平成21年3月18日
公正取引委員会
経済取引における公正かつ自由な競争を一層促進させるためには,独占禁止法の厳正な執行を行うとともに,企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり,これに関連した企業の取組を促していく必要があると考えられる。
公正取引委員会では,企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの向上の支援策として,これまで,平成17年度においては東証一部上場企業,平成18年度においては建設業者,平成19年度においては我が国で事業を行っている外資系企業を対象にアンケート調査を実施し,それぞれ,調査結果を取りまとめ,公表している。
今年度においては,平成18年1月の独占禁止法改正法(以下「改正法」という。)の施行から約3年を経過し,課徴金減免制度が実際に利用されていること等を踏まえ,改正法施行以降,企業におけるコンプライアンスの取組に変化が生じているものと考えられることから,平成18年1月に実施した東証一部上場企業に対する調査(以下「平成18年調査」という。)のフォローアップを行い,改正法施行以降の企業におけるコンプライアンスへの取組状況の変化等について検証を行うこととした(平成20年10月,アンケート調査を実施。)。
また,独占禁止法の規定に基づく法的措置を受けた上場企業による投資家に対する当該事実の開示の有無によって,上場企業におけるコンプライアンスの取組姿勢を確認できるものと考えられることから,独占禁止法の規定に基づく法的措置を受けた上場企業における有価証券報告書及び事業報告の記載状況について調査を行い,平成18年1月に実施した同旨の調査と対比した。
1 調査の概要
(1) アンケート調査
ア 調査対象
東証一部上場企業(平成20年9月末日現在)1,738社
回答数:1,041社(回答率:59.9%)
イ 調査項目
平成18年調査と同様の項目である「コンプライアンスの整備及び組織体制状況」,「独占禁止法等(注)関係のコンプライアンスの取組」,「独占禁止法等関係のコンプライアンスの実効性確保」及び「海外の事業所等における取組等」について調査を行った。
また,「独占禁止法に関する社内監査の実施」について,平成18年調査から質問内容をより詳細にするとともに,「独占禁止法等違反に関する自主申告窓口の設置」及び「従業員が業界団体の会合に参加する際の留意事項等」に関する質問をそれぞれ新たに設けた。
(注) 「独占禁止法等」とは,独占禁止法,下請法及び景品表示法を指す。以下,本文において使用する「独占禁止法等」については,すべて同じ取扱いとする。
(2) 有価証券報告書及び事業報告の調査
平成17年度から平成19年度において独占禁止法違反により法的措置を受けた企業のうち,有価証券報告書の提出義務のある上場企業延べ222社を対象に,有価証券報告書及び事業報告(平成18年5月1日の会社法施行以前については,営業報告書を指す。以下同じ。)の記載事項について調査を行った。
2 調査結果の概要及び考え方
(1) コンプライアンスの整備及び組織体制状況
○ コンプライアンス・マニュアルの制定,コンプライアンス担当役員の設置等のコンプライアンス体制の整備については,すべての項目において,平成18年調査から整備の割合が増加しており,約3年間で上場企業におけるコンプライアンス体制の整備が進んでいる。
コンプライアンス・マニュアルの制定 | コンプライアンス担当役員の設置 | コンプライアンス専任部署の設置 | コンプライアンス委員会等の設置 | |
---|---|---|---|---|
平成18年調査 | 86.0% | 80.1% | 60.9% | 71.7% |
今年度調査 | 97.6% | 90.5% | 69.1% | 84.4% |
(2) 独占禁止法等関係のコンプライアンスの取組
ア 独占禁止法等違反に対する危機意識と独占禁止法等関係のコンプライアンスの体制整備
○ 自社における独占禁止法等違反に対する危機感を持っている企業は72%であり,平成18年調査の51%から大きく割合が増加している。また,独占禁止法等遵守の規程の策定,独占禁止法等に関する法令遵守の研修の実施,独占禁止法等に関する相談・通報窓口(以下「ヘルプライン等」という。)の設置についても,すべての項目において,平成18年調査から策定・実施等の割合が増加している。
