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(令和6年5月28日)令和5年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

(令和6年5月28日)令和5年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

令和6年5月28日
公正取引委員会

はじめに

 公正取引委員会は、迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下、国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。
 令和5年度においては、規制改革が進められてきた電力・ガス事業分野における大口需要家向け都市ガス供給を巡る受注調整及び家庭用都市ガス・電気料金を巡る価格カルテル、官報の印刷に使用される用紙の発注を巡る入札談合等に厳正に対処したほか、これまで法的措置を採ったことがなかった漁業協同組合が関係する水産物の取引、興行事業者と映画配給事業者との映画作品の上映に係る取引、結婚相談所連盟と結婚相談所の取引における競争上の問題について確約手続を利用し、効率的かつ効果的に対処した。
 また、令和5年10月のインボイス制度の実施や昨今の労務費・原材料費・エネルギーコストの急激な上昇に伴う中小事業者等の取引価格へのコスト上昇分の転嫁に関連した優越的地位の濫用につながるおそれがある事案など中小事業者等に不当に不利益を与える行為に迅速に対処した。
 さらに、Google LLCらによる独占禁止法違反被疑行為に関して、個別事件の審査の初期段階において初めて、審査の開始を公表し、第三者からの情報・意見の募集を行った。
 令和5年度における独占禁止法違反事件の処理状況は、次のとおりである。

第1 審査事件の概況

1 法的措置等の状況

(1) 排除措置命令等の状況

 令和5年度においては、独占禁止法違反行為について、延べ18名の事業者に対して、4件の排除措置命令を行った。排除措置命令4件の内訳は、価格カルテル1件、入札談合2件、受注調整1件となっている。これら4件の市場規模は、総額29億円超である。
 また、令和5年度においては、独占禁止法違反被疑行為について、5名の事業者に対して、5件の確約計画の認定を行った(注1)。いずれも不公正な取引方法(優越的地位の濫用2件、その他の拘束・排他条件付取引(注2)3件)となっている。

(注1) 確約計画の認定は、確約手続に係る通知を受けた事業者から申請された確約計画を公正取引委員会が認定するという、独占禁止法に基づく行政処分である。公正取引委員会は、認定した確約計画に従って確約計画が実施されていないなどの場合には、当該認定を取り消し、確約手続に係る通知を行う前の調査を再開することとなる。

(注2) その他の拘束・排他条件付取引とは、再販売価格の拘束以外の拘束・排他条件付取引を指す(以下同じ。)。

図1 法的措置(注3)件数等の推移

(注3) 法的措置とは、排除措置命令、課徴金納付命令及び確約計画の認定のことである。一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には、法的措置件数を1件としている。

(注4) 私的独占と不公正な取引方法のいずれも関係法条となっている事件は、私的独占に分類している。

(注5) その他のカルテルとは、数量、販路、顧客移動禁止、設備制限等のカルテルである。

(2) 警告等の状況

 令和5年度においては、警告に加え、各事案の内容を踏まえて、注意等の事案についても、事案の概要を公表することにより、独占禁止法や競争政策上の問題点を広く周知するなどの処理を行った。  

 ア 違反の疑いのある行為が認められた3件について、関係事業者に対し、事前説明を行った上で警告・公表を行った(価格カルテル:1件、受注調整:1件、不当廉売:1件)。

 イ 違反につながるおそれのある行為がみられたものであって、競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案であり、かつ、関係事業者から公表する旨の了解を得た2件について、注意・公表を行った(優越的地位の濫用:1件、競争者に対する取引妨害:1件)。

 ウ 事業者から自発的な改善措置の報告を受けた1件について、法運用の透明性や事業者の予見可能性を高める観点から、事案の概要を公表した(優越的地位の濫用:1件)。

図2 排除措置命令・確約計画の認定・警告等の件数の推移

      (注6) 事案の概要を公表したものに限る。

(3) 課徴金納付命令の状況

 令和5年度においては、延べ16名の事業者に対して、総額2億2340万円の課徴金納付命令を行った。  

 一事業者当たりの課徴金額の平均は1396万円(注7)であった。

(注7) 一事業者当たりの課徴金額の平均については、1万円未満切捨て。

表1 課徴金額等の推移

      (注8) 課徴金額については、千万円未満切捨て。

2 申告の状況

 令和5年度において、独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について、公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は、3,228件であった。
 申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には、申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ、令和5年度においては、3,005件の通知を行った。

