[発言事項]
事務総長会見記録(平成22年3月31日(水曜)13時30分~於 官房第1会議室)
[発言事項]
独占禁止懇話会第185回会合について
(事務総長) 1点目の独占禁止懇話会でありますが,この会議は,公正取引委員会と各界の有識者との間での意見交換の場ということで,昭和43年11月に設置された会合であります。会員は,学識経験者,産業界,法曹界,消費者団体,中小企業団体等の各分野の有識者24名で構成されておりまして,会長は,現在,東京大学の伊藤元重教授が務められております。公正取引委員会からは,委員長ほか委員会全員と私を含めまして事務総局の幹部が出席しております。
最近は,大体,年に3回程度会合を開催しておりまして,公正取引委員会におけるその時々の課題をテーマとしまして,会員各位から御意見・御質問等をいただいてお答えするというような形で進めております。
先週3月25日に開催されました独占禁止懇話会,これは第185回目になるのですが,事務総局の方からは3点報告をさせていただいており,1点目が審判制度の見直し,2点目が中小事業者取引の適正化に関する最近の取組状況,3点目が国際的な連携・協力に関する最近の状況ということで報告させていただきました。
1点目の審判制度の見直しに関しましては,御案内のとおり,審判制度を廃止するという内容の法律案が3月12日に閣議決定されまして,国会に提出されたところでありますが,この法案の内容について御説明をいたしました。会員からは,審判制度を廃止することに伴う裁判所の体制整備,あるいは事前手続,公正取引委員会が命令を行う前に行う意見聴取の手続ですが,そういったものに関しての運用方針であるとか,どういう形で行っていくのかということ,あるいは排除措置命令,課徴金納付命令といった公正取引委員会の行政処分に対しての命令書等の記載内容をどう充実していくのか等について,御質問を頂戴したということであります。
また,審判制度が廃止されることによって公正取引委員会の権限が縮小し,それによって独占禁止法違反に対する抑止力なり執行力が低下するのではないかといった御懸念を含めての御質問もあったわけであります。この点に関しましては,今回の審判制度廃止に関しましては,御案内のとおり,公正取引委員会が行った命令・処分に対しての不服審査を公正取引委員会の審判で行うのか,東京地裁という裁判所で行うのかという問題であって,もちろん,公正取引委員会が行う命令の執行力に影響を与えるものではないということであります。そういう面では,懸念されるように,この審判制度の廃止によって違反行為に対しての抑止力なり執行力が低下するというのはあってはならないことだと思っております。逆に,厳正な法執行に努めて公正取引委員会の機能,体制も含めて,充実・強化していかなければいけないという観点でのお答えをしております。
それから,2点目でありますが,中小事業者の取引の適正化に関する最近の取組状況につきましては,御案内のとおり,昨今の経済状況が非常に厳しく中小事業者が厳しい対応に迫られているということを踏まえ,取引先の大企業との間で不当なしわ寄せを受けることがないように,その取引の公正化を一層促進するため,この場でも何回か御報告したかと思いますが,昨年11月に公表した中小事業者取引公正化推進プログラムのこれまでの実施状況や下請法の運用状況,あるいは優越的地位の濫用についての公正取引委員会の取組について御説明を行いました。各会員からは,こうしたプログラムにおいて実施されている移動相談会や業種別の講習会といったものについての実施状況,どのような御意見が出ているか,どこで何回ぐらい,何人ぐらいを相手にして実施しているのかというような御質問等が出たというところであります。
それから,3点目の国際的な連携・協力に関しての最近の状況につきましては,2国間の独占禁止法の協力協定,これはアメリカやEU,カナダと結んでいるものでありますが,それに基づく執行の協力関係,あるいは発展途上国等に対しての競争法の執行に関しての技術支援,こういった2国間レベルでの国際協力の状況,あるいはマルチと呼ばれるICNやOECD,APECといったような多国間の場での協力関係についても,こういう会議を開いている等の御説明をさせていただいております。
会員からは,APECが,今年,日本が議長国になっているということもあり,そういう国際的な活動の場において,公正取引委員会が今後さらに存在感を持って指導的な役割を果たしていってほしいといった御要望,御意見をいただいたところであります。
今,御紹介しましたような御意見等を含め,独占禁止懇話会においての御意見,質疑等の状況につきましては,議事概要及び議事録として,後日公表いたしますので,詳しくは,そちらで御覧いただければと思います。
