2017年3月

EU

欧州委員会,フェイスブックがWhatsAppの買収(2014年承認)に係る企業結合審査において欧州委員会に不正確・誤解を招く回答をしたとして,フェイスブックに対し異議告知書を送付

2016年12月20日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,フェイスブックによるWhatsAppの買収計画を審査した際,とりわけ,フェイスブックがWhatsAppユーザーのアカウントと自社ユーザーのアカウントを照合(matching)できる可能性について調査をした。2014年8月になされた買収計画の届出及び情報提供要求への回答では,フェイスブックは,欧州委員会に対し,両社のユーザーアカウントを確実に自動的に照合することはできないと回答していた。欧州委員会は,買収計画を審査する際にこの回答も考慮したが,それのみを根拠に承認したわけではない。
 その後,2016年8月,WhatsAppは,サービスとプライバシーポリシーの規約を改訂するのに併せて,WhatsAppのユーザーの電話番号とフェイスブックのユーザーIDをリンクできることを公表した。その目的についてWhatsAppは,例えば,フェイスブックが同社のアカウントで,WhatsAppユーザーに,より良い友人紹介(friend suggestions)サービスの提供や関連広告の表示などのサービス向上を行えるようにするためと説明している。
 本日の異議告知書において,欧州委員会は暫定的な見解として,フェイスブックは,企業結合審査の際の説明及び回答に反して,2014年にはフェイスブックユーザーのIDとWhatsAppユーザーのIDを照合させることが技術的に可能であったとしている。現段階で欧州委員会は, フェイスブックが故意又は過失により,不正確又は誤解を招く回答を欧州委員会に提出し,企業結合規制に基づく義務に違反した疑いがあると考えている。
 現在行っている調査は,手続規則に違反しているかを評価することに限られている。2014年10月に行った両社の企業結合の承認決定は,ユーザーアカウントの照合以外にも,様々な要因を基にしていることから,今回の調査が承認決定の有効性に影響を与えることは無いし,隣接するプライバシー,データ保護や消費者保護の問題に関連するものでもない。

欧州委員会,アマゾンの子会社オーディブルとアップルが,オーディオブックの排他的供給・販売契約の解消を決定したことについて,歓迎する声明を公表(ドイツ連邦カルテル庁は本件についての調査を終了)

2017年1月19日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,アマゾンの子会社であるオーディブルとアップルとの間で,オーディオブックの供給と配信に関する全ての排他的取引義務を終了するという合意を歓迎する。この合意によって,欧州におけるダウンロード可能なオーディオブック配信を巡る競争が促進される可能性が高い。
 欧州委員会及びドイツ連邦カルテル庁の指摘を受け,オーディブルとアップルが上記の排他的取引義務の解消に合意したことから,オーディブルは第三者のプラットフォームにダウンロード可能なオーディオブックを供給でき,アップルはオーディブル以外の業者からオーディオブックを調達でき,さらに,出版社及びコンテンツアグリゲータはアップルと直接に配信契約を結ぶことができる。
 オーディブル及びアップルのiTunesストアは,消費者向けのダウンロード用オーディオブックの世界最大規模の販売業者である。オーディブルは,2008年以降アマゾンの販売子会社で,世界最大のオーディオブックその他の音声コンテンツの製造・販売業者である。アップルのiTunesストアは同社の端末に統合されており消費者はオーディオブックなどの音声コンテンツを購入,ダウンロードすることができる。
 2017年1月5日,オーディブルとアップルはオーディオブックの供給・配信に関する全ての排他取引義務を解消することで合意した。これらの義務により,アマゾンによる買収以前から,アップルはオーディブルから独占的に調達し,オーディブルはアップルのiTunesストア以外には音楽デジタルプラットフォームに供給しない義務を負ってきていた。両社が排他的義務から解放されれば,成長著しく革新的な市場における競争の一層の促進が可能となり,欧州の消費者は,より多くのダウンロード用のオーディオブックを利用することが可能となる。
 欧州委員会は,ドイツの出版社書店連盟からの申告を踏まえ,上記の排他的取引義務について調査をしてきている。ちなみに,同連盟は,アップルのiTunesストアへのオーディオブックの排他的供給などの,オーディブルの様々な取引慣行に反対してきている。同連盟はドイツ連邦カルテル庁に対しても同じような申告を行い,同庁は2016年11月にオーディブル及びアップルに対する調査を開始している。
 欧州委員会は本件についてドイツ連邦カルテル庁と緊密に連携してきた。同庁も両社による合意を歓迎している。