○ 自社において独占禁止法等の違反が起こる可能性についての認識と独占禁止法等関係のコンプライアンスの体制整備の状況を併せみると,独占禁止法等遵守の規程,独占禁止法等に関する研修の実施,独占禁止法等に関するヘルプライン等の設置のすべての項目について,起こり得る問題として危機感を持っていると回答した企業の方が,起こり得ないと思うと回答した企業と比較して,策定・実施等の割合が高く,独占禁止法等違反に対する危機意識を持つことが独占禁止法等関係のコンプライアンスの体制整備につながっているものと考えられる。
起こり得ないと思う | 起こり得るものであり危機感を持っている | よく分からない | |
---|---|---|---|
平成18年度調査 | 41.0% | 51.1% | 7.8% |
今年度調査 | 22.8% | 72.2% | 5.0% |
独占禁止法等遵守の規程の制定 | 独占禁止法等に関する研修の実施 | 独占禁止法等に関するヘルプライン等の設置 | |
---|---|---|---|
平成18年度調査 | 80.8% | 56.3% | 76.5% |
今年度調査 | 85.8% | 76.3% | 96.3% |
独占禁止法等遵守の規程の制定 | 独占禁止法等に関する研修の実施 | 独占禁止法等に関するヘルプライン等の設置 | |
---|---|---|---|
「起こり得ないと思う」と回答した企業 | 73.8% | 59.2% | 90.1% |
「危機感を持っている」と回答した企業 | 88.9% | 82.3% | 98.4% |
「よく分からない」と回答した企業 | 80.4% | 51.0% | 94.1% |
イ 独占禁止法等に関するヘルプライン等の利用状況
○ ヘルプライン等に対する独占禁止法等に関係する相談・通報件数は依然として多くない状況にあり,回答企業の73%が「利用なし」と回答している。
○ この点について,アンケートに回答のあった企業のうち数社に対して実施したヒアリング調査(以下「ヒアリング調査」という。)によれば,「研修等において,ヘルプライン等に関する説明を繰り返し行う。」,「秘密厳守,中立性,非公式性,独立性を確保された相談員(組織内オンブズパーソン)を設置する。」,「通報を行った従業員に対して,調査結果を通知した数ヵ月後に,通報により不利益な扱いを受けていないか等のフォローアップを行う。」等のヘルプライン等をより利用しやすいものとする様々な工夫を行っており,今後も更なる取組を推進することが望まれる。
1件以上 5件未満 |
5件以上 10件未満 |
10件以上 20件未満 |
20件以上 | その他 | 利用なし | |
---|---|---|---|---|---|---|
平成18年度調査 | 14.5% | 1.6% | 1.6% | 1.8% | - | 80.6% |
今年度調査 | 18.0% | 1.2% | 0.5% | 1.0% | 6.6% | 72.7% |
(注)平成18年調査においては,「その他」の項目は設けられていない。
ウ 独占禁止法等違反に関する自主申告窓口の設置状況
○ 従業員が独占禁止法等違反を行った場合,当該違反行為を従業員自らが相談・申告できる制度を定めていない企業は16%である。
⇒ 従業員の中に独占禁止法等違反行為を行った者が存在した場合,企業としては,当該違反行為の事実を早急に把握し,是正に向けた対策を採ることが重要となるところ,違反行為を行った従業員が自ら相談・申告できる窓口を整備するとともに,当該窓口を従業員に対して周知することが望まれる。
○ 自主申告を行った場合,当該従業員に対する社内処分を軽減する等の規程を定めているかについては,「社内処分を軽減する等の規程が定められている」と回答した企業が14%である。また,「規程は定められていないが,実際に処分を検討する中で,社内処分の軽減等の考慮事項の一要素にはなっている。」と回答した企業は63%となっているが,そのうち,その旨が従業員に周知されている企業は14%にとどまっている。
⇒ 自主申告を処分の軽減事由として就業規則等に定めることは,違反の内容,程度等が様々であることから,一律には困難ということはあり得ると考えられるものの,少なくとも入札談合等の課徴金減免制度の適用対象となる独占禁止法違反行為に関していえば,従業員に自主申告を促すことにより,企業自らが社内の隠れた違反行為を早期に把握することから得られるメリットは存在すjjるものと考えられる。そのため,すべての場合において処分が軽減されることはないとしても,処分が軽減されるケースを明示し,その旨を周知する等,従業員が違反行為を自発的に相談・申告することが可能となる仕組を構築することが望ましい。
自主申告用専用の窓口を設置している | ヘルプライン等と同じ窓口を利用できる | 通常の職制ライン内の直属の上司に相談 | 特に定めていない |