図3 申告件数の推移

3 課徴金減免制度の状況

 公正取引委員会は、事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反内容を当委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免される制度(以下「課徴金減免制度」という。)及び課徴金減免申請の申請順位に応じた減免率に、課徴金減免申請を行った事業者(調査開始日より前に最初に課徴金減免申請をした者を除く。)の事件の真相の解明に資する程度に応じた減算率を付加する制度(以下「調査協力減算制度」という。)を運用している。

 令和5年度において、課徴金減免制度に基づき、事業者から自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は、156件であった(平成18年1月の制度導入時から令和5年度末までの累計は1,573件)。
 また、令和5年度においては、価格カルテル・受注調整・入札談合事件4件における延べ13名の課徴金減免制度の適用事業者について、これらの事業者の名称、減免の状況等を公表した(注9)。このうち、4事件計9名の事業者に調査協力減算制度を適用した。

(注9) 公正取引委員会は、法運用の透明性等を確保する観点から、課徴金減免制度が適用された事業者について、課徴金納付命令を行った際に、当委員会のウェブサイトに、当該事業者の名称、所在地、代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている(ただし、平成28年5月31日以前に課徴金減免申請を行った事業者については、当該事業者から公表の申出があった場合に、公表している。)。
 なお、公表された事業者数には、課徴金減免申請を行った者であるものの、①独占禁止法第7条の2第1項に規定する売上額(課徴金の算定の基礎となる売上額)が存在しなかったため課徴金納付命令の対象になっていない者及び②算出された課徴金額が100万円未満であったため独占禁止法第7条の2第1項ただし書により課徴金納付命令の対象になっていない者のうち、公表することを申し出た事業者の数を含めている。
 ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html

表2 課徴金減免申請件数の推移

(単位:件)
年度 R元 R2 R3 R4 R5 累計
(注10)
申請
件数
73 33 52 22 156 1,573

(注10) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和6年3月末までの件数の累計。

表3 課徴金減免制度の適用状況

(単位:件、延べ事業者数)
年度 R元 R2 R3 R4 R5 累計
(注13)
課徴金減免制度が適用された法的措置件数
(注11)(注12)
168
課徴金減免制度が適用された
事業者数
26 17 10 22 13 436

(注11) 本表における法的措置とは、排除措置命令及び課徴金納付命令であり、一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には、法的措置件数を1件としている。

(注12) 排除措置命令のみを行い課徴金納付命令は行わなかったものの、当委員会のウェブサイトに課徴金減免申請を行った旨を公表することを申し出た事業者が存在する事件又は当該事業者を含む。

(注13) (注9)を参照。課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和6年3月末までの件数又は事業者数の累計。

表4 調査協力減算制度の適用状況

(単位:件、事業者数)
年度 R元 R2 R3 R4 R5 累計
調査協力減算制度が適用された
法的措置件数
調査協力減算制度が適用された
事業者数
13

4 審査の開始及び第三者からの情報・意見の募集

 公正取引委員会は、令和5年10月23日、Google LLCらによる独占禁止法違反被疑行為について、審査を開始した旨及び第三者からの情報・意見の募集を行うこととした旨を公表した。

第2 行為類型別の事件概要 

1 価格カルテル

 令和5年度においては、木工用ドリルの製造販売業者による価格カルテル事件について、1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

・ 木工用ドリルの製造販売業者による価格カルテル事件

 木工用ドリルの製造販売業者が、共同して販売業者向け販売価格を引き上げる旨を合意していた。
(令和6年3月28日 排除措置命令(2名)及び課徴金納付命令(2名))
(課徴金額:9396万円)


 また、中部電力ミライズ株式会社及び東邦瓦斯株式会社による価格カルテル事件について、1件の警告を行った。

・ 中部電力ミライズ株式会社及び東邦瓦斯株式会社に対する警告

 中部電力2社(中部電力株式会社及び中部電力ミライズ株式会社)及び東邦瓦斯株式会社(以下「東邦瓦斯」という。)は、①東邦瓦斯の都市ガス供給区域における家庭用の都市ガス及び電気の小売供給に係る取引について話合いを行い、その際、中部電力株式会社(以下「中部電力」という。)が東邦瓦斯に対して中部電力の料金より値下げしないことを求め、②中部電力の電気供給区域におけるFIT制度による電気の買取期間満了後の電気の買取りに係る取引について話合いを行い、その際、中部電力が東邦瓦斯に対して中部電力の買取価格よりも大幅に上回るものにしないことを求めて、両分野における競争を実質的に制限していた疑いがある。
(令和6年3月4日 警告)

