アドボカシーとエンフォースメントの連携強化についてお聞きしたいと思います。いわゆる実態調査の中で得た情報を個別事件の端緒に用いて審査へつなげていくというお話しだと思うのですが、従来から、情報管理室もあれば、また15年前からですね、いわゆるリニエンシーの制度もあり、いろいろ情報収集の柱があると思います。今回、実態調査の中で端緒を得るというのが、新しい柱になり得るのか、このことに対する委員長の期待と、また、これを今回行うに当たって、これまでの柱ではやはり足りないところがあったのか、その辺の課題についても、もしあれば教えてください。
(答)実態調査のためにいろいろな情報を収集するのは、あくまで、実態調査のためです。ただ、実態調査の過程でこれは違反行為につながるという端緒になりそうな情報があれば、当然、審査局は予備調査を行い、立件をしていくということになります。実態調査をして、分厚い報告書をまとめているけれども、それが取引慣行の改善や競争状態の回復ということに実際つながっているのかという声も聞きます。実態調査を行う過程で知り得た情報を、場合によっては法執行で使うことがあることや、申告窓口の存在について、きちんとお伝えをした上で、実態調査に協力していただくということが手続的にも明確なのではないかということで、今までやってきたようなことではありますけれども、改めてきちんとお伝えする。今後、実態調査、アドボカシーの守備範囲も広がっていきますので、この点をはっきりさせたということです。

(問)私は2点目の政府のデジタル市場のルール作りへの積極的な関与というところをお伺いしたいのですが、具体的に、公正取引委員会としては、どういった形で積極的なルール作りに関与していくのかという考え方があったら教えていただきたいのと、あと、先ほどお話にもあった事前規制に関してはどういう立場、事前規制をこれまでやってこなかったからにはメリットもあるのでしょうけれど、デメリットも考えられると思うのですが、現時点でどういった整理をされているかというのを教えてください。
(答)これは、内閣官房が今、「中間報告」をベースに関係者の意見募集を進めて検討していますので、そのスケジュールに合わせて、我々も政府内の議論に参画をしていくということだと思います。私も長く内閣官房にいまして、通常、こういう新しい枠組みを作ろうとなると、内閣官房にそのための作業チームを作って、関係する省庁が呼び込まれて一緒にやることになるのだと思うのですけれども、そういう声が掛かれば、公正取引委員会も積極的に人的貢献もしなければならないと思います。「事前規制」についてですけれども、これは先ほど申し上げたように、事後的な取締りをする独占禁止法とは違って、大規模なデジタル・プラットフォーマーに対して禁止行為や一定の義務付けをしようというものです。御承知のように、独占禁止法は個別の違反事案に対して、競争が阻害されている市場を定め、その中でどういうルートで競争が阻害されているかという、「セオリー・オブ・ハーム」と専門的には言いますけれども、そういうことを立証して、競争の回復を図る作業をするわけです。排除措置命令や、課徴金の賦課、諸外国では多額の制裁金をかけたりしているわけですが、そういう対応が非常にスピードの速いイノベーティブなデジタル分野では時間的になかなか追い付かない上に、ようやく措置をしようとしても、競争者はみんな排除されてもういないということもあり得て、そういうことでは駄目なのではないかという問題意識で、「事前規制」のようなことができないかということで、EUはデジタル市場法案を持ち出している。そういうことが、実際に執行当局から見て有効かどうか、これはまだ、どの国も議論を始めたばかりですし、決定的な有効打になるかどうか。いずれにせよ、どの国もデジタル・プラットフォーマーの競争阻害的な行為にどうやって立ち向かっていくかということで議論を始めたばかりです。私どもは、エンフォースメントを担っている立場から、政府内の議論に積極的に参加して、どんな手立てが有効かということについて議論を進めていく。私どもは競争法を担ってきた経験もありますので、貢献をしていきたいと考えているということです。

(問)グルメサイトの「食べログ」の評価点・アルゴリズムを巡る裁判で、先ほど、東京地裁の方で、独占禁止法上の優越的地位の濫用を認めて運営側に損害賠償を命じました。ただ、損害が著しいとは言えず、原告が求めていたアルゴリズムの使用差止めは認めませんでした。これについて、委員長の見解をお願いします。
(答)私は今聞いたばかりなので、個別の事案について具体的に評価できませんけれども、これは昨年10月の記者懇談会の時にも質問がありましたが、独占禁止法に定められている差止請求権を行使して訴訟を起こされていたものと承知していますが、独占禁止法違反行為の是正を私人間で訴訟を使って対処しておられること自体については、日本ではなかなかそういう民事訴訟を起こして競争を回復するということは多い方ではない。訴訟を起こすこと自体は良いことではないかと、その時は申し上げました。そのような独占禁止法上認められた手段を使って、民間の事業者の方が競争の回復を図るために活動されることについては、私は期待もしていますし、評価をしたいと思っていますが、個別の裁判の結果についてはコメントができませんのでお許しください。

