[発言事項]
事務総長会見記録(平成26年2月19日(水曜)13時30分~於官房第1会議室)
「課徴金減免制度」について
本日は,課徴金減免制度,いわゆるリーニエンシー制度について,私のほうからお話をさせていただきたいと思います。
課徴金減免制度は,御案内のとおり,平成18年1月に導入して以来,今年の1月で施行から丸8年を経過いたしました。そこでこの機会にこれまでの運用状況を簡単に振り返ってみたいと思っております。
課徴金減免制度の内容につきましては,公正取引委員会のホームページにも詳しく,図解,絵を使って説明しておりますので,詳細にここで述べることはいたしませんが,要は,独占禁止法に違反するカルテルや入札談合を行っていた事業者が,その違反行為を自ら自主的に公正取引委員会に報告してきた場合には,その報告の時期や順位に応じますが,本来課されるべき課徴金を全額免除する,あるいは一部,30パーセントでありますとか50パーセントを減額するという制度でございます。
この制度が日本に導入されましたのは平成17年,2005年の法改正でありまして,先ほども申し上げましたとおり,翌年,平成18年の1月,2006年の1月から施行されております。
海外では,我々が導入するまでに,多くの国で既にこのリーニエンシー制度という同様の制度が導入されておりまして,カルテル等の摘発に大きな成果を上げていたところであります。例えば,アメリカは,DOJが1978年にこの制度を世界に先駆けて導入し,1993年に一部その制度の改正行った後,多くの申請が行われるようになりました。あと,EUと韓国は1996年,カナダは1999年,ドイツとイギリスが2000年,フランスが2001年,オーストラリアでは2003年ということで,それぞれリーニエンシー制度を導入してきたわけであります。
日本におきましても,このような主要国におけるリーニエンシー制度の導入,運用状況を踏まえまして,カルテル・入札談合の摘発,事案の真相究明,あるいは違反行為の防止をより効果的に行うということを目指しまして,この課徴金減免制度というものを導入する法改正を2005年,平成17年に行ったところであります。その背景といたしましては,言うまでもなく,カルテルや入札談合はいわば密室の行為でありまして,また証拠も残りにくいということから,これを発見することが大変難しいという特徴があります。これは各国共通の背景だと思いますが,加えまして,特に日本におきましては,この制度の導入前は,事業者が法令遵守,コンプライアンス体制を整備して,自らカルテルなど違反行為を発見しそれを取りやめましても,公正取引委員会がこれを摘発すれば課徴金を法の規定どおり賦課されるということになりまして,これを免れる道はなかったということでございます。当然,事業者にとってみれば自発的に違反行為を取りやめたり,当委員会に進んで申告するメリット,あるいはインセンティブもなかったということでございます。
このように減免制度を導入したわけでございますが,それでは,この8年間の運用がどうだったかということを振り返ってみますと,まず,どの程度減免申請がなされたのかということについて,毎年度,件数を公表しているところでございますが,平成18年1月にこの制度を導入後,平成24年度,平成25年の3月末までで,合計725件の減免申請がなされております。特に,直近の3年では年間100件を超える申請がなされてきています。結構利用されているということだと思います。
2つ目に,このような減免申請がどの程度事件の摘発に結びついたのかということでございます。減免申請が適用された事件につきましては,申請をした事業者の秘密を保持する,あるいは減免申請を行おうという事業者のインセンティブを損なわないようにするという観点から,私どもとしては,全てを公表することは適当でないと考えておりますが,一方で,公共工事の指名停止に際しましては,減免制度の適用を受けた事業者には配慮するという方針が示されているという発注者,自治体が多くございますので,このような事情等を踏まえまして,課徴金減免制度の適用を受けた事業者の中で,公正取引委員会に公表を申し出た事業者につきましては,事件ごとに,事業者の名称,課徴金免除の事実,又は課徴金の減額率等を公正取引委員会のホームページで公表することとしているところであります。
この公表ベースでどのくらいの事件に減免申請が使われたかというのをみてみますと,平成18年1月の本制度導入後から平成25年3月まで,86のカルテル・入札談合事件につきまして課徴金減免制度が適用されております。これは,同じ期間にこの課徴金減免制度の対象となり得る事件,これは,カルテル・談合等でございまして,単独行為は課徴金減免制度の対象となりませんので,課徴金減免制度の対象になり得る事件全体,これは先ほどの平成18年1月から平成25年3月までで106件ございますので,その約8割,106件のうち86件がこの課徴金減免制度を利用した事件であるということでございます。また,平成18年1月以降に調査を開始した事件のうち,課徴金総額が100億円を超える事件は7件ありますが,その全てが課徴金減免制度,これは事後減免も含めたものでございますけれども,これが利用された事件でございます。
さらに,平成18年1月から現在までに,5件の刑事告発も行ってきておりますが,このうち平成18年1月以降に当委員会が調査を開始した4件につきましても,全て課徴金減免制度,これも事後申請を含みますが,活用された事案となっております。