公正取引委員会としましては,こうした各界の有識者の御意見,御要望も踏まえて,今後とも適切な法運用,競争政策の運営に努めてまいりたいと考えております。
「地球温暖化対策における経済的手法を用いた施策に係る競争政策上の課題~国内排出量取引制度における論点~」中間報告書について
(事務総長) 2点目でありますが,本日公表を予定しております「地球温暖化対策における経済的手法を用いた施策に係る競争政策上の課題~国内排出量取引制度における論点~」という中間報告書を公表することにしておりまして,今回,こうした報告書をまとめるに至った経緯等を御説明したいと思います。
御案内のとおり,我が国は,京都議定書に基づきまして,平成2年を基準年として,平成20年から24年までの間に温室効果ガスを6%削減しなければならないということになっているわけであります。また,平成21年9月に,我が国の中期目標として,すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意を前提に,平成32年までに平成2年比で温室効果ガス25%削減を目指すということも表明をしているわけであります。それから,昨年の12月には,国連の気候変動枠組条約の第15回締約国会議,COP15という会議が開催されまして,次期の枠組みについても,いろいろ検討が進められたというところであります。
こうした中で,地球温暖化対策の施策の1つとして,諸外国で既に導入されている国内の排出量取引制度といったものについて,我が国においても制度の本格的な導入に向けていろいろな議論が進められておりまして,その進展も予想されますし,試行制度も一部実施されてきているということであります。こうした制度は,事業者間の競争にも影響を与えると考えられますので,公正取引委員会は,導入が想定される排出量取引制度の内容について,競争政策上の観点からの検討を行ったわけであります。
この過程におきまして,昨年9月以降,政府規制等と競争政策に関する研究会,座長代理として,慶應大学の井手秀樹先生にお願いしておりますが,研究会を開催いたしまして,いろいろと検討を進めてまいりました。こうしたことを踏まえて,各会員の御意見もいただいた上で,今般,検討結果を取りまとめさせていただいて,中間報告書として公表することにしたわけであります。
報告書におきましては,地球温暖化対策に係るいろいろな経緯,事実関係,諸外国の状況等についての御報告といったことと併せて,導入が想定される排出量規制に関しての論点,これが競争へどういう影響を及ぼすか,どういうところで競争上の懸念があるかといったことについての留意点も取りまとめております。
さらに,事業者による独占禁止法違反行為,こうした排出量取引をめぐって,いかなる行為が行われれば独占禁止法上の問題が生じるか否かという独占禁止法上の懸念も含めて,事業者の適切な活動の展開に資するために,独占禁止法上問題となり得る行為についても章を割いて明らかにしてあります。
こうした国内排出量取引制度については,今後とも制度設計が進められていくと思いますので,その点については私どもとしても重大な関心を持って見守ってまいりたいと思いますし,必要に応じて,競争政策の観点から調査等を行うこともあると思っております。特にこういう事業者間の行為につきましては,公正かつ自由な競争が着実に行われるように状況を注視し,違反行為があれば,独占禁止法に基づいて厳正に対処してまいりたいと考えているところであります。
[質疑応答]
(問) 本日発表される報告書ですが,中間報告書ということは,今後正式版がまとまるということでしょうか。
(事務総長) なぜ中間報告書かということでありますが,まだ制度設計の議論が進められている状況ということもありますので,今後,実際に制度が導入され,施行されていくという状況になって具体的な問題もまた出てくるということもあると思いますので,そういう状況に応じて,先ほど申したように必要に応じて実態調査も行った上で,さらにその報告書等で意見等を申し上げるということもあるだろうということで,現時点におきましては中間報告書という形で考え方をまとめさせていただいたということであります。
(問) そうしますと,政府で現在その制度設計をしておりますが,その結論が出る前にまた正式版を改めて公表するということでしょうか。
(事務総長) それはどういう制度が進められていくか,あるいは実際に導入されてどういう問題が出てくるかに応じて最終的な報告書といいますか,私どもとしての意見をさらに申し上げる必要が生じれば申し上げていくということになろうと思っております。
