令和7年12月15日
公正取引委員会
第1 背景
1 公正取引委員会は、価格転嫁円滑化に関する政府全体の施策である「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月27日 内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・公正取引委員会)に基づく取組の一環として、令和4年1月26日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)を改正するとともに、令和4年2月16日、公正取引委員会のウェブサイトに掲載している「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&A(以下「独占禁止法Q&A」という。)に、下記①又は②に該当する行為(以下「独占禁止法Q&Aに該当する行為」という。)が、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の一つに該当するおそれがあることを明確化した。
| ① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと ② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと |
2 その後、独占禁止法Q&Aに該当する行為が疑われる事案や価格転嫁の状況等を把握するため、令和4年度に「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査」(以下「令和4年度調査」という。)を、令和5年度に「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和5年度調査」という。)を、令和6年度に「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和6年度調査」という。)を実施した。
令和4年度調査、令和5年度調査及び令和6年度調査においては、主に次の取組を実施した。
(1) 書面調査及び立入調査を実施し、独占禁止法Q&Aに該当する行為が認められた発注者に対して、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付した。また、令和5年度調査では令和4年度調査において注意喚起文書の送付対象となった事業者4,030名、令和6年度調査では令和5年度調査において注意喚起文書の送付対象となった事業者8,175名に対し、それぞれフォローアップ調査を実施した。
(2) 前記(1)の書面調査を踏まえた個別調査の結果、相当数の取引先に対する協議を経ない取引価格の据置き等が認められた事業者について、価格転嫁の円滑な推進を強く後押しする観点から、その事業者名を公表した(令和4年度13名、令和5年度10名、令和6年度3名。)。
令和5年度調査及び令和6年度調査では、それぞれ、前年度調査の結果、事業者名公表の対象となった事業者に対し、フォローアップ調査を実施したところ、いずれの事業者とも自主的に相当程度価格転嫁円滑化の取組を進めていると認められた。
(3) 令和5年度調査においては、コスト構造において労務費の占める割合が高い業種に対して重点的に調査票を送付し、労務費の転嫁状況等を把握したところ、原材料価格やエネルギーコストと比べて労務費の転嫁が進んでいない結果となった。このことを踏まえ、令和5年11月29日に、内閣官房と公正取引委員会の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(注1) (以下「労務費転嫁指針」という。)を策定・公表した。
令和6年度調査においては、引き続きコスト構造において労務費の占める割合が高い業種に対して重点的に調査票を送付し、労務費の転嫁円滑化の進捗状況等を調査した。労務費転嫁指針の公表から約半年が経過した時点での認知度は48.8%となり、労務費の要請受諾率(注2) は令和5年度調査時よりも上昇しているものの、サプライチェーンの段階を遡るごとに低下している実態があり、更に労務費転嫁指針の認知度を高めるために引き続き積極的な周知が必要と考えられた。
サービス業のサプライチェーンにおいて、サービス提供業者(元請)や各段階の受注者がその先の取引先受注者からの価格転嫁を受け入れるための原資となるサービス提供業者(元請)から需要者(事業者)への価格転嫁が十分に進んでいない状況がうかがわれた。
これらの令和6年度調査の結果などを踏まえ、労務費転嫁指針がより実効的なものとなり、一層の労務費の転嫁円滑化が促進するよう、地方版政労使会議の機会の活用、商工会議所や中小企業団体中央会等と連携した中小事業者向けの広報・広聴企画の開催、事業者団体向け講師派遣等広く労務費転嫁指針の周知に努めてきた。
(注1) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/nov/231129_roumuhitenka.html
(注2) 令和6年度以前の調査では「転嫁率」としていたもの。発注者が受注者の価格転嫁の要請額に対して受諾した金額の割合であることを踏まえ、本年度の調査から「要請受諾率」としている。
3 令和7年度においては、引き続き独占禁止法Q&Aに該当する行為が疑われる事案に関する実態等を把握するとともに、労務費転嫁指針に基づく発注者・受注者の行動をフォローアップすることにより労務費の転嫁円滑化の進捗状況を把握するため、「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和7年度調査」という。)を実施し、今般、その結果を取りまとめた。
第2 令和7年度調査の手法