(問)私は5頁目の「個別事件に係る情報・意見の募集」のところで、個別の事件審査について対象となる事業者等の情報を今後公表していく、これは非常に重要なことだと思うのですけれども、先ほど、委員長が違法だと予断するものではないということをおっしゃっていましたが、ただ、世間一般ではそう受け止められないことも多いかなと思っております。その点についての受止めと、そこをもしケアするような手立てについてお考えがあれば教えてください。
(答)先ほど申し上げましたけれども、これは審査に着手をした初期段階とか途中段階で事案の公表をして、効果的な情報収集を図りたいという趣旨です。当然、最終的な判断をしたわけではありませんから、公表する際に、さっきも申し上げましたけれども、結果を予断するものではないということをはっきりお伝えし、また、公表する時の文書にもきちんと書いた上で対応することになると思います。EUでも、早めに公表する時には、結果を予断するものではないという断りを付けているとも聞いています。同様の対応をしたいと思っています。

(問)独占禁止法第40条のことで、これまでは任意というのを主にやられてきたということなんですけれども、なぜこれまでは独占禁止法第40条を余り使ってこなかったのかという点について教えていただけますでしょうか。
(答)なぜあまり使ってこなかったのかという点については、あまり意識せずに、実態調査というのは通常任意の協力の下にやってきたということだと思いますし、それで大きな支障はなかった。一方で、調査の対象となる事業者側にとっても、きちんと法律の根拠に基づいて要請してもらえれば出せる資料もあるという事情もあるように思いますので、独占禁止法で認められた手続を使うことがあるということを説明した上で使うということでいいのではないかと、そういうふうに考えたということです。

(問)デジタル分野における事前規制について、これまで、公正取引委員会の一部の委員など個人的な意見としながら、国際的な議論とかの場で、例えば、「自己優遇」といった先日の内閣官房の中間報告書の中でも指摘されたモバイル・エコシステムにおける問題点についての問題意識をお持ちだけれども、事前規制については割と消極的な態度をこれまで示してこられました。委員長御自身は、このことについて、先ほども好ましいと思うか、むしろ問題点が多いのか明確にされませんでしたけれども、やはりこれは競争法におけるど真ん中の課題かなと思うので、もちろん、これから政府の議論が行われるということは理解した上で、どのような意識をお持ちなのか、回答していただくことはできるのでしょうか。
(答)私個人として、今の段階で事前規制がどうしても必要だとか、適切でないとか、どちらか一方の考えを持っているわけではありません。これは、公正取引委員会の杉本前委員長の時から、ある意味で公正取引委員会が問題提起をして、政府全体で、デジタル分野のルール整備をしていこうという体制ができ、まずは、「透明化法」が経済産業省所管でできていまして、これは正に一種の「事前規制」です。自主規制を事業者にお願いして、それを政府とステークホルダーで監視するという、そういう意味では、かなりソフトな「事前規制」です。ただ、私は今回、このステートメントを出したことに関しての私の思いともちょっとつながるのですが、少し話が飛びますけれども、課徴金減免制度が導入され、企業のコンプライアンスに期待して、企業自ら襟を正してもらって、競争を回復していくということで、そういう方向を、公正取引委員会は意識をしてやってきたと思います。調査協力減算制度も令和元年の法改正で導入されました。いろいろなステークホルダーの関与によって競争を回復していく、競争阻害的な行為をチェックしていくという考え方がある。その流れの中に透明化法もあると思いますし、今回、独占禁止法第40条や、審査案件を早めに公表して情報収集することがあるということを申し上げたのも、「マルチステークホルダー・ガバナンス」ではないですが、多くのステークホルダーに関わってもらいたいという思いがあって、ステートメントを公表しました。そういうガバナンスがうまくいくのかどうかということも見ながら、「事前規制」といった新しい規制制度についても、政府全体で議論をしていくのがいいのではないかなと考えています。公正取引委員会だけの立場で考えると、立証責任の負担緩和とか、そういうことになればありがたいといったような面はありますが、それだけではこの議論は無いと思いますし、一方で、デジタル化が大変遅れている日本経済社会の状況の中で、アメリカやEUと全く同じ議論でいいのかどうかという点もあると思います。ここは正に多くの関係者が関わって政府全体で議論を具体的に進めてもらいたい、その一角に、私どもも参加をしたい、そういう思いでいるということだけ、今日はお話ししておきたいと思います。