---|---|---|---|
2.3% | 75.6% | 6.0% | 16.1% |
社内処分を軽減する等の規程が定められている | 社内処分の軽減等の考慮事項の一要素にはなっている | 社内処分の軽減等の考慮事項とはされない |
---|---|---|
14.1% | 63.4% | 22.5% |
周知されている | 周知されていない |
---|---|
13.6% | 86.4% |
(3) 独占禁止法等関係のコンプライアンスの実効性確保
ア 独占禁止法等違反への対応
○ 自社において独占禁止法等違反行為を発見した場合の対応を決めている企業は73%であり,平成18年調査から割合が増加している。違法行為が見つかった場合の対応をあらかじめ決めておくことは,問題の早期解決,問題の拡大を防ぐために非常に重要であることから,独占禁止法等違反行為を発見した場合の対応を決めてない企業においては,早急に対応を取り決めておく必要がある。
その際,当該対応については,すべての企業において経営トップに報告が行われ,経営トップが当該違反行為について確実に状況を把握しておく必要があり,また,社内の情報伝達及び社内での対策の検討にとどまらず,行政当局への通報等の対策を含めた全体的な対応とすることが望ましい。
対応を求めている | 対応を決めていない | |
---|---|---|
平成18年調査 | 63.0% | 37.0% |
今年度調査 | 73.4% | 90.5% |
最高経営責任者(経営トップ)に報告 | 法務部等の内部の部署が対策を採る | 弁護士事務所等外部も含めた体制で対策を検討する | 行政当局へ通報する | その他 | |
---|---|---|---|---|---|
平成18年調査 | 88.0% | 64.0% | 66.8% | 32.4% | - |
今年度調査 | 87.9% | 68.2% | 64.7% | 32.0% | 10.3% |
(注)平成18年調査においては,「その他」の項目は設けられていない。
イ 業界団体の会合に関する留意事項等
○ 従業員が業界団体の会合に参加する際に,独占禁止法に係るコンプライアンスの観点からの留意事項等を定めている企業は28%にとどまっている。
○ 業界団体の会合については,様々なものが存在するが,過去に業界団体の会合が価格カルテル等の独占禁止法違反行為につながった事例も存在するため,企業においては,従業員の業界団体の会合への参加については,独占禁止法違反の未然防止の観点から留意事項等を定め,従業員に周知する必要がある。
この点について,アンケート調査及びヒアリング調査によれば,「営業担当者については,同業他社の営業担当者が出席する可能性のある会合への参加を原則禁止し,出席する場合には,コンプライアンス部門の承認を得た上で出席。」,「会合において,独占禁止法に抵触する疑いのある話になった場合は,反対の意思を明確に表示した上で退席する。」等の留意事項を定めている企業もあり,このような具体的な留意事項等を定めておくことが望まれる。
留意事項等を定めている | 留意事項等は定めていない |
---|---|
28.2% | 71.8% |
ウ コンプライアンスの取組への経営トップの関与
○ 独占禁止法等のコンプライアンスに対する経営トップの関与の在り方としては,すべての項目において平成18年調査からわずかながらも割合が増加しており,今後も更なる関与が進むことが望まれる。
経営トップ自らが従業員に対し,コンプライアンスの重要性を呼びかけることは,企業のコンプライアンスに対する姿勢を従業員に示すことにより,従業員のコンプライアンスに対する認識を深めさせ,コンプライアンス制度の形骸化を防ぐ上で非常に重要なものであることから,すべての企業の経営トップが行うことが望まれる。
また,前記2(3)アに記載したように,独占禁止法等違反行為が発見された場合には,経営トップに報告が行われ,経営トップが当該違反行為について確実に状況を把握しておく必要がある。
コンプライアンス委員会のトップとなっている | コンプライアンスの重視を呼びかけている | 法令違反が発見された場合の処理はトップ自らが判断している | その他 | |
---|---|---|---|---|
平成18年調査 | 41.4% | 70.9% | 31.7% | 6.6% |
今年度調査 | 49.3% | 73.5% | 35.8% | 5.5% |
(4) 独占禁止法に関する社内監査の実施
ア 社内監査の実施方法等