1 通常調査(調査対象期間:令和6年6月~令和7年5月)
令和7年6月、令和6年度調査の結果、コストに占める労務費の割合が高いこと又は労務費の上昇分の価格転嫁が進んでいないことが判明した業種21業種 (注3)(以下「労務費重点21業種」という。)を含む43業種(注4)を調査対象業種とし、事業者11万名に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているか、労務費転嫁指針に沿って行動しているかなどについて、受注者・発注者の双方の立場での回答を求める調査票を発送した(業種ごとの回答者数は別紙1-1参照)。(注3) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/seiroushi/dai3/shiryou1.pdf(令和6年1月22日「政労使の意見交換」資料1)の27ページ記載の22業種のうち「地方公務」を除いた21業種。
(注4) 調査対象業種43業種(別紙1-1参照)以外の業種に対しても調査票を発送している。
2 令和6年度調査で注意喚起文書送付の対象となった13,929名に対するフォローアップ調査(調査対象期間:令和6年6月~令和7年5月)
令和7年6月、令和6年度調査で独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書を送付した6,510名及び労務費転嫁指針に係る注意喚起文書を送付した9,388名 (注5)に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているか、労務費転嫁指針に沿って行動しているかなどについて、発注者の立場での回答を求める調査票を発送した(業種ごとの回答者数は別紙1-1参照)。(注5) 独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書及び労務費転嫁指針に係る注意喚起文書の送付を重複して受けている事業者が存在しているため、両者の送付対象者数を合計しても13,929名にはならない。
3 立入調査
前記1及び2の各書面調査の結果を踏まえ、令和7年7月から11月にかけて、独占禁止法Q&Aに該当する行為や、労務費転嫁指針に沿った取組を行っていないことが疑われる発注者に対して、立入調査を462件実施した(令和5年度調査及び令和6年度調査の2年度連続で注意喚起文書送付の対象となり、令和7年度調査においても独占禁止法Q&Aに該当する行為が疑われた発注者を含む。)。特に、労務費重点21業種の発注者に対し重点的に立入調査を実施したほか、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版(令和7年6月13日閣議決定)」において「…中小企業間、中小企業・小規模事業者間の取引への対応を含めて更なる取引適正化を推進する。」(Ⅱ.1.(2))と明記されたことを受け、全都道府県において資本金1000万円以下の発注者に対しても重点的に立入調査を実施した。
4 労務費転嫁指針に基づく労務費転嫁円滑化の積極的な取組に関する調査
前記1の書面調査の結果を踏まえ、労務費転嫁指針を認知しており、かつ、労務費転嫁指針に沿った取組を行っていると回答した発注者及び受注者のうち、92名に対し、労務費転嫁円滑化の取組状況を確認し、他の事業者の参考となる取組事例を聴取した(後記第3の2(7)参照)。5 令和6年度に事業者名公表の対象となった3名に対するフォローアップ調査
令和7年5月以降、令和6年度において事業者名公表の対象となった3名(以下「事業者名公表3名」という。)から価格転嫁円滑化に関する取組状況等を聴取するほか、事業者名公表3名の受注者から価格転嫁の状況を聴取するなどした。第3 令和7年度調査の結果
1 各業種や業態別のサプライチェーンにおけるコスト全般の価格転嫁等の状況
通常調査においては、各業種や業態別のサプライチェーンにおける、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト全般の価格転嫁の状況等の把握のほか、労務費転嫁指針のフォローアップに係る質問を設け、回答を分析した。(1) 受注者が価格転嫁を要請した割合
受注者の立場で、商品・サービスについて価格転嫁を要請した割合(以下「要請率」という。)が7割以上と回答した割合は、令和6年度調査では53.6%、令和7年度調査では53.9%と、ほとんど変動しなかった(業種ごとの割合は別紙2参照)。
要請率が高い業種は、鉄鋼業(73.7%)、窯業・土石製品製造業(69.4%)、輸送用機械器具製造業(69.0%)、建築材料、鉱物・金属材料等卸売業(68.9%)及び非鉄金属製造業(67.0%)であった。
一方、要請率が低い業種は、放送業(17.1%)、不動産取引業(21.9%)、不動産賃貸業・管理業(23.1%)、インターネット附随サービス業(23.3%)、通信業(28.0%)及び広告業(29.9%)であった。このうち、放送業、不動産取引業、不動産賃貸業・管理業、インターネット附随サービス業及び広告業は令和6年度調査より上昇しているものの、依然として低水準にある。また、通信業は令和6年度調査よりも下降している。
なお、要請の対象は、コストが上昇した商品・サービスの全てではなく、受注者が発注者に受け入れられると考えるものに限定されている可能性があることに留意する必要がある。
(2) 受注者が価格転嫁を要請した場合の取引価格引上げの可否の状況
受注者の立場で、価格転嫁を要請した商品・サービスの数に対して取引価格が引き上げられた商品・サービスの数の割合(以下「引上げ品目率」という。)が7割以上と回答した割合は、令和6年度調査では80.7%、令和7年度調査では82.5%であり、1.8ポイントと緩やかに上昇した(業種ごとの割合は別紙3参照)。