(問)すみません、「食べログ」の話で恐縮なのですけれども、判決の中身ではなくてですね、今回、訴状とかを見ていても、公正取引委員会が出した飲食店のポータルサイトに関するアドボカシーの調査を活用して訴訟を起こされているように思っておりまして、一つ、アドボカシーの調査を活用して民事で独占禁止法上の問題を事業者の方が自ら解決しようとするというのは、新しいモデルケースみたいなのにもなるのかなと思っていまして、そのことに対する委員長の受止めと、先ほどアドボカシーはエンフォースメントでも活用していくというお話があったんですけれども、逆に、今回の話ではないですけれども、企業の方々に、公正取引委員会がアドボカシーをこれだけやってきているので、こういうふうに使ってくださいというメッセージがあったら教えてください。
(答)そこは良い御指摘をいただいたと思います。ステートメントの中にも書いてありますが、アドボカシーの出口は3つあると私は思っています。一つ目は関係する事業者の皆さんが、実態調査報告書などを見ていただいて、自らのビジネスモデルや取引慣行を改善してもらう、企業コンプライアンスに活かしてもらうということ、それから、二つ目は、関係省庁の規制や制度の見直しにつながること、それから、三つ目に公正取引委員会自身が実態調査で得られた情報や知見をエンフォースメントで活用して、違反行為の是正を行うこと、この三つがあって、御指摘いただいたのは1つ目の点で、民間の方がですね、私どものアドボカシーで気づきを得て、自ら独占禁止法にある手段等を使って、競争を回復する努力をしていただくというのは、大変良いことだと私は思います。

(問)事件審査の初期段階から公表をして情報を募っていくという点の質問なのですけれども、やはり、一方で、まだ疑いの段階で企業名を公表するというのは企業の社会的信用とか評価にも関わるのではないかと思っています。例えば、結局何も見つからなくて「シロ」だったという場合もあり得るかと思うのですけれども、そういった際は、公正取引委員会として改めてその事実を公表していくとか、そういったこと含めて、どのように委員長は考えられていますでしょうか。
(答)先ほど申し上げましたように、公正取引委員会側としては公表することが証拠隠滅のきっかけになるというようなことになっては困りますし、事業者の皆さん側では、公表されることによって企業のレピュテーションが下がるというようなことであっては困るという両面があると思います。ただ、最近、企業側のコンプライアンス意識も高まっていて、公正取引委員会が立入検査に入ると、企業側がその事実を公表されるといった事例も多く見受けられます。いろいろな御意見があるんだろうと思いますが、公表する際には事案の対象になっている事業者には事前に伝え、事業者側の事情を聞くことになりますし、結果を予断するものではないということを明確にした上で、必要性が勝るという場合に公表するということです。今後の運用に当たっては、丁寧に対応していきたいと思います。

(問)デジタル市場競争本部の議論との関係で、事前規制が日本でも導入されれば画期的だと思うのですが、ただ、禁止行為のリストなど、法制化に当たってはかなり時間が掛かると思われます。公正取引委員会への指摘としては、やっぱり現状の「武器」でも対処できるものがあるのではないか、要は緊急停止命令とか、楽天の件でも相当久々に申立てをしたということでしたし、緊急停止命令が余りできないのか、そこについては見方がいろいろあるかもしれませんけれども、日本でこういった強制手段に関する課題と今後、デジタルサービスの競争のスピードが速い中で、こういった強制手段というのは、事前規制に頼らずに公正取引委員会が今できることについてもっとできないのかという点についてお願いします。
(答)緊急停止命令もそうですが、確約制度ですとか、いろいろな手立てが独占禁止法の中に揃ってきていますので、個々の事案の事情に応じていろいろな手立てを使って、対応をしていくということなのだろうと思います。緊急停止命令に関し、日本の場合には裁判所に請求して、裁判所にやってもらうという手続になっていますが、その必要性があると判断した場合には、躊躇なく今後もやりたいと思っています。日本の行政・司法の仕組みの中で一定の制約があることも事実ですけれども、今ある手立てを、工夫しながら積極的に使っていくということだと思います。