このように,課徴金減免制度は,導入時には「我が国の文化,風土になじまないのではないか」という御指摘もありましたが,今申し上げましたように,我が国においても順調に定着してきていると,そして,企業のコンプライアンス意識の向上を促すとともに,私ども公正取引委員会の審査活動におきまして,カルテル・入札談合の発見・解明を促進するために非常に効果的な施策となっているものと考えております。
さらに付け加えれば,課徴金減免制度の導入後は,ある一つのカルテル事件で当委員会が着手しますと,事業者側におきまして,関係する事業者あるいは近接する取引分野の事業者が社内調査を行い,その結果,新たな別の商品・サービスについてもカルテルが発見されて,当委員会への減免申請が行われるという減免申請の連鎖も起きているものと考えております。
また,この課徴金減免制度の導入によりまして,導入以前は,アメリカの司法省や欧州委員会がリーニエンシー制度を通じて得ていた国際的な広がりを持つカルテルに係る情報を公正取引委員会も得ることができるようになりまして,海外の競争当局との審査実務レベルにおける協力が深まるなど,海外の競争当局との連携強化につながっているものと考えております。この点も,リーニエンシー制度の我が国導入の大きな成果の一つであると考えております。
私からは,本日は以上でございます。
質疑応答
(問) カルテル,特に国際カルテルでのリーニエンシーとの関係ですが,特にアメリカとかだと,カルテルに着手した後に株主代表訴訟とかそういったものが起こって,向こうの民事訴訟の中でのディスカバリーの手続の中で,日本のリーニエンシーの申請書類みたいなものを開示しろというふうに言ってくる原告もいる可能性があるかなと思いまして,実際,事業者の中でもそういう心配をしている事業者もいるやに聞いているのですけれども,こういったディスカバリーで開示請求が来たときには,リーニエンシーの書類というのはどのように扱われるのでしょうか。
(事務総長) おっしゃるような懸念があることは理解しております。アメリカでは,今御質問にありましたように,いわゆる民訴,損害賠償請求訴訟が,カルテル等の事案がありますとかなり頻繁に起こされて,その裁判の過程でディスカバリーがなされ,その対象として,減免制度,減免資料というものの開示を要求されるのではないかということです。我々の立場は非常に明確でありまして,実際そういう案件もありましたけれども,我々に提出された減免資料については一切出せないということで,これは全ての事案についてフォローしているわけではありませんが,少なくとも私が審査局長のときには,アメリカの裁判所からのディスカバリーのオーダー・リクエストに対しまして,個別審査の事案についての調査資料,これは減免資料に限りませんで,立入検査して我々が入手した資料もそうでございますが,一切出せないということを申し上げて,そのときは裁判所に御理解をいただいたところでございます。そのときはEUにも同じようなディスカバリーのオーダー・リクエストが出ておりましたので,EUと協力して,同じように私どもは出せないということをアメリカの裁判所に言わせていただきました。
ですが,アメリカの裁判所はまちまちでございますので,一つの裁判所が私どもの言い分を認めていただいたからといって,ほかの裁判所,裁判官がどうなるかということは,これはそれぞれのときの判断ということになりますけれども,我々としては今後とも,その線に沿ってきちっと対応していきたいと思っております。
(問) 追加でもう1点,国際カルテルの話ですけれども,最近開示された案件としては,住友ゴムさんが,向こうのグッドイヤーとの提携を解消されて,ICCの国際仲裁に米国の企業のほうから持ち込まれたという案件があって,その提携解消の理由として,反トラスト法違反の疑いがあったということを理由にされていてですね,こういった国際カルテルというものが,日本企業の,特にM&Aとかで日本企業に対するレピュテーションの低下というものにつながっているのではないのかと,少し危惧,懸念を持ったのですけれども,こういったカルテルへの対策と日本企業のレピュテーションとの関係についても,もし一般的な御意見で結構ですので,伺えるようでしたらお願いします。
(事務総長) ありがとうございます,個別事案についてはお答えできないと申し上げようと思ったのですが,その辺はもう省略させていただきまして,一般論としてですけど,確かに,昨今,自動車の部品の事件をはじめとして,日本企業がアメリカあるいはEUで多額の罰金,あるいは制裁金を課されるなり,幹部の方が収監されるという事例が出ているのは承知しております。私ども公正取引委員会の競争唱導活動の一つとしてのコンプライアンスの向上,これは日本の独占禁止法の違反行為を抑止する,独占禁止法を遵守するという観点が,私どもからすると主でございますが,特に国境を越えて行動されている日本の企業が非常に多いわけですから,当然コンプライアンス活動を高めるということは,同時にコンプライアンスプログラムの中身として,それぞれがビジネスを行っている国の法律を遵守するということにもつながるものだと思います。