引上げ品目率が高い業種は、食料品製造業(92.6%)、飲食料品卸売業(88.7%)、化学工業(88.5%)及び建築材料、鉱物・金属材料等卸売業(88.3%)であった。
一方、引上げ品目率が低い業種は、放送業(57.1%)、不動産取引業(62.7%)、映像・音声・文字情報制作業(71.0%)、道路貨物運送業(72.0%)、広告業(72.7%)及び不動産賃貸業・管理業(73.1%)であった。このうち、放送業、映像・音声・文字情報制作業及び道路貨物運送業は令和6年度調査よりも上昇しているものの、依然として低水準にある。また不動産取引業、広告業及び不動産賃貸業・管理業は令和6年度調査よりも下降している。
次の図は、通常調査において引上げ品目率が低かった業種のうち、独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書の送付件数が多かった、道路貨物運送業、映像・音声・文字情報制作業、不動産賃貸業・管理業及び回答者数に占める注意喚起文書送付件数の割合が高い放送業について、これらの業種を軸としたサプライチェーンにおいて、どの業種との関係で価格転嫁が円滑に行われていない可能性があるかを示したものである(中段(赤枠)の業種の事業者が、受注者の立場で発注者に価格転嫁できていないなどと回答した業種を、上段(青枠)に回答の多い順に記載し、中段(赤枠)の業種の事業者が、発注者の立場で受注者からの価格転嫁を受け入れていないなどと回答した業種を、下段(黄枠)に回答の多い順に記載)。
道路貨物運送業、映像・音声・文字情報制作業、不動産賃貸業・管理業及び放送業のいずれについても、受注者の立場で自らと同じ業種の発注者に価格転嫁できていないと回答し、発注者の立場で自らと同じ業種の受注者からの価格転嫁を受け入れていないと回答している(下図の下線参照)ことから、これらの業種のサプライチェーンにおいては多重委託構造が存在し、かつ、価格転嫁が円滑に進んでいないことがうかがわれる。
(3) サプライチェーンの各段階における取引価格引上げの可否の状況
製造業、流通業(卸売業・小売業)及びサービス業の各サプライチェーンの各段階の事業者が、受注者の立場で引上げ品目率が7割以上と回答した割合は次の図のとおりである。

令和7年度調査では、令和6年度調査と比較して、製造業、流通業では各サプライチェーンの各取引段階で、引上げ品目率が7割以上の受注者の割合が概ね緩やかに上昇した。
一方で、サービス業の一次受注者と二次受注者、二次受注者と三次受注者との関係では、下降傾向となっている。
サービス業の一次受注者と二次受注者、二次受注者と三次受注者との関係については、通常調査等において
・ 一次受注者からの発注については、値上げを受け入れてもらえたが、二次、三次受注者からの発注となると、まだまだ受け入れてもらえていないことが多い
・ 発注者から価格協議の要請をしてほしいが、これまで行われたことはなく、長年に渡って価格が据え置かれている
・ 施主が値上げを認めてもらわないと、当社まで価格上昇分が回ってこず、取引先受注者に対しても価格転嫁をすることができない
などといった意見が寄せられており、サービス業の二次受注者がその先の取引先受注者からの価格転嫁を受け入れるための原資となる、サービス業の一次受注者から二次受注者への価格転嫁が十分に進んでいない状況がうかがわれる。
なお、引上げ品目率は、受注者が価格転嫁を要請した場合を対象としており、要請の対象は、コストが上昇した商品・サービスの全てではなく、受注者が発注者に受け入れられると考えるものに限定されている可能性があることに留意する必要がある。
(4) 要請受諾率(要請額に対する引上げ率)
要請受諾率の平均値は次の表のとおりの結果であった。令和6年度調査に続き、各コストの要請受諾率が上昇しているものの、7割程度でとどまっている。
なお、要請受諾率は、受注者が価格転嫁を要請した場合に、要請した額に対してどの程度取引価格が引き上げられたかを示すものであるが、その要請額は、実際のコストの上昇分の満額ではなく、上昇分のうち受注者が発注者に受け入れられると考える額に抑えられている可能性があることに留意する必要がある(以下同じ)。
製造業、流通業(卸売業・小売業)及びサービス業の各サプライチェーンの各段階のコスト種別の要請受諾率は、次の表のとおりである。
サプライチェーン全体としては、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と段階を遡るほど、要請受諾率は低くなり、価格転嫁が十分に進んでいないという結果となった。
製造業、流通業(卸売業・小売業)及びサービス業別に見ると、サービス業において、製造業、流通業と比べて、各階層、各コスト種別の全てにおいて下回っている。



(5) 独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書の送付
ア 注意喚起文書の送付件数
通常調査及び独占禁止法Q&Aに係る注意喚起対象者に対するフォローアップ調査並びに立入調査の結果、独占禁止法Q&Aに該当する行為が認められた発注者4,334名(通常調査3,134名、フォローアップ調査1,200名)に対し、優越的地位の濫用の未然防止の観点から注意喚起文書を送付した(業種ごとの送付件数は別紙1-1、都道府県ごとの送付件数は別紙1-2参照)。
令和4年度調査、令和5年度調査、令和6年度調査及び令和7年度調査における、回答者数に占める注意喚起文書送付件数の割合は次の表のとおり減少傾向にあり、発注者による独占禁止法Q&Aに該当する行為がなされる状況について改善がみられた。
通常調査において注意喚起文書の送付件数が多い業種は、情報サービス業、協同組合、機械器具卸売業、建築材料、鉱物・金属材料等卸売業、生産用機械器具製造業及び化学工業であった。
