EU
欧州司法裁判所,LCDパネルカルテルに関する2010年12月の欧州委員会決定を支持した欧州普通裁判所の判決を支持し,欧州委員会の管轄権の範囲について判示
2015年7月9日 欧州司法裁判所 公表
原文
【概要】
欧州委員会は,2001年から2006年にかけてカルテルに関与していたとして,韓国及び台湾の液晶ディスプレイパネル(以下「LCDパネル」という。)製造業者6社に対し,2010年,総額6億4892万5000ユーロの制裁金を賦課した。LCDパネルは,テレビ及びコンピューターに用いられる薄型スクリーンの主要部品である。総額3億ユーロという最大規模の制裁金が台湾の事業者InnoLux(以下「イノラックス社」という。)に課された。欧州普通裁判所は,2014年,基本的に当該決定を支持したが,イノラックス社に対する制裁金額を2億8800万ユーロに減額した。
その後,イノラックス社は,基本的には制裁金の更なる減額を求めて,欧州司法裁判所に対し上告した。イノラックス社は,制裁金を計算する際に考慮する売上高の中に,欧州経済領域(以下「EEA」という。)外の子会社が当該LCDパネルを組み込み,EEA内で販売された最終商品の売上高が含まれていることを欧州普通裁判所が認めたことについて問題があるとして訴えた。イノラックス社は,最終商品市場における売上高は,LCDパネル市場で行われた本件カルテルとは関係ないと主張した。
欧州司法裁判所は,今回の判決で,組み込まれたLCDパネルのカルテル価格の影響を踏まえると,これらの最終商品の売上高がEEA内の最終製品市場の競争に影響を及ぼし得ること,つまり,これらの最終商品の売上高は問題となっているカルテルとの関連性があると認定した。
この点で,欧州司法裁判所は,カルテルに関与した事業者と親子関係にある事業者(vertically-integrated undertaking)は,カルテルに関与した商品を組み込んだ最終商品市場において,以下の2つの理由からカルテルによって利益を上げることができる旨特記している。
第一の理由は,違反行為による部品の価格上昇を最終商品価格に転嫁することである。第二の理由は,カルテルに関与した事業者と親子関係にある事業者は,カルテルが行われた部品市場でその部品を購入する競争事業者との比較で,カルテルによる部品価格の上昇を最終商品に転嫁しないことによって実質的にコスト上優位に立つことである。
この状況を踏まえ,欧州司法裁判所は,欧州普通裁判所と同様,欧州委員会が,制裁金を計算するために,LCDパネルを組み込んだ最終商品の売上高について,パネル価格に相当する分までを考慮に入れる点について何ら問題はない旨判示した。
欧州司法裁判所,ファーウェイ社とZTE社との標準必須特許権侵害訴訟について,市場支配的地位を有する標準必須特許権者による侵害訴訟は,特定の状況で支配的地位の濫用行為になり得る旨判示
2015年7月16日 欧州司法裁判所 公表
原文
【概要】
EU法は,特許権等の知的財産権に関する排他的権利行使の保護に努める一方,同時に,自由競争の維持にも努めている。欧州司法裁判所は,これらの2つの目的の関係について,例えば,侵害訴訟を提起する権利のような排他的権利行使は,特許権者の権利の一部であり,たとえ支配的地位を有する事業者が提起した訴訟であったとしても,当該権利行使の結果であれば,支配的地位の濫用に当たらない旨既に明らかにしている。排他的権利行使が支配的地位の濫用に当たる可能性があるのは,例外的な状況に過ぎない。
しかしながら,本件で問題となっている状況は,上記の判例法とは区別され得る。第一に,本件は,標準必須特許(SEP)に関するものである。第二に,当該特許は,特許権者が標準化団体に対して,公正,合理的かつ非差別的条件(以下「FRAND条件」という。)で第三者にライセンスするといった変更不能な約束をしたからこそ,標準必須特許の地位を得たものである。
通信分野で事業活動を行っている多国籍企業のHuawei Technologies(以下「ファーウェイ社」という。)は,LTE規格に不可欠な特許として,欧州電気通信標準化機構(ETSI)に申し出を行った欧州における特許の特許権者である。ファーウェイ社は,申出を行うと同時に,第三者に対しFRAND条件でライセンスすることを約束した。
ファーウェイ社は,多国籍企業のZTE社のグループ会社2社について,ドイツのデュッセルドルフ地方裁判所に対し侵害訴訟を提起した。ZTE社グループは,ドイツでLTE規格に基づく製品を市販しており,その際に,ファーウェイ社の特許を使用しているが,同社に対して特許使用料を支払っていない。ファーウェイ社は,侵害訴訟を提起し,特許侵害の差止,製品のリコール,収支計算書の提出及び損害賠償を求めている。訴訟を提起する前に,ファーウェイ社及びZTE社は,侵害行為及びFRAND条件でライセンス契約を締結する可能性について話合いを行っていたが,合意に至らなかった。
デュッセルドルフ地方裁判所は,欧州司法裁判所に対し,ファーウェイ社のように支配的地位を有する事業者による侵害訴訟の提起が支配的地位の濫用に当たる状況について明らかにするよう求めた。
欧州司法裁判所は,今回の判決において,特許侵害の差止又は製品のリコールを求める訴訟と,収支計算書の提出及び損害賠償の裁定を求める訴訟を区別している。
第一の訴訟に関し,欧州司法裁判所は,FRAND条件で第三者にライセンスすることを標準化団体に変更不能なものとして誓約し,標準化団体が定める規格に適合する標準必須特許の特許権者となった者が,特許侵害の差止又は当該特許が使われている製品のリコールを求めて侵害訴訟を提起することは,次の場合に限り支配的地位の濫用に当たらない旨判示している。
まず,特許権者が,侵害訴訟を提起するに先立ち,当該侵害訴訟の被告に対し,問題の特許を指定し侵害している状況を特定して警告しており,さらに当該被告がFRAND条件でライセンス契約を締結する意思を表明した後,特許権者が被疑侵害者に対し,FRAND条件でライセンスするために,特にロイヤリティや計算方法を明記した具体的な書面での提案を示していた場合に,当該被告が問題の特許を使用し続けているということは,当該分野で一般的に行われている商慣行に従って,当該提案に誠実に応じてこなかったということになるが,これは,客観的要因に基づき証明されるべき問題であり,特に特許交渉を引き延ばすための作戦ではないことを示す必要がある。
欧州司法裁判所は,特に,標準必須特許権者からの提案を受け入れなかった被告が標準必須特許権者に対し,FRAND条件に相当する特定の対案を直ちに書面で提出した場合に限り,特許侵害の差止又は製品のリコールを求める訴えが支配的地位の濫用の問題を引き起こし得る旨判示した。
第二の訴訟に関し,欧州司法裁判所は,支配的地位を有する事業者であり,かつFRAND条件で第三者にライセンスすることを標準化団体に誓約することで標準化団体が定める規格に適合する標準必須特許保持者が,当該特許の過去の使用状況に関する収支計算書の提出又は過去の使用状況に応じた損害賠償の裁定を求める目的で,当該被告に対し侵害訴訟を提起すること自体は市場支配的地位の濫用規定によって禁止されるものではない旨判示している。このような訴訟は,新規参入業者又は既存の競争事業者が製造する規格適合品に直接影響を及ぼすものではない。