欧州委員会,電子書籍調査に関連してアマゾンから提出された確約について公示,利害関係者からの意見を求める

2017年1月24日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,アマゾンと出版社との契約に置かれているパリティ条項に関する競争上の懸念を解消するためアマゾンから提案された確約に関して意見を募集している。本件においてパリティ条項は,EU競争規則に違反して,電子書籍販売業者間の競争の減殺と消費者選択の減少をもたらす可能性がある。
 欧州委員会は,アマゾンと出版社らとの間の契約に上記パリティ条項が置かれていることを懸念している。同条項は「最恵国」又は「MFN」条項と呼ばれることがあり,これらの条項は,出版社が,より有利で代替的な取引条件を競合他社に提供する場合,それをアマゾンに通知することや,競合他社と類似の条件をアマゾンに対して提供することを要件としている。この要件には,出版社に対して,従来と異なる配信方法や出版日の採用,電子書籍のカタログの開発といった新たに採用するいかなるビジネスモデルについても,類似のものをアマゾンに提供することを強いることも含まれる。
 これらの条項は,他の電子書籍小売業者が,新たな革新的な製品・サービスを開発することにより,アマゾンと競争することを困難にする可能性がある。また,このような条項は,異なる電子書籍販売業者間の競争を制限し,消費者の選択肢を減少させる可能性がある。欧州委員会は,アマゾンのこれらの行為は,市場支配的な地位の濫用や競争制限的なビジネス慣行を禁止するEU競争規則に違反する可能性があると考えている。

提出された確約
 欧州委員会が示した競争上の懸案を解消するために,アマゾンは以下の内容の確約を提示してきている。
‐ 次の条項を強要しない。(i) アマゾンの競合他社に提供するものと同様の取引条件を,アマゾンにも提供するよう,出版社に求めるいかなる条項,(ii) アマゾンの競合他社との取引条件をアマゾンに通知するよう出版社に求める条項。この確約は,とりわけ,ビジネスモデル,出版日,電子書籍のカタログ及び機能,営業活動,代理店価格,代理店手数料並びに卸売価格に係る取引条件を対象とする。アマゾンは,出版社に対して,今後そうした規定を強要しないことを通知する。
- 電子書籍の価格を,競合するプラットフォームの小売価格まで値引きできるとする出版社との契約(いわゆる値引きプール条項)を,出版社が解除することを認める。出版社は,120日前に予め文書による通知をもって契約を解除することができる。
- 出版社と電子書籍の販売契約を新たに結ぶ際は,値引きプール条項を含む上記のいずれの条項も含めることはしない。
 当該確約は,EEA域内で締結される電子書籍契約に5年間適用される。アマゾンは,確約が守られているか監視するために,トラスティを選任する。

欧州司法裁判所,浴室備品及び付属品市場においてカルテルに参加した企業が提起した控訴の大多数を却下

2017年1月26日 欧州司法裁判所 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,2010年6月23日に浴室備品及び付属品部門における単一かつ連続した侵害行為に参加したとして浴室機器製造業者17社に対して総額6億2200万ユーロを上回る制裁金を課す決定を下した。同委員会は,ベルギー,ドイツ,フランス,イタリア,オランダ及びオーストリアの各加盟国において,1992年10月16日から2004年11月9日までの間,これらの事業者が定期的に反競争的な会議に参加したことを認定した。その上で,毎年の値上げその他の価格に関する調整と,事業上の機微な情報の開示・交換が行われたことついてカルテルに当たると認定した。また,違反行為はタップ及びその付属品,シャワーエンクロージャー及びそのアクセサリー並びにセラミック製品を対象としていた。
 欧州委員会により制金裁が課された企業の多くは,欧州委員会の決定の取消しと制裁金の減額を求めて一般裁判所に訴訟を提起した。
 一般裁判所は2013年9月16日の判決で,(i)一部の企業の訴えにつき委員会の決定の一部を取り消した上,場合によって制裁金を減額したが,(ⅱ)その他の企業の訴えは却下した。
 そこで欧州委員会及び一部企業は上記の判決を不服として司法裁判所に上訴した。

 本日の判決で司法裁判所は,上訴した29社については訴えを却下したが,幾つかの事件につき,一般裁判所の推論には法律上の誤りがあるとして,判決理由の一部を差し替えた。

 次に,Sanitecグループ7社に関する件(注:これら7社に対する制裁金の額に関する欧州委員会の決定の一部を一般裁判所が取り消したことから,欧州委員会が上訴)で,供述に対する補強証拠の取扱いに関して一般裁判所が法律上の誤りを犯しているとの欧州委員会の主張について,司法裁判所は精査の上,以下のように認定した。第一に,一般裁判所は,(被告の)Rocaがリニエンシーを申請する際に行った供述の証明力を否定した際,本来であれば証拠の採用,評価に関してその理由と適用規則を明らかにする義務を負うところ,同裁判所は委員会の決定中の陳述586のみに依拠し,当該陳述自体が他の証書の要約であること,そして上記の陳述に関連する同決定中の陳述556やその内容を考慮していない点で上記義務に違反しているとした。第二に,一般裁判所は,リニエンシー申請時になされた供述が他の供述により補強できない場合に欧州委員会は追加証拠の提出が求められると判示している点で法律上の誤りを犯しているとし,同様に,2004年2月25日に開催されたフランス陶器産業協会(AFICS)における会合の見取図だけで,他の証拠や追加説明,とりわけ(被告の)Ideal Standardがリニエンシー申請時に提出した証拠等を考慮することなく違反行為が立証されたとし,Ideal StandardとRocaの供述の内容が,各社の機密の販売数量が記された月表により裏付けられるのかを考慮しなかった点でも誤りを犯しているとした。したがって,司法裁判所は,一般裁判所の上記の判決について,(i)欧州委員会の決定をその内容及びその証拠を十分精査することなく取り消している,(ⅱ)補強証拠によることなくAFICSにおける会合における価格制限を認定している,(ⅲ)欧州委員会が決定の中で提示している証拠について証明力を検証していない,(iv)各証拠を全体として見て相互に矛盾がないか確認していないことから取り消すとした。その上で,判決が取り消された部分について,事件を一般裁判所に差し戻す決定を下した。