なお、独占禁止法Q&A及び労務費転嫁指針の普及・啓発活動の一環として、令和7年度調査を実施する前に、令和5年度調査と令和6年度調査の2年度連続で注意喚起文書送付の対象となった発注者2,357名に対し、個別に、独占禁止法Q&Aの考え方及び労務費転嫁指針の内容を説明し、独占禁止法Q&Aの理解促進と労務費転嫁指針の周知等を図った。その結果、令和7年度調査において、3年度連続で受注者と協議を経ずに取引価格を据え置いていたと回答し注意喚起文書送付の対象となった発注者は44名にとどまり、発注者に対する個別の説明に相当程度の効果が認められた。
イ 独占禁止法Q&Aについての発注者の認識
通常調査において、価格転嫁の必要性について明示的に協議することなく取引価格を据え置いていたことについて、協議をしなかった理由の回答を求めたところ、注意喚起文書送付の対象となった発注者からは、「受注者から取引価格の引上げの要請がなかったため」との回答が、令和6年度調査に引き続き多く選択される結果となった。
この結果に関して、発注者からは、
・ 受注者からの見積りには、協議するまでもなく、当然にコスト上昇分が含まれていると思っていることから、値上げの相談がなければ協議を行っていない
・ コスト上昇分について価格転嫁を要請するよう働き掛けていることから、要請がなければ、協議の場を設ける必要はないと考えている
・ コスト上昇分について価格転嫁を要請するよう働き掛けるまではしていないものの、受注者から協議を申し入れてくれれば、協議を行うつもりである
などの意見がみられ、発注者から進んで価格協議の呼び掛けはしないが、受注者から価格転嫁の要請があれば必ず協議に応じるとする発注者が存在しているほか、発注者が価格協議を呼び掛けたことで、受注者からの要請がなければ、価格協議の場を設けなくてもよいとする発注者が存在した。
また、自身が発注者である取引において価格転嫁をするという意識を持っていなかったり、取引価格の引上げを受け入れる原資がないとしたりする発注者も存在した。
(6) 小括
令和7年度調査では、回答者数に占める注意喚起文書送付件数の割合が、令和6年度調査と比較して、通常調査では3.5ポイント、注意喚起文書送付の対象者に対するフォローアップ調査では11.1ポイント減少し、価格転嫁円滑化の取組が一定程度引き続き進んでいると考えられる結果となった。
他方で、サプライチェーン全体で見た場合、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と取引段階を遡るほど、労務費の要請受諾率が低くなる傾向にある。特に、サービス業の一次受注者と二次受注者、二次受注者と三次受注者との関係では、下降している。
こうした要因として、①自身が受注者である取引において十分価格転嫁をされていないこと、②自身が発注者である取引において価格転嫁をするという意識に欠けていたこと、③自身から積極的に協議を働きかける意識に欠けていたことなどが考えられる。
2 労務費転嫁指針のフォローアップ結果
通常調査においては、労務費転嫁指針のフォローアップとして、発注者・受注者の双方の立場で、労務費転嫁指針の認知度、労務費の転嫁状況、労務費転嫁指針に沿った取組の実施状況等についての設問を設け、回答を分析した。
(1) 労務費転嫁指針の認知度
労務費転嫁指針の認知度については、「知っていた」と回答した者の割合は、令和6年度調査では48.8%、令和7年度調査では59.6%と、10.8ポイント上昇した。
都道府県別では、全ての都道府県において「知っていた」と回答した者が50%を超えた(別紙4-1参照)。
業種別では、大部分の業種において「知っていた」と回答した者が50%を超えており、その中でも放送業(80.5%)、輸送用機械器具製造業(73.2%)及びビルメンテナンス業・警備業(71.4%)は70%を超えた。他方で、酪農業・養鶏業(農業)(42.7%)、不動産取引業(43.4%)、飲食料品小売業(44.1%)、自動車整備業(45.1%)、飲食料品卸売業(49.3%)及び家具・装備品製造業(49.8%)の6業種については、50%を下回る結果となった(別紙4-2参照)。
(2) 労務費の上昇を理由として取引価格の引上げが行われた割合
労務費転嫁指針を知っていた者のうち、受注者の立場で、「労務費の上昇分として要請した額について、取引価格が引き上げられた」と回答した者の割合は、令和6年度調査で51.8%、令和7年度調査で61.1%と、9.3ポイント上昇した。他方で、労務費転嫁指針を知らなかった者の同割合は、令和6年度調査で38.9%、令和7年度調査で44.6%であり、同指針を知っていた者の同割合との差は、令和6年度調査で12.9ポイント、令和7年度調査で16.5ポイントとなり、より拡大した(別紙5-1参照)。
また、労務費重点21業種別でも、その全てにおいて、労務費転嫁指針を知っていた者の方が知らなかった者よりも取引価格が引き上げられた割合が高い結果となった(別紙5-2参照)。
(3) 労務費に係る価格協議の状況
発注者の立場で、受注者からの労務費上昇を理由とした取引価格の引上げの要請に応じて、全ての商品・サービスについて価格協議をした割合は60.9%(令和6年度調査比1.1ポイント上昇)であり、一部の商品・サービスについて価格協議をした場合までを含めると69.7%(令和6年度調査比1.7ポイント上昇)という結果となり、取引価格の引上げの要請があった商品・サービスの多くについて価格協議が行われていると考えられる。
しかし、後記(5)ア(イ)のとおり、全ての受注者と定期的な協議の場を設けた発注者の割合は27.1%(令和6年度調査比3.4ポイント上昇)であり、昨年度に比べて微増したものの依然として少ないことから、多くの発注者は、受注者から協議を要請されれば応じるが、発注者自ら協議を呼び掛けることには依然として消極的であることが分かる。