○ 社内監査の効果を高める方法としては,(1)担当者が保管するパソコンの保存データや担当者が使用する手帳・ノート等までの調査,(2)社内監査の実施に当たって,あらかじめ監査を実施する旨を伝えずに監査を実施すること,(3)監査の第三者性の確保及び専門的知見の活用の観点から弁護士等の社外の者を監査のメンバーに含むことが考えられるところ,これらの監査を実施している企業の割合は低い。
この点について,ヒアリング調査によれば,「従業員のプライバシーへの配慮との関係からパソコンの保存データや手帳等の調査は困難。」,「事前に通知を行あっていないと担当者のスケジュールの都合がつかない,保存資料の用意ができない等,監査が効率的に実施できない。」,「監査部門の第三者性が既に十分確保されており,社外の者を加える必要性がない。」との意見があった。しかしながら,アンケート調査において,前記(1)(2)(3)の方法を用いた監査を行っていない旨回答した企業であっても,具体的な違反行為の存在が推認されるような場合の監査にfおいては,従業員のパソコン及び手帳等まで調査を行い,あらかじめ通知を行わずに調査を実施し,対象となる従業員には社外弁護士がヒアリングを行う等,違反行為をより積極的に把握する方法を採る企業もあった。
⇒ 企業においては,すべての社内監査について,従業員のパソコン及び手帳等までの調査を行ったり,あらかじめ通知を行わずに監査を実施したり,監査に弁護士等の社外の者を加えることは困難な事情があるとは思われるものの,違反行為が推認されるような場合には,その実態をより積極的に把握するための方法を用いた監査を実施できるよう規程等を整備し,必要に応じて,より実効性の高い監査を実施することが望まれる。その場合においては,課徴金減免制度の適用申請,当局の調査等を想定して,収集した資料等の保存・管理等を厳格に行う必要がある。
監査対象の担当部門の責任者に対するアンケート調査 | 監査対象の担当部門の責任者に対するヒアリング調査 | 担当者個人に対するアンケート調査 | 担当者個人に対するヒアリング調査 | 契約に関する書類(契約書・覚書等)の調査 |
---|---|---|---|---|
19.6% | 81.9% | 7.3% | 51.7% | 67.4% |
帳簿類等の会計書類の調査 | 担当者が保管するその他の業務書類の調査 | 担当者が使用するパソコンの保存データの調査 | 担当者が使用する手帳,ノート等の調査 | その他 |
---|---|---|---|---|
49.1% | 32.8% | 7.4% | 3.5% | 6.0% |
あらかじめ伝えている | あらかじめ伝えずに実施 | 両方を実施 |
---|---|---|
77.0% | 8.5% | 14.5% |
含まれている | 含まれていない | 両方を実施 |
---|---|---|
2.4% | 95.3% | 2.3% |
イ 課徴金減免制度の利用
○ 社内監査等で独占禁止法違反行為が見つかった場合に,課徴金減免制度を利用することを考えている企業は43%であり,平成18年調査の23%から大きく割合が増加しているが,一方で,課徴金減免制度を利用するかよく分からないと回答しあた企業が52%と一番割合が高くなっている。また,独占禁止法等違反行為を発見した際の対応を決めている企業においても,課徴金減免制度を利用するか分からないと回答した企業が44%と半数近く存在している。
○ 課徴金減免制度が導入された平成18年1月から平成21年1月までの間に,公正取引委員会が排除措置命令等を行ったカルテル及び入札談合のうち,課徴金減免制度の適用の対象となり得る事例は32件存在するところ,このうち,これまでに同制度の適用を受けた事業者が公表を申し出た事例は,公正取引委員会の調査開始日以後に申請が行われた事例も含めて27件である。また,同制度の適用を受けた旨の公表を申し出た企業のうち上場企業は延べ49社であるところ,内訳は製造業48社,建設業1社であり,製造業を中心として事例の積み重ねが進んでいる。
その一方で,今年度調査において,製造業の48%,建設業の58%の企業が課徴金減免制度を利用するか「よく分からない」と回答しており,この点について,ヒアリング調査によれば「ケース・バイ・ケースで判断する。」,「課徴金減免制度の利用に関する社内制度は定めていないが,実際に事例があった場合は,検討する。」,「現在,社内制度を検討中である。」との回答が多く,課徴金減免制度の利用について態度を決めかねている状況が窺える。したがって,企業,特に製造業及び建設業に属するものは,これまでの課徴金減免制度の適用事例を踏まえ,独占禁止法違反行為が見つかった際の対応を検討するに当たっては,課徴金減免制度の積極的な利用について検討を進めることが望まれる。