2 入札談合

 令和5年度においては、高知県が発注する地質調査業務の入札参加業者による入札談合事件、独立行政法人国立印刷局が発注する再生巻取用紙の入札参加業者らによる入札談合事件について、2件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

・ 高知県が発注する地質調査業務の入札参加業者による入札談合事件

 高知県が発注する地質調査業務の入札参加業者が、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

(令和5年9月28日 排除措置命令(13名)及び課徴金納付命令(10社))

(課徴金額:8626万円)

・ 独立行政法人国立印刷局が発注する再生巻取用紙の入札参加業者らによる入札談合事件

 独立行政法人国立印刷局が発注する再生巻取用紙の入札参加業者らが、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

(令和6年3月14日 排除措置命令(2社)及び課徴金納付命令(2社))

(課徴金額:1640万円)

 

3 受注調整

 令和5年度においては、東邦瓦斯供給区域に所在する大口需要家が発注する都市ガスの見積り合わせ等の参加業者による受注調整事件について、1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

・ 東邦瓦斯供給区域に所在する大口需要家が発注する都市ガスの見積り合わせ等の参加業者による受注調整事件

 東邦瓦斯供給区域に所在する大口需要家が発注する都市ガスの見積り合わせ等の参加業者が、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。

(令和6年3月4日 排除措置命令(1社)及び課徴金納付命令(2社))

(課徴金額:2678万円)


 また、中部電力ミライズ株式会社及び株式会社シーエナジーによる受注調整事件について、1件の警告を行った。

・ 中部電力ミライズ株式会社及び株式会社シーエナジーに対する警告

 中部電力2社(中部電力株式会社及び中部電力ミライズ株式会社)及び株式会社シーエナジー並びに東邦瓦斯株式会社は、愛知県、岐阜県及び三重県に所在する需要家向けのLNGの供給に係る取引において受注調整を行って同分野における競争を実質的に制限していた疑いがある。

(令和6年3月4日 警告)

 〇 電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供

 公正取引委員会は、本件審査において認められた以下の事実等について、都市ガス及び電気市場における競争の適正化を図るため、電力・ガス取引監視等委員会に対し情報提供を行った。

⑴ 中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社及び東邦瓦斯株式会社により、特定大口都市ガスについて独占禁止法違反行為が行われ、中部電力ミライズ株式会社に対し排除措置命令を行ったこと。

⑵ 東邦瓦斯株式会社の都市ガス供給区域における家庭用の都市ガス等の取引及び中部電力株式会社の電気供給区域におけるFIT制度による電気の買取期間満了後の電気の買取取引について、独占禁止法に違反するおそれのある行為が行われ、警告を行ったこと。

⑶ 中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社及び東邦瓦斯株式会社の間で、かねてから、都市ガス及び電気の小売供給に係る営業活動の方針、状況等に関する情報交換が行われていたこと。

 

4 不公正な取引方法

(1) 優越的地位の濫用

 令和5年度においては、株式会社ダイコクによる優越的地位の濫用被疑事件、株式会社東京インテリア家具による優越的地位の濫用被疑事件について、2件の法的措置(確約計画の認定)を採った。

・ 株式会社ダイコクに対する確約計画の認定

 公正取引委員会は、株式会社ダイコク(以下「ダイコク」という。)に対し、ダイコクの次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、ダイコクから確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。

○ ダイコクは、遅くとも令和2年3月頃以降、令和4年4月頃までの間、納入業者に対して、次の行為を行っていた。

⑴  返品

 ①新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受けて売れ残った商品等(以下「売れ残り商品等」という。)について当該売れ残り商品等を納入した納入業者の責めに帰すべき事由がなく、かつ、②当該売れ残り商品等の購入に当たって当該納入業者との合意により返品の条件を明確に定めることなく、かつ、③あらかじめ当該納入業者の同意を得ることなく又は当該納入業者の同意を得た場合であっても、当該売れ残り商品等の返品によって当該納入業者に通常生ずべき損失を負担することなく、かつ、④当該納入業者から当該売れ残り商品等の返品を受けたい旨の申出がないにもかかわらず、当該売れ残り商品等を返品していた。