(問)透明化法の関係なのですけれども、昨年2月に施行されて、現在、二つの分野ですかね、アプリストアとオンラインモールというのが対象になっているかと思います。改めて、透明化法に対しての評価と、あと、今年の秋にデジタル広告分野への運用が始まるかと思うのですけれども、これに対する期待というのをお願いします。
(答)先ほども申し上げましたように、透明化法というのは、多くのステークホルダーが関わって、情報開示の義務等の自主規制をデジタル・プラットフォーム事業者側に課して、その運用状況を報告してもらい、評価をするという仕組みになっています。施行されて1年が経過し、今、1回目のレビューの作業が始まっていると思います。デジタル広告分野も追加になりますので、まず、透明化法の運用においてどういう問題が洗い出され、それがどう改善されるか、その実施状況を見ていく必要があると思います。独占禁止法に違反するような事案があれば、公正取引委員会の方に経済産業大臣から措置請求する建付けにもなっていますので、独占禁止法がバックアップをして透明化法のエンフォースを支えている面もありますので、経済産業省とよく連携をしながら運用状況を見ていきたいと思っています。透明化法の実施状況の検証が、内閣官房で行われている議論のベースにもなってくるのではないかなと、日本の場合はそういうことだと思います。

(問)ちょっと結構大きなお話になってしまうのですけれども、これまでのアドボカシー、例えば、コンビニの実態調査等ですとか、また、今お話にあったデジタル広告市場ですとか、またアプリストアとかそういったものも、公正取引委員会の実態調査が結構下敷きになって法執行ができているという側面があると思います。今日の会見の御趣旨は、公正取引委員会の体制強化等を改めて示していくということだったのですけれども、結構、実態としては既に日本国内で公正取引委員会の存在感というか、政策面での影響力は強まってきているんじゃないかなという肌感覚を持っているんですが、その辺り、いかがでしょうか。どうお考えでしょうか。
(答)有り難いというか、荷が重い御指摘を頂きました。皆さんが折々に報道していただくということも、大変支えになっているんだろうと思います。今日のステートメントの最後に書いてありますが、公正取引委員会の守備範囲が広がってきていまして、それに対応するためには公正取引委員会の事務総局の体制強化もしていかなければいけない。人員を増やすことだけではなくて、デジタル分野の知見を高める。官民ともデジタル人材が不足して苦労していますが、その辺ももう少し頑張って質的な強化もしていかなければいけないと思います。是非プレスの皆さんにも御支援をいただければありがたいと思います。

(問)先ほど、「食べログ」の判決の話が2回出ましたけれども、今日のテーマに沿ってですね、アドボカシーとエンフォースメントの連携強化という中で、こういう私人間の競争を巡る訴訟が起きること自体は間接的にアドボカシーの強化にもつながりますし、間接的なアドボカシーを使ったエンフォースメントにもつながると思うのですけれども、これを公正取引委員会として見守るというだけではなくて一歩進んで、もちろん私人間の競争ですから、どちらかに肩入れすることはできませんけれども、例えば、そういう訴訟による解決法を紹介するとか、ホームページの中でこれまでの実態調査等をいろんな企業に分かりやすく伝える何か作業ですね、もう一歩進んで、そういう独占禁止法の裾野を広げるというか、そういったお考えというのはあるんでしょうか。今日のテーマにあったので、ちょっとそこだけお聞きしたくて質問しました。
(答)実態調査結果は、ホームページにアップするなど広報に努めています。説明会もやったりしていると思います。そこは、是非マスコミの皆さんからも具体的な御指摘を頂ければと思うのですが、分かりやすく発信することに関して、こういう工夫があるよというようなことがあれば、是非御指導いただければなと思います。御指摘はそのとおりだと思います。

(問)再度すいません。透明化法の運用に関して、経済産業省から公正取引委員会への措置請求はこれまで1件も行われていないと理解しています。経産省との連携はあると聞いていますけれども、透明化法の中には、EUの「PtoBレギュレーション」と違って、訴訟を助ける条項が無いと思います。この点について、次の新しいルールを検討する時に、もうちょっと私訴においても何らかの手立てができるようにという工夫は必要だと思いますか。
(答)そこは、これから透明化法が今の仕組みでどういうふうに機能するかを検証・確認する段階ですので、御指摘の点も議論になるかもしれませんが、今のところはそこまでの具体的な議論にはなっていません。お話しは頭に入れておきたいと思います。

以上

ページトップへ