 Laufen Austriaの訴え(注:同社は1999年11月にRoca Groupの子会社となるまでの間は独自のブランドで浴室機器を販売していた。しかし,Roca Groupに対する制裁金の算定の根拠となる違反行為が行われた期間が,Laufen Austriaについても,同グループの他社と同様に10年とされ,子会社化以前の期間も含められていた。そこで同社は控訴したが却下されたことから上訴)に関して,司法裁判所は上訴された判決について,欧州委員会がLaufen Austriaに制裁金の上限である10%を適用する目的で,同社が単独で違反の責任を負う期間における売上げをRoca Groupの売上げに含めたことを,一般裁判所が誤りではないと判断した限りで同判決を取り消した。その上で,司法裁判所は,親会社は子会社を買収する前に当該子会社が行った違反行為についての責任を負うことができない以上,欧州委員会は,制裁金の上限10%を算出する際,違反に対する制裁金の決定に含められた期間に先立つ事業年度については子会社のみの売上げを考慮しなければならないと説示した。したがって,一般裁判所は,子会社のみが違反の責任を負うことになる最初の期間と,その後,親会社が子会社と連帯して責任を負うことになる期間で区別できる場合に,EU競争法は欧州委員会に対し,制裁金の算定において,制裁金のうち親会社が連帯して責任を負わない部分について,子会社単独の売上げに対する10%の上限枠を下回るか考慮するよう求めていないとした点で一般裁判所は法律上の誤りを犯しているとした。司法裁判所は,本事件を一般裁判所に差し戻し,制裁金の減額請求について判断させることを決定した。

欧州委員会,オンライン取引における競争制限の疑いのある慣行に関して3件の正式調査を開始

2017年2月2日 欧州委員会 公表
原文

【概要】

 欧州委員会は,オンライン取引における慣行(practices)が,EU競争規則に違反して,国境を越えた商品選択を妨げ,家庭用電気機器,ビデオゲーム,ホテル予約サービスの競争価格での購入を妨げているか評価するため,3件の正式な調査をそれぞれ開始した。
 具体的には,小売価格の制限,地域に基づく差別取扱い及びジオブロッキング(注:ユーザーとサービス提供者の間の地理的要因によってオンラインサービスへのアクセスが拒否されること)について検討する。欧州委員会による電子商取引分野の市場調査(sector inquiry)結果によれば,これらの制限はEU全体に広がっているとされている。特定の状況の下では,これらの制限は,国際的取引やオンライン取引をより困難にし,消費者を害することとなり,EU競争規則に違反する可能性がある(TFEU第101条)。

家庭用電気機器
 欧州委員会は,Asus,Denon&Marantz,Philips及びPioneerの4社について,EU競争規則に違反し,オンライン小売業者が,家電製品,ノートブックパソコン,HiFiなどの家庭用電気機器の価格を設定するのを制限しているか調査する。このような価格制限は,多くのオンライン小売業者が,主要な競合他社の小売価格に自社の価格を自動的に適合させる価格設定ソフトを使用しているために,その悪影響が大きくなる可能性があり,その結果,各家庭用電気機器のオンライン価格全体に広範に影響を及ぼす可能性がある。

ビデオゲーム
 欧州委員会は,Valve Corporation(Steamというゲーム配信プラットフォームを運営)と,PCビデオゲームメーカー5社(バンダイナムコ,カプコン,Focus Home,Koch Media,ZeniMax)の間で結ばれている契約について調査する。具体的には,消費者が居住地や居住国のため,デジタルコンテンツ(この場合はPCビデオゲーム)を購入できないようにするジオブロッキングを調査対象としている。PCビデオゲームのユーザーは,ゲームを購入しても,海賊版ではないことを確認しなければプレイできず,確認には上記Steamのアクティベーションキーが使用され,このキーは様々なゲームで使用されている。
 調査では,上記の契約において,アクティベーションキーがジオブロッキングの目的で使用されることを求めているかどうかに焦点を当てている。アクティベーションキーを使えば,購入したゲームの使用を,特定のEU加盟国の消費者に限定することができる。

ホテルの予約サービス
 欧州委員会は,顧客からの苦情に基づき,欧州最大の旅行会社(Kuoni,REWE,Thomas Cook,TUI)とホテルチェーン(Meliá Hotels)との間で結ばれているホテル予約に関する契約を調査する。同契約には,顧客を,国籍又は居住国に基づき差別する条項が置かれ,その結果,顧客によって利用できないホテルがあったり,最低価格で予約できない場合があり,EU競争規則に違反する可能性がある。

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