⑵  従業員等の派遣の要請

ア 閉店等に際し、これらを実施する店舗等において、売れ残り商品等の返品に係る作業を行わせるため、あらかじめ納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく、かつ、派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく、当該納入業者の従業員等を派遣させていた。

イ 新規開店又は改装に際し、これらを実施する店舗において、納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品の陳列等の作業を行わせるため、あらかじめ当該納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく、かつ、派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく、当該納入業者の従業員等を派遣させていた。

(令和5年4月6日 確約計画の認定)

・ 株式会社東京インテリア家具に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は、株式会社東京インテリア家具(以下「東京インテリア」という。)に対し、東京インテリアの次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、東京インテリアから確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。

○  東京インテリアは、遅くとも平成28年5月頃以降、令和4年6月頃までの間、納入業者に対して、次の行為を行っていた。

⑴ 新規開店又は改装開店に際し、これらを実施する店舗において、納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品の搬入、陳列等の作業を行わせるため、あらかじめ当該納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく、かつ、派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく、当該納入業者の従業員等を派遣させていた。

⑵ 新規開店に際し、これを実施する店舗に関して、「オープン協賛金」等の名目で、あらかじめ負担額の算出根拠、使途等を明らかにせず、又は、当該金銭の提供が、その提供を通じて納入業者が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲を超えた負担となるにもかかわらず、当該納入業者から当該店舗向けに開店前に納品される商品の納入金額に5パーセントの料率を乗じて算出した額等の金銭を提供させていた。

⑶ 令和3年2月及び令和4年3月に福島県沖で発生した地震に際し、福島県、宮城県及び岩手県に所在する店舗において当該各地震により毀損又は汚損した商品について、当該商品を値引き又は廃棄することによる自社の損失を補塡するため、納入業者が納入した当該商品の納入金額に相当する額の全部又は一部の金銭を提供させていた。

(令和6年1月25日 確約計画の認定)

 

 また、みずほ証券株式会社に対し、同社の行為が優越的地位の濫用につながるおそれがあるものとして注意を行い、その旨を公表した。

・ みずほ証券株式会社に対する注意について

 みずほ証券株式会社は、新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセスにおいて、新規上場会社に対し、独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号ハ(優越的地位の濫用))の規定の違反につながるおそれのある行為を行っていた。

(令和5年4月13日 注意)


 このほか、令和5年度においては、優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして67件の注意を行った(別添参照)。


 加えて、オーケー株式会社から、自発的に競合店対抗値下げ補填(同社が、競合店の販売価格に対抗して、自社の店舗における販売価格を競合店と同額まで引き下げて販売した場合に、そのときの差額分の全部又は一部を納入業者の負担とすることをいう。以下同じ。)を取りやめた旨の報告を受けたため、これ以上の対応を行わないこととした旨を公表した。

・ オーケー株式会社による納入業者に対する競合店対抗値下げ補填の要請への対応について

 公正取引委員会は、オーケー株式会社(以下「オーケー」という。)が、納入業者との価格交渉に当たり、納入業者に対し、競合店対抗値下げ補填の要請を行っているとの情報に接したことから、競合店対抗値下げ補填の事実やその運用等について、優越的地位の濫用の観点から問題がないか等の確認を行うため、オーケーに資料を求めるなどしたところ、オーケーから、自発的に競合店対抗値下げ補填を取りやめた旨の報告を受けたため、これ以上の対応を行わないこととした旨を公表した。

(令和5年8月10日 公表)

⑵ 拘束条件付取引等

 令和5年度においては、福岡有明海漁業協同組合連合会による排他条件付取引又は拘束条件付取引被疑事件、TOHOシネマズ株式会社による拘束条件付取引被疑事件、株式会社IBJによる拘束条件付取引被疑事件について、3件の法的措置(確約計画の認定)を採った。


・ 福岡有明海漁業協同組合連合会に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は、福岡有明海漁業協同組合連合会(以下「福岡有明漁連」という。)に対し、福岡有明漁連の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、福岡有明漁連から確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。