(4) 労務費の要請受諾率
労務費の要請受諾率は、前記1(4)のとおり、67.4%と令和6年度調査より5.0ポイント上昇しており、令和6年度調査に続き、労務費の価格転嫁がより一定程度進展したと考えられる。
また、労務費の要請受諾率をサプライチェーンの段階別にみた場合、令和6年度調査と同じく、令和7年度調査においても、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と取引段階を遡るほど、労務費の要請受諾率が低くなる傾向は変わっていないことが認められた。このため、サプライチェーン全体として、価格転嫁が一定程度進んではいるものの、道半ばであることがうかがわれる。
(5) 労務費転嫁指針に沿った取組の実施状況
労務費転嫁指針には、労務費上昇分の転嫁に係る価格交渉において、発注者として採るべき行動/求められる行動が6点(以下「発注者としての行動指針」という。)、受注者として採るべき行動/求められる行動が4点(以下「受注者としての行動指針」という。)及び発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動が2点(以下「発注者・受注者共通の行動指針」という。)の計12点が記載されているところ、発注者及び受注者の各行動指針の取組状況の回答結果は別紙6のとおりであった。
ア 発注者としての行動指針の取組状況の概要
(ア) 経営トップの関与
発注者としての行動指針(行動①)の「経営トップの関与」については、74.3%(令和6年度調査比4.7ポイント上昇)の発注者が労務費の価格転嫁を受け入れる取組方針を経営トップまで上げて決定しているものの、同方針を形に残る方法で社内及び社外(全ての受注者)に示した割合は38.0%(令和6年度調査比2.3ポイント上昇)と低く、依然として周知が十分になされていない結果となった。
(イ) 発注者側からの定期的な協議の実施
発注者としての行動指針(行動②)の「発注者側からの定期的な協議の実施」については、全ての受注者と定期的な協議の場を設けた発注者の割合は少なく(27.1%、令和6年度調査比3.4ポイント上昇)、一部の受注者とのみ定期的な協議の場を設けた又は定期的な協議の場を設けなかった発注者が大部分(72.9%、令和6年度調査比3.4ポイント下降)を占める結果となった。
(ウ) 説明・資料を求める場合は公表資料とすること等
発注者としての行動指針(行動③)の「説明・資料を求める場合は公表資料とすること」については、公表資料を用いたものを求めたなどと回答した発注者の割合が97.7%、「受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠のあるものとして尊重すること」については、満額受け入れない場合は、全て(必ず)その根拠や合理的な理由を説明したなどと回答した発注者の割合が91.0%(※)、発注者としての行動指針(行動④)の「サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと」については、直接の取引先である受注者の立場を常に意識して要請額の妥当性の判断に反映させたと回答した発注者の割合が80.9%(令和6年度調査比10.0ポイント上昇)、発注者としての行動指針(行動⑤)の「要請があれば協議のテーブルにつくこと」については、要請があったものについては全て(必ず)協議を行ったなどと回答した発注者の割合が86.7%(令和6年度調査比1.0ポイント下降)、発注者としての行動指針(行動⑥)の「必要に応じて考え方を提案すること」については、要請額の算定の方法の例をアドバイスするなど労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案したなどと回答した発注者の割合が66.7%(令和6年度調査比2.0ポイント上昇)と、その大部分について、発注者としての行動指針に沿った行動を採っていることがうかがわれる結果となった。
※ 令和6年度調査から選択肢に変更があるため、単純に比較することはできない。
イ 受注者としての行動指針の取組状況の概要
受注者としての行動指針(行動①)の「相談窓口の活用」については、受注者としての行動指針に沿った行動をしたと回答した受注者の割合は低い(3.0%、令和6年度調査比0.5ポイント下降)結果となった。他方、受注者としての行動指針(行動②)の「根拠とする資料」、受注者としての行動指針(行動③)の「値上げ要請のタイミング」及び受注者としての行動指針(行動④)の「発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示」については、受注者としての行動指針に沿った行動を採ったと回答した受注者の割合がいずれもおよそ80%を占める結果となった。
ウ 発注者・受注者共通の行動指針の取組状況の概要
発注者・受注者共通の行動指針(行動①)の「定期的なコミュニケーション」については、全ての受注者と定期的なコミュニケーションをとったと回答した発注者の割合が49.2%(令和6年度調査比0.1ポイント下降)、全ての発注者と定期的なコミュニケーションをとったと回答した受注者の割合が52.3%(※)とほぼ横ばいとなった。また、発注者・受注者共通の行動指針(行動②)の「交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管」については、交渉記録を作成・保管したと回答した発注者の割合が27.2%(令和6年度調査比1.2ポイント上昇)、受注者の割合は27.6%(※)と低調な結果となった。
※ 令和6年度調査から選択肢に変更があるため、単純に比較することはできない。