その点で,私どもは数年おきに,特に大企業,一部上場企業等を中心にいたしましてコンプライアンスプログラムの策定状況,その運用状況について,かなり広範な調査をさせていただいております。直近では一昨年にもその報告をさせていただきました。11月であったかと思いますが,その中では,正に今おっしゃったような状況,カルテル等の行為というものは,独り日本だけでなく,海外でも多額の金銭的不利益,それから幹部の収監,そしてブランドイメージの低下,上場企業であれば当然株価が下がると。また,先ほどもお話がありましたように,アメリカでは損害賠償請求訴訟という民事訴訟も起こされますし,日本でもリーニエンシーを仕損ねたということで株主代表訴訟も実際に起こされているというところで,企業にとってはコンプライアンスプログラムを実際に効果的に運用せずに,カルテルが日本を含め競争当局によって摘発されたことによって,非常な金銭的あるいは先ほど申したブランド等が打撃を受けて不利益を受けるわけでございます。ですので,企業としてはコンプライアンスプログラムの策定,運用について,ただ法律を守るんだという消極的な考え方ではなく,むしろ危機管理の一つのツールとして戦略的に考えていくべきじゃないかと。しかも,その場合には,日本企業も本社だけではなくて,海外に子会社・営業所があれば,その海外でのコンプライアンス,特に競争法に対するコンプライアンスというのも十分本社として目配りすべきではないかという提言を一昨年の私どものコンプライアンスの調査の報告書で出させていただいたところでございます。
先ほど御指摘がありました昨今のいろいろな事件に関する欧米の報道を見るにつけ,なおさら私どもとしては,コンプライアンスの調査の報告書で申し上げたことについて,企業として積極的に取り組んでいただきたいと思いますし,我々としても,今後とも必要があれば大企業に限りませんが,企業のコンプライアンスの向上のためにお助けできることを積極的にやっていきたいというふうに思っております。
(問) 別の話題ですけれども,政府のほうで,最近,独禁法の審査手続に関する有識者の懇談会みたいなものをされたと思うのですが,あれはどういうアジェンダというか,見通し,議論になっているのでしょうか。
(事務総長) 先週のこの記者会見で申し上げたと思いますが,内閣府におきまして,今,御指摘がありました独占禁止法審査手続についての懇談会が設置されたところであります。学者の先生方,法曹界,経済界,消費者団体等の方がメンバーになっているというふうに承知しておりますが,これは去年の12月に成立いたしました改正独占禁止法の附則の16条に,私どもの行う調査の手続につきまして,防御権の確保という観点から,他の行政手続との整合性にも配慮して一年を目途に検討すべしというふうに書かれたことに対応したものでございますが,政府においてということで,それから,経済界等からも公正取引委員会の中において自分たちの手続を検討するというのはいかがかということもありましたものですから,これは平成17年にも同じように独占禁止法のもっと広い問題についての基本問題懇談会というのが内閣府に設置されたこともございますので,今回も事務局は内閣府,そして,その懇談会自体は公正取引委員会の事務を担当される内閣府特命担当大臣であります稲田大臣の主催する懇談会として設置されたというふうに承知しておりますし,先週プレス発表が内閣府から出されたと思います。
ということで,アジェンダとしては,私どもの行政手続に関する事項でございますが,何をどのように検討していくかということは,その懇談会においてお決めになられるものだと思いますが,これまでの経済界,法曹界から出された要望では,私どもが立入りする,あるいは事情聴取をするときの弁護士の立会いでありますとか,それから供述調書を取った場合にはその写しを交付すべきではないか等の要望がなされておりますので,そういう問題も含めて懇談会で議論されるものというふうに思っております。
(問) 競争環境の調査を進めておられる保育分野についてなんですけど,先だって東京都知事選で当選して就任した舛添さんがこの分野の充実に力を入れるというふうに方針を示されていて,保育士の方の待遇の引上げとかいろいろ意欲を示しておられるようなんですけど,競争環境を調査している立場から,自治体とこの分野で協力していくというような可能性というのはあるのかどうか教えてください。
(事務総長) 私どもが自治体と協力するということですか。
(問) はい。競争環境の調査で,例えば協力を仰ぐということはあり得るかどうかということについて,もしありましたらお聞かせください。
(事務総長) ありがとうございます。この分野は是非私どもは積極的に取り組んでいるということを強調させていただきたいので。昨年の秋からこの保育分野の調査というのを行っておりまして,調査をするに当たっては,いろいろなところからのヒアリングとかアンケート調査をしているわけでございます。そのヒアリング,あるいはアンケート等の対象としては,もちろん保育に関わる事業者ということで社会福祉法人や保育所を経営している株式会社,有限会社もありますが,自治体も当然大事な役割を担っておるわけでございますので,この自治体に向けても,私どものアンケート調査をしております。
そのお答えもかなり返ってきておりますので,自治体の御意見も十分踏まえた上で,先ほどお話がありましたが,競争環境の整備という観点から,保育に関します様々な問題を競争政策を導入することによって解決できないか,できるとすればどのように競争原理を導入していけばいいかということについて,まだ調査中ですのでどういう答えが出るかはこの段階では申し上げることはありませんが,なるべく前向きな,建設的な提言をさせていただきたいと思うべく自治体の御協力も得て,今調査をしているところでございます。
ちなみに,今週の2月17日に,保育分野に関する意見交換会というものを行いまして,有識者から御意見を聞き始めたところでございますので,これもあと数回行う予定でございますので,そういうアンケート,ヒアリング調査の結果,それからこういった有識者との懇談の中身,そういうものを考えた上で,私どもとして報告書,提言を取りまとめたいというふうに考えております。
以上