○ 福岡有明漁連は、漁協を通じて、生産者から乾海苔の販売を受託し、当該乾海苔を、自らが実施する乾海苔の入札により指定商社に販売しているところ、次の行為を行っている。

⑴ 漁協を通じて、生産者に対し、生産した乾海苔の全量を生産者が所属する漁協に出荷する旨の条件を定めた誓約書に記名押印させるとともに、当該誓約書に定めた条件を遵守するよう要請している。

⑵ 漁協に対し、生産者から集荷した乾海苔の全量を自らに出荷する旨の条件を覚書として定めるとともに、当該覚書に定めた条件を遵守するよう要請している。

⑶ 指定商社に対し、自らが実施する入札に付した乾海苔以外に、生産者が生産した乾海苔の買付けを行わない旨の条件を、自らが構成員となっている九州地区漁連乾海苔共販協議会(以下「九州共販協議会」という。)において書面により定めるとともに、書面に定めた条件を遵守するよう要請している。

⑷ 自らが構成員となっている九州共販協議会において、自らが実施する入札に付したものの、最も高い入札価格が基準価格に満たなかった乾海苔について、当該乾海苔を生産した生産者の意向を確認することなく、当該乾海苔を処分することとしている。

(令和5年6月27日 確約計画の認定)

・ TOHOシネマズ株式会社に対する確約計画の認定

 公正取引委員会は、TOHOシネマズ株式会社(以下「TOHOシネマズ」という。)に対し、TOHOシネマズの次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、TOHOシネマズから確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。

○ TOHOシネマズは、遅くとも平成28年11月頃以降、自社に映画作品を配給する配給会社に対して、次のいずれか又は複数を求めることによって、自社を他の興行会社よりも有利に取り扱うよう要請するとともに、当該要請に従わない場合には今後当該配給会社に係る映画作品の上映に応じない旨などを伝えることにより、当該配給会社に対し、当該要請に従うようにさせている。

⑴ 配給会社が限定作品とする映画作品について、当該配給会社は

ア 当該映画作品のメイン館を決定しようとする場合に行うオファーに関しては、原則として、興行会社の中でTOHOシネマズを最初のオファーの相手方とする

イ 当該映画作品のメイン館を他の興行会社の運営する映画館とすることに決定しており、かつ、メイン館系映画館(当該メイン館を含み、TOHOシネマズ系映画館を除く。以下同じ。)に加えて、当該メイン館系映画館以外の映画館における上映も予定している場合に行うオファーに関しては、上映を予定している地域ごとに、当該地域に所在するメイン館系映画館を対象とするオファーの次に、TOHOシネマズに対して当該地域に所在するTOHOシネマズ系映画館を対象とするオファーを行うなどする

     こと。

⑵ TOHOシネマズ系映画館がメイン館となった映画作品について、TOHOシネマズが指定した他の興行会社の運営する映画館へのオファーを見合わせるなどすること。

(令和5年10月3日 確約計画の認定)

・ 株式会社IBJに対する確約計画の認定

 公正取引委員会は、株式会社IBJ(以下「IBJ」という。)に対し、IBJの次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、IBJから確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。

○ IBJは、IBJ連盟の加盟事業者のうち全国結婚相談事業者連盟(以下「TMS連盟」という)、日本仲人連盟(以下「NNR」という。)又は日本成婚ネット(以下「JMN」という。)にも加盟する加盟事業者(以下「重複加盟事業者」という。)に対し、次の行為を行っている。

 ⑴ア 令和3年9月頃、東海地区に所在するTMS連盟との重複加盟事業者に対し、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズの会員とのお見合い制限を行うことを示唆してTMS連盟から退会するよう要請し、TMS連盟から退会せず、また、退会する意向を示さなかった重複加盟事業者について、同年10月頃以降、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズの会員とのお見合い制限を行うことにより、TMS連盟から退会するようにさせている。

  イ 令和4年2月頃、TMS連盟又はNNRとの重複加盟事業者に対し、東日本地区に所在するTMS連盟との重複加盟事業者及び西日本地区に所在するNNRとの重複加盟事業者について、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズの会員とのお見合い制限を行うことを示唆してTMS連盟及びNNRから退会するよう要請し、TMS連盟及びNNRから退会せず、また、退会する意向を示さなかった重複加盟事業者について、同年5月頃以降、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズの会員とのお見合い制限を行うことにより、TMS連盟及びNNRから退会するようにさせている。