なお、前記アからウまでの各行動を採ったと回答した者の労務費転嫁指針の認知・不知別の割合をみると、全ての設問において、労務費転嫁指針を知っていた者の割合の方が知らなかった者の割合よりも高い結果となった。
(6) 労務費転嫁指針に係る注意喚起文書の送付
通常調査及び労務費転嫁指針に係る注意喚起対象者に対するフォローアップ調査並びに立入調査の結果、取り組まないことが独占禁止法及び取適法(注6)違反の要件に直接結び付く発注者としての行動指針②(発注者からの定期的な協議の実施)、③(説明・資料を求める場合は公表資料とし、満額受け入れない場合にはその根拠や合理的な理由を説明すること)又は⑤(要請があれば協議のテーブルにつくこと)のうち、いずれか一つでも行動指針に沿った行動を採らなかった発注者9,747名(通常調査8,415名、フォローアップ調査1,332名)に対し、優越的地位の濫用の未然防止及び労務費の転嫁円滑化の観点から、注意喚起文書を送付した(業種ごとの送付件数は別紙1-1、都道府県ごとの送付件数は別紙1-2参照)。(注7)
通常調査において注意喚起文書の送付件数が多い業種は、建築材料、鉱物・金属材料等卸売業、飲食料品卸売業、食料品製造業、情報サービス業及び協同組合であった。
(注6) 下請代金支払遅延等防止法(下請法)は本年の改正により、法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)となる(令和8年1月1日施行)(後記第4の5参照)。
(注7) 令和6年度調査では労務費転嫁指針を知っていたものの、発注者としての行動指針及び発注者・受注者共通の行動指針のうち、一つでも行動指針に沿った行動を採らなかった発注者に対し、注意喚起文書を送付した。
(7) 労務費転嫁指針に基づく労務費転嫁円滑化の積極的な取組の概要
前記第2の4のとおり、書面調査の結果を踏まえ、労務費転嫁指針を認知しており、かつ、労務費転嫁指針に沿った取組を行っていると回答した発注者及び受注者92名に対し、労務費転嫁円滑化の取組を聴取したところ、
・ 発注者においては、①受注者に対して労務費転嫁の方針に係る社長名の通知文書を送付し、当該文書をホームページに掲載した、②労務費転嫁の要請の有無を確認する文書を定期的に受注者に対して送付して協議の実施を呼び掛け、連絡が無い受注者に対しては状況確認を行った、③直接の取引先である受注者の労務費の引上げ分の妥当性を判断するに当たっては、当該受注者の先の取引先の労務費の引上げ分も考慮した
・ 受注者においては、①労務費上昇分の根拠資料として最低賃金の上昇率を文書で提示し交渉した、②労務費等の上昇を踏まえて、当社が必要と判断したタイミングで、社長が表敬訪問を兼ねて発注者のもとに出向き、運賃引上げの要請を行っている
といった取組事例が複数みられた(取組事例の具体的内容は別紙7参照)。
(8) 小括
令和7年度調査では、労務費転嫁指針の公表から約1年半が経過した時点における労務費転嫁指針の認知度は約60%であり、労務費転嫁指針の認知は一定程度進んだ。そして、労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを要請した場合に取引価格が引き上げられた受注者の割合は、労務費転嫁指針を知っていた者の方が知らなかった者よりも約17ポイント高い結果となった。
また、協議を実施した場合には、発注者の大部分が発注者としての行動指針(行動③から⑥)に沿った行動を採っていること、前記(5)イのとおり、受注者の大部分が受注者としての行動指針(行動②から④)に沿った行動を採っていること、前記(7)のとおり、労務費転嫁円滑化の積極的な取組を行っている発注者・受注者も存在することから、発注者・受注者の双方が労務費転嫁指針を積極的に活用することで、昨年度よりも労務費の転嫁がある程度受け入れられやすい状況となっていることがうかがわれる。
他方で、発注者が全ての受注者と定期的なコミュニケーションをとった(発注者・受注者共通の行動①)と回答した発注者の割合が過半数を下回っており、そして、全ての受注者と定期的な協議を実施した発注者(行動②)の割合は依然として少なく、必ずしも、全般的に労務費転嫁指針に沿った行動が採られているとまではいえない。
労務費の要請受諾率は67.4%と令和6年度調査よりも5.0ポイント上昇しており、労務費の価格転嫁がより一定程度進展したと考えられるものの、サプライチェーン別でみてみると、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と取引段階を遡るほど、労務費の要請受諾率が低くなる傾向は変わっていないことが認められた。このため、サプライチェーン全体として価格転嫁が一定程度は進んでいるものの、道半ばであることがうかがわれる。
3 価格転嫁の取組状況に基づく独占禁止法上の問題につながるおそれのある事例
前記第2の3のとおり、書面調査の結果を踏まえ、都道府県ごとに、価格転嫁円滑化の取組状況を聴取したところ、コスト上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格交渉の場において協議することなく、取引価格を据え置いていたなど独占禁止法上の問題につながるおそれのある事例がみられた。(取組事例の具体的内容は別紙8参照)。
発注者がそうした行為を行った理由として
・ 受注者からの見積りには、協議するまでもなく、当然にコスト上昇分が含まれていると思っていることから、値上げの相談がなければ協議を行わないこととしていたこと
・ 受注者から協議を申し入れてくれれば、協議を行うつもりであったが、受注者が協議を申入れてこなかったこと
・ 自身が発注者である取引において価格転嫁をするという意識を持っていなかったこと
・ 取引価格の引上げを受け入れる原資が無いこと
などが挙げられた。
