2016年9月

EU

欧州委員会,ベルギーのビール市場においてABインベブが支配的地位を濫用している疑いがあるとして調査を開始

2016年6月30日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,ABインベブが近隣国からの同社製ビールの輸入を妨害することによって,欧州競争法に違反してベルギーのビール市場において支配的地位を濫用している疑いがあるとして調査を開始した。
 欧州委員会は,ABインベブが,オランダやフランスなど同社のビールがより安く販売されている国からより高く販売されているベルギーへ輸入すること,いわゆる並行輸入を意図的に制限している可能性があるとみている。
 ABインベブは,同社のビールが輸入販売されることを困難にするために,ビールの缶やボトルの包装を変えたり,また,ベルギー以外の国の小売業者がベルギーにより安くABインベブのビールを持ち込まないようにするために,リベートや主要商品の取扱いを制限している可能性がある。欧州委員会は特にこうした反競争的な可能性がある行為を調査することとしている。
 もし,これらが立証されれば,そのような行為は欧州の単一市場における取引を反競争的に妨害していることとなり,欧州条約第102条に違反することになる。

欧州委員会,海上運賃に係る慣行に関して定期コンテナ船事業者が提案した確約案に法的拘束力を持たせることを決定

2016年7月7日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,14の定期コンテナ船事業者が提案した確約について法的拘束力を持たせることを決定した。この確約によって,顧客に対する価格の透明性を向上させ,事業者が価格に関して協調することになる可能性を減少させることを目的としている。
 今回の確約は,定期コンテナ船事業者が将来的に価格を引き上げる意向を公表していることが競争を阻害し,顧客に損害を与えるおそれがあるという欧州委員会の懸念に対応したものである。こうした行為は,欧州反トラスト規則に違反し,欧州発着便に係る定期コンテナ船の利用料金を引き上げていたおそれがあった。
 定期コンテナ船は,一方のいくつかの港湾(例えば,上海-香港-シンガポール)からもう一方のいくつかの港湾(例えば,ロッテルダム-ハンブルク-サウサンプトン)までの定期運航スケジュールに従って運航するコンテナ輸送である。欧州の輸出入の半分以上は海上からであり,そのうちの4割はコンテナ船によるものである。

海上運賃一括値上の公表
 定期コンテナ船事業者14社(以下「海運業者」という。)は,将来的に自社の海上運賃を引き上げる意向について,自社ウェブ上や報道等の様々な媒体を通じて定期的に公表してきた。これらの海運業者とは,CMA CGM社(フランス),中国遠洋運輸集団社(中国),長栄海運社(台湾),ハンブルク・スド社(ドイツ),韓進海運社(韓国),ハパックロイド社(ドイツ),現代商船社(韓国),マースク社(デンマーク),商船三井(日本),MSC社(スイス),日本郵船(日本),東方海外国際社(香港),UASC社(アラブ首長国連邦)及びZIM社(イスラエル)である。
 海上運賃一括値上げ(GRI)として知られるこのような価格公表は,関係するサービス料金の最終的な決定を意味するわけではなく,輸送コンテナ1単位(20フィートコンテナ換算,TEU)当たりの米ドルの値上げ額,影響を受ける航路及び値上げ実施予定日のみを示しているものである。値上げは,一般的にTEU当たり数百米ドルと相当程度の規模となる。
 海上運賃一括値上げの公表は,通常,実施予定日の3週間から5週間前に行われ,予定日までの間,その他の海運業者のうちの数社又は全ての海運業者は,同一又は類似の航路において海上運賃を同程度の値上げ率の意向と同一又は類似の実施日を公表する。海運業者は公表した海上運賃一括値上げ幅に拘束されるものではなく,海運業者のうちの数社は公表した海上一括運賃値上げを延期又は変更し,おそらくは,他の海運業者らが公表した海上運賃一括値上げと揃えようとしているのかもしれない。