 ウ 令和4年9月頃、TMS連盟、NNR又はJMNとの重複加盟事業者に対し、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズ、サンマリエ及びZWEIの会員とのお見合い制限を行うことを示唆してTMS連盟、NNR及びJMNから退会するよう要請し、TMS連盟、NNR及びJMNから退会せず、また、退会する意向を示さなかった重複加盟事業者について、同年10月頃以降、当該重複加盟事業者が運営する結婚相談所の会員とIBJメンバーズ、サンマリエ及びZWEIの会員とのお見合い制限を行うことにより、TMS連盟、NNR及びJMNから退会するようにさせている。

 ⑵ 令和4年11月頃、エリアページに自らの情報を掲載しているTMS連盟、NNR又はJMNとの重複加盟事業者に対し、エリアページに当該重複加盟事業者の情報を掲載しない方針である旨を伝え、TMS連盟、NNR及びJMNから退会せず、また、退会する意向を示さなかった重複加盟事業者について、同年12月頃以降、エリアページから当該重複加盟事業者の情報を削除することにより、TMS連盟、NNR及びJMNから退会するようにさせている。

(令和6年1月22日 確約計画の認定)

⑶ 競争者に対する取引妨害

 令和5年度においては、株式会社ロジックが競争者に対する取引妨害を行っていた疑いについて審査を行い、注意・公表した。

・ 株式会社ロジックに対する注意について

 株式会社ロジックは、競争事業者からの介護サービス事業で使用されるソフトウェア間のシステム連携の要請に対して、システム連携の条件として競争事業者のソフトの販売の制限ととられかねない内容を提示するなど、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項(競争者に対する取引妨害))の規定の違反につながるおそれのある行為を行っていた。

(令和5年12月20日 注意)


⑷ 不当廉売

 令和5年度においては、茨城県土浦市において給油所を運営する石油製品小売業者による不当廉売事件について、独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから、警告を行った。

・ 三愛リテールサービス株式会社に対する警告

 三愛リテールサービス株式会社は、茨城県土浦市に所在する給油所において、令和5年1月31日から同年3月7日までの36日間、レギュラーガソリンについて、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、当該給油所の周辺地域に所在する他のレギュラーガソリンの販売業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いがある。

(令和5年5月17日 警告)


 また、令和5年度においては、酒類、石油製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注14)を行い、不当廉売につながるおそれがあるとして317件の注意を行った。
 加えて、「ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について」の改定(令和4年11月11日)も踏まえて、繰り返し注意を受けた事業者に対する取組の強化として、①複数の給油所を運営している場合にあっては、事案に応じて本社の責任者に対して注意を行うとともに、②注意後の販売価格、仕入価格等について報告を求めるフォローアップ調査を実施した。

(注14) 原則として、申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

表5 令和5年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)

(単位:件)
  酒類 石油製品 家電製品 その他 合計
注意件数 29 233 55 317

図4 不当廉売事案の注意件数の推移

⑸ その他(協同組合等による不公正な取引)

 その他の事例として、農業分野では、農業協同組合が、出荷者が直売所で販売する農作物等の最低販売価格を定めていたため、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして注意を行った事例があるほか、漁業分野では、漁業協同組合が、組合員に対し、漁獲した水産物の全量を漁業協同組合が管理及び運営する市場に出荷させていたため、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして注意を行った事例などがある。

第3 タスクフォースの取組状況等

1 IT・デジタル関連分野

 公正取引委員会は、IT・デジタルタスクフォースを設置し、当該分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に、専門的な検討・分析、効率的な調査を実施することとしている。
 また、同分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報を広く受け付けるため、平成28年10月に専用の情報提供窓口を設置している。令和5年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は83件となっている。令和元年度以降の各年度における情報受付件数は以下のとおりである。

