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(平成27年6月4日)日本トイザらス株式会社に対する審決について(子供・ベビー用品の小売業者による優越的地位の濫用事件)

(平成27年6月4日)日本トイザらス株式会社に対する審決について(子供・ベビー用品の小売業者による優越的地位の濫用事件)

平成27年6月4日
公正取引委員会

 公正取引委員会は,被審人日本トイザらス株式会社(以下「被審人」という。)に対し,平成24年4月11日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,平成27年6月4日,被審人に対し,独占禁止法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)による改正前の独占禁止法(以下「独占禁止法」という。)第66条第2項及び第3項の規定に基づき,平成23年12月13日付けの排除措置命令(平成23年(措)第13号)の一部及び同日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第262号)の一部をそれぞれ取り消す旨の審決を行った(本件平成24年(判)第6号及び第7号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照。公表する審決書においては,納入業者に係る事業上の秘密に配慮し,マスキングの措置を施している。)。

1 被審人の概要

事業者名 本店所在地 代表者
日本トイザらス株式会社 川崎市幸区大宮町1310番地 代表取締役 モニカ・メルツ

2 被審人の審判請求の趣旨

(1) 平成24年(判)第6号審判事件

 平成23年(措)第13号排除措置命令のうち,別表1(審決別紙の別表をいう。以下同じ。)記載の事業者14社(以下「14社」という。)に関する部分の取消しを求める。

(2) 平成24年(判)第7号審判事件

 平成23年(納)第262号課徴金納付命令(課徴金額3億6908万円)のうち,1億6473万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。

3 主文の内容

(1) 平成23年12月13日付けの排除措置命令(平成23年(措)第13号)のうち,別表1の番号欄9及び10記載の各事業者に関する部分を取り消す。
(2) 平成23年12月13日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第262号)のうち,2億2218万円を超えて納付を命じた部分(1億4690万円)を取り消す。
(3) 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。

4 本件の経緯

平成23年
12月13日 排除措置命令及び課徴金納付命令
平成24年
2月10日 排除措置命令及び課徴金納付命令につき審判請求
4月11日 審判手続開始
5月31日 第1回審判

平成26年
1月17日 第10回審判(最終意見陳述を終了)
平成27年
3月30日 審決案送達
4月13日 審決案に対する異議の申立て及び直接陳述の申出
4月14日 審決案に対する異議の申立て及び直接陳述の申出の取下げ
6月4日 排除措置命令の一部及び課徴金納付命令の一部を取り消す審決

5 審決の概要

(1) 原処分の原因となる事実

 被審人は,遅くとも平成21年1月6日から平成23年1月31日までの間,自己の取引上の地位が納入業者のうち117社(以下「特定納入業者」という。)に優越していることを利用して,正常な商習慣に照らして不当に,特定納入業者のうち63社から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,また,特定納入業者のうち80社に対して取引の対価の額を減じていたものであって,これらの行為は独占禁止法第2条第9項第5号(独占禁止法の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「改正法」という。〕の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号〕の第14項〔以下「旧一般指定第14項」という。〕)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである(以下,原処分で認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。独占禁止法第20条の6の規定により,本件の違反行為期間は平成21年1月6日から平成23年1月31日までであり,本件違反行為のうち改正法の施行日である平成22年1月1日以後に係るものについて,被審人と特定納入業者のうち別表3記載の61社それぞれとの間における購入額(合計額は369億866万5689円)を前提に算出された課徴金の額は,3億6908万円である。

(2) 本件の争点

ア 別表4記載のとおり,被審人が14社のうち5社から取引に係る商品を受領した後,当該商品を当該取引の相手方に引き取らせた(以下,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせることを「返品」といい,被審人の上記5社に対する別表4記載の返品を「本件返品」という。)こと及び別表5記載のとおり,14社のうち13社に対して取引の対価の額を減じた(以下,取引の相手方に対して取引の対価を減じることを「減額」といい,被審人の上記13社に対する別表5記載の減額を「本件減額」という。また,以下,本件返品及び本件減額を含め本件排除措置命令において違反行為と認定された被審人の特定納入業者に対する返品及び減額を一括して「本件行為」という。)ことは,被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか否か(争点1)
イ 本件行為又は本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害するおそれがあるか否か(争点2)
ウ 本件における違反行為期間(独占禁止法第20条の6に規定する違反行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間をいう。以下同じ。)はどのように認定すべきか(争点3)

(3) 争点に対する判断の概要

ア 争点1について
(ア) 優越的地位の濫用規制の趣旨について
 独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号(改正法施行日前においては旧一般指定第14項〔第1号ないし第4号〕)に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである。

(イ) 優越的地位について
 優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,取引の一方の当事者(以下「甲」という。)が他方の当事者(以下「乙」という。)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足りると解される。また,甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される。
 ところで,取引の相手方に対し正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(以下「濫用行為」ということもある。)は,通常の企業行動からすれば当該取引の相手方が受け入れる合理性のないような行為であるから,甲が濫用行為を行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これは,乙が当該濫用行為を受け入れることについて特段の事情がない限り,乙にとって甲との取引が必要かつ重要であることを推認させるとともに,「甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」にあったことの現実化として評価できるものというべきであり,このことは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことに結び付く重要な要素になるものというべきである。
 また,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく,また,乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものといえる。
 したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,甲による行為が濫用行為に該当するか否か,濫用行為の内容,乙がこれを受け入れたことについての特段の事情の有無を検討し,さらに,[1]乙の甲に対する取引依存度,[2]甲の市場における地位,[3]乙にとっての取引先変更の可能性,[4]その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実を総合的に考慮して判断するのが相当である。