4 事業者名公表3名に対するフォローアップ調査の結果
(1) 事業者名公表3名の価格転嫁円滑化の取組状況事業者名公表3名は、進捗の程度に差があるものの、いずれも、フォローアップ調査の期間中における価格転嫁円滑化の取組により、全体としては価格転嫁円滑化を相当程度進めており、令和8年以降も同様の取組を継続して実施するとしている。
事業者名公表3名はいずれも、事業者名公表に係る個別調査や事業者名公表を契機として、令和7年1月頃以降、社内体制を整備して受注者に価格転嫁円滑化の取組方針(経営トップの了承の下で策定又は改定したもの)を周知し、文書、メール、面談、説明会等の方法により、価格転嫁の要望があれば協議に応じる旨を呼び掛けていた。
価格協議の呼び掛けに応じた受注者との協議については、既にほとんど全ての受注者との協議を終えた事業者、価格協議を実施中である事業者など進捗状況はまちまちであるものの、遅くとも令和7年度内に事業者名公表3名のほとんど全ての受注者との協議を終える見込みである。
また、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことがないように取り組み、価格協議の結果については、事業者名公表3名の大部分は、取引価格を据え置いた事例や引き下げた事例はほとんど全てにおいてみられず、価格転嫁の要請額に対して満額又は一部引上げを受け入れていた。受注者から価格転嫁の要請があったものの、取引価格を据え置く場合は、据置きの理由を記録の残る方法で受注者に回答することをルール化していた。
このほか、担当者と受注者との価格協議の内容を統一フォーマットにより記録・保管して、取組の進捗状況を一元的に行い、価格協議の記録を受注者と共有して、協議の内容を後から確認できるようにしていた。
事業者名公表3名それぞれの具体的な取組内容は別紙9のとおりである。
(2) 事業者名公表3名の受注者からの声
事業者名公表3名の受注者からは、
・ 発注者から価格転嫁に取り組む旨の連絡があり、価格協議が開始された
・ これまで取引価格が据え置かれていたが、今年度価格協議の呼び掛けがあり、価格転嫁を要望したところ満額認められた
・ 労務費等の上昇を理由に価格協議を申し入れ、春季労使交渉の妥結額や最低賃金の公表資料等をエビデンスとして提出するなどして、要望どおりの価格転嫁が受け入れられた
・ 発注者が受注者の立場において発注者との間で価格協議が妥結できていないことを理由として、価格協議を引き延ばされることは無かった
など、価格転嫁が受け入れられたなどの声が寄せられた。
その一方で、
・ 価格協議を申し出ても、返答がなかったり交渉に応じてくれないなど協議が引き延ばされたり、取引価格が据え置かれたりする
・ 発注者から価格協議を呼び掛けられたことが無い
・ 取引を中止されたり、直ぐに他社に相見積りを取られ他社に切り替えられたりするおそれがあり、価格協議を持ち掛けられない
・ 現場担当者との間でほとんどコミュニケーションが無い
など、価格転嫁が円滑に進んでいないとの指摘も寄せられている。
また、
・ 近年の価格高騰に伴って、1年単位での価格協議では追い付かないため、半年単位で価格協議ができる環境ができると有り難い
といったコスト上昇に伴い適切なタイミングで協議の場を設けることを求める声もあった。
(3) 小括
前記(1)及び(2)の前段によれば、事業者名公表3名は、フォローアップ調査の期間中における価格転嫁円滑化の取組により、全体としては価格転嫁円滑化を相当程度進めており、相当数の受注者との間では、協議を経ずに取引価格を据え置いている状況は解消していると認められる。
一方で、前記(2)の後段のとおり、価格転嫁が円滑に進んでいないとの指摘も寄せられている。これらの指摘に係る事態は、事業者名公表3名が経営トップの了承の下で策定又は改定した価格転嫁円滑化の取組方針の実施が社内に徹底されていれば発生しないはずのものであることから、事業者名公表3名のうちかかる指摘を受けた事業者にあっては、経営トップから価格協議の担当部門までの事業者全体としての当該取組方針の徹底や、本社等による必要に応じた価格協議の担当部門における取組の進捗状況の把握・管理の実施(ガバナンスの改善)が求められる。
また、「取引を中止されたり、すぐに他社に相見積りを取られ他社に切り替えられたりするおそれがあり、価格協議を持ち掛けられない」、「現場担当者との間でほとんどコミュニケーションがない」等の指摘について、取引上の立場が弱い受注者が発注者に対して価格協議を持ちかけられない状況は適切でなく、日頃から積極的にコミュニケーションをとり、受注者・発注者の双方が何でも相談をしやすい関係を構築することが求められる。
さらに、「価格協議を申し出ても、返答がなかったり交渉に応じてくれないなど協議が引き延ばされたり、取引価格が据え置かれたりする」の指摘について、明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は取適法の買いたたきとして問題となるおそれがあることに留意する必要がある。
5 事業者名の公表に係る方針に基づく個別調査の結果
令和5年11月8日に公表した「価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名公表に係る方針について」(以下「事業者名の公表に係る方針」という。)(注8) に基づき、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された事業者について、個別調査を実施したところ、事業者名を公表する事業者は認められなかった。(注8) https://www.jftc.go.jp/partnership_package/231108hoshin.pdf
第4 今後の取組