利用することを考えている | 利用することを考えていない | よく分からない | 制度を勉強してみたい | |
---|---|---|---|---|
平成18年調査 | 23.2% | 2.5% | 32.3% | 42.1% |
今年度調査 | 43.2% | 5.0% | 51.7% | - |
(注)「制度を勉強してみたい」の項目は,今年度調査では設けられていない。
利用することを考えている | 利用することを考えていない | よく分からない | 適用業者数 (上場企業) |
|
---|---|---|---|---|
建設業 | 37.3% | 4.5% | 58.2% | 1 |
製造業 | 48.3% | 3.4% | 48.3% | 48 |
電気・ガス業 | 46.7% | 0.0% | 53.3% | 0 |
運輸・情報通信業 | 39.4% | 4.5% | 56.1% | 0 |
商業 | 39.7% | 6.2% | 54.1% | 0 |
金融・保険業 | 35.2% | 8.8% | 56.0% | 0 |
不動産業 | 11.1% | 16.7% | 72.2% | 0 |
サービス業 | 39.0% | 6.8% | 54.2% | 0 |
(5) 有価証券報告書及び事業報告における独占禁止法等違反による法的措置の記載
○ 有価証券報告書及び事業報告への法的措置等の記載状況については,平成17年度から平成19年度にかけて独占禁止法違反により法的措置を受けた企業のうち,少なくとも有価証券報告書又は事業報告のいずれか一方に当該法的措置についあて記載していた企業は84%であり,実際に法的措置を受けた企業の多くが,有価証券報告書又は事業報告にその旨を記載している。
○ 有価証券報告書は,企業の財務情報等の状況を投資家に対して開示する目的で作成され,投資家が投資を行うに際しての重要な判断資料となるものであり,事業報告は,株式会社が株主総会に対して会社の現況について報告する目的で作成されるものであり,これらはいずれも企業の独自の判断で行われる自社ホームページへの掲載等と異なり,法令に基づいて作成することとされているものであることから,企業においては,独占禁止法等違反事件について,企業における事業上の重要な課題として位置づけ,違反行為が生じた場合には,有価証券報告書及び事業報告においてその旨を記載することをあらかじめ定め,違反行為について投資家及び株主に対して報告するようにしておくことが望まれる。
有価証券報告書(A)に記載 | 事業報告(B)に記載 | (A),(B)両方に記載 | 少なくとも(A),(B)いずれか一方に記載 | |
---|---|---|---|---|
平成18年調査(平成13年度~平成16年度) | 29.6% | 38.1% | 25.9% | 41.8% |
今年度調査(平成17年度~平成19年度) | 64.4% | 73.9% | 54.1% | 84.2% |
3 総括
(1) 平成18年調査の指摘事項に対する現状とその評価
【平成18年調査における指摘事項】
ア コンプライアンス・マニュアル策定,コンプライアンス委員会及びヘルプラインなどの体制整備については調査対象とした一部上場企業の7,8割程度で実施していたが,これらが実施されたのは比較的近年であり,実際の利用状況が低いなど実質的なコンプライアンスの向上はこれからの課題。
イ 今後,改善していくためには,(1)経営トップの意識・行動の改革,(2)社員の意識向上・内部統制の充実の両面から,経営トップが自ら取り組んでいくことが重要。
ウ 独占禁止法については,その違反の可能性があるという危機意識は約半数あるものの,独占禁止法の研修・監査は十分行われているとは言いがたく,社員の意識向上あるいは内部統制の充実のための企業の施策が強く望まれる。
エ 独占禁止法改正により課徴金減免制度が導入されたことを受けて,社内監査が行われた率は極めて低い状況にあり,また,課徴金減免制度を活用したいと考えている企業は約4分の1にとどまっているが,実際の事例が生じるにつれて,問題意識も高まってくるのではないかと期待。
【平成18年調査の指摘事項に対する現状とその評価】
ア コンプライアンス・マニュアル策定等の体制整備について
コンプライアンス・マニュアル策定,コンプライアンス委員会及びヘルプライン等の体制の整備については,すべての項目において,平成18年調査と比較して整備の割合が増加しており,平成18年調査以降,約3年間で企業におけるコンプライアンス体制の整備が進んだものと評価できる。