欧州委員会の懸念
 欧州委員会は,海上運賃一括値上げについて,新価格に関する完全な情報を顧客に提供するものではなく,海運業者が価格設定に関して相互にその意図を知らせ合い,設定について協調することを可能にしているのではないかと懸念していた。
 将来の価格の値上げを公表することは,自らの市場行動の意図を示唆し,価格行動についての不確定性を減少させることで,互いに競争しようとするインセンティブを低減させる。公表によって顧客に対しては部分的な情報しか提供されず,またそれ自体は海運業者を拘束することも無いため,顧客は公表の内容を必ずしも信頼できない。そのため,海運業者は,顧客を失うリスク無しに,価格を調整することが可能となる。
 当該行為は,EU及びEEAの競争法(EU機能条約第101条及びEEA協定第53条)に違反し,定期コンテナ船のサービスの価格を上昇させ,競争を阻害し,顧客に損害を与えるおそれがある。

海運業者の確約
 欧州委員会の懸念に対処するために,海運業者は次のとおり確約を提案した。
・ 海運業者は,単に変更額又は変更率だけを示す海上運賃一括値上げについては,公表及び連絡を中止する。
・ 将来価格の公表が顧客にとって有益なものとなるように,海運業者は,海上運賃を構成する少なくとも5つの主運賃(基本運賃〔base rate〕,燃料油割増料金〔bunker charges〕,保安対策料金〔security charges〕,港湾施設内コンテナ取扱料金〔terminal handing charges〕,及び繁忙期割増料金〔peak season charges〕)を明らかにする。
・ 今後の公表は,公表の対象期間内,上限価格として海運業者に対し拘束力を有するものとする(ただし,海運業者は上限価格より低い価格を提示してもよい。)。
・ 価格変更を実施する31日以上前の日には価格の公表を行わない。
 なお,すでに顧客との間で航路に関する料金協定が効力を発している場合や特定の顧客の需要に合わせた二社間の協定や通知については,当該確約は適用しないこととする。
 欧州委員会は,関係者からの意見を踏まえた後,当該確約が競争上の懸念を解消するものという認識に至った。当該確約は,価格の透明性を向上させ,海運業者が公表した価格に向けて調整しようとする傾向を減少させることになる。それゆえ,欧州委員会は2016年12月7日から3年間,当該確約が海運業者に対して法的拘束力を持たせることを決定した。

欧州委員会,グーグルに対して,インターネットの検索結果において自らの比較ショッピングサービスを優先していること,第三者のウェブサイトにおいてグーグルに競合する企業の検索連動型広告を表示することを制限することにより,支配的地位を濫用しているとして2件の異議告知書を送付

2016年7月14日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は2件の異議告知書をグーグルに対して送付した。欧州委員会は追加の異議告知書において,グーグルが検索結果のページにおいて,自らの比較ショッピングサービスを組織的に優先することでその支配的地位を濫用しているという(昨年5月の異議告知書で表明した)予備的見解を補強している。
 上記の件とは別に,欧州委員会は,グーグルが意図的に第三者のウェブサイトにおけるグーグル競合企業の検索連動型広告が表示される可能性を制限することにより,その支配的地位を濫用しているとする予備的見解について異議告知書を通知している。

比較ショッピングについて
 2015年4月に発せられた異議告知書とそれに対する同年8月のグーグルの回答を踏まえて,欧州委員会は更なる調査を実施した。今回の異議告知書は,グーグルが検索結果のページに自らの比較ショッピングサービスを優先することにより支配的地位を濫用したという欧州委員会の予備的見解を補強する広範な追加的証拠やデータの概要を記載している。追加された証拠は,特に,グーグルがその検索結果で自らの比較ショッピングサービス競争者に対して優先して表示する方法,表示されることがアクセスされる回数にもたらす影響及び競争者と比較したグーグルの比較ショッピングサービスへのアクセス数の増加に関するものである。利用者が検索した語句と最も関連のある検索結果を必ずしも見ることができていないのではないかと,欧州委員会としては懸念するものであり,この点が消費者にとっての損害であり,イノベーションを妨げることになる。
 加えて,欧州委員会は,「比較ショッピングサービスは個別に考慮されるべきではなく,例えばアマゾンやイーベイといった小売のプラットフォームが供給しているサービスと同じ市場の中で考慮されるべきである」というグーグルの意見について詳細に検討している。欧州委員会はそれらは別々の市場に属するものとして考えるとしている。いずれにせよ,今回の追加の異議告知書では,たとえ小売のプラットフォームがグーグルの行為によって影響を受ける市場に属するとしても,比較ショッピングサービスは当該市場の重要な一部分であり,グーグルの行為は競争を弱め,競争者を市場から追いやることになるとしている。グーグルとアルファベットの異議告知書に対する回答期限は8週間である。

検索連動型広告について
 同時に欧州委員会は,グーグルが第三者のウェブサイトにおいてグーグルと競合する企業の検索連動型広告を表示する能力に制限を課していることに関して,グーグルに異議告知書を送付した。
 今回の異議告知書において示された欧州委員会の予備的見解は,これらの行為によってグーグルはオンラインの検索連動型広告におけるその支配的地位を固めることが可能となっていると判断している。それによって,他の検索事業者やオンライン広告プラットフォーム事業者等,既存の及び潜在的な事業者が商業的に重要なこの市場に参入し,成長することを妨げることになる。グーグルは自らの検索ウェブサイトに検索広告を直接表示しているほか,同時にその検索連動型広告を仲介するAdSence for Searchと称するプラットフォームを通じて第三者のウェブサイトにも仲介業者として広告を表示している。これらにはオンラインの小売業者,通信事業者及び新聞のウェブサイトも含まれており,そのウェブサイトは利用者が情報を検索できる検索バーを提供しており,利用者が検索ワードを入れると,検索結果に加え,広告も表示される。もし,利用者がその広告をクリックすると,グーグルと第三者はリベートを受け取ることになっている。
 欧州委員会は,欧州経済領域における検索連動型広告の仲介事業において,最近10年間のグーグルのシェアが約80パーセントであることなどから,グーグルが支配的地位を有していると考えている。検索連動型広告から得られるグーグルの大部分の収益は限られた数の大手の第三者,いわゆる「直接パートナー」との契約によっている。欧州委員会は直接パートナーとの契約において,以下の条件を課すことによってグーグルがEUの競争法に違反したのではないかと懸念している。
・排他性:直接パートナーに,グーグルと競合する広告事業者が提供する検索広告の表示をしないよう求めること。
・グーグル・サーチアドの最低掲載数:直接パートナーに,グーグルから一定数以上の検索広告を受け取ること,またそれらの広告を検索結果の頁の最も目立つスペースに表示すること又は競争者の広告をグーグルの広告の上部若しくは隣に置かないよう求めること。
・競合広告の承認:直接パートナーが競合サービスの検索広告表示について何らかの変更を行うに当たっては,事前にグーグルから承認を得るよう求めること。

 10年にわたって行われてきたこれらの行為が商業的に重要な市場の競争を阻害しているという予備的見解を欧州委員会は示している。また欧州委員会は,この行為が当該期間にわたって故意に選択を減少させ,イノベーションを阻害してきたのではないかと懸念している。これらの行為はグーグルの競争事業者にとって商業的に重要なこの市場での競争の機会を減少させ,第三者のウェブサイトが消費者に選択肢や革新的なサービスを与えるための投資する力も減少させた。
 欧州委員会は,グーグルが直接パートナーとの契約条件において,競争事業者の広告を表示することについて彼らにより多くの裁量を与えるよう変更したことも承知している。これらの変更が市場にどのような影響を与えるかについて評価するために,十分に監視していくこととなる。なお,グーグルとアルファベットの異議告知書に対する回答期限は10週間である。

欧州委員会,トラック製造業者の MAN, ボルボ/ルノー,ダイムラー,イヴェコ及びDAFが14年間にわたりカルテルを行っていたとして約29億3000万ユーロの制裁金賦課(一事案に対する制裁金としては過去最高)

2016年7月19日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,トラック製造業者の MAN,ボルボ/ルノー, ダイムラー,イヴェコ及びDAFが,14年間にわたりトラック価格について共謀し,より厳格化した排出ガス基準の遵守コストの価格転嫁を行い,EU競争法に違反していたとして,29億2649万9000ユーロの制裁金を課した。
 欧州委員会にカルテルの存在を通報したMANには制裁金は課されず,全社がカルテルへの関与を認め,欧州委員会との和解に合意した。

 道路運送はヨーロッパの運輸部門の重要な部分であり,その競争力は運送業者が使用する車輌の価格に左右される。欧州委員会の本日の決定は,具体的には,中型トラック(車輌総重量6~16トン)及び大型トラック(車輌総重量16トン以上)の製造市場に関連するものである。欧州委員会の調査は,MAN,ボルボ/ルノー, ダイムラー,イヴェコ及びDAFが以下のカルテルに関与していたことを明らかにした。
・欧州経済領域(EEA)内の中型及び大型トラックの「グロス定価」段階("gross list" price level)での価格の調整。「グロス定価」の価格水準はトラックの工場出荷時の価格に関するもので,各メーカーが設定する。一般的に,これらの「グロス定価」の価格はトラック業界では価格設定の基礎となるものである。買い手が支払う最終的な価格は,さらに,国や地方レベルで行われる調整に基づいている。
・排ガス規制がユーロ3からユーロ6(現在適用中の規制)へと移行することでより厳しくなったヨーロッパの排ガス基準を遵守するための中型及び大型トラックの新たな排ガス技術の導入時期の調整。
・より厳しくなったヨーロッパの排ガス基準を遵守するために必要な排ガス技術コストの顧客への価格転嫁。
 本件違反行為は,EEA全体にまたがるものであり,1997年から,欧州委員会が立入検査を行った2011年までの14年間にわたり続けられたものである。1997年から2004年の間,カルテルの会合は,見本市等のイベントの際にシニアマネージャーレベルで行われ,補足的に電話による話合いも行われた。2004年以降,カルテルはトラックメーカーのドイツ子会社を介して組織化され,カルテル参加者は,通常,電子的な方法で情報交換を行っていた。
 14年間で行われた話合いは,同じトピックについてであった。すなわち,それぞれの「グロス定価」の値上げ,新たな排ガス技術の導入時期及び排ガス技術コストの顧客への価格転嫁についてである。
 本日の欧州委員会の決定は,2014年11月にトラックメーカーに送付した異議告知書に沿うものである。本件調査の過程では,スカニアに関する手続きも行われた。スカニアは,本件和解決定の対象ではないため,スカニアに対する調査は,通常の(和解なしの)カルテルに対する手続の下で引き続き行われる。

制裁金
 2006年の改正リニエンシー告示の下で,MANは,カルテルの存在の通報により,約12億ユーロの制裁金を全額免除された。また,ボルボ/ルノー, ダイムラー及びイヴェコは,調査協力により制裁金を減額された。制裁金の減額は,事業者の協力のタイミングと,事業者から提出された証拠のカルテル解明に寄与した程度を反映している。
 2008年の和解手続の下で,欧州委員会は,事業者のカルテルへの関与と責任についての同意に照らし,制裁金の10%の減額を適用した。
 制裁金の総額は以下のとおり。


リニエンシー告示による減免率
和解手続による減免率
制裁金(ユーロ)
MAN
100%
10%
0
ボルボ/ルノー
40%
10%
670,448,000
ダイムラー
30%
10%
1,008,766,000
イヴェコ
10%
10%
494,606,000
DAF

10%
752,679,000
合計


2,926,499,000

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