(ウ) 本件の濫用行為について
 被審人と14社との取引のうち,本件返品及び本件減額の各対象商品の取引形態は,いずれも買取取引である。
 このような買取取引において,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額は,一旦締結した売買契約を反故にしたり,納入業者に対して,売れ残りリスクや値引き販売による売上額の減少など購入者が負うべき不利益を転嫁する行為であり,取引の相手方にとって通常は何ら合理性のないことであるから,そのような行為は,原則として,取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものであり,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たると解される。
 もっとも,返品に関しては,例外的に,[1]商品の購入に当たって,当該取引の相手方との合意により返品の条件を明確に定め,その条件に従って返品する場合,[2]あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て,かつ,商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合,[3]当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される(ただし,上記[1]については,返品が当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たることとなる。)。
 また,減額に関しても,例外的に,[1]対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,[2]当該取引の相手方から値引き販売の原資とするための減額の申出があり,かつ,当該値引き販売を実施して当該商品が処分されることが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される。
 以上のとおり,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額については,例外と認められるべき場合はあるものの,通常は取引の相手方にとって何ら合理性のないことであるから,例外と認められるべき場合に当たるなどの特段の事情がない限り,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものと推認され,濫用行為に当たると認めるのが相当である。

(エ) 本件における検討
 被審人による本件返品及び本件減額は,いずれも14社の責めに帰すべき事由がない場合の返品又は減額であったことが認められるところ,本件返品及び本件減額について,被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものか否かについて検討した結果,本件返品については,5社のうち3社に対し行った返品が,また,本件減額については,13社のうち10社に対し行った減額が,それぞれ被審人がその取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
 また,証拠によれば,
[1] 被審人においては,自社の利益を確保するため,会社の方針として,従来から,売上不振商品等を売り切ることを目的として値引き販売を実施した場合には,値引きによる利益の損失を補填するため,当該売上不振商品等を納入した納入業者から値引き相当額の全部又は一部を収受することとし,また,当該売上不振商品等の納入業者に対して返品を行うこととしていたこと,
[2] 被審人は,低迷している業績を回復させるために,取締役会において,被審人の利益を改善するため,売上不振商品等については,商品群及び店舗ごとに改善を図ることや,業務利益改善方針の一環として,売上不振商品等を生じさせないよう適正な在庫数の確保に努めること,ビジネスの効率性を評価して販売管理費を削減することといった方針を承認可決したこと,
[3] 被審人は,このような方針に基づき,バイヤーに対し,売上不振商品等の値引き販売の実施に伴い納入業者から収受する予定額を報告させ,また,売上不振商品等の返品における具体的な交渉方法など個別具体的に指示を行い,行動指針を徹底するための成績評価指標等を定めるなどしていたこと
が認められるから,被審人は,自社の利益を確保すること等を目的として,組織的かつ計画的に一連の行為として本件行為(ただし,被審人が取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったことが否定されたものを除く。以下「本件濫用行為」という。)を行ったものと認められる。

イ 争点2について
 どのような場合に公正競争阻害性があると認められるのかについては,問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して,個別の事案ごとに判断すべきである。
 被審人は,特定納入業者のうち115社(本件排除措置命令が認定した本件違反行為の相手方である特定納入業者のうち被審人が自己の取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行った事実が認められない2社を除いた事業者。以下「115社」という。)という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成21年1月6日から平成23年1月31日までの2年以上もの期間にわたり,被審人の組織的かつ計画的に一連の行為として本件濫用行為を行ったものであり,これにより,115社にあらかじめ計算できない不利益を与え,115社の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されたものであり,これは,取りも直さず,115社が,返品や減額によって,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人が,当該返品や減額によって,その競争者との競争において競争上有利となるおそれを生じさせたものであるから,その点で既に本件濫用行為には公正競争阻害性があることが認められる。

ウ 争点3について
 優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,独占禁止法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当するような濫用行為は,これが複数みられるとしても,また,複数の取引先に対して行われたものであるとしても,それが組織的,計画的に一連のものとして実行されているなど,それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合には,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになり,課徴金算定の基礎となる違反行為期間についても,それを前提にして,濫用行為が最初に行われた日を「当該行為をした日」とし,濫用行為がなくなったと認められる日を「当該行為がなくなる日」とするのが相当である。
 本件においては,被審人は,組織的かつ計画的に一連のものとして本件濫用行為を行ったものであり,本件濫用行為は,優越的地位の濫用として一体として評価できるから,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになる。
 したがって,本件の違反行為期間は,本件排除措置命令による違反行為の認定を基に本件課徴金納付命令が認定したとおり,平成21年1月6日から平成23年1月31日までということになる。

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公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室
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