しかし,ヘルプライン等の利用状況については,独占禁止法等に関する相談・通報についての利用がないという企業の割合は低下しているものの,未だに利用がない企業も多い。現在,企業においてもヘルプライン等を利用しやすいものとするための取組は進められている状況であるが,今後もより一層利用しやすいものとすることが望まれる。
イ コンプライアンスの取組への経営トップの関与について
コンプライアンスの取組への経営トップの関与については,平成18年調査と比較して,すべての質問項目において,関与している割合がわずかながらも増加している点は評価できる。
コンプライアンスの取組に関する経営トップの関与については,企業におけるコンプライアンスの推進において非常に重要なものと考えられることから,経営トップにおいては自社のコンプライアンスの取組について,今後も更なる関与を進めることが望まれる。
なお,社団法人日本経済団体連合会(経団連)で定められた「企業行動憲章」(平成16年5月18日最終改定)においても「経営トップは,本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識し,率先垂範の上,社内に徹底するとともに,グループ企業や取引先に周知させる。」,「本憲章に反するような事態が発生したときには,経営トップ自らが問題解決に当たる姿勢を内外に明らかにし,原因究明,再発防止に努める。」等,コンプライアンスの取組への経営トップの関与について定められている。
ウ 独占禁止法等違反に対する危機意識及び独占禁止法等に関する研修・監査について
独占禁止法等違反に関して危機意識を持っている企業の割合は,平成18年調査と比較して大きく増加し,それに伴って,独占禁止法等に関する研修・監査を実施している企業の割合も増加しており,危機意識を持つことにより体制の整備が進んだものと評価できる。
エ 課徴金減免制度の利用について
課徴金減免制度の利用については,自社で独占禁止法違反行為が発見された場合に,課徴金減免制度を利用したいと考えている企業の割合は増加している一方で,約半数の企業が利用するかよく分からないと回答しており,企業においては,平成18年1月の課徴金減免制度導入後の事例を踏まえて,独占禁止法違反行為が見つかった際の対応をあらかじめ検討するに当たっては,課徴金減免制度の積極的な利用について検討することが望まれる。
(2) 今後の課題
平成18年調査以降,上場企業においては,コンプライアンス全般の取組及び独占禁止法等関係のコンプライアンスの取組とも,全体として体制の整備は大きく進んでいるものと考えられる。コンプライアンスの取組については,体制の整備がなされた後は,当該体制が効果的に運営されることや体制をより具体的で実態に即したものに整えていくことが課題になると思われる。
これらの課題については,前記3(1)「平成18年調査の指摘事項に対する現状とその評価」で指摘した事項のほか,以下のような対応策を採ることが望ましいと考えられる。
- 経営トップ自らが従業員に対し,コンプライアンスの重要性を呼びかけること
- 業界団体の会合への参加に関して,独占禁止法違反の未然防止の観点から具体的な留意事項等を定めて従業員に周知すること
- 自主申告が社内処分の軽減の考慮事項となるケースを明示し,その旨を周知する等,従業員が違反行為を自発的に相談・申告することが可能となる仕組みを構築すること
- 違反行為が推認されるような場合に,必要に応じて実効性の高い社内監査を実施すること
- 社内で独占禁止法等違反行為を発見した場合は,経営トップに報告を行うとともに,企業の社会的責任を果たすとの観点から,社内の情報伝達及び社内での対策の検討にとどまらず,行政当局への通報等を含めた全体的な対応を採ること
- 自社及び傘下のグループ企業における独占禁止法等違反による法的措置について,有価証券報告書及び事業報告へ記載することにより自主的に公表すること
公正取引委員会は,今後とも独占禁止法等の厳正な執行を行うとともに,企業コンプライアンスの実態の把握に努め,企業コンプライアンス向上を促していくこととしたい。
【附属資料】
(印刷用)(平成21年3月18日)「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査」について(概要)-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-(PDF:42KB)
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局経済取引局総務課
電話03-3581-5476(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp