2016年10月

EU

欧州委員会,ドイツのエネルギー会社エーオンに対する確約(長期契約の制限)について,ガス市場の競争状況が顕著に改善されたとして,同確約を5年間前倒しにして終了することを決定

2016年7月26日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,ドイツのエネルギー会社エーオンに対する確約(ドイツ国内のガス配管網に関する長期契約の制限)をおよそ5年間前倒しにして終了することとした。これは,同確約の施行が達成されることによって,ガス市場における競争が著しく増加してきたからである。
 ヴェステアー競争担当委員は,「本件は,確約決定が,迅速かつ効果的に,市場を開放し,競争的にした好事例である。エーオンがガスのパイプライン輸送の能力に関する長期契約を減らし始めたことにより,他の競争事業者は,ドイツのガス市場に参入することができるようになった。今回の確約によって,想定していた以上に競争上の問題が早く解決されたことから,当該確約を継続する必要性はもはや無くなった。」と述べた。
 ガスパイプラインへのアクセスは新規参入業者にとって必要不可欠である。十分なアクセスができない場合,供給業者がどんなに競争的な契約条件を提示したとしても,顧客を獲得することは制限されることになる。エーオンは自社のガス供給網への接続地点において利用可能なガス配送能力の著しく大きな割合について,長期契約を締結していた。欧州委員会は,これらの長期契約が,他のガス供給事業者がドイツ国内のガス市場に参入し,エーオンと競争することを妨げてきたとの懸念を示していた。
 2010年5月,欧州委員会は,エーオンから提案のあった,自社のガスパイプラインの配送能力の大部分を開放すること,また,Net Connect Germany(注:Open Grid Europa〔旧:エーオン〕他1社が出資するJV)のガスパイプラインがある地域において長期契約を制限する旨の確約を承認した。この確約は元々は2021年4月まで継続するものであった。
 エーオンは確約決定がなされた時点では全ガス供給契約の54%を占めていたが,確約後はそれを著しく下回ることになった。この結果,競争業者は市場に参入し,大きな市場シェアを獲得することができた。また,大容量のガスの輸送が可能になったことにより,競争業者は市場において運営のために必要な分だけ引き続きパイプラインにアクセスすることができるようになった。さらに,ガス市場における変化も見られる。すなわち,市場の需要やシェアの変化に対して柔軟に対応することができるように,エーオンを含めた市場参加者は現在では徐々に短期契約を好む傾向になってきた。
 エーオンの求めに応じて,欧州委員会は市場状況を再精査し,ドイツのガス市場におけるこうした構造上の確かな変化のため,確約によってエーオンの競争業者のガス供給キャパシティを十分に確保する必要はなくなったとの結論に至った。

欧州委員会,製薬会社サノフィによるベーリンガーインゲルハイムの医薬品の販売事業の買収計画について,両社の一部地域の事業を売却することを条件に承認

2016年8月4日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,EU企業結合規則に基づき,問題解消措置を条件に,フランスの製薬会社サノフィによるドイツの製薬会社ベーリンガーインゲルハイムの一般用医薬品事業の買収提案を承認した。
 承認は,チェコ共和国,エストニア,フランス,ハンガリー,ギリシャ,アイルランド,ラトビア,ポーランド,スロバキアにおける,サノフィ及びベーリンガーインゲルハイムのいくつかの事業の売却が条件となっている。欧州委員会は,当初届け出られた買収計画に対して,数多くの医薬品市場における競争の減少を懸念していたが,サノフィが提案した問題解消措置は,これらの懸念に対応するものであった。

欧州委員会の調査
 欧州委員会は,提案された買収計画の,いくつかの治療分野,特定の胃腸治療薬,咳止めや風邪薬,鎮痛薬,強心薬,ビタミン剤,サプリメント分野における,競争への影響を調査した。
 両社の事業において重複する製品のほとんどは,医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品,すなわち,いわゆるover-the-counter(OTC〔市販〕)医薬品である。
 調査の結果,ほとんどの製品について競争上の懸念は認められなかった。しかしながら,欧州委員会は,両社の製品が非常に強いブランド力を持っており,かつ,両社の製品の代替製品がない,幾つかの市場を特定した。

製品 市場

抗けいれん薬

チェコ共和国,エストニア,ハンガリー,ラトビア,ポーランド,スロバキア

便秘防止薬

チェコ共和国

胸部咳止め薬

ギリシャ(市販薬),アイルランド(処方箋薬)

頭痛薬

フランス

 欧州委員会は,当初届け出られた買収計画を前提とすると,これらの市場では価格の高額化及び顧客の選択肢の減少につながる可能性があると懸念していた。

問題解消措置

 これらの懸念に対応するために,サノフィは自社又はベーリンガーインゲルハイムが有する,関係市場における事業(関係する販売許可,顧客情報,ブランド及び人事を含む)の売却を提案した。

 この問題解消措置は,欧州委員会の競争上の全ての懸念に対応している。本件買収を承認する欧州委員会の決定は,問題解消措置を全て遵守することを条件としている。

 本件買収計画は,2016年6月15日に欧州委員会に届出が出された。

企業及び製品

 サノフィは,医療用製品の研究,開発,製造及び販売を行う世界的な製薬企業であり,薬剤の中でも,特に糖尿病,希少疾患,多発性硬化症,腫瘍等のための処方薬及び市販薬を含む医薬品を専門としている。

ベーリンガーインゲルハイムは世界的に一般用医薬品事業を行っており,特に胃腸治療薬,咳止め・風邪薬,ビタミンやサプリメント及び鎮痛薬といった市販薬に力を入れている。

欧州委員会,米国化学会社ダウと米国の同業デュポンの合併計画に関し,農薬,種子,特定の石油化学等の分野について詳細審査を開始

2016年8月11日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,ダウとデュポンの合併案がEU企業結合規則に沿ったものであるかどうかを評価するために,詳細審査を開始した。委員会は,本合併案が,農薬,種子,特定の石油化学といった分野における競争を減少させるかどうかを更に調査する。
 共に米国の企業であるダウとデュポンの本合併案は,世界最大の総合農薬・種子企業を誕生させることとなり,除草剤と殺虫剤について優れた商品群を有し,市場に革新的な農薬や種子製品をもたらす高い業績の競争業者2社を結びつけるものである。また,包装や接着剤として広く使用されている特定の石油化学製品の大手総合生産会社を生み出すこととなる。本合併は,既に世界的にシェアが集中している産業において,更にシェアを集中させるものである。

欧州委員会の予備的な懸念
 欧州委員会は最初の市場調査で,以下の市場において予備的な懸念を有した。:
・農薬
 ダウとデュポンの両社とも,多数の農作物用(例えば,穀類,ビート及び菜種)の除草剤及び殺虫剤(特に葉を食べる虫用)において有力な商品群を有している。欧州委員会は,本合併案は,これらの市場において競争を減少させる可能性があり,また,厳しい競争の減少は,価格,品質,選択及び研究開発に影響を与える可能性があるとの予備的懸念を有している。
 欧州委員会は,殺線虫剤(線虫から農作物を保護する製品)に関するダウとデュポンの事業活動及び殺菌剤の両社の供給経路についても調査する。
 最後に,欧州委員会は,本合併案が,全体として農薬の研究開発の減少につながる可能性があるとの予備的懸念も有している。高度な研究開発機能を持つ限られたグローバル企業で構成されている農薬業界において,ダウとデュポンは重要な開発者である。本合併案は,新しい有益な成分を開発・販売することができる数少ない企業の1つが消滅することにつながる。

・種子
 ダウとデュポンの両社は,新品種の種子の成育を著しく促進するための,いわゆる「遺伝子組換え」技術を開発している。欧州委員会は,本合併案の実行後,2社が,競合他社にこれらの技術をライセンスする動機が減少する可能性,又は,競合技術の開発を行うことが困難になる可能性があるとの予備的懸念を有している。
 合併企業は,農薬の幅広い商品群及び種子市場における主要な世界的ポジションのうちの1つを有し,業界最大の統合企業を作り出すことになる。欧州委員会は,ダウとデュポンが農薬と種子の販売業務を統合した場合,競合他社の農薬・種子販売業者へのアクセスがより困難になる可能性があるかどうかを調査している。

・石油化学製品‐ポリオレフィン及びモノマー
 ダウとデュポンは,石油化学製品に由来する熱可塑性プラスチックであり,包装及び接着剤として広く用いられている特殊ポリオフィレンの有力な供給業者である。欧州委員会は,これら集中度の高い市場において,競争相手が1社いなくなり,新たな垂直関係が作られることの影響を調査している。

 本合併案は,2016年6月22日に欧州委員会に対し届出が提出された。欧州委員会は,90営業日以内,2016年12月20日までに決定を行う。詳細審査の開始は,(禁止や条件付承認等の)最終結果を意味するものではない。
 2016年7月20日,ダウとデュポンは,欧州委員会の予備的懸念の一部に対応するための問題解消措置を提出した。しかしながら,欧州委員会は,それらの問題解消措置は,本合併案のEU企業結合規則への適合性に関する重大な懸念を明確に解消するには不十分と考えた。したがって,当該問題解消措置について,欧州委員会は市場参加者に対する調査を行っていない。
 ダウとデュポンの世界的な事業活動を踏まえ,欧州委員会は,他の競争当局,特に米国司法省並びにブラジル及びカナダの競争当局と緊密に連携している。

企業及び製品
 ダウは,米国に本社を置く総合化学企業であり,プラスチック・ケミカル,農業科学及びハイドロカーボン(炭化水素)エネルギー製品・サービス事業を行っているダウ・グループの最終親会社である。
 デュポンは米国に本社を置いており,化学製品,プラスチック,農薬,塗料,種子及び他  の様々な原材料を研究,開発,製造,卸及び販売を行っているデュポン・グループの最終親会社である。

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