(問) そうしますと,実際の制度が始まるまでの間は,とりあえず様子を見守るということになるのでしょうか。
(事務総長) そうですね。現時点においては,いろいろと制度設計の議論がされている状況でありますが,もう少し議論が進んで具体的な制度導入が行われ,あるいは実際の取引が行われていくという状況になって,新たな懸念なり問題が出てくれば,さらに報告書なり,考え方をまとめていくということもあるだろうということです。
(問) 報告書に違反するような制度設計が行われた場合は,独占禁止法違反でその制度自体が無効になるということはあるのでしょうか。
(事務総長) 多分,制度設計そのもの自身の枠組みで独占禁止法違反行為ということは通常考えられないと思います。ただ,その制度設計によっては,その後,その事業者間の行為や事業者団体の行為によって,独占禁止法上の懸念が出てくることは当然ありますから,そういう場合には,行政庁間でのいろいろな調整ということも当然あると思いますし,必要に応じて意見を言う,あるいは事業者間がその制度の利用のあり方等によって独占禁止法上の懸念が出てくるのであれば調査を行ったり,場合によっては私どもが事件として取り上げなければいけないということが起きるかもしれません。そういう面で,今の段階ではまだ具体的な制度設計が行われているわけでもありませんし,実施されているわけでもないのですが,今後,そういうことが行われていく過程において,こういうことには十分注意していただきたいという留意点なり,そういうことが行われれば独占禁止法上の問題になり得ますよというようなことも,今回の報告書の中では盛り込ませていただいて,そういうことが生じないようにしていただきたいということで公表させていただくというものであります。
(問) すいません,報告書の公表は3時でしたでしょうか。
(事務総長) 午後3時からということであります。
(問) それはこの会見を行うに当たって何か意味があるのでしょうか。
(事務総長) こういった報告書等の公表は,通常,午後3時からということが比較的多いかと思います。
(問) せっかくお話しいただいているのですが,報告書自体が手元にあった方が我々の理解も早いと思うので,会見の日であって1時間半前倒しが可能であるならば,今後,報告書も併せて配布していただいて報告いただければ理解も早いと思いますので御検討いただければと思います。
(事務総長) 今後の対応として検討させていただきます。
(問) すいません。以前も伺ったことですが,オーストラリアやイギリスなどの鉄鋼大手の企業統合の関係ですが,事前相談についての進捗状況や,先日,価格の引上げという発表がありましたけれども,それについて,公正取引委員会としてどのように対処していくのか御見解をお聞きしたいのですが。
(事務総長) 今までも何回か御質問を受けている話でありますが,現在の進捗状況からお話しさせていただきますと,これは従前からもお話ししているとおりで,今年の1月20日に事前相談の申出がありまして,私どもとしてはこういう資料を出していただきたいということで,提出していただく資料のリストを提示させていただいて,現在,それに向けて作業を当事会社の方が行っているという状況で,現時点においてはまだその資料の提出がない状況であるという面では,それほど進展がないということかもしれません。
また,御案内のとおり,海外の競争当局においても審査が進められておりますし,先般,オーストラリアの方では,当初2月中に結論を出す予定であったというものを延長して4月の末までということになっているようでありまして,対外的にも,いろいろな意見募集,日本で言えばパブコメみたいな形だと思いますが,そういうことも進められているというように承知をしております。
それから,もう1つのお尋ねは海外の鉄鉱石なり石炭も含めてかもしれませんが,購入価格について引き上げが行われて,それが日本の企業と外国の鉄鉱石の生産会社の間で引上げの合意がされている等の報道についてということでありますが,これは当事会社,個別の企業間での取引でありますから,その市場の状況に応じて価格が上がったり下がったりということは当然あるだろうと思います。
ただ,その当事者間での取引の実態がどうこうということだけではなしに,やはり国際的な市場の企業間取引において,寡占化の進展がどのように市場の価格に影響を与えるかということは,今回の生産統合に伴って我が国の鉄鋼メーカー等が鉄鉱石や石炭を購入するわけですから,そのようなところに影響も出てくる話ではありますので,企業行動のあり方なり,価格の決定のあり方も含めて,私どもとしては関心を持っていろいろデータ収集も含めて調査の一環として進めていくということになろうと思います。
以上