 表6 IT・デジタル関連分野における情報受付件数

(単位:件)
年度 R元 R2 R3 R4 R5
情報受付
件数
180 182 140 139 83

2 優越タスクフォース

 公正取引委員会は、平成21年に優越的地位濫用事件タスクフォース(以下「優越タスクフォース」という。)を設置し、優越的地位の濫用に係る情報に接した場合には、効率的かつ効果的な調査を行い、濫用行為の抑止・早期是正に努めることとしている。
 優越タスクフォースにおいては、優越的地位の濫用行為に係る全国から寄せられる情報及び自ら収集した情報に基づいて、一元的に当該行為の類型に特化した調査を行うことで事例の蓄積や処理方法の向上を図り、これらを積極的に活用することにより、優越的地位の濫用事案を効率的に処理できるようにしている。令和5年度は、大規模小売業者と納入業者との納入取引、荷主と運送事業者との物流取引のほか、令和5年10月のインボイス制度の実施に伴う発注サイドの事業者と受注サイドの事業者との取引条件の再交渉に関連した事案、昨今の労務費、原材料費及びエネルギーコストの急激な上昇を受けた受注サイドの事業者からの発注サイドの事業者に対する価格転嫁の要請に関連した事案などにおいて優越的地位の濫用に該当するおそれがあるとして67件の注意を行った。令和元年度以降の各年度における注意件数は以下のとおりである。

 表7 年度別注意件数

(単位:件)
年度 R元 R2 R3 R4 R5
注意件数 29 47 46 55 67

3 その他の分野

 公正取引委員会は、前記1・2のIT・デジタルタスクフォース、優越タスクフォースのほか、農業分野タスクフォース、公益事業タスクフォース等を設置している。また、専用の情報提供窓口を設置しており、令和5年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は、農業分野が44件、電力・ガス分野が28件となっている。

 【情報提供窓口の電話番号等】
<電話番号>
IT・デジタル関連分野 03-3581-5492
農業分野        03-3581-3387(※)
電力・ガス分野     03-3581-1760
※ 農業分野については、上記のほか、各地方事務所・支所にも窓口を設置している。

<情報提供フォーム>
https://www.jftc.go.jp/application/zzza092.html
※ IT・デジタル関連分野、農業分野、電力・ガス分野とも共通のアドレス

第4 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟

 令和5年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は6件(東京地方裁判所3件、東京高等裁判所2件、最高裁判所1件)(注15)であったところ、同年度中に新たに4件の排除措置命令等取消請求訴訟が東京地方裁判所に提起された。また、令和4年度中に東京地方裁判所がした判決に対し、令和5年度中に控訴されたものが1件あった。
 令和5年度当初において東京地方裁判所に係属中であった3件のうち1件については、同裁判所が請求を棄却する判決をし、控訴期間の経過をもって確定した。その余の2件については、同裁判所に係属中である。令和5年度当初において東京高等裁判所に係属中であった2件のうち1件については、同裁判所が控訴を棄却する判決をしたが、その後、最高裁判所に上告及び上告受理申立てがなされ、同裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了した。残る1件については、東京高等裁判所に係属中である。また、令和5年度中に控訴された1件は、東京高等裁判所が控訴を棄却する判決をし、上訴期間の経過をもって確定した。
 令和5年度当初において最高裁判所に係属中であった1件については、同裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了した。
 これらの結果、令和5年度末時点において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は7件であった。

(注15) 排除措置命令等取消請求訴訟の件数は、訴訟ごとに裁判所において番号が付される事件の数である。

第5 審決取消請求訴訟

 令和5年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注16)は14件であり、これらのうち、同年度中に東京高等裁判所が原告の請求を棄却した判決が9件(うち1件は上訴期間の経過をもって終了し、その余の8件は原告が上告又は上告受理申立てをした。)、最高裁判所が上告棄却又は上告不受理決定をしたことにより終了したものが5件あった(別表第8表参照)。
 この結果、令和5年度末時点では8件の審決取消請求訴訟が係属中である。

(注16) 審決取消請求訴訟の件数は、第一審裁判所において番号が付される事件の数である。

関連ファイル

(印刷用)(令和6年5月28日)令和5年度における独占禁止法違反事件の処理状況についてpdfダウンロード(754 KB)

(印刷用)(令和6年5月28日)別添pdfダウンロード(97 KB)

(印刷用)(令和6年5月28日)概要pdfダウンロード(484 KB)

※令和6年5月28日、報道発表資料(報道発表文)に誤植がありましたので、次のとおり修正しました。

・「報道発表文」の第5

修正前:(別表第9表参照)

修正後:(別表第8表参照)

問い合わせ先

第1から第4までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第5に関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局官房総務課(審判・訟務担当)
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/

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