公正取引委員会は、令和7年度調査の結果等を踏まえ、次の取組を行っていくこととする。1 労務費転嫁指針及び独占禁止法Q&Aの普及・啓発
労務費転嫁指針の公表後、内閣官房が事業所管省庁に対し、所管業界団体へ労務費転嫁指針の徹底と取組状況のフォローアップを促すよう要請し、公正取引委員会においても、全国で企業向けの説明会を実施し、都道府県及び各種団体(商工会議所、商工会等)と連携して労務費転嫁指針の周知に努めてきたところ、令和7年度調査の結果によれば、労務費転嫁指針の公表から約1年半が経過した時点での認知度は約60%であった。また、労務費の要請受諾率は令和6年度よりも上昇しているものの、サプライチェーンの段階を遡るごとに低下している実態があり、更に労務費転嫁指針の認知度を高めるために引き続き積極的な周知が必要と考えられる。今後とも、より一層労務費の転嫁円滑化が促進するよう、事業所管省庁とも連携し、地方版政労使会議の機会も活用しながら、労務費転嫁指針の更なる周知を行っていく。あわせて、労務費以外のコストの転嫁円滑化も促進するよう、独占禁止法Q&Aの考え方についても更なる周知を行っていく。
2 独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書送付の対象となった発注者及び事業者名公表3名への対応
前記第3の1(5)アのなお書きのとおり、令和5年度調査と令和6年度調査の2年度連続で注意喚起文書送付の対象となった発注者2,357名に対し、独占禁止法Q&Aの考え方及び労務費転嫁指針の内容を個別に説明したところ、同文書送付件数の減少について相当程度の効果がみられた。よって、令和6年度調査と同様、令和6年度調査において注意喚起対象となった13,929名に対するフォローアップ調査の結果、令和6年度に続いて独占禁止法Q&A又は労務費転嫁指針に係る注意喚起文書送付の対象となった発注者1,854名について、個別に独占禁止法Q&Aの考え方や労務費転嫁指針の内容を説明し、改めて注意を喚起することとする。また、令和5年度調査から3年度連続で受注者との協議を経ずに取引価格を据え置いていたと回答し、注意喚起文書送付の対象となった発注者44名については、追加で立入調査を実施し、独占禁止法Q&Aに該当する行為を繰り返し行った理由等について経営トップに確認を求め、その内容を聴取することとする。
また、令和7年度調査において、独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書送付の対象となった4,334名及び労務費転嫁指針に係る注意喚起文書送付の対象となった9,747名に対しては、令和8年度に実施する価格転嫁円滑化に関する調査(後記3参照)においてフォローアップ調査を実施する。
このほか、事業者名公表3名に対しては、各事業者における価格転嫁円滑化の取組に資するよう、フォローアップ調査の結果等を個別に説明する。
3 価格転嫁円滑化及び労務費転嫁指針に関する調査の継続実施
令和7年度調査において、独占禁止法Q&Aに該当する行為をしている発注者がなおみられたこと、労務費転嫁指針の認知は進んだものの、労務費転嫁指針に沿った行動を採っていない発注者が相当数みられたことなどから、令和8年度においても、労務費転嫁指針のフォローアップや労務費の上昇分の価格転嫁の状況等について重点的に調査を実施するなど、事業者間における価格転嫁円滑化に関する調査を継続して実施する。そして、事業者名の公表に係る方針に基づき、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された場合は、その事業者名を公表する方針で、個別調査を実施する。
4 優越的地位の濫用行為等に対する厳正な法執行
労務費重点21業種や、前記第3の1(2)の、多重委託構造が存在し、かつ、労務費を含む価格転嫁が円滑に進んでいないことがうかがわれる業種について、今後とも、積極的に端緒情報の収集を行うとともに、違反被疑事件の審査等を行い、独占禁止法や取適法上問題となる事案については、対象となる事業者に対し、事業者名の公表を伴う命令、警告、勧告など、これまで以上に厳正な法執行を行う。5 取適法施行・周知等
新たな商慣習として、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法について、コスト上昇局面における取引価格の据置きや荷主・物流事業者間の取引への対応の在り方、事業所管省庁と連携した執行強化のための当該省庁の指導権限の追加等に関し、改正を検討した結果、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が令和7年5月16日に成立、令和8年1月1日から施行される(改正により、法律名の「下請代金支払遅延等防止法」は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)となる。)。取適法については、全国47都道府県における事業者向け説明会の開催、関係省庁と連携した業種別説明会の開催、中小事業者団体向けの広報・広聴企画の開催、動画やテキストを含む各種媒体での解説等を行っており、今後とも広く周知に努めていく。
関連ファイル
(印刷用)(令和7年12月15日)「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(本文)(印刷用)(令和7年12月15日)「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(別紙)
(印刷用)(令和7年12月15日